婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン

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ミラは国王とレイブンの間に立ちふさがった。
そして懇願するような目で国王を見上げる。

「お兄様は悪くありません! 全てはこの私、ミラ・キングスがやったことです!」

「ミ、ミラ!? お前は何を言って――」

「今まで騙していてごめんなさい、お兄様」

そう言うと、ミラはふっとレイブンに手をかざした。
レイブンが途端に我に返ったような顔つきになる。

「詳しく話せ」

国王の重々しい声にミラが頷く。

「……私が魔法でお兄様を操っていたのです。発端はそこにいるエミリア――」

ミラが振り返って私を見た。

「私はお兄様を心から愛していました。だからエミリアとお兄様が結ばれることが本当に本当に許せなかった。だからお兄様を操って不当な婚約破棄をすることにしました。もちろんあの時の傷は魔法で作った偽物です」

ミラが腕をまくると、そこには綺麗な白い肌があった。
あのパーティー会場で見せた火傷の跡など、どこにもない。
アリアが呆れたように口を開く。

「あなたの気持ちは分からなくはないけれど、いくらなんでもやりすぎじゃないかしら。戦争まで引き起こすなんて……」

「それは私にも想定外でした」

ミラの額に汗が浮かぶ。

「本当は婚約破棄をしたら魔法を解除する予定でした。けれど、魔法をかけている間、お兄様は他の女には目もくれず、私だけを見てくれるようになりました。それが嬉しくて解除することを先延ばしにしてしまった。そして私の心に潜む怒りが伝播したのでしょう。お兄様はこの国を亡ぼすことを考えるようになった」

「怒り? この国への怒りがあると?」

国王の問いにミラは頷く。
そしてぽつりと言った。

「国王様なら知っているでしょう……かつて存在した小国イブの存在を」

「イブ!?」

国王様の顔がさっと青ざめる。
ちらっとセバスチャンを見ると、同様に驚愕の表情を浮かべていた。

「ま、まさかお前はあの時の生き残り――なのか!?」

「その通りです」

「どういうことなのですか!? 詳しい説明を願います!」

私の言葉に応えたのは、セバスチャンだった。

「今から十五年程前のことです。この国の南西にある小国イブが、戦争に巻き込まれました。家々は壊され、ほとんどの人が死に絶えました。当時戦争を起こしていたのは、この国と隣国。戦争に巻き込まれたイブは滅亡し歴史から姿を消しました」

彼はそこで言葉を切ると。

「実はコードもイブの出身なのです。当時の光景は今でもフラッシュバックするくらい酷いものだったと……ミラ様が恨みを募らせるのも無理はありません」

ミラが嘲笑にも似た笑みを浮かべながら、口を開く。

「……確かに戦争は酷いものだったけれど、私はそこまで憎んではいなかった。お兄様が生きていてくれたから。それにおかげで魔法の力を得ることもできたから」

どこかで聞いたことがある。
魔法の力は強い感情に呼応して目覚めると。
戦争が引き金になって、ミラとコードの魔法は目覚めたのだろう。

「でもお兄様は違ったのでしょう。本当の両親のことが大好きでしたから。私の小さな憎しみを火種にして、お兄様の憎しみはどんどん膨れ上がっていきました。けれど、悪いのは全部私。私がお兄様に魔法をかけなければ、こんなことにはならなかった。本当にごめんなさい、お兄様」

レイブンは茫然とした様子で、妹を見つめていた。
きっと様々な思いが脳裏を錯綜しているのだろう。

「国王様」

ミラが決意したように国王を見上げた。

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