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庭の噴水の前のベンチに腰を下ろす。
もうあれから半年が経過したのか。
「アリア様。お隣よろしいですか?」
「え、あ、ああ……クロエ。もちろん」
クロエは私の隣に腰を下ろすと、貼り付けた笑みを解く。
昔から知っている馴染みのある笑みに変わる。
「全部……終わりましたね」
「ええ」
この半年間の出来事が脳裏にふわっと浮かんでくる。
全ての罪の元凶であるレイブンは、しばらくの間王宮の地下牢へと幽閉されていた。
そして、国外追放という処分が程なく決まった。
魔法を封じる首輪をつけさせられて、今はどこかの荒野を彷徨っているのだろう。
レイブンの妹であるミラもしばらく幽閉されていたが、エミリアの申し出によって釈放された。
エミリアの温情により、慰謝料だけで済んだ。
「私のことは断罪しなくていいのですか?」
クロエが笑いながら首を傾げる。
私は「大丈夫」と即答した。
「確かにあなたはエミリアをいじめていたけれど……最後には協力してくれた。エミリアも根に持っていないみたいだし、特別よ」
クロエは何も言葉を返さず、どこか悲しそうに眉根を寄せた。
――悲しいことはたくさんあったが、嬉しいこともあった。
「嬉しいこともあった――そう思っているんじゃありませんか?」
「……え? ど、どうして?」
クロエに心を読まれて、狼狽する。
「アリア様の考えていることなんて、お見通しですよ。何年一緒にいると思っているのですか? エミリアのことですよね。本当にいいのですか、自分の気持ちを伝えなくて」
「――そこまで知っていたのね」
私の幼馴染は、私が思っていたよりも有能らしい。
すっきりと晴れた空を見上げてぽつりと呟く。
「エミリアが幸せならそれでいいの。きっとロイ様なら幸せにしてくれる」
「アリア様の幸せは? 誰が叶えてくれるのですか?」
「私のは……いいのよ」
胸にドロっとしたものが広がる。
本当は悲しくて悔しくて、妬ましい。
けれど、仕方のないことだ。
私とエミリアは違う人間、同じ景色を見ているわけではない。
「じゃあ――」
クロエが私に身を寄せるのを感じた。
目線を下ろすと、彼女の細い目が私を見上げていた。
「私がアリア様を幸せに致します」
「……え?」
言葉に詰まっていると、クロエは華麗な所作で立ち上がる。
ふいに風が吹いた。
全てをどこか遠くの世界に吹き飛ばしてしまうような、そんな風。
「アリア様。私は諦めませんから」
クロエはそれだけ言うと、屋敷に戻っていく。
「クロエ……」
しばらく呆気に取られていたが、私は息をふうっとはき立ち上がる。
さっきまでの陰鬱とした気持ちがほんの僅かに消え去っている気がする。
「新しい幸せ……見つけられるのかな?」
きっと今の私は不安げな顔をしている。
エミリアの前では見せないような顔。
もしかしたらこれが本当の私で、クロエには見破られているのかもしれない。
分からないことはたくさんある。
諦めなきゃいけないことも、不幸なことも、幸せなことも。
未来に進んでいくのはとても怖い。
けれど、私は諦めたくない。
幸せな人生を歩いていきたい。
私は大きく伸びをして、クロエの足跡を追った。
もうあれから半年が経過したのか。
「アリア様。お隣よろしいですか?」
「え、あ、ああ……クロエ。もちろん」
クロエは私の隣に腰を下ろすと、貼り付けた笑みを解く。
昔から知っている馴染みのある笑みに変わる。
「全部……終わりましたね」
「ええ」
この半年間の出来事が脳裏にふわっと浮かんでくる。
全ての罪の元凶であるレイブンは、しばらくの間王宮の地下牢へと幽閉されていた。
そして、国外追放という処分が程なく決まった。
魔法を封じる首輪をつけさせられて、今はどこかの荒野を彷徨っているのだろう。
レイブンの妹であるミラもしばらく幽閉されていたが、エミリアの申し出によって釈放された。
エミリアの温情により、慰謝料だけで済んだ。
「私のことは断罪しなくていいのですか?」
クロエが笑いながら首を傾げる。
私は「大丈夫」と即答した。
「確かにあなたはエミリアをいじめていたけれど……最後には協力してくれた。エミリアも根に持っていないみたいだし、特別よ」
クロエは何も言葉を返さず、どこか悲しそうに眉根を寄せた。
――悲しいことはたくさんあったが、嬉しいこともあった。
「嬉しいこともあった――そう思っているんじゃありませんか?」
「……え? ど、どうして?」
クロエに心を読まれて、狼狽する。
「アリア様の考えていることなんて、お見通しですよ。何年一緒にいると思っているのですか? エミリアのことですよね。本当にいいのですか、自分の気持ちを伝えなくて」
「――そこまで知っていたのね」
私の幼馴染は、私が思っていたよりも有能らしい。
すっきりと晴れた空を見上げてぽつりと呟く。
「エミリアが幸せならそれでいいの。きっとロイ様なら幸せにしてくれる」
「アリア様の幸せは? 誰が叶えてくれるのですか?」
「私のは……いいのよ」
胸にドロっとしたものが広がる。
本当は悲しくて悔しくて、妬ましい。
けれど、仕方のないことだ。
私とエミリアは違う人間、同じ景色を見ているわけではない。
「じゃあ――」
クロエが私に身を寄せるのを感じた。
目線を下ろすと、彼女の細い目が私を見上げていた。
「私がアリア様を幸せに致します」
「……え?」
言葉に詰まっていると、クロエは華麗な所作で立ち上がる。
ふいに風が吹いた。
全てをどこか遠くの世界に吹き飛ばしてしまうような、そんな風。
「アリア様。私は諦めませんから」
クロエはそれだけ言うと、屋敷に戻っていく。
「クロエ……」
しばらく呆気に取られていたが、私は息をふうっとはき立ち上がる。
さっきまでの陰鬱とした気持ちがほんの僅かに消え去っている気がする。
「新しい幸せ……見つけられるのかな?」
きっと今の私は不安げな顔をしている。
エミリアの前では見せないような顔。
もしかしたらこれが本当の私で、クロエには見破られているのかもしれない。
分からないことはたくさんある。
諦めなきゃいけないことも、不幸なことも、幸せなことも。
未来に進んでいくのはとても怖い。
けれど、私は諦めたくない。
幸せな人生を歩いていきたい。
私は大きく伸びをして、クロエの足跡を追った。
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