私が作るお守りは偽物らしいです。なので、他の国に行きます。お守りの効力はなくなりますが、大丈夫ですよね

猿喰 森繁

文字の大きさ
4 / 42

しおりを挟む
「もしも、間違ってたら申し訳ないのですが、まさか貴方の理想の男性が、ある日、貴方の家にやってきたってことですか?」
「さっきから、そういってんじゃねーか!」
「その男性の方と、過去に会っていたとか」
「ないない。だから、お守りの力って言ってんじゃん。さっきからさ、アンタが馬鹿すぎて、こっちはめんどくさいの。分かる?あんたのせいで、私は貴重な時間がどんどんなくなっていってんの。時給1万円ね」

理想の男性が、ある日、自分の家に押しかけてくる?それが、本物のお守りの力?
いくらなんでもそれは… … …。と思いつつも、少しだけ、不安になる。
私は、小さい頃から、お守り作りについて、勉強してきた。17時間、ずっと作っていたこともある。それでも、もしかしたら、私の力不足で、お守りの力がなくなっていたとしたら?
目に見えない力だから、それが失われていたとしても、私には分からない。
祖父だったら…、祖父が生きていたら、どうしていたんだろう。

「はい。では、もう一人、貴方のお守りが偽物だと証言してくださるかたがいらっしゃいます」

やたらに馬鹿を連呼する女性がいなくなって、少しほっとする。
私は、そこで無意識に震えていたのに気づき、大きく深呼吸する。
予想外の客の対応に追われている時、どうしても震えてしまう。パニックになってしまう。

これだけは、どうしようもなかった。
おそらく私に接客業は、向いていないのだろう。
臨機応変。柔軟な対応。それらは、私の中から著しく欠けているから。
それでも、私にはお守り作りしかなかったから、やっていくしかなかった。
勉強もこれだけは、苦痛なく出来た。休みの日なんてものは、ない。私は一日中、勉強して、作って、それを毎日繰り返す。これからもきっとそう。

昔は、私が間違えてたり、頑張っていたりしたら、厳しい言葉や優しい言葉をかけてくれた父も祖父も、もういない。もう誰も私に教えてくれる人は、いない。
だから、私がきちんとしていなくては。先祖が、祖父が、父がずっと作り続け、多くの人たちに渡してきたお守りをここで、途絶えさせるわけにはいかない。
大丈夫。
私は、ずっと頑張ってきた。
それこそ、神様に恥じない生き方を、自分自身ではしてきたつもり。だから、大丈夫。
次に出てきた顔も先日、見たことがある。

店に来た時から、独り言なのか、こちらに話しかけているのかよく分からない声量で、話すものだから、困惑した覚えがある。

「貴方も先日、うちに買いに来られていましたね。確か開運招福のお守りでしたか」
「そうだよ…そこで買ったお守りがまったく効果がなくて、こっちはお金がなくなってしまった。お金返してくれよ」

開運招福は、無病息災と同じように人気があるお守りだ。
ただ、いきなり素晴らしく良いことが雪崩のように押し寄せてくる…ということはない。
ただ、その人が進もうとしている道を少しだけこじ開けてくれる、背中を押してくれる、そんなお守りだ。

「なぁ200万返せよ」
「に、にひゃくまん!?」

今度の人もおかしいのか… …。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...