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プロローグ
しおりを挟む・・・夢を見ていた。幸せな夢だった。
いつまでも見ていたいような夢。
そんなもの続くわけがないのに。
無機質な金属製の扉を、安っぽい椅子に座りながら、八雲桂香は焦点の合わない目で眺めていた。
一切の情を持たないかのような門扉の上で光る、『手術中』と映し出された赤色のライトが、桂香の体の中から抜け出ていた意識をいくらか取り戻してくれた。
とある暑い夏の日の夜。すっかり日も落ち
た午後八時。桂香はこの数時間、県内随一の広さを誇る大病院の、手術室の扉の前に座っていた。大病院というだけあって、手術室は、十以上ある。今は、桂香が座っている目の前の手術室だけが使われており、他の手術室は不気味なほどに暗く、無駄にだだっ広い空間が余計に広く感じた。
しばらくすると『手術中』のランプが消え、
無機質な両開きの扉が静かに開き、中から若草色の手術着を汗で濡らした医者が出てくる。
疲労困憊の状態で出てきた医者は何かを言っていたが、桂香の耳はそれを理解できなかったのか、それとも理解したくなかったのかは分からないが、それでも医者が申し訳なさそうに頭を下げた時点で、それが何を意味するかは聞かなくても分かった。
不意に涙が流れた。目頭から溢れた涙は、頬をつたって、顎から手に滴る。
その手は赤く濡れたナイフを強く、強く、両手で握っていた。
・・・悪夢だ。
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