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第七話「小鳥が鷹になる時」
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美虎は、胡蝶の昔話に聞き入って、危うく高級な牛タンを焦がすところだった。
ちょうどいい塩梅になったのを優兎が取って、レモンを搾って美虎の皿に置く。
「…尚虎さんがいなかったら、今頃わっちは死んでいたかもしりんせん。それか、クスリに溺れていたか。尚虎さんは、凄い人でありんした」
胡蝶はそう言って、冷麺を啜った。
(胡蝶姐さんも大変だったんだ。…他の皆はどうだったのかな…)
「ねぇ、煉兄と西尾兄の過去も聞きたいんだけど…」
ハラミを焼きながら、煉は珍しく苦笑して、
「俺の話なんて、聞いてもつまんないっすよ」
自家製のキムチを食べながら、西尾は、
「思い出したくないほど、不快です」
と口を閉ざした。
(しょうがないか…皆、過去にはいろんなことがあるんだもんね)
いつか、信頼してもらったら言ってもらおうと思い、牛タンに舌鼓を打った。
「やっぱ、ここの牛タンは美味しいねぇ」
「俺はハラミが好きっす。ハラミって、何処の部位なんすかね」
「横隔膜ですよ、煉。地域によって、名称は変わるのですが」
「お、西尾の焼肉講座が始まりんした」
ずるずると冷麺を啜って、講座を開いている西尾の皿からキムチを盗って食す胡蝶。
「あ、胡蝶!また人のものを…」
「別にいいでありんしょう?可愛い女子にあげるんじゃから」
何人もの男を落としてきた上目遣いで西尾を見る胡蝶。
「まっっっっっっっっっっっったく、可愛くありませんが」
「なんじゃ、わっちの美貌にケチをつけるんでありんすか。上等じゃわいなぁ」
「姐さん、本当のことっすから、怒っちゃダメっすよ」
「煉!お前も火で炙られたいんか!」
「3人とも、落ち着いてください、他のお客さんの迷惑になります!」
慌てて、優兎が止めるが、時すでに遅し。アルコールも入っている3人の言葉による乱闘が始まった。
(…変わらないなぁ、3人とも…)
美虎は、苦笑してその騒動を見ていた。
美貌を傷つけられて怒る胡蝶。
状況が読めず、余計な一言を言ってしまう煉。
冷静に毒を吐く西尾。
3人を止める優兎。
昔みたいな団欒(?)に、美虎は少し懐かしさを覚え、思わず微笑んだ。
「美虎嬢、わっちが1番可愛いでありんしょう?」
「うん、胡蝶姐さんが1番可愛いよ」
数十分後、優兎がアルコールではなく、ウーロン茶を飲ませて冷静にした3人の呟きに美虎は答えていた。
「焼肉は」
「西尾兄の言いたいことは判ってる、ご飯多めだと太るから、肉を食べた方がいいんだよね」
「姐さんは本当に」
「はいはい、煉は胡蝶姐さんが怒るの嫌なんだよね」
「美虎嬢、対処の仕方、完璧ですね」
「優兎はお酒飲んでないから変わんないね、偉いよ」
「…美虎嬢」
壁に持たれていた胡蝶が顔を上げると、
「美虎嬢、『小鳥遊組』のこれからをよろしく頼みます」
「…酔ってる?」
「自分が酔ってるかどうか判らん奴らに酒を呑む権利はありんせん。わっちは、もうほぼ素面でありんす。美虎嬢、これからのこと…」
「まだ、やるって決めたわけじゃ…」
「尚虎さんの血筋の人なら信頼出来ます。もう、美虎嬢の他はいません」
珍しく、花魁言葉ではない胡蝶は、着物を正し、正座をすると三つ指を突いて頭を下げた。
それに倣うように煉、西尾は正座し、優兎も正座した。
「…俺からもお願いします。美虎嬢」
頭を下げる煉、西尾、胡蝶と違い、優兎は緊張した顔で美虎の目を見つめてた。
(そんな辛そうな顔しないでよ…)
優兎には、側にいて欲しい。もうその衝動は自分じゃ止めらない。尚虎が死んで家に乗り込んできた警察に優兎が羽交い締めにされて叫んだ言葉や施設で死を覚悟した時に迎えにきてくれた優兎の顔が思い浮かぶ。
すると、必然的に自分の側に優兎が居てもらう方法、そして、優兎だけでなく、小さいながらも『小鳥遊組』を守って消さないでくれた3人への恩返しの方法は思いつく。
覚悟は、決めた。これから、自分の行く道が常識では外れているとしても、悔いはない。
「引き受けるよ、私が2代目の『小鳥遊組』の組長になる。その代わり、人数が少ないから代替えの式とかはしないよ。呼び方は『美虎嬢』のまま。他の組とは違うけど、それでも付いて来てくれる?」
3人が、パッと顔をあげた。優兎は、顔を綻ばせ、
「美虎嬢、これからもお願いします」
4人は声を揃え頭を垂れた。
そして、ここに2代目小鳥遊組組長、小鳥遊美虎が誕生した。
「はー、満腹でありんす」
美虎が組長に決まった後の方が胡蝶が食べるスピードが上がった。どうやら、組長の心配をして、あまり食べられなかったらしい。
それでも、カルビを5人分ペロリと食べるのを見て、「本物の蟒蛇だ…」と美虎は思った。
「わっちは、今から非行少女の面会がありんす」
「俺は、寝床に帰って寝ます。久しぶりの焼肉、楽しかったっすね!」
「胡蝶、口内のニンニク臭を消すには林檎を食べた方がいいですよ。それが、エチケットというものです」
3人は、夕暮れ時の商店街で、「明日、また事務所で」と約束して、別れた。
美虎は、横に立っている優兎のパーカーを引っ張り、
「優兎の家に帰ろっか」
と、言った。それに、優兎は、
「はい、美虎嬢」
と笑顔で答えた。
駐車場まで歩きながら、この笑顔の側でずっと居たいな、と美虎は心の中で強く思った。
ちょうどいい塩梅になったのを優兎が取って、レモンを搾って美虎の皿に置く。
「…尚虎さんがいなかったら、今頃わっちは死んでいたかもしりんせん。それか、クスリに溺れていたか。尚虎さんは、凄い人でありんした」
胡蝶はそう言って、冷麺を啜った。
(胡蝶姐さんも大変だったんだ。…他の皆はどうだったのかな…)
「ねぇ、煉兄と西尾兄の過去も聞きたいんだけど…」
ハラミを焼きながら、煉は珍しく苦笑して、
「俺の話なんて、聞いてもつまんないっすよ」
自家製のキムチを食べながら、西尾は、
「思い出したくないほど、不快です」
と口を閉ざした。
(しょうがないか…皆、過去にはいろんなことがあるんだもんね)
いつか、信頼してもらったら言ってもらおうと思い、牛タンに舌鼓を打った。
「やっぱ、ここの牛タンは美味しいねぇ」
「俺はハラミが好きっす。ハラミって、何処の部位なんすかね」
「横隔膜ですよ、煉。地域によって、名称は変わるのですが」
「お、西尾の焼肉講座が始まりんした」
ずるずると冷麺を啜って、講座を開いている西尾の皿からキムチを盗って食す胡蝶。
「あ、胡蝶!また人のものを…」
「別にいいでありんしょう?可愛い女子にあげるんじゃから」
何人もの男を落としてきた上目遣いで西尾を見る胡蝶。
「まっっっっっっっっっっっったく、可愛くありませんが」
「なんじゃ、わっちの美貌にケチをつけるんでありんすか。上等じゃわいなぁ」
「姐さん、本当のことっすから、怒っちゃダメっすよ」
「煉!お前も火で炙られたいんか!」
「3人とも、落ち着いてください、他のお客さんの迷惑になります!」
慌てて、優兎が止めるが、時すでに遅し。アルコールも入っている3人の言葉による乱闘が始まった。
(…変わらないなぁ、3人とも…)
美虎は、苦笑してその騒動を見ていた。
美貌を傷つけられて怒る胡蝶。
状況が読めず、余計な一言を言ってしまう煉。
冷静に毒を吐く西尾。
3人を止める優兎。
昔みたいな団欒(?)に、美虎は少し懐かしさを覚え、思わず微笑んだ。
「美虎嬢、わっちが1番可愛いでありんしょう?」
「うん、胡蝶姐さんが1番可愛いよ」
数十分後、優兎がアルコールではなく、ウーロン茶を飲ませて冷静にした3人の呟きに美虎は答えていた。
「焼肉は」
「西尾兄の言いたいことは判ってる、ご飯多めだと太るから、肉を食べた方がいいんだよね」
「姐さんは本当に」
「はいはい、煉は胡蝶姐さんが怒るの嫌なんだよね」
「美虎嬢、対処の仕方、完璧ですね」
「優兎はお酒飲んでないから変わんないね、偉いよ」
「…美虎嬢」
壁に持たれていた胡蝶が顔を上げると、
「美虎嬢、『小鳥遊組』のこれからをよろしく頼みます」
「…酔ってる?」
「自分が酔ってるかどうか判らん奴らに酒を呑む権利はありんせん。わっちは、もうほぼ素面でありんす。美虎嬢、これからのこと…」
「まだ、やるって決めたわけじゃ…」
「尚虎さんの血筋の人なら信頼出来ます。もう、美虎嬢の他はいません」
珍しく、花魁言葉ではない胡蝶は、着物を正し、正座をすると三つ指を突いて頭を下げた。
それに倣うように煉、西尾は正座し、優兎も正座した。
「…俺からもお願いします。美虎嬢」
頭を下げる煉、西尾、胡蝶と違い、優兎は緊張した顔で美虎の目を見つめてた。
(そんな辛そうな顔しないでよ…)
優兎には、側にいて欲しい。もうその衝動は自分じゃ止めらない。尚虎が死んで家に乗り込んできた警察に優兎が羽交い締めにされて叫んだ言葉や施設で死を覚悟した時に迎えにきてくれた優兎の顔が思い浮かぶ。
すると、必然的に自分の側に優兎が居てもらう方法、そして、優兎だけでなく、小さいながらも『小鳥遊組』を守って消さないでくれた3人への恩返しの方法は思いつく。
覚悟は、決めた。これから、自分の行く道が常識では外れているとしても、悔いはない。
「引き受けるよ、私が2代目の『小鳥遊組』の組長になる。その代わり、人数が少ないから代替えの式とかはしないよ。呼び方は『美虎嬢』のまま。他の組とは違うけど、それでも付いて来てくれる?」
3人が、パッと顔をあげた。優兎は、顔を綻ばせ、
「美虎嬢、これからもお願いします」
4人は声を揃え頭を垂れた。
そして、ここに2代目小鳥遊組組長、小鳥遊美虎が誕生した。
「はー、満腹でありんす」
美虎が組長に決まった後の方が胡蝶が食べるスピードが上がった。どうやら、組長の心配をして、あまり食べられなかったらしい。
それでも、カルビを5人分ペロリと食べるのを見て、「本物の蟒蛇だ…」と美虎は思った。
「わっちは、今から非行少女の面会がありんす」
「俺は、寝床に帰って寝ます。久しぶりの焼肉、楽しかったっすね!」
「胡蝶、口内のニンニク臭を消すには林檎を食べた方がいいですよ。それが、エチケットというものです」
3人は、夕暮れ時の商店街で、「明日、また事務所で」と約束して、別れた。
美虎は、横に立っている優兎のパーカーを引っ張り、
「優兎の家に帰ろっか」
と、言った。それに、優兎は、
「はい、美虎嬢」
と笑顔で答えた。
駐車場まで歩きながら、この笑顔の側でずっと居たいな、と美虎は心の中で強く思った。
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