造花より綺麗な睡蓮を。

細雪あおい

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第八話「鷹の巣は」

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 優兎の家に帰る車内は、気まずさが漂っていた。
 組長のことではない。過去を掘り返すのは野暮だと判っているが、2人とも、額をくっつけた時にまともに見てしまったお互いの顔が忘れられないのだ。
 美虎は、不安そうな表情の色素の薄い目、優兎は、幼さを残しつつも品がある美虎の顔が忘れられない。
 優兎は、一応男として持っている下心と美虎を想う理性の葛藤に戦っていながらも表情に出さないが、美虎は、初めての感覚に戸惑っていた。
 心配げな顔。他の組に絡まれた時に吐いたドスの効いた声。そして、いつもの優しい言葉。それが頭を埋め尽くす。
(優兎は、お父さんの義理で私と一緒にいるのかなぁ…)
 2代目組長の不安は絶えなかった。
「美虎嬢、着きましたよ」
 運転席を降りると、助手席のドアを開けてくれる優兎。
(あぁ、ダメじゃん、また心臓おかしくなる)
 父親の義理。そう思って、笑みを浮かべる。
「…お疲れですか?」
(なんで、そんなに目ざといの…!)
 美虎は、頭を抱えたくなった。優兎は人の感情に敏感だった。きっと、この想いもお見通しなのだろう。
「…ちょっと、食べ過ぎたみたい」
 に、と笑うと、優兎は笑って、
「胡蝶姐さんも食べてましたからね」
 エレベーターのボタンを押して言った。
「どうも、俺の周りの女性は、食べる量が多いですからね」
 話を変えてくれるのまではよかったけども、「俺の周りの女性」というフレーズに心が騒めく。
(優兎の周りの女性って…胡蝶姐さん以外に誰がいるのだろう)
 エレベーターに乗ってる時は、2人とも無言だった。
 部屋まで行くと、鍵を開けながら、優兎が、
「…何か、隠してませんか?」
 と言った瞬間、美虎の緊張が頂点に達し、
「なんでもない!」
 と、大声で怒鳴ってしまった。
 驚いた顔の優兎を一瞬だけ見て、美虎は顔を伏せ、
「…ごめん」
 と謝罪した。
 玄関に入ると、優兎が手を繋いだ。
 暖かく、大きな手はまるで父親のようで、心が落ち着く。
「…優兎は、なんでもお見通しだね」
「いえ、判らないことも多いですよ」
 靴を脱ぎ、居間へ入ると、一緒にソファに座った。
「美虎嬢」
 ベランダの開いたカーテンから夕日が差し込んで、優兎の顔を照らす。色素の薄い目がまるで金色のカラーコンタクトを入れたかのように光る。それが綺麗だな、と美虎は想う。
「…俺は、美虎嬢の1番側にいます。今でも、そして、これからもずっと」
 美虎が目を見開く。
「俺は、美虎嬢が好きですから」
 言葉に詰まる美虎に、優兎は優しく微笑んだ。
「私がダメな組長になっても?」「組織の中から支えます」
「期待に応えられなくても?」「美虎嬢なら出来ます」
「すごい悪い子になっても?」「ちゃんとした道へ連れて行きます」
「何があっても、好きでいてくれる?」「当たり前じゃないですか」
「…私も好き。…大好きだよ、優兎」
 美虎は、優兎に抱きついた。目を閉じて、呼吸すると、優兎が頭を撫でてくれた。
 久しぶりの愛する人の体温に2人の疲れは徐々に、ほぐれていった。
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