2 / 25
『歯車は歪に回りだす』
しおりを挟む
拾都戦争が終わり、五年が経つ。
当時の政府は、戦争が終わった今も勢力が強い「九想典」によって解体され、都市は独自の発展を遂げた。
「九想典」は、九人の賢者から成っている。それぞれに得意分野がある。
そして、拾都の革命家としてメキメキと頭角を表すことになる。
貧民街には、新しい仕事を与え、食料の取り合いでの事件、栄養失調で亡くなることもなくなった。
他国から入ってきた未知なる伝染病が流行ったときも、「九想典」がいち早く解決策を見出した。
医療班はもちろんのこと、トップが集まり、流行のルート、症状が顕著に現れる年代、医療現場でどの薬を服用して、どの様に効いたのかデータをひたすら集めた。
医療が担当では無い「九想典」のトップも都市部にある九想典本部で寝ずに、解決策を出し合った。
その甲斐あってか、ほんの数カ月で伝染病は収束を迎えた。他の国では考えられない程のスピードだった。
ネオンが、下品ではない程度にギラつく路地裏を歩いている人がいた。
拾都では、ネオンの光量も決められていた。窓の近くにネオンがあっても、眩しさで眠れないということがない様に、だ。
路地裏にいる黒パーカーを着た伊織が動くと、地面と擦れて、カラカラと音がする。
それは、無骨な大きな鎌を持っているからだった。
その鎌を持っている伊織は、喋っていた。
それも、首だけになった人間に。
「おいおい、簡単に死なれては困るのだがね。つまらないよ、君」
飄々とした口調で両手を腰に当て、上体を少し前に反らせて、地面に転がっている生首に語りかけていた。
ボサボサの黒髪の前髪の隙間からはガーネットの様な真紅の瞳が笑みで弧を描いていた。
「ふむ、では、俺の話を聞いてもらおうかな。馬の耳に念仏、男の生首に世間話。かかか、どっちが滑稽なのだろうかね?最後までに判ると良いのだが。さて、俺は殺しが好きだ。子供の頃の経験がそうさせているのさ。まぁ、トラウマ、心の傷が原因といった所だ。けっ、今でも思い出したくないよ。だから、人を殺す。まるで、桜の枝を折る様に簡単にね。…ああ、他国では桜の枝は折ってはいけないのだったね。ふむ。…おっと、話が脱線したかな。これが俺の悪い癖のひとつさ。いつも、友人の唯一に怒られてばかりだよ。殺しというものは俺にとって最高に楽しいものでね、特に傲慢な奴が嫌いだ。「人類皆平等」を振りかざして、いい気になっている。傲慢は身を滅す、って教わらなかったのかな?俺は学校など行ったことはないが、普通、教えるものだろう?親御さんは怒らなかったのかな?知らずに生きてきて、俺に会って殺されるなんて、不運もいいところだね」
そこで、鎌をくるくると、まるで曲芸の様に廻す。
「ともかく、君の不運は酒場で俺に絡んできたことだね。俺は久しぶりの酒だったから、昨晩からもうわくわくしてたまらなかったのだよ。最初は、ジントニック、次はハイボール、最後はシンデレラで締めようと遠足に行く子供の様に計画を立てていたのさ。そんな有頂天の俺に悪酔いした君がタチの悪い絡み方をしてくるのものだから…。もう、殺すしかないよね?悪酔いってさ、酒という病気に罹って内臓を酔いというものに侵食されて、自我というものがじわじわ衰えていく様だよね。そんな奴、俺は嫌いだなー。まぁ、だから殺したんだけど。酒運と対人運が悪かったみたいだね。さぁ、俺の話はここで終わり。頑張れば、天国行きの船には乗れるかもねー。かかか、いってらっしゃい」
そう言って、美酒に酔った様に、恍惚とした顔の伊織は踵を返して、もう一杯、飲み直すか、もう寝床に帰るか、軽いステップを踏みながら、大鎌を消し、雑多な路地裏を歩き出した。
拾都の路地裏は、他の都市より綺麗だと聞く。ここも「九想典」の息が掛かっていて、清掃で目にみえるゴミは排除され、目にみえないゴミの裏社会の取り引きも割りかし、流血沙汰にならずに済むらしいからだ。産まれてから、一度も拾都を出たことはない伊織には比べる事が出来ないが。
口笛を拭きながら、豆電球がチカチカして頑張って照らしている角を曲がろうとした時だ。
「ぐしゃり」
という音がした。
この音を伊織はよく知っている。
何度も何度も聞いているからである。毎晩見る悪夢でも、毎日見る日常でも。
この音は絶命した人間が崩れ落ちる音だ。
白い煙のような光が辺りを照らし、徐々に右手に物体化させて、先程まで持っていた大鎌「白火」を顕現させる。
「何処の殺し屋だい?ちゃんと「九想典」の許可は取ったのかな?事後承諾だと、彼らはうるさいよ?」
音がするまで、気配に気づかなかった。もしかしたら、自分より格上かもしれない。
恐怖より、興味が勝った。口の端に笑みを浮かべ、道を塞いでいた酒樽を蹴り飛ばして、「白火」を構えて一気に近づく。
そこは、元々、マフィアの取引場だったのだろう。
月が雲に隠れて見にくいが、むき出しの札束や、一目で違法薬物だと判る毒々しい蛍光ピンクのカプセル、裏社会で取引される拳銃などが散らばっていた。それらが転がる中に、その少女は、いた。
伊織よりもボサボサの茶髪に、涙を浮かべた金色の瞳。粗末な麻のワンピースを着て、地面に蹲っていた。年齢は十歳にも満たないだろう。
「何処のガキだ?」
伊織が近づくと、少女の肩がビクッと跳ねる。
最初は判らなかったが、右手の「白火」を見て納得した。そりゃそうだ、こんなに大きな鎌を持っていたら、誰だって怖がる。
しゅん、と「白火」を消して、少女に出来る限り、優しく語り掛ける。
「これで、いいだろう?お互い、丸腰だ。だから、そんなに怯えないでくれるかい?そんなに化け物を見るような眼で見られると、流石の俺でも傷つくのだがねぇ…」
「…近づかないで」
雨に打たれた仔猫のようにカタカタと震えていて、声もため息かと思う程、小さい。
「何故だい?」
「…殺しちゃうから」
その時、地上の状態を見計ったかのように雲の間から月が出た。
照らされた路地裏。
少女の膝の上には前歯が金色に輝く(もう金に価値はないだろう)男の首があった。
「君が、殺したのかい?」
「…イガイは、わざと殺したわけじゃない」
「『イガイ』?」
「自分の名前」
「…もしかして『遺骸』って書くかい?」
字を示したわけでもないのに、少女…遺骸は頷いた。最悪なことに、慣れているのだろう。
「遺骸という名前か…最悪な呪だね」
人間が生まれた時に一番最初にかけられる呪いは『名前』だと、聞いた事がある。
その名前という呪は、一生付き纏う。
例えば、自己紹介をする時に。
例えば、親や友達に呼ばれる時に。
例えば、心ない言葉をかけられる時に。
それは、死ぬまで、いや、死んでもそれはずっと続くだろう。
「…遺骸、どうやって、殺したんだい?俺は、それが一番気になるよ。どうか、この殺人鬼に教えてくれるかい?一体、どうやって年端も行かぬ少女が生首を捥いだ捥いだか味津々でね、飽くなき探究心が求めて仕方ないのさ」
「あのね…」
遺骸は、血に染まった右手を翳した。小さな手だった。
「…触るだけで…殺しちゃうの…」
「触れるだけで…?」
珍しく、伊織は、言葉を切ると、少し考え、
「遺骸、君、ちょっと会って欲しい人がいるのだよ」
「会、う?」
「『九想典』って言ってね、いろんなことを知ってる集団さ。来てくれるかい?」
「…」
「怖いのなら、いいよ。無理強いはしない。『無茶はしていいが、無理はするな』と言っている人もいるくらいだ。無理と言うものは毒物なのだろうね、きっと。それで、どうする?会うかい?会わない?」
「九想典」のことを聞いたことがあるのか、少し躊躇う遺骸。そこに、伊織は、同じ人間の声とは思えない程、柔らかい声で言った。
「優しいよ、彼らは。生きる者にもこの世を旅立つ者にも。犯罪集団なんかじゃない。孤独が辛かったら、彼らを頼ればいい。絶対、助けてくれる」
遺骸は、意を決したように頷くと、立ち上がった。
そして、自分の横に落ちていた赤い蝙蝠傘を持つと、先端を自分が持ち、取手を伊織に向けた。
「…ん?ああ、こうして物を使って手を繋ぐのだね。考えたものだ。頭を撫でてあげたいよ」
伊織は、かかか、と笑うと歩き出した。
自分の寝床のある「九想典」の本部に向かって。
当時の政府は、戦争が終わった今も勢力が強い「九想典」によって解体され、都市は独自の発展を遂げた。
「九想典」は、九人の賢者から成っている。それぞれに得意分野がある。
そして、拾都の革命家としてメキメキと頭角を表すことになる。
貧民街には、新しい仕事を与え、食料の取り合いでの事件、栄養失調で亡くなることもなくなった。
他国から入ってきた未知なる伝染病が流行ったときも、「九想典」がいち早く解決策を見出した。
医療班はもちろんのこと、トップが集まり、流行のルート、症状が顕著に現れる年代、医療現場でどの薬を服用して、どの様に効いたのかデータをひたすら集めた。
医療が担当では無い「九想典」のトップも都市部にある九想典本部で寝ずに、解決策を出し合った。
その甲斐あってか、ほんの数カ月で伝染病は収束を迎えた。他の国では考えられない程のスピードだった。
ネオンが、下品ではない程度にギラつく路地裏を歩いている人がいた。
拾都では、ネオンの光量も決められていた。窓の近くにネオンがあっても、眩しさで眠れないということがない様に、だ。
路地裏にいる黒パーカーを着た伊織が動くと、地面と擦れて、カラカラと音がする。
それは、無骨な大きな鎌を持っているからだった。
その鎌を持っている伊織は、喋っていた。
それも、首だけになった人間に。
「おいおい、簡単に死なれては困るのだがね。つまらないよ、君」
飄々とした口調で両手を腰に当て、上体を少し前に反らせて、地面に転がっている生首に語りかけていた。
ボサボサの黒髪の前髪の隙間からはガーネットの様な真紅の瞳が笑みで弧を描いていた。
「ふむ、では、俺の話を聞いてもらおうかな。馬の耳に念仏、男の生首に世間話。かかか、どっちが滑稽なのだろうかね?最後までに判ると良いのだが。さて、俺は殺しが好きだ。子供の頃の経験がそうさせているのさ。まぁ、トラウマ、心の傷が原因といった所だ。けっ、今でも思い出したくないよ。だから、人を殺す。まるで、桜の枝を折る様に簡単にね。…ああ、他国では桜の枝は折ってはいけないのだったね。ふむ。…おっと、話が脱線したかな。これが俺の悪い癖のひとつさ。いつも、友人の唯一に怒られてばかりだよ。殺しというものは俺にとって最高に楽しいものでね、特に傲慢な奴が嫌いだ。「人類皆平等」を振りかざして、いい気になっている。傲慢は身を滅す、って教わらなかったのかな?俺は学校など行ったことはないが、普通、教えるものだろう?親御さんは怒らなかったのかな?知らずに生きてきて、俺に会って殺されるなんて、不運もいいところだね」
そこで、鎌をくるくると、まるで曲芸の様に廻す。
「ともかく、君の不運は酒場で俺に絡んできたことだね。俺は久しぶりの酒だったから、昨晩からもうわくわくしてたまらなかったのだよ。最初は、ジントニック、次はハイボール、最後はシンデレラで締めようと遠足に行く子供の様に計画を立てていたのさ。そんな有頂天の俺に悪酔いした君がタチの悪い絡み方をしてくるのものだから…。もう、殺すしかないよね?悪酔いってさ、酒という病気に罹って内臓を酔いというものに侵食されて、自我というものがじわじわ衰えていく様だよね。そんな奴、俺は嫌いだなー。まぁ、だから殺したんだけど。酒運と対人運が悪かったみたいだね。さぁ、俺の話はここで終わり。頑張れば、天国行きの船には乗れるかもねー。かかか、いってらっしゃい」
そう言って、美酒に酔った様に、恍惚とした顔の伊織は踵を返して、もう一杯、飲み直すか、もう寝床に帰るか、軽いステップを踏みながら、大鎌を消し、雑多な路地裏を歩き出した。
拾都の路地裏は、他の都市より綺麗だと聞く。ここも「九想典」の息が掛かっていて、清掃で目にみえるゴミは排除され、目にみえないゴミの裏社会の取り引きも割りかし、流血沙汰にならずに済むらしいからだ。産まれてから、一度も拾都を出たことはない伊織には比べる事が出来ないが。
口笛を拭きながら、豆電球がチカチカして頑張って照らしている角を曲がろうとした時だ。
「ぐしゃり」
という音がした。
この音を伊織はよく知っている。
何度も何度も聞いているからである。毎晩見る悪夢でも、毎日見る日常でも。
この音は絶命した人間が崩れ落ちる音だ。
白い煙のような光が辺りを照らし、徐々に右手に物体化させて、先程まで持っていた大鎌「白火」を顕現させる。
「何処の殺し屋だい?ちゃんと「九想典」の許可は取ったのかな?事後承諾だと、彼らはうるさいよ?」
音がするまで、気配に気づかなかった。もしかしたら、自分より格上かもしれない。
恐怖より、興味が勝った。口の端に笑みを浮かべ、道を塞いでいた酒樽を蹴り飛ばして、「白火」を構えて一気に近づく。
そこは、元々、マフィアの取引場だったのだろう。
月が雲に隠れて見にくいが、むき出しの札束や、一目で違法薬物だと判る毒々しい蛍光ピンクのカプセル、裏社会で取引される拳銃などが散らばっていた。それらが転がる中に、その少女は、いた。
伊織よりもボサボサの茶髪に、涙を浮かべた金色の瞳。粗末な麻のワンピースを着て、地面に蹲っていた。年齢は十歳にも満たないだろう。
「何処のガキだ?」
伊織が近づくと、少女の肩がビクッと跳ねる。
最初は判らなかったが、右手の「白火」を見て納得した。そりゃそうだ、こんなに大きな鎌を持っていたら、誰だって怖がる。
しゅん、と「白火」を消して、少女に出来る限り、優しく語り掛ける。
「これで、いいだろう?お互い、丸腰だ。だから、そんなに怯えないでくれるかい?そんなに化け物を見るような眼で見られると、流石の俺でも傷つくのだがねぇ…」
「…近づかないで」
雨に打たれた仔猫のようにカタカタと震えていて、声もため息かと思う程、小さい。
「何故だい?」
「…殺しちゃうから」
その時、地上の状態を見計ったかのように雲の間から月が出た。
照らされた路地裏。
少女の膝の上には前歯が金色に輝く(もう金に価値はないだろう)男の首があった。
「君が、殺したのかい?」
「…イガイは、わざと殺したわけじゃない」
「『イガイ』?」
「自分の名前」
「…もしかして『遺骸』って書くかい?」
字を示したわけでもないのに、少女…遺骸は頷いた。最悪なことに、慣れているのだろう。
「遺骸という名前か…最悪な呪だね」
人間が生まれた時に一番最初にかけられる呪いは『名前』だと、聞いた事がある。
その名前という呪は、一生付き纏う。
例えば、自己紹介をする時に。
例えば、親や友達に呼ばれる時に。
例えば、心ない言葉をかけられる時に。
それは、死ぬまで、いや、死んでもそれはずっと続くだろう。
「…遺骸、どうやって、殺したんだい?俺は、それが一番気になるよ。どうか、この殺人鬼に教えてくれるかい?一体、どうやって年端も行かぬ少女が生首を捥いだ捥いだか味津々でね、飽くなき探究心が求めて仕方ないのさ」
「あのね…」
遺骸は、血に染まった右手を翳した。小さな手だった。
「…触るだけで…殺しちゃうの…」
「触れるだけで…?」
珍しく、伊織は、言葉を切ると、少し考え、
「遺骸、君、ちょっと会って欲しい人がいるのだよ」
「会、う?」
「『九想典』って言ってね、いろんなことを知ってる集団さ。来てくれるかい?」
「…」
「怖いのなら、いいよ。無理強いはしない。『無茶はしていいが、無理はするな』と言っている人もいるくらいだ。無理と言うものは毒物なのだろうね、きっと。それで、どうする?会うかい?会わない?」
「九想典」のことを聞いたことがあるのか、少し躊躇う遺骸。そこに、伊織は、同じ人間の声とは思えない程、柔らかい声で言った。
「優しいよ、彼らは。生きる者にもこの世を旅立つ者にも。犯罪集団なんかじゃない。孤独が辛かったら、彼らを頼ればいい。絶対、助けてくれる」
遺骸は、意を決したように頷くと、立ち上がった。
そして、自分の横に落ちていた赤い蝙蝠傘を持つと、先端を自分が持ち、取手を伊織に向けた。
「…ん?ああ、こうして物を使って手を繋ぐのだね。考えたものだ。頭を撫でてあげたいよ」
伊織は、かかか、と笑うと歩き出した。
自分の寝床のある「九想典」の本部に向かって。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる