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遺骸に触れられる者は。
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「八舞、何故俺の血を取るんだい?健康診断はまだ受ける時期じゃないだろう?」
「いいじゃない、サンプルは多い方がいいわ。これも遺骸ちゃんのためよ。…相変わらず、綺麗な腕ね」
伊織は、八舞に採血されていた。八舞の注射は痛くない。これは異能力も手伝っているが、医師としての長年の経験で何処に痛覚があるかどうか判るのだ。
「次は遺骸ちゃんの番よ。おいで」
伊織の腕から注射器を抜き、持って来た医療廃棄物の箱に注射器を捨てながら笑顔で言った。
「でも、伊織以外が触ると、皆は…」
今までのことを思い出し、言葉を詰まらせる遺骸に、八舞は、安心させるように、ふふふと笑うと、
「大丈夫。助っ人を用意しているわ」
八舞はスマホを取り出し、綺麗に短く切られた爪でコンコンとタップした。耳に当てると、
「入って来ていいわよ」
と言った。すると、割れた窓から赤い着物を着た女の子と、ピアスがいくつか顔に開けてある不機嫌そうな女性が現れた。
「…僕は帰るつもりだったんだけど」
ピアスの女性、霊七が不機嫌そうにぶつぶつと呟く。
対照的なのは、
「久しぶり、伊織」
何処か、嬉しそうな赤い着物の女の子、二兎だった。
「霊七、昨日は助かったよ、ありがとう。二兎は、どうだい?最近の仕事の方は?」
「楽勝。「にと」は強くなった」
「それは、重畳」
「で?なんで、僕は呼ばれたのかな?」
朝早くから会議に呼ばれ、その間、喫煙出来なかった為、ニコチンが切れているようで苛立った霊七が言った。
「霊七にしか出来ないことがあるのよ。はい、治療用の煙草。少し、外で吸ってらっしゃい」
八舞は再び「細菌確認」と呟き、自分で禁煙者用に開発した無添加のオーガニックシガレットを召喚し、霊七に渡した。
「サンキュ。火は…ある」
「「にと」は火打ち石を持っているぞ。貸してやろうか?」
「…何処まで、古典的なんだよ…」
霊七は、呆れたように笑うと、懐から蝶が彫られている愛用のライターを取り出し、割れた窓から、外へ出ようとして、振り返り、
「遺骸ちゃん、煙草は吸わない方がいいよ?」
遺骸が戸惑いながら、こくりと頷いたのを見て笑うと、外に出て行った。
「八舞、遺骸の血液検査はどうするんだい?」
血液検査で刺された腕に、シール状の絆創膏を貼った伊織が聞いた。
「それは、霊七に頼もうと思ったのよ。霊七はもう忘れてるみたいだけど、ちゃんと承諾は得てるわ」
八舞は、嵌めていた薄いゴム手袋を口で噛んで外しながら、
「魂がいくつかあれば、なんとかなるそうよ」
「…血液検査を霊七が?」
「大丈夫、霊七はピアッサーの資格を持ってるから、多少は判るはずよ。伊織は人は殺せても、血は摂れないでしょ?」
「…心配だね」
大きく伸びをして、欠伸を噛み殺しながら、伊織はそう言った。
「あら、珍しいわね、伊織がそう言うことを言うなんて」
「おいおい、それじゃあ、まるで俺が血も涙もないやつだと言っているようじゃないか。これでも、俺は『九想典』の友達だよ?特に、霊七には世話になってる。これで、心配しなかったら、人間として、どうかしてるよ」
「「にと」も心配してる」
「お、人間らしくなったね、二兎。偉いぞ」
伊織が手を伸ばして、サラサラの二兎の黒髪を撫でてやると、二兎の雪のように白い頬が赤く染まった。
(まさか、二兎…)
それを見て、八舞は察した。
「ふー、美味かったー」
割れた窓から伸びをしながら笑顔の霊七が戻って来た。もう誰も玄関を使う気はないのだろう。
「霊七、今回は特別にシガレットを提供したけど、ちゃんと治療には来ないとダメよ?」
「判ってる。あの薬、不味いから嫌なんだ」
「シガレットの吸い過ぎで死ぬよりマシでしょ?霊七が死んだら『九想典』の皆は悲しむわ」
「…うん」
ライターを開けたり閉じたり、カチャカチャ音を立てながら、霊七は呟いた。
そこで、霊七は場の空気を変えるようにパンパンと手を叩くと、
「さぁ、遺骸ちゃんの血液検査よ!霊七、二兎、準備は良いわね?」
「あぁ、大丈夫。気分は悪くない」
運動をするかのように伸びをする霊七。
「『絡繰』は用意してある」
『絡繰』の柄を握る二兎。
その姿であることを思い出した伊織。
「霊七、二兎。まさか、あれをやるのかい?」
少し硬い伊織の声に霊七は、ニッと笑って言った。
「そう。『永久保存』で魂を僕の中に入れる。遺骸ちゃんに触れても、7回なら耐えられるから、僕が注射を打つ。まぁ、都合の良い多重人格みたいなもんだ」
「もし、魂を使い切ったら、「にと」が獣を狩って魂を霊七に渡す。幸い、ここは野生動物が多い。「にと」に任せろ、7つなど秒で狩る」
伊織はそれを聞いて、言葉に詰まった。
それは、数年前の『拾都戦争』で霊七と二兎が行った戦術だったからだ。
「いいじゃない、サンプルは多い方がいいわ。これも遺骸ちゃんのためよ。…相変わらず、綺麗な腕ね」
伊織は、八舞に採血されていた。八舞の注射は痛くない。これは異能力も手伝っているが、医師としての長年の経験で何処に痛覚があるかどうか判るのだ。
「次は遺骸ちゃんの番よ。おいで」
伊織の腕から注射器を抜き、持って来た医療廃棄物の箱に注射器を捨てながら笑顔で言った。
「でも、伊織以外が触ると、皆は…」
今までのことを思い出し、言葉を詰まらせる遺骸に、八舞は、安心させるように、ふふふと笑うと、
「大丈夫。助っ人を用意しているわ」
八舞はスマホを取り出し、綺麗に短く切られた爪でコンコンとタップした。耳に当てると、
「入って来ていいわよ」
と言った。すると、割れた窓から赤い着物を着た女の子と、ピアスがいくつか顔に開けてある不機嫌そうな女性が現れた。
「…僕は帰るつもりだったんだけど」
ピアスの女性、霊七が不機嫌そうにぶつぶつと呟く。
対照的なのは、
「久しぶり、伊織」
何処か、嬉しそうな赤い着物の女の子、二兎だった。
「霊七、昨日は助かったよ、ありがとう。二兎は、どうだい?最近の仕事の方は?」
「楽勝。「にと」は強くなった」
「それは、重畳」
「で?なんで、僕は呼ばれたのかな?」
朝早くから会議に呼ばれ、その間、喫煙出来なかった為、ニコチンが切れているようで苛立った霊七が言った。
「霊七にしか出来ないことがあるのよ。はい、治療用の煙草。少し、外で吸ってらっしゃい」
八舞は再び「細菌確認」と呟き、自分で禁煙者用に開発した無添加のオーガニックシガレットを召喚し、霊七に渡した。
「サンキュ。火は…ある」
「「にと」は火打ち石を持っているぞ。貸してやろうか?」
「…何処まで、古典的なんだよ…」
霊七は、呆れたように笑うと、懐から蝶が彫られている愛用のライターを取り出し、割れた窓から、外へ出ようとして、振り返り、
「遺骸ちゃん、煙草は吸わない方がいいよ?」
遺骸が戸惑いながら、こくりと頷いたのを見て笑うと、外に出て行った。
「八舞、遺骸の血液検査はどうするんだい?」
血液検査で刺された腕に、シール状の絆創膏を貼った伊織が聞いた。
「それは、霊七に頼もうと思ったのよ。霊七はもう忘れてるみたいだけど、ちゃんと承諾は得てるわ」
八舞は、嵌めていた薄いゴム手袋を口で噛んで外しながら、
「魂がいくつかあれば、なんとかなるそうよ」
「…血液検査を霊七が?」
「大丈夫、霊七はピアッサーの資格を持ってるから、多少は判るはずよ。伊織は人は殺せても、血は摂れないでしょ?」
「…心配だね」
大きく伸びをして、欠伸を噛み殺しながら、伊織はそう言った。
「あら、珍しいわね、伊織がそう言うことを言うなんて」
「おいおい、それじゃあ、まるで俺が血も涙もないやつだと言っているようじゃないか。これでも、俺は『九想典』の友達だよ?特に、霊七には世話になってる。これで、心配しなかったら、人間として、どうかしてるよ」
「「にと」も心配してる」
「お、人間らしくなったね、二兎。偉いぞ」
伊織が手を伸ばして、サラサラの二兎の黒髪を撫でてやると、二兎の雪のように白い頬が赤く染まった。
(まさか、二兎…)
それを見て、八舞は察した。
「ふー、美味かったー」
割れた窓から伸びをしながら笑顔の霊七が戻って来た。もう誰も玄関を使う気はないのだろう。
「霊七、今回は特別にシガレットを提供したけど、ちゃんと治療には来ないとダメよ?」
「判ってる。あの薬、不味いから嫌なんだ」
「シガレットの吸い過ぎで死ぬよりマシでしょ?霊七が死んだら『九想典』の皆は悲しむわ」
「…うん」
ライターを開けたり閉じたり、カチャカチャ音を立てながら、霊七は呟いた。
そこで、霊七は場の空気を変えるようにパンパンと手を叩くと、
「さぁ、遺骸ちゃんの血液検査よ!霊七、二兎、準備は良いわね?」
「あぁ、大丈夫。気分は悪くない」
運動をするかのように伸びをする霊七。
「『絡繰』は用意してある」
『絡繰』の柄を握る二兎。
その姿であることを思い出した伊織。
「霊七、二兎。まさか、あれをやるのかい?」
少し硬い伊織の声に霊七は、ニッと笑って言った。
「そう。『永久保存』で魂を僕の中に入れる。遺骸ちゃんに触れても、7回なら耐えられるから、僕が注射を打つ。まぁ、都合の良い多重人格みたいなもんだ」
「もし、魂を使い切ったら、「にと」が獣を狩って魂を霊七に渡す。幸い、ここは野生動物が多い。「にと」に任せろ、7つなど秒で狩る」
伊織はそれを聞いて、言葉に詰まった。
それは、数年前の『拾都戦争』で霊七と二兎が行った戦術だったからだ。
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