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伊織の殺人鬼としての禁断症状。
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「そういえば、そうだったな」
二兎の過去を思い出した霊七は呟いた。
「大変だったな」
「「にと」は今、寂しくない。…『九想典』の皆がいるから」
「それから、伊織も」と小さく呟いたが、霊七は気づかなかった。
「もう、故郷には帰らないのか?」
「当たり前のことを言うな。…霊七も帰らないのだろう?」
「帰るものか、あんな家」
霊七は顔を歪めて、ギリッと歯を食いしばると、
『拾都戦争』の時は、叱咤と歓喜の電話が鳴りやまなかったから、スマホは解約した後、三弥砥に燃やしてもらった」
「…お互い、大変だな」
霊七は、表情を緩めて小さく笑い、いつもは無表情の二兎も口角を上げた。
「僕は父さんも母さんもいないものと思って生きてる。死んで残るものは魂だ。魂を使いこなしてやる為に、『九想典』に入った。いつか父さんと母さんの魂を使役するのは九尾様も判ってくれている。あとは、どう狩るか、だ」
ふう、と息を吐いた霊七は眉間にあるブリッジと呼ばれるピアスの部位から、黒いゼリーのような魂を取り出した。それは、たちまち、黒猫へと形を変えた。にゃぁ、と鳴く猫を愛撫する霊七。
「こいつは、母さんが川に投げ捨てた僕の愛猫だ。殺した理由は僕が嬉しそうに可愛がっていたからだ。僕の悲しみが奴らの喜びだ。そんな奴らに生きる価値はない」
「「にと」もそう思う。…霊七の家族は「にと」に任せろ。毒ならここにある」
そう言って、ガチャガチャと毒を充填した『絡繰』の柄を見せた。
霊七は、面白そうに、ははは、と笑うと、
「大丈夫だ、僕のことは僕がやる。二兎は自分の家族だけ殺せばいい」
「…そうか」
少し、不満そうな二兎は『絡繰』を仕舞うと、
「伊織のところに行ってくる。何か言伝はあるか?」
少し嬉しそうな二兎の顔を見て、霊七は腕を組み、ため息を吐くと、
「いい加減、乙女心を判れ、と伝えてくれ」
と言った。
「…伊織、どうしたの?」
伊織は、頭を抱え、低い声で唸っていた。
「来ないでくれ、遺骸。ちょっと発作が起きたんだ。気持ちは判るが、近づかない方がいい。薬は、どこに行ったかな?」
片手で左目を押さえながら、広い室内をふらふらと危なげに歩く。
「危ないよ!」
慌てて近付いた遺骸だったが、伊織の元へ行くことは出来なかった。
何故なら、振り向いた伊織の目が殺気を孕んだ絶対零度の冷たさだったからだ。
「遺骸、近づくな。…殺すよ?」
口調もいつもと違う。光がなく、伊織の射抜くような瞳に遺骸の喉からひゅうひゅう息が漏れるだけで言葉が出ない。
遺骸は声も出さずにカタカタと震えて頷いた。
それは、自分を唯一認めてくれた伊織の変わり様に恐怖を覚えたからだった。
(どうしよう…)
「白火」を顕現させようとしているのか、手を見つめる伊織。
もう一度、声を掛けようとした時だ。
居間の方からガシャン、と窓ガラスが割れる音がした。
ビクッとする遺骸に目もくれず、凶暴な笑みを浮かべた伊織が、
「刺客か?」
と呟くと同時に部屋のドアが開いた。
「全く、唯一め、無駄に鍵なんて閉めて…結局は窓を割るしかないじゃない」
現れたのは、目の下のクマが酷く、しかし、対になるように健康的に青光りする長い黒髪が美しい女性だった。窓ガラスの破片が付いた白衣を気にしている。
「誰、なの!?」
警戒して遺骸が硬い声で叫んだ。
女性は、遺骸に気がつくと、優しい笑みを浮かべ、
「あぁ、君が遺骸ちゃんね。私は、八舞。『九想典』のメンバーよ。ちょっと、遺骸ちゃんを診に来たら、伊織が発作を起こしてるから…」
八舞がそこまで笑顔で言いかけると、ガキン!と金属音がした。
伊織が「白火」を顕現して、八舞の首を切ろうとしたのだ。
だが、それは叶わなかった。「白火」の刃は、笑顔のままの八舞が持つメスで止められていたのだ。
ギチャギチャと刃物が力の押し合いになる。
「お前…殺してやる」
「…全く、発作のせいね。あたしに勝てると思っているのかしら?」
八舞は、はぁ、と小さくため息を吐くと
「細菌確認」
と、異能力を呟いた。
八舞の異能力は、患者を診る時に発動することが多い。
病気が、刺し傷なのか、打撲なのか、骨折なのか、病原体によるものなのか、精神によるものなのか、瞬時に判断して治療する。戦場では、必須の人物である。
メスを持っていない手の方に光が集まり、紫色の液体の入った注射器を顕現した。
メスで鍔迫り合いになると、隙を見て、伊織の日に当たったことのないかのような白い首筋に注射器を突き刺した。
長年の経験がものを言うのか、確実に、頸動脈に刺していた。
痛みに顔を歪ませる伊織だったが、その薬に即効性があるのか、徐々に目つきが戻り、何度か瞬きをすると、今までのような、飄々とした表情に戻った。
「…いやぁ、八舞、すまないね、昨日は色々あったから薬を飲み忘れちゃてね…まぁ『正しく飲むのも薬のうち』を体現したものさ」
「当たり前のことを言わないで頂戴。何度目だと思ってるの」
軽口を言う伊織と、遺骸には向けない冷たい視線で怒る八舞。
それをポカンとした顔で見る遺骸。
「おっと、遺骸も怖がらせてしまったようだ。申し訳ないね、もう大丈夫、いつもの『無敵の殺人鬼』の伊織だよ」
そう言って、優しく遺骸の頭を撫でる伊織。床に転がっていた「白火」を消した。
遺骸は、幼い頭をフル回転させて考える。
『最強の殺人鬼』は、先ほどおかしくなった伊織の方ではないだろうか?
本物は、どっちだ?
そして…何故、その状態の伊織に八舞は勝つことが出来たのであろうか?
いくら、異能力を持っている同士とは言え『最強』に勝つ八舞は…
『九想典』は、侮れないところのようであり、遺骸は、クッションを抱きしめると、窓の近くで軽口を叩き合っている2人を今までとは違う目で見つめていた。
二兎の過去を思い出した霊七は呟いた。
「大変だったな」
「「にと」は今、寂しくない。…『九想典』の皆がいるから」
「それから、伊織も」と小さく呟いたが、霊七は気づかなかった。
「もう、故郷には帰らないのか?」
「当たり前のことを言うな。…霊七も帰らないのだろう?」
「帰るものか、あんな家」
霊七は顔を歪めて、ギリッと歯を食いしばると、
『拾都戦争』の時は、叱咤と歓喜の電話が鳴りやまなかったから、スマホは解約した後、三弥砥に燃やしてもらった」
「…お互い、大変だな」
霊七は、表情を緩めて小さく笑い、いつもは無表情の二兎も口角を上げた。
「僕は父さんも母さんもいないものと思って生きてる。死んで残るものは魂だ。魂を使いこなしてやる為に、『九想典』に入った。いつか父さんと母さんの魂を使役するのは九尾様も判ってくれている。あとは、どう狩るか、だ」
ふう、と息を吐いた霊七は眉間にあるブリッジと呼ばれるピアスの部位から、黒いゼリーのような魂を取り出した。それは、たちまち、黒猫へと形を変えた。にゃぁ、と鳴く猫を愛撫する霊七。
「こいつは、母さんが川に投げ捨てた僕の愛猫だ。殺した理由は僕が嬉しそうに可愛がっていたからだ。僕の悲しみが奴らの喜びだ。そんな奴らに生きる価値はない」
「「にと」もそう思う。…霊七の家族は「にと」に任せろ。毒ならここにある」
そう言って、ガチャガチャと毒を充填した『絡繰』の柄を見せた。
霊七は、面白そうに、ははは、と笑うと、
「大丈夫だ、僕のことは僕がやる。二兎は自分の家族だけ殺せばいい」
「…そうか」
少し、不満そうな二兎は『絡繰』を仕舞うと、
「伊織のところに行ってくる。何か言伝はあるか?」
少し嬉しそうな二兎の顔を見て、霊七は腕を組み、ため息を吐くと、
「いい加減、乙女心を判れ、と伝えてくれ」
と言った。
「…伊織、どうしたの?」
伊織は、頭を抱え、低い声で唸っていた。
「来ないでくれ、遺骸。ちょっと発作が起きたんだ。気持ちは判るが、近づかない方がいい。薬は、どこに行ったかな?」
片手で左目を押さえながら、広い室内をふらふらと危なげに歩く。
「危ないよ!」
慌てて近付いた遺骸だったが、伊織の元へ行くことは出来なかった。
何故なら、振り向いた伊織の目が殺気を孕んだ絶対零度の冷たさだったからだ。
「遺骸、近づくな。…殺すよ?」
口調もいつもと違う。光がなく、伊織の射抜くような瞳に遺骸の喉からひゅうひゅう息が漏れるだけで言葉が出ない。
遺骸は声も出さずにカタカタと震えて頷いた。
それは、自分を唯一認めてくれた伊織の変わり様に恐怖を覚えたからだった。
(どうしよう…)
「白火」を顕現させようとしているのか、手を見つめる伊織。
もう一度、声を掛けようとした時だ。
居間の方からガシャン、と窓ガラスが割れる音がした。
ビクッとする遺骸に目もくれず、凶暴な笑みを浮かべた伊織が、
「刺客か?」
と呟くと同時に部屋のドアが開いた。
「全く、唯一め、無駄に鍵なんて閉めて…結局は窓を割るしかないじゃない」
現れたのは、目の下のクマが酷く、しかし、対になるように健康的に青光りする長い黒髪が美しい女性だった。窓ガラスの破片が付いた白衣を気にしている。
「誰、なの!?」
警戒して遺骸が硬い声で叫んだ。
女性は、遺骸に気がつくと、優しい笑みを浮かべ、
「あぁ、君が遺骸ちゃんね。私は、八舞。『九想典』のメンバーよ。ちょっと、遺骸ちゃんを診に来たら、伊織が発作を起こしてるから…」
八舞がそこまで笑顔で言いかけると、ガキン!と金属音がした。
伊織が「白火」を顕現して、八舞の首を切ろうとしたのだ。
だが、それは叶わなかった。「白火」の刃は、笑顔のままの八舞が持つメスで止められていたのだ。
ギチャギチャと刃物が力の押し合いになる。
「お前…殺してやる」
「…全く、発作のせいね。あたしに勝てると思っているのかしら?」
八舞は、はぁ、と小さくため息を吐くと
「細菌確認」
と、異能力を呟いた。
八舞の異能力は、患者を診る時に発動することが多い。
病気が、刺し傷なのか、打撲なのか、骨折なのか、病原体によるものなのか、精神によるものなのか、瞬時に判断して治療する。戦場では、必須の人物である。
メスを持っていない手の方に光が集まり、紫色の液体の入った注射器を顕現した。
メスで鍔迫り合いになると、隙を見て、伊織の日に当たったことのないかのような白い首筋に注射器を突き刺した。
長年の経験がものを言うのか、確実に、頸動脈に刺していた。
痛みに顔を歪ませる伊織だったが、その薬に即効性があるのか、徐々に目つきが戻り、何度か瞬きをすると、今までのような、飄々とした表情に戻った。
「…いやぁ、八舞、すまないね、昨日は色々あったから薬を飲み忘れちゃてね…まぁ『正しく飲むのも薬のうち』を体現したものさ」
「当たり前のことを言わないで頂戴。何度目だと思ってるの」
軽口を言う伊織と、遺骸には向けない冷たい視線で怒る八舞。
それをポカンとした顔で見る遺骸。
「おっと、遺骸も怖がらせてしまったようだ。申し訳ないね、もう大丈夫、いつもの『無敵の殺人鬼』の伊織だよ」
そう言って、優しく遺骸の頭を撫でる伊織。床に転がっていた「白火」を消した。
遺骸は、幼い頭をフル回転させて考える。
『最強の殺人鬼』は、先ほどおかしくなった伊織の方ではないだろうか?
本物は、どっちだ?
そして…何故、その状態の伊織に八舞は勝つことが出来たのであろうか?
いくら、異能力を持っている同士とは言え『最強』に勝つ八舞は…
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