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第三章「5年前の『拾都戦争』2人が現れると」
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「あはは、割合動揺するもんだねぇ。あいつらこっちのことは調べてなかったんだ」
カタカタとまるでピアノの旋律を奏でるかのようにタイピングの音が鳴り、楽しそうな秋鹿の声がスピーカーから座敷牢に響く。
その様は。
遊んでいる無邪気な子供?
いや、地面に這う蟻を躊躇なく潰すような狂気を孕んだ子供だ。
「秋鹿、そろそろ帰ってこい」
冬儺が壁にかけてある時計を見て言った。
「なに、冬儺。ボクが恋しくなった?」
「違ぇよ、お前の『本体』の体力消耗が激しいんだ。一旦、戻ってこい」
「ちぇー。じゃあ、戻るよ。味見見たいなものだしね。…恐怖は少しづつ与えることにしよう」
舌打ちする音と共にパソコンがボワンと鳴り、消えた。
途端、
「っあぁ、うぁ、ぁ…」
と、まるで溺れていた人間が水面に出たかのように喘いだ息をして秋鹿はずるずると背もたれに寄り掛かった。
「戻ってくる、の…体力欲しくなる…」
秋鹿の額で光る汗を冬儺が手拭いで拭う。
「…冬儺も戻りなよ」
「あぁ、そうだな」
秋鹿に傷をつけないように、冬儺は異能力を解く。人間のものに戻った右手で秋鹿を椅子から下ろし、抱き寄せた。
「お疲れ、秋鹿。よく頑張りんした」
春紅が懐から金箔で包まれた飴を取り出し、秋鹿に渡す。
「ほら、前に言っておった『銀狐』で売ってる飴でありんす」
「ありがとう!疲れた時の甘いものって最高だよね」
冬儺に金箔を剥がしてもらって、棒のついたべっこう飴を口に含むと、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす。
「じゃあ、報告を頼みんす」
「えーとね、潰したのは二兎が持ってるスマホだよ。忘れたのか、残したのか判らないけど。あとは、五重の小説書いてるパソコン。データがいっぱいだったけど、全消しした。作戦とか、小説とか全部白紙。ちょっと細工したからあのパソコンを使い続ける限り、データを残しても、ボクが書き換えられるよ」
「それは、重畳。九尾の方は?」
「それねー」
咥えた飴を尖った犬歯でガリリと齧ると、ため息を吐き、
「正直、あれは突破難しいよ。久しぶりに燃えたけどね。パスワードにロック、しかも、パスワードも複雑だった。だから…」
ニッと秋鹿は無邪気に笑いながら、
「使ってるネット回線から入らせてもらったよ。だから、同じ回線を使ってた五重のパソコンにも入れたんだ。あは、一石二鳥。まだ回線は繋げてるから、他の人のスマホもその内に潰れるだろうね」
嬉々として告げる秋鹿の歪んだ笑みに春紅の背筋がゾッと寒くなった。
(いくら、機械に詳しいとは言え、、独学と生まれついた高知能のセンスでここまでやりおるとは…敵には回したくないわいなぁ…)
そんな春紅の心持ちも知らずに、秋鹿は呑気に、
「…さて、もう一回お邪魔しようかな?」
疲れが取れた秋鹿が伸びをした。
「…待って」
その時、今まで黙っていた夏梅が止めた。自分のスマホを見ると、
「『拾都』の兵士、撤退。華四、が魂狩りを、始めた、らしい」
「あー、死神の華四ね。あいつは厄介だ」
「面倒でありんすなぁ…」
「どうする、俺様が行くか?暴れたい気分なんだ」
パキパキと身体を動かしながら、冬儺がニィと笑って言った。
「冬儺、大丈夫?華四が『氷河変化』を使ったら、すぐ逃げてね。『無黒』が見えたら、もう勝つしかなくなるから」
「おう。任しとけ」
「じゃあ」
バサリ、と夏梅がローブを羽織った。
「梅、も行く。死神相手にも、毒は、効く」
「うん。ボクの冬儺をよろしく」
玄関まで見送りに来る不安げな秋鹿に、ちゃんと帰ってくるからと冬儺は笑った。
屋敷を出た冬儺はよろよろとする夏梅を右腕で抱え上げた。
「…俺様が抱えたって、秋鹿に言うなよ?」
「判ってる。バレたら、殺される」
「物判りがよろしいことで」
鍛え上げた足で山の獣道をだだだと駆け抜ける。
無数に木から生えている枝を左手で薙ぎ払い、夏梅に当たりそうならば、引き千切る。
たまに生えている毒草を走ったままスピードを落とさずに引き抜き、夏梅に渡すと、夏梅がもしゃもしゃと食べる。
辺りの風景は絵に描いたように綺麗で、美しく、とても争い事が起きてるようには見えない。
それが少し続いた。すると、冬儺が、轟々と鳴る風より大きな声で、
「夏梅ぇ!」
「…なに」
「俺様に掴まれ!」
ギュッと夏梅が掴まったことを確認すると、冬儺は崖から飛び降りた。
これにはいつも無表情な夏梅でも珍しく目を見開き、軽く震えた。
「ビビってんじゃねーぞ!?」
十数秒の無重力味わった滞空後、ダァン!と煉瓦で敷き詰められた『拾都』の道路に着地した。
轟音に驚いて振り返ったのは黒いローブを着て、背が高く、青い目が特徴の女性。
周りには倒れた『拾都』の兵士たちがいる。
「よぉ」
いつも通りに戻った夏梅を降ろしながら、冬儺は笑った。
「『九想典』の『死を司る』、華四だな?」
華四は、いきなり現れた2人が誰か判らないまま、頷いた。
「『四気』の『鬼やらい』冬儺」
「『四気』、の、『猫いらず』、夏梅」
2人は挑発的に笑うと、
「ちょっと、相手してくれや」
カタカタとまるでピアノの旋律を奏でるかのようにタイピングの音が鳴り、楽しそうな秋鹿の声がスピーカーから座敷牢に響く。
その様は。
遊んでいる無邪気な子供?
いや、地面に這う蟻を躊躇なく潰すような狂気を孕んだ子供だ。
「秋鹿、そろそろ帰ってこい」
冬儺が壁にかけてある時計を見て言った。
「なに、冬儺。ボクが恋しくなった?」
「違ぇよ、お前の『本体』の体力消耗が激しいんだ。一旦、戻ってこい」
「ちぇー。じゃあ、戻るよ。味見見たいなものだしね。…恐怖は少しづつ与えることにしよう」
舌打ちする音と共にパソコンがボワンと鳴り、消えた。
途端、
「っあぁ、うぁ、ぁ…」
と、まるで溺れていた人間が水面に出たかのように喘いだ息をして秋鹿はずるずると背もたれに寄り掛かった。
「戻ってくる、の…体力欲しくなる…」
秋鹿の額で光る汗を冬儺が手拭いで拭う。
「…冬儺も戻りなよ」
「あぁ、そうだな」
秋鹿に傷をつけないように、冬儺は異能力を解く。人間のものに戻った右手で秋鹿を椅子から下ろし、抱き寄せた。
「お疲れ、秋鹿。よく頑張りんした」
春紅が懐から金箔で包まれた飴を取り出し、秋鹿に渡す。
「ほら、前に言っておった『銀狐』で売ってる飴でありんす」
「ありがとう!疲れた時の甘いものって最高だよね」
冬儺に金箔を剥がしてもらって、棒のついたべっこう飴を口に含むと、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす。
「じゃあ、報告を頼みんす」
「えーとね、潰したのは二兎が持ってるスマホだよ。忘れたのか、残したのか判らないけど。あとは、五重の小説書いてるパソコン。データがいっぱいだったけど、全消しした。作戦とか、小説とか全部白紙。ちょっと細工したからあのパソコンを使い続ける限り、データを残しても、ボクが書き換えられるよ」
「それは、重畳。九尾の方は?」
「それねー」
咥えた飴を尖った犬歯でガリリと齧ると、ため息を吐き、
「正直、あれは突破難しいよ。久しぶりに燃えたけどね。パスワードにロック、しかも、パスワードも複雑だった。だから…」
ニッと秋鹿は無邪気に笑いながら、
「使ってるネット回線から入らせてもらったよ。だから、同じ回線を使ってた五重のパソコンにも入れたんだ。あは、一石二鳥。まだ回線は繋げてるから、他の人のスマホもその内に潰れるだろうね」
嬉々として告げる秋鹿の歪んだ笑みに春紅の背筋がゾッと寒くなった。
(いくら、機械に詳しいとは言え、、独学と生まれついた高知能のセンスでここまでやりおるとは…敵には回したくないわいなぁ…)
そんな春紅の心持ちも知らずに、秋鹿は呑気に、
「…さて、もう一回お邪魔しようかな?」
疲れが取れた秋鹿が伸びをした。
「…待って」
その時、今まで黙っていた夏梅が止めた。自分のスマホを見ると、
「『拾都』の兵士、撤退。華四、が魂狩りを、始めた、らしい」
「あー、死神の華四ね。あいつは厄介だ」
「面倒でありんすなぁ…」
「どうする、俺様が行くか?暴れたい気分なんだ」
パキパキと身体を動かしながら、冬儺がニィと笑って言った。
「冬儺、大丈夫?華四が『氷河変化』を使ったら、すぐ逃げてね。『無黒』が見えたら、もう勝つしかなくなるから」
「おう。任しとけ」
「じゃあ」
バサリ、と夏梅がローブを羽織った。
「梅、も行く。死神相手にも、毒は、効く」
「うん。ボクの冬儺をよろしく」
玄関まで見送りに来る不安げな秋鹿に、ちゃんと帰ってくるからと冬儺は笑った。
屋敷を出た冬儺はよろよろとする夏梅を右腕で抱え上げた。
「…俺様が抱えたって、秋鹿に言うなよ?」
「判ってる。バレたら、殺される」
「物判りがよろしいことで」
鍛え上げた足で山の獣道をだだだと駆け抜ける。
無数に木から生えている枝を左手で薙ぎ払い、夏梅に当たりそうならば、引き千切る。
たまに生えている毒草を走ったままスピードを落とさずに引き抜き、夏梅に渡すと、夏梅がもしゃもしゃと食べる。
辺りの風景は絵に描いたように綺麗で、美しく、とても争い事が起きてるようには見えない。
それが少し続いた。すると、冬儺が、轟々と鳴る風より大きな声で、
「夏梅ぇ!」
「…なに」
「俺様に掴まれ!」
ギュッと夏梅が掴まったことを確認すると、冬儺は崖から飛び降りた。
これにはいつも無表情な夏梅でも珍しく目を見開き、軽く震えた。
「ビビってんじゃねーぞ!?」
十数秒の無重力味わった滞空後、ダァン!と煉瓦で敷き詰められた『拾都』の道路に着地した。
轟音に驚いて振り返ったのは黒いローブを着て、背が高く、青い目が特徴の女性。
周りには倒れた『拾都』の兵士たちがいる。
「よぉ」
いつも通りに戻った夏梅を降ろしながら、冬儺は笑った。
「『九想典』の『死を司る』、華四だな?」
華四は、いきなり現れた2人が誰か判らないまま、頷いた。
「『四気』の『鬼やらい』冬儺」
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2人は挑発的に笑うと、
「ちょっと、相手してくれや」
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