この夏の終わりに君を彩る

37se

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 立夏との電話が終わった後、僕達は特に喋ることもなく、姉さんの帰りを待っていた。

 朝ほどの気まずさは無くなったのだが、親密度が深まった分この沈黙が逆に気まずい。

 その気まずさは青井花火も感じているようで、さっきからソワソワと身体を動かしたり、頬をぽりぽりとかいたりしている。

 その沈黙に耐えかねた僕は、彼女に質問してみることにした。

「あの、答えられたらでいいんだけどさ、平行世界に行くっていうその腕時計、なんか他の機能があったりしないの?」

 質問を投げかけてから気がついた。

 朝はあんなに仲良くなりたくなかったのに、今では沈黙に気まずさを感じるようになるなんて思ってもみなかった。僕の心の中の空っぽはどうやら、彼女によって満たされ始めているようだ。

 青井花火は質問を受けてから一瞬だけ考える素振りを見せる。

「太陽くんにだったら話しても大丈夫でしょう」

 彼女は人指し指を立てて話し始めた。

「実は私の世界にあるテクノロジーには、平行世界に行く以外の技術もあるんです。それが、時間遡行です」

 時間遡行と聞いて、僕の中の何かが反応した。

 時間遡行――いわゆるところ、タイムトラベルというやつだ。

 もしかして、それを使えば葉月を救えるのかもしれない。タイムスリップすれば、葉月の事故を未然に防げる可能性はある。

 そこまで考えて、その可能性を振り払った。恐らく、それをするには青井花火のエネルギーを使わなければいけないのだろう。彼女には時間がない。そんなことをするわけにはいかない。

「まあでも、これにも難しい点があるんですよ。使用者の世界では時間遡行ができないんです。例えば私が住んでいた世界をXの世界とします。そして、私はXの世界では時間遡行ができない。私が時間遡行できるのは私にとっての平行世界であるAの世界だったりBの世界だったりってことになるんです。だから、私は私の世界で時間遡行をして過去の私に病気にならないよう干渉できないんですよね」

 過去に戻ったところで私の病気は防ぎようがないんですよね、と彼女は自嘲気味に笑った。

 彼女の説明を聞いて、僕の中に芽生えた微かな思いは完全に萎んでしまった。まあでも、それで良かった。完全に無理だと言われた方が、諦めがつく。

「そっか……。じゃあつまりは、僕は君の過去の世界にはいけるけど、僕の過去の世界には行けないってことだね」

「そうなりますね」

 そんな会話をしていた矢先のことだ。

「ただいまー! 若者達よ、ちゃんと青春してきたか?」

 玄関の扉が勢いよく開いて、いつもより数倍元気な姉さんが帰ってきた。
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