ハッピイ・ボウルの奇跡

小野口 道彦

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ハッピイ・ボウルの奇跡

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   ここは東京の下町。
 その下町に、タワー・マンションだとか、駅ビルだとか、大規模複合商業施設だとかと、周囲の地域がめまぐるしく変貌を遂げる中、何故かそういったものとは無縁の、今の時代には珍しく、そう、誇張して言うなら、現代日本の時代の流れからポツンと取り残され、人々からその存在を忘れ去られたような街があった。
 東京に住む者達でさえ、その街の名前を聞いても、きっと?(ハテナマーク)がいくつも頭の中に浮かんでしまいそうな―知る人しか知らない、知らない人には勿論わからない―そんな由緒正しき個性の乏しい街。
 この街は、例えば〝昭和の姿を、色濃く残す街並〟といった風情あるキャッチ・コピーでもあれば良いのだが、どちらかというと、住んでいる人々には、大変失礼を承知で言わせてもらうと、ビジュアル的華やかさに欠け、寂れたとか薄汚さという言葉が似合う街なのである。
 マスコミのグルメリポートや、街歩き取材なども、あまりにもその魅力の無さに、この街を素通りしてしまう。
 あの〝とんねるず〟のキタナシュランでさえもこの街をスルーしていた。
 老朽化車両を半世紀以上も大切に走らせている老舗私鉄沿線の駅を降りると、車が数台しか停められない駅前ロータリーらしきものの先に、古いだけで個性の無い商店街・・若者達にとっては、違った意味で可愛いとか、バエるとか、エモい・・と見えるかも知れないが、そういった判断はこの街を実際に訪れた方の個人の見解に任せるとして・・
 その商店街の突き当たりに、この物語の舞台となるボウリング場はあった。

 名前はハッピイ・ボウル。
 
 1970年代の熱狂的なボウリング・ブームの中、地元の名士がボウリング愛好家であった為、私財を投じて建設された、半世紀以上に渡り営業を続けるボウリング場。
 開場当初は、低層の街並の中では、ひと際目立った4階建てのビルで、ワン・フロア、14レーンがスリー・フロア、合計42レーンある、当時としてはそこそこ立派なボウリング場だった。
 しかし、その後、石油ショックがあり、徐々にボウリング人気は衰退し、バブル経済崩壊という、さらなる世の中の不況のあおりを受け、現在ではビルの3階のワン・フロア、14レーンのみの営業となっている。
 それでも、ここがボウリング場として営業を続けられているのは、まだ初代の経営者が存命で、このボーリング場で利益が出なくても、他の商売で経営が賄える、経済的ゆとりがあるからなのだろう。
 だから、派手な営業キャンペーンをしなくても、客が入っても入らなくても、このボウリング場は存在し続けてきたのである。
 ハッピイ・ボウルは、ボーリング場のあるビルの3階でエレベータを降りて、まっすぐに進むと正面の受付カウンターにぶつかる。
 そこから左方向を見ると、レーンが左から右に第1レーンから第14レーンの順番で並んでいる。
 手前がアプローチで奥に向かって投げるのだ。
 広いとは言えないが、途中に柱がひとつもないフロアは開放感がある。
 しかし、耐震の事を考えると建物が建て替えられる時には、同じ空間を再現する事は難しいだろう。
 既に、屋上にあるボウリング場の象徴とも言える大きなピンも、老朽の為、取り外す話が出ている。
 受付とレーンの間には、テーブルがいくつか並び、ゲーム待ちや談笑が出来るスペースになっているが、あまりここに座っている人を見かけない。
 〝ゲーム待ち〟という言葉自体が、このボウリング場には存在しないのである。
 そんなハッピイ・ボウルに椿事が起きた。春の椿事と言う言葉はあるが、これは秋の事だった。
 もう十月だというのに、真夏日を記録するという、異常な高温が影響した訳でもないだろうけれど、ウイーク・デイのお昼過ぎという時間にも関らず、このハッピイ・ボウルの全レーンが稼働するという、スタッフ・サイドからすると、という限定的な事柄ではあるが、彼らにとっての大事件が起きたのだ。
 全レーンと言っても、機械の調子が良くない、メンテナンス中の貼り紙が常に掲示されている第10レーンを除いての話ではあるが、どちらにしても、このボウリング場にとっては大事件に違いなかった。
 しかし、この事が、これから始まる、とても不思議な出来事の序章に過ぎないことを、まだ誰も知らなかった。
 
 支配人が留守な事もあって、スタッフの谷田が、一人忙しそうに受付カウンターでお客に愛想を振りまいている頃、ハッピイ・ボウルの4階建てビルの屋上に立つ大きなボウリングのピンを、ボーッと眺めている若者がいた。
 平日の昼過ぎにも関わらず、人通りの少ない商店街の中程にある路地から、フラッと現れたその若者は、何かに取り憑かれたようにそのピンを眺めていた。
 巨漢の身を浴衣で包み、長髪にしているその姿から察すると、隣町にある相撲部屋の見習い力士のようだった。
 近視気味の彼の目には、ピンも建物自体もボーッと映っていた。彼の心の中と同様に視界のはっきりしない景色がそこにあった。

   
             第5、そして、第6レーン

 先程から、ベテラン会員のご婦人二人組、中山圭子と須田順子が、講師のプロボウラーの登場を待っていた。 
 彼女達は、このボウリング場で、毎週一回ボウリング・レッスンを受けている常連である。
 共に喜寿を迎え、このレッスン以外にも、ヨガと、病院のお薬もらいも同じスケジュールで動く程、中の良い友人同士である。
 もしかしたら、それぞれの旦那さんとの時間よりも多くの時間を二人は一緒に過ごしているかも知れなかった。
 二ヶ月に一度はツアーを計画し、日本のあちこちを旅して回ってもいる。
 指のケアのためのテーピングをしながら、「今日は、なんか調子良さそう」と、中山が言った。
 須田は、「あら、そう、アタシも悪くないみたい」と、これも又、投球前のストレッチをしながら返事をした。
 しかし、中山の視線が離れた場所を見ているのに須田は気付き、その先を追ってみる。
 その視線の先では、ハッピイ・ボウルいちの年長者ボウラー、塚田老人がプレイしていた。
 塚田は彼女達よりも、さらにひとまわり上の年齢だ。
 「アア、塚田さんね、ホント、いつも腰が痛い痛いって、ボール放ってるのに・・今日は、なんだか背筋もピンと伸びてる。」
 「アラ、又ストライク。おじいちゃんのくせにダボよ、珍しい。」と中山は自分の年齢を棚に上げ、皮肉と羨望を込めて呟いた。

       
               第1レーン

 このハッピイ・ボウルで会員番号1番の塚田光男は、アマチュア・ボウラーの中では一番のキャリアの持ち主だ。
 毎日、決まったように、同じ時間に同じレーンで、同じゲーム数を投げる。
 
 先程からストライク(一投目の一投で10ピン全てを倒すこと)が二度程続き、どうやら常連達が言うように、いつもとは違い、調子が良いようだ。
 投球を終え、ゆっくりとベンチに戻り、西陣織のカバーで包まれたマイボトルの水筒でのどを潤す。
 投球以外は、これ以上ゆっくり出来ない程のスローな動きになる。
 立ち上がると、今度はストレッチをこれ又、効果があるのかどうか分らない程のスピードで始めている。
 この分だと、次の投球までは、まだしばらく時間が掛かりそうだった。

 
                第3レーン

 レーン脇の細い通路の上を、身軽にというよりは何か不格好なダンスを踊るような不思議なステップで、チョンチョンとスタッフの谷田が動いている。
 ガターに鉄の棒を突っ込んでバンパーと呼ばれるガードを持ち上げている。
 このガードがあれば、ガター(レーン脇の溝)にボールを落とす事なく、小さい子供達でもボウリングを楽しめるのだ。
 その様子をボックスから見ていたのは、両親と幼稚園に通う男の子二人の家族連れだった。
 これなら、思いっ切り投げても大丈夫だぞと、子供と一緒に父親も盛り上がって、はしゃいでいる。
 年上の男の子の方が、待ちきれず、「ネーッ、投げていいでしょ、投げるよ、投げるよ」と、大きな声を出して、ボールに振り回されながらもガードにボールを思い切り投げつける。
 ピンボール・マシンのようにボールは左右のガードに跳ね返りながらジグザクに転がっていった。

 
              第4レーン

 スコア・デスクに座っている水樹は、長身で一寸頼りなさそうだが、そこそこイケメンの仁志の投球に熱い視線を向けている。   
 会社の同僚である二人は、定休日を利用してボウリング・デートを楽しんでいる。
 二人は、地元の高校のバスケ部の先輩後輩で、偶然、今の職場で再会し、意気投合して付き合い始めたのだが、以前の先輩後輩の意識が抜けないからか、カップルとしての関係が、今ひとつ先に進まない。
 年下で消極的な仁志とは裏腹に、水樹はもっと二人の関係を深めるべく、今日は彼女なりの秘策を用意していた。

 
     第7レーン

 午後からの授業が休講になって、暇つぶしにやって来た地元の高校生達がボール・ラックからボールを選んでいる。
   その中の、リーダー格のショウが仲間に声をかける。
 「これ知ってる? ハウス・ボールって、右利きも左利きも使えるようになってるんだって」
  ヘーそうなんだと、一同が反応すると、さらに続けて、
    「シューズもそうらしいぜ・・だから、両足とも底が滑るようになっているんだ」と、自慢げに話している。
  それを受けて仲間の一人、レイが応える。
 「それで、左投げのオレでも大丈夫なんだ!? 今まで、そんな事考えた事無かった」
 他の二人は、すでにボールを選び終えて、ボックスに戻りながら、早くやろうぜと、二人を呼んでいる。
 その傍らには、ドッシリとした岩山のような身体で、ボール・ラックからボールを選んでいる若者の姿があった。
 
 しばらく前に、商店街からボーッと、このボウリング場を眺めていた、あの若者である。
 先程からボールを選んでいるのだが、どうしてもボールの穴に中指が入らない。
 エアコンが、ややキツめに効いているフロアにいても、彼の額からは玉の汗が落ちてきていた。
 
 彼の名前は佐野大輝といい、隣町にある大鉄山部屋の力士で、入門して三年目の、まだトリテキと呼ばれる力士養成員である。

 (そういえば、前にボウリングをやったのは何時だろう?)と彼は、まだ20年に満たない若い人生の中での記憶をたどる。
 (もしかしたら、中学生の時以来?)
 その時間の隔たりと、さらに自分の肉体の変化に、今更ながら驚きを感じていた。
 彼は仕方なく、サム・ホールと呼ばれる親指穴に中指を入れてみる。
 どうやら入りそうだが、もう少し指が奥まで入りそうなボールを探してみようと、さらに隣のラックへと移動していった。

 
     第8レーン

 ボール・リターナーから戻って来たボールを念入りに、必要以上にタオルでゴシゴシ磨いているのは、今年からハッピイ・ボウルの会員になり、マイ・ボールも作り、週に3度は練習に精を出すビギナーの川島太郎だ。
 
 隣のボックスに入った高校生が騒ぐのを、横目でちょっと睨みながら、徐にボールを抱えるとアプローチに向かった。
 高校生のグループとは反対の、右隣のレーンにいる女性が先に投球動作を始めたので、そのタイミングを見測る。
 しかし、その女性は、投球の途中で突然ストップし、後ろの仲間に声を掛け、なかなか投球に入ろうとしない。
 川島は、イラっとするのを隠し、リターナーの送風口で指を乾かし、冷静を装い、ボールを抱えたまま待機している。
 そんな川島の視線を感じたのか、女性が視線を向けると、彼は、顔を引き攣らせながらも愛想笑いを浮かべた。

     
     第9レーン

 今、アプローチで投球動作に入っているのは、広美である。
 彼女にボックス席から声援を送っている亜利、愛子の二人は、同じ小学校に子供を通わせるママ友仲間である。
 女性が三人寄ればナントカで、子供を送り出した後の、彼女達にとってのリラックス・タイムに、しょっちゅう顔を合わせては〝ママ友パーティー〟と称して、イベントを開いていた。
 
 どちらかというと、ボウリング場でなくても良いと思うのだが、三人のうちの一人、愛子の子供がまだ小さいので、泣いたり、騒いだりしても、気を使わなくて良い場所として、ファミリー・レストランなどと共に、レギュラーの場所として選ばれ、そのいくつかをローテーションしながら利用していた。
 このハッピイ・ボウルにはボウラーズ・ベンチ横まで、ベビーカーを入れられるという好条件もあったのだ。
 
 広美がストライクを出し、歓声が上がる。
 そのいきなりのテンションの高さは、隣のレーンの川島がビックリしてボールを落としかけた程だ。
 
 愛子は、ベビーカーの二歳になったばかりの息子、俊をあやしながら、(ストライク!ストライク!)と、騒いでいる。
 お昼寝タイムなので、俊の目は、やや空ろだが、母の真似をして、なにやら口を動かしている。
 「シュ、シュ、シュトライ、プー」


     第10レーン

 “メンテナスのため調整中”の張り紙がされている。
 このボウリング場では毎日どこかのレーンが決まって故障中である。 
 
 
     第11レーン 

 周りの状況を一切気にしないで、自分の世界に入っている青年が、アプローチでボールをかまえている。
 彼の名前は栗原正義。五年程前にプロボウラーを目指し、青森から東京にやって来たのだが、いまだにその夢を果たせてはいない。
 正義のイヤホンからはお気に入りのワンオクの〝はみだして、なじめ〟の曲が爆音で流れている。
 
 正義は今、彼の大妄想世界の中にいた。何かいけないモノでもやっているような陶酔の表情がちょっと怖い。
 
 正義の妄想世界。
 それは、こんな感じだ。

 彼は、眩いばかりのスポットライトを浴びながら、ボウリングの全日本チャンピオンを決めるボウリング大会の会場に立っている。
 彼はピンクと白のグラデーションの、派手な色のボウリング・シャツに身を包んでいる。
 その背中には、大きく横文字で、SEIGIとキラキラした刺繍が施されていた。 
 選手紹介アナウンスが、派手な音楽と共に、会場に響き渡る。
 「さあ、栗原正義、いよいよ決勝戦に駒を進めました。その第一投にご注目下さい。」
 チュウインガムを噛み、不敵な笑いを浮かべる正義。
 一度ボールに入れた指を抜き、フッと息を吹きかけ、徐に指穴に戻す。
 その仕草からは、まるで何十年もトップでプレイし続けるベテラン・プロボウラーのような余裕さえ感じられる。
 
 自分の胸の前でボールを構える。
 
 ニヤリと不気味な笑顔を作ると、18メートル先のピンから、レーン上にあるスパットに視線を移す。
 会場の人々が息をのむ中、ゆっくりと左足から助走を始める。
 1歩目から2歩目と、次第に歩幅が増し、プッシュ・アウェイと呼ばれる動作で、ボールが前方に押し出される。
 手の伸びきる最先端に到達した後、ボールの自重で自然にバック・スイングへと動作が移行する。
 丁度、3歩目を踏んだ時には、右膝の横をボールが通過し、4歩目で、彼の身体は前傾姿勢になり、そのボールが背後でバック・スイングの頂点に達する。
 最後の5歩目は、左足を踏み込みスライドさせながら、リリースに向けて、腕を振り下ろす。
 そして、リリースと呼ばれる、ボールを離す瞬間の動作。
 まず、親指がサムホールから抜け、手首は、自然に握手するように左に捻られる。
 同時に、中指と薬指が指穴にかかり、ボールに回転が加えられる。
 さらにこの時、右足は左後ろに蹴り出され、そのバネの力が、ボールへの推進力を増加させるのだ。
 全ての動作が完璧に行われた結果として、右手がそのまま真っ直ぐと上がり、フォロー・スルーを含めた投球後の美しいフォームが完成し、フィニッシュを迎える。
 
 その全ての動きがひとつの流れの中で行われ、途中で一切の停滞や無駄な動きは行われない。
 彼のフォームは、オーソドックスなスタイルで、今流行の手首のスナップを生かすパワフルなロウ・ダウンと呼ばれる(日本だけの呼び名らしい)投法ではなく、どちらかというと、今時には珍しい、ほとんど手首を曲げないクラシカルな投法である。
 「やった、きまった!」
 と、彼は心の中で呟き、自信に満ちたまなざしで、ボールの行方を追った。
 狙い通り、2番スパット※を通過したボールは、レーンのオイルの上をスベリ、ピン手前3メートルまで行くと、オイルの切れ目から左にいきなり切れ込んで行った。
 リリース時に加えられた回転がここで初めて威力を発揮するのだ。

 ※注 スパット・・・投球する際に、ボウラーが狙い場所とするレーン上の楔形の表示点、上手下手はスパットの使い方で決まる。<矢島純一著〝ボーリングのすべて〟より>


 彼の球種はフック・ボール。
 ボールは、①番ピンと③番ピンの間に、計算されたように正確にヒットした。
 妄想の中の中継アナウンスが叫ぶ。
 「オオッ栗原のボール、正確にポケットを捉えた!」
 轟音と共に激しくピンアクションが起き、
全てのピンが倒れたかに見えたが、⑩番ピンだけが掠りもせず残っていた。
 観客の大きなため息と共にアナウンスは続いた。
 「いやあ残念!  なんとポケットを捉えるも⑩番ピンがタップだ!」
 そう、正義のボールは、惜しくもストライクにならなかった。
 
 これこそが、ボウリングの難しさなのだ。
 10本のピン、全てを倒すストライクを取る確率の高い、①番ピンと③番ピンの間のポケットと呼ばれるスポットにボールを当てたとしても、その角度やボールの回転により、必ずしもストライクになるとは限らないのである。
 因みに、この様に完璧にポケットを捉えていても、ストライクにならずピンアクションに巻き込まれない一本のピンが残ってしまうことをタップと言う。

 ストライクを取れなかった事で、現実世界に一瞬にして引き戻された正義は、舌打ちして呟いた。
 「だよね・・ここは我慢のボウリングで、行きますか・・・」
 しかし、直ぐに彼は表情を変えると、その怪しい妄想の世界へと戻って行くのだった。

 
        第12レーン 

 「オウ、誰にモノを言っとんじゃい!?・・オウ・・だから・・オウ・・前にも言った通り・・も少し待ってれば・・オウ・・2倍になるんじゃから!・・オウ・・だーかーらー・・ワシが、そん時は連絡するから・・オウ・・アー?・も少しってワシが言ったら、も少しなんじゃー・・わかったか?・・オウ・・オウ・・」
 ボックスで、携帯で話してる鍵先錠二は、先程から、いっこうにボールを投げないで電話の対応に追われていた。
 
 ボウリング場のピンの倒れる音に負けないように話すので、その声はことさら大きな声になり、言葉遣いの悪さも加わり、まるで喧嘩での怒鳴り合いのようだ。
 彼の風体の方も、赤茶に黄色い縦縞の入ったスーツに金色のネクタイ、やはり赤みがかった色付きレンズの金属フレームのメガネと、普通のサラリーマンではないことが一目瞭然である。
 
 鍵先が携帯をスコアデスクに起き、さあ投げるぞとジャケットを脱ぎかけると、携帯の着メロが鳴った。そのメロディは、健さんの“唐獅子牡丹”である。送信先の名前を確認すると、仕方ないなと呟きながら電話に出る。
 「オウ・・オウ・・ワシじゃ、譲二じゃ・・ほんで、相手は何だって?・・・オウオウ・・・」

 
        第13レーン

 「イッチ、ニイ、サン、シ、」と、かけ声をかけながら、ボールを持って素振りをしているタレントのリルリル。
 彼は、オネェ言葉を使うバラエティ専門のタレントだが、最近、その人気にかげりが出て、レギュラー番組の数が激減している。
 その手を支えてコーチに当たっているのが、このハッピイ・ボウルの契約プロボウラー、ビッグ・ジュンこと、矢島純一だ。
 この国の70年代に起こった空前のボウリングブームで大活躍し、現在もトーナメントに出続けている現役のレジェンド・プロボウラーである。
 今日は何故か、第5、第6レーンでのレギュラー・レッスンとの掛け持ちで個人レッスンも教えている。
 このハッピイ・ボウル開場以来、滅多に来ない芸能人(オープニング時には、当時の人気者、ウクレレ漫談の関口シンジが来場したらしい・・・)といっても、Bクラスのタレントだが、そのマネージャーが支配人の友人ということもあり、 その忖度から個人レッスンがダブルブッキングされていたのだ。

 矢島は、支配人の強引なスケジュール管理に、日頃からちょっとした不満を持っていた。
 
 そもそも70歳を超えて殿堂入りを果たした超レジェンドが、このパッとしないボウリング場の専属になっていること自体に謎が多く、ボウリング愛の強いオーナーからの、たっての願いとか色々噂はあるが、定かな理由はわかっていない。
 支配人の多田(初めて名前が出ますが多田といいます)の世代にとっては、その矢島の偉大さを知る術もないのだから仕方ないにしても、業界の人間ならもっと勉強して、その存在へのリスペクトがあってしかるべきだろう。
 
 その恵まれた体格と純一という名前からビッグ・ジュンと言う愛称で〝ボウリングの神様〟として、ボウリング・ファンの羨望を集め、愛されたスーパー・スターが、この場所で現役活動をしている事を知るファンは、当然のことながら少なかった。
 
 矢島は支配人の多田に朝一番で苦情を言ったのだが、まともに受け取っては貰えない事は解っていた。
 『まあ次に何かあったら、オーナーに直接言えば良いか・・』と考える矢島だが、仕事をするうちに、そんな瑣末な事はどこかに吹っ飛んでしまうのが彼の生来の性格だった。
 
 彼には仕事に対しての信念があった。
 それはプロボウラーにとっての大事な仕事として、トーナメントで闘う以外にも、ボウリングの楽しさを人々に伝える事。
 彼がレッスンにも力を入れているその理由は、一人でも多くのボウリング・ファンを増やす事が目的だった。
 だから、彼はどんなレベルのボウラーに対しても、誠実で丁寧なレッスンを心掛けていた。 
 
 「あなたは、ヤッパリ4歩助走が向いてるね、助走が4歩の方が、カタチになると思うよ」と、矢島は、お世辞まじりに、リルリルを持ち上げる。
 「ハーイ、頑張りマース!」と生徒のリルリルは返事だけ良いのだが、イチ、ニイ、サン、シ、と、繰り返し素振りをする姿は、ナヨナヨっとして、誰の目にもあまりボウリングに向いている様には見えなかった。

 
      第14レーン
 
 このレーンでは、スーツ姿の男性二人組がプレイしていた。
 一見、営業職風のサラリーマンが、仕事中の時間つぶしにボウリングをやっているように見えた。
 細身の年長者と筋肉質なためスーツがパンパンにはち切れそうな大柄で体格の良い若者と、体格的にも年齢的にも差がある二人は、中年の方を若者が部長と呼んでいるところからすると、おそらく上司と部下に違いない。
 その部長と呼ばれている男は、隣のレーンを凄く気にしている。
 
 隣のレーンで個人レッスンが始まってから、何やら落ち着きが無くなっていた。
 自分が投球を終えて戻ってくる最中も、チラチラとそちらを見ている。
 
 「佐藤くん、佐藤くん、隣のホラあの人、誰だか知ってるかい?」と、小声で隣には解らないように囁きかける。
 佐藤と呼ばれた部下の方は、隣をさりげなく見ると、運動系らしい野太い声で答えた。
 「知ってますよ、タレントでしょ、リルリルとか言う・・」
 「違うよ、教えてるほう、プロの方だよ。 」
 佐藤が、今度は矢島の顔をじっくり観察するが、わからないようだ。
 「なんか、以前事件とかに関わったとか・・ですか?」
 「そうじゃないよ、カ、ミ、サ、マ、・・オレの世代にとっては、ボウリングの神様だよ・・伝説のプロボウラー、ビッグ・ジュンだよ!」
 「ハア?それが何か?」
 「イヤーっ、ここの専属になってたんだ、それだったら、もっと早く来てれば良かったなあ。」と呟く上司の真剣な表情に、佐藤が釘をさす。
 「都筑巡査部長、職務中だという事を、お忘れなく」 
 「お前も固いなあ、わかってるよーだ!」と、上司の都筑は、大人げなく、親に反抗する子供のように、口を尖らせていた。
 「でも、ホントに、ここへ、詐欺犯のメンバーが現れるんですかね?」
 「タレコミによると、犯人は大のボウリング・マニアらしい。犯人の面は、被害者のお婆さんの確認次第、連絡が来るから、スマホ注意しとけよ」
 佐藤の問いに答え、仕事モードに戻った都筑は、苦み走った良い男風(自分ではそう思っている)な表情になっていた。

      受付カウンター 

 受付カウンターでは、先程、出先から戻ったばかりの支配人の多田が、スタッフの谷田に向かい、何か小言を言っている。
 多田が長身のため、自然と小柄な谷田に対して上から目線になるので、威圧的な雰囲気が漂っている。 
 「駄目ですよ、2番に客入れちゃ、塚田さんの隣は空けとけって言ってるでしょ。」
 普段から多田への忖度が第一と考えている谷田だが、言い訳がましく応える。
 「でも、今日は、お客さんがこんなに一杯入るとは思わなかったので、特別に・・・」
 「まあ、ソコントコは喜ぶべき事なんだけどね・・だけど困るよ、塚田さん、以前、隣に客入れたら、そっちのレーンに間違って、ボール投げちゃって、苦情が出たんですよ。」
 
 支配人の多田は、元ホテルマンらしく、見た目がカチッとしていて、やる事もカチッとしている。
 それが良い方へ働けば良いのだが、どちらかと言うと〝頭が固い〟、〝融通が利かない〟というのが常連の女子(といっても六十以上のご婦人方)の評判だ。
 彼女達は、さらに多田を〝良いカッコシイ〟だの〝カタブツ〟だの〝目が笑ってない〟とディスってもいるのだ。
 その部下の谷田は、その多田の顔色伺いの為だけに全神経を使っているので、やはり、彼女達から〝忖度名人〟とか〝太鼓持ち〟とまで言われてしまっている。
 多田にとっては、滅多にない客の盛況ぶりより、決まり事を守らない谷田への叱責の方が重要なのである。

 「それから、もうじきネットの配信ニュースの取材が入るから、谷田・・アー副支配人、対応を宜しく」
 副支配人という言葉でいつも面倒な仕事を押しつけられてしまう谷田だが、多田から言われる〝副支配人〟という言葉に悪い気はしていなかった。
 
 このボウリング場のスタッフはマシーンのメンテナンスで定期的に出社する人間以外は支配人の多田と谷田の2人だけなのだが、谷田は更なる昇進を目指していた。

 
       第2レーン
 
 ボックス・シートに窮屈そうに座り、ボロボロのクロックスからハウス・シューズに履き替えようとして、佐野大輝は何やら躊躇していた。
 「そうだ、これって、靴下が必要だったんだ。」
 そう呟くと、彼は受付カウンターの方を、チラッと振り返ってみた。
 スタッフの谷田がカウンターで何か事務作業をしていた。
 谷田は、何となくこちらを見て微笑んだようだが、近視の大輝には、ハッキリと見えなかった。
 大輝は足下に視線をもどすと、成る程と思った。
 足首にサポーターを巻いているから靴下に見えないでも無い。
だから受付でも何も言われなかったのだろう。 
 (まあいいか)と思いながら、そのままスッポリと靴に足を入れる。
 ボールの指穴とは違い、足の大きな一般人は多いようで、大輝のサイズの靴も取り揃えてあった。
 靴のマジック・テープをとめると、やはり、足首までサポーターに覆われているので、靴下をはいているように見えなくもない。
 その時、バカーンと爆発的なピンアクションの音が響いた。
 大輝が見上げると、隣のレーンのピンが見事に一掃されていた。父親らしい男性が家族の祝福を受けている。
 「パパ凄い!」
 と、母親が声をかけ、こども達もさらに歓声を上げ、家族で盛り上がっている。
 
 続けて反対の第1レーンからは、ドタドタと、先程とは、又違ったピンの倒れる音が聞こえた。 
 
 まるで、スロー・モーションのような、ゆっくりとした動きでピンが倒れて行く。
 最後に一本だけ残ると思われたピンも、横から転がってきた他のピンによって倒され、ストライクになった。
 どんな倒れ方をしても、10本のピンが倒れゝば、ストライクに変わりはない。
 そのストライクをとったベテラン・ボウラーの塚田老人は、そのスロー・モーションのようなストライクと同様、これも又ゆっくりと、ガッツ・ポーズを決めると、ニコッと大輝に微笑みかけてきた。
 さらにゆっくりとした超スロー・モーションになったその微笑みは、なぜか大輝の心の中に深く染み込んでいった。

 
        第4レーン

 「水樹先輩、ストライクが出たら、何か飲み物おごりますよ。」
 アプローチに立った水樹に向かい、仁志が声をかけて来た。
 
 その提案に水樹は〝シメタ〟と思った。
 少し身体を動かしたおかげで、仁志はリラックスして来たようだ。
 彼はスポーツが好きで、プレイ中は普段と違いテンションが上がる。
 水樹は丁度、喉が渇いていたこともあったが、それより、仁志からゲームで賭けを持ちかけられた事が、彼女にとって所謂〝飛んで火に入る夏の虫〟だったのだ。
 本当は、水樹から勝負を持ちかけ、その賞品として、もっと大胆なものを提案しようと考えていたのだ。
 最初はドリンクから始めて、最後には・・・。
 「私が欲しいのはドリンクじゃないのよ、今に見ていて頂戴。」
 謎の笑みを浮かべた水樹は、ストライクを狙って投球動作に入った。


       第5、そして、第6レーン

 中山と須田は、なかなか指導に戻ってこない先生役の矢島を遠目に見て、最初は文句を言っていたのだが、逆に自分たちのペースで自由に投げられる事に気付き、試合形式で練習を始めていた。
 
 彼女達は二人だけで、二つのレーンを使用して贅沢にゲームをしている様に見えるが、これはアメリカンスタイルと言って、隣り合わせのレーンで順番に1フレームごと交互に投げて行くゲーム形式で、お互いが同じ条件で投げることができるメリットがある。
 リーグやトーナメントに限らず、レッスン等にも、この方式を使用する事は多い。
 最初、練習という事で和気あいあいとした雰囲気で投げていた二人だが、中山がストライクを出したことで、次第にヒート・アップし、まるでプロの1対1のマッチアップ・ゲーム(対戦)の様相を呈していた。
 ⑦番—⑩番のスプリット※を出してしまった須田の顔からは笑顔が消え、中山の〝ドンマイ〟という言葉も、須田の耳には聞こえていないようだった。
 二人の口数が次第に減っていった。

 ※注 スプリット・・・第一球で残ったピンが、前方または中間になく、左右へ分散して2本以上残った状態を言う。
             <矢島純一著〝ボウリングのすべて〟より>

 
         第7レーン

 “ブーッ”と、ブザーが鳴り、スコアにFの文字が表示された。
 高校生の4人組の一人、ルイが大声を上げている。
 
 「エーッ、なんだよ? Fって、今、ストライクだったのに」
 スマホをいじっていたので、その投球を見ていなかった他の三人も、ルイの声に反応している。
 「これ、壊れてんじゃない? スタッフ呼んでくるか?」
 「そうだよな、初ストライクなのに、もったいないもんな。」と、ショウも同調している。
 
 その時、横のレーンから、様子を一部始終見ていた川島太郎が、チッチッチッと人差し指を横に振りながら、彼らに声をかけた。
 「今のはね、投球した足がファウル・ラインを超えていたからファウルなんだ」と、アプローチとレーンの境目を指差した。
 「ブザーが鳴ったでしょ、ファウルだから点数は付かないんだよ。」
 〝ファウル、ファウル〟と、その言葉をくどく強調する川島の態度には、〝教えてあげる〟という優しさは感じられなかった。
 急に、自分達の世界に飛び込んで来た侵入者に対して、少年達は、怪訝な表情を浮かべた。
 
 
         第2レーン

 大輝は、ボールを持ち上げ、アプローチに立つと、通常のボウラーが親指を入れるサムホールに、中指を入れ、ボール全体をつかむように持ってみた。
 そのまま、しばらく大輝は動かなかった。
 動かなかったというより、動けなかった。 
 大輝は、子供の頃に、ボウリングの経験はあるのだが、この指の入れ方で、どうやって投げたら良いかと考え込んでしまった。
 中学生までは、身体が大きいといっても、指はもっと細かった筈だし、普通にボールを投げられた。
 額から汗がタラッと流れた。
 何故か、フラッと入ってしまったボウリング場だったが、ボウリングのゲームに関しては、まるっきりノープランだった。
 
 隣の第3レーンでは、大輝がアプローチに立ってから、なかなか投げないので、母親がすでに2投目をすませ、子供に順番が回っている。
 
 さらに、大輝の額から汗が、もう一筋流れた瞬間、「両手で投げたらどうかな?」という声が聞こえた。
 
 その時、隣の子供が投球を始めた。
 小さい身体ながら、ボールを両手で抱え、アプローチを駆けるように進み、レーンというより、レーンの両脇にあるガードにぶつけるようにして、力任せに、ボールを放り投げた。
 それを見た大輝は、以前、稽古の休憩時間にたまたま視た、CSのスポーツ・チャンネルのボウリング番組で、アメリカのプロボウラーが両手でダイナミックに投げていたフォームを思い出していた。
(確か、そのプロ・ボウラーは、親指を穴に入れず、中指と薬指の二本の指だけを入れて投げていた・・アレなら自分も投げられそうだ)と、大輝は決心すると、アプローチで助走を始めた。
 
 左手を添えたまま、ぎこちないバック・スイングからボールを投げる。
 脇の下に肉がついているので、バックスイングというより、身体を回して、捻りを入れた。
 両手投げは、始めて経験する投球方法なので、力をあまり入れずに投げたせいか、ボールはレーンの途中から大きく左に曲がり、ピンに届く前に左のガターに落ちてしまった。
 しかし、大輝はガターになった事より、とりあえずボールが投げられ、どうにかゲームが出来る事の方が嬉しかった。
 久々にやるボウリングの感触も、新鮮なものだった。
 そんな事を考えながら、アプローチを引き返す大輝に、第1レーンの塚田がパチパチと拍手をしてくれた。
 音は出ているものの、やはり塚田の動きは大輝にするとゆっくり過ぎてスロー・モーションのように見えた。
 大輝は、そんな塚田に、ある種の懐かしさを感じていた。

 
      受付カウンター

 「支配人の多田さんは、いらっしゃいますか?」
 その声に顔を上げた谷田は一瞬でその声の主に目が釘付けになった。
 このハッピイ・ボウルには到底似つかわしくない、こんな場末のボウリング場には絶対訪れる事の無い、勿論、谷田の人生の中でも、今までお目にかかった事の無い、ファッション・モデルのような美女が目の前に現れたのだ。
 それも、美しい声の持ち主でもある。
 一見して、業界人と判る、髪の毛を真ピンクに染め、メイクのバッチリ決まった、絶世の美女である神野領子。(これは、あくまでも谷田の個人的感想であります。)
 大柄な彼女の後ろから、小太りでメガネをかけた、神経質そうなディレクター兼カメラマンの黒山明が顔を出す。
 小型の取材用カメラをすでに回し始めていて、受付カウンターの谷田にフォーカスを合わせている。

 谷田は、そのカメラに気付かず、神野の美しさに見とれていた。
 〝なんて美しい人なんだ〟
 彼の妄想は膨らんだ。
 神野の周りを、小鳥たちが飛び交い、空中に浮かぶ無数の花ビラと淡い光が彼女を包んでいる。
 彼女の話し声までもが、谷田には、小鳥のさえずりに聞こえてしまっている。
 
 「支配人の多田さん・・」
 その声に、谷田は自分を取り戻す。
 支配人の多田は、食事のために外出中だった。
 「アア、ハイ・・失礼しました。今、多田は外出中ですが、アッ、私は、谷田と言います。この谷田フ・ク・シ・ハ・イ・ニ・ン・に、お任せを。」
 と、谷田は谷田副支配人と書いてあるネーム・プレートを見せようと、少しでも神野に近づけるように引っ張った。
 そして、取材の入る事を、事前に多田支配人から聞いていた旨を告げた。
 
 神野は、自分の名刺を派手なネイルの指で気取って挟み、谷田に差し出す。
 名刺には《ネット・ニュース〝ブロワー〟プロデューサー&リポーター 神野涼子》と書かれていた。
 「取材内容は、以前にお知らせしていますが、〝ボウリング・ブームは、再びやってくるのか?〟をテーマに取材させて頂こうと思っています。」
 再び、神野の周りを飛び始めた小鳥を追い払うように、谷田は、手を広げて一掃した。
 「ハイハイ、了解です。神野さん達のお好きなところを取材なさって頂いて結構です。ただですね、その、個人の肖像権とか、いろいろ、最近うるさくなってますので、もしお客さまを撮影したりする場合は、それぞれのお客さまへの許可は、直接お取り頂けますでしょうか?」
 「わかりました。それでは早速、時間もないので、谷田さんからインタビュー頂こうかしら。カメラ、イイ?」
 黒山は、カウンターのピンの置物からカメラを谷田の顔にパンすると、空いている左手で〝どうぞ〟とキューを出す。
 神野は、カメラ目線になってしまっている谷田に注意を与えた。
 「谷田さん、私と会話をする感じで、お願いします。」
 「アアっ、神野さんを見ればイイですか?こんな感じ?」
 と、言いながらも、カメラが気になってしまい、視線が定まらない。
 
 次に黒山のカメラは、質問者の神野の顔を捉える。
 神野は、カメラに向かいしゃべり始める。
 カメラの前に立つと、彼女のテンションは一気に上がるようだ。

 彼女は上気した紅い頬で、話し始めた。
 「ここ数年、ボウリング人気が復活しているようですが、その状況をボウリング場は、どのように考えているのでしょうか? 私、〝ブロワー〟リポーター神野領子が、ここ、ハッピイ・ボウルからお届けします・・それでは、ボウリング場スタッフの谷田さんに、お話を、お伺いします。」
 神野のプロフェッショナルな仕事ぶりに、一瞬、目が点になった谷田は、何らコメントを用意している訳ではないので、シドロモドロになり、さらに、その声も段々と小さく細くなっていく。
 「ボ、ボウリング人気って、このハッピイ・ボウルには縁の無い話ですね・・今日は、たまたま・・お客さんが入ってますけど・・アア、そう言えばワタシ、谷田は・・副支配人ですので、あしからず・・谷田・フ・ク・シ・ハ・イ・ニ・ン・・・」


          第13レーン

 このボウリング場、唯一の専属プロボウラー、ビッグ・ジュンこと矢島純一は、第5、6レーンの二人へのレッスンに、ほんの一瞬、顔を出しただけで、再び、タレントのリルリルの指導に、戻って来ていた。
 支配人の多田から、今日中に、リルリルをナントカ形にするよう厳命されていたのだ。
 
 第5、第6レーンの二人に関しては、今日はフリーに練習させてみるのもいいかと考えていたのだが、試合形式の練習中にヒート・アップしてしまい、二人の雰囲気が険悪になったのを、宥めに行っていたのだ。
 数少ないレギュラー・レッスンの生徒なだけに、そういったケアは、丁寧にしなければいけない。
 又、レッスンの生徒が、これ以上減るようだと、多田から何を言われるか解らないのだ。
 普通は、スタッフが対処する案件だが、会員達は年齢が高いので、矢島の言う事しか聞かない。
 温厚な性格の矢島だが、最近、ボウリング以外の仕事をさせられる事が増え、ストレスになってきている。
 世代の離れ過ぎているスタッフには、話しても無駄な事がわかっているので、一度、オーナーに直訴しようとも考えていた。
 
 「リルリル、行きまーす!」
 気の抜けたかけ声を上げ、リルリルがアプローチに立った。
 顔の前で、幼い子供達がお遊戯会で良くやる、手でお花を開くようなポーズで、ボールを構えると、助走を始める。
 矢島から勧められた4歩助走なのだが、何度やっても、歩幅が何故かバラバラなのだ。
 さらに、一貫して手首が柔らかすぎるのか、バック・スイングでは、その手首が後ろに曲がってしまい、最後のリリースも、小指の方から折れ曲がり、右手投げでの理想とする左への捻りではなく、逆の右方向に捻られてしまう。
 そのため、手首の柔らかい女性の投球に多く見られる、バック・アップ・ボールと呼ばれる球種になってしまっているのだ。
 
 通常の右投げの場合、レーンの右寄りから投げ、ボールは真っ直ぐか、左に曲がって行く。
 バック・アップ・ボールは、その逆の軌跡を描くので右寄りから投げたら、右のガターに落ちてしまう。
 ストライクを取ろうとするなら、左手投げでの投球のように、左寄りから投げなければいけない。
 さらに、その球種でストライクを取ろうと思ったら、三角形に並べられたピンの、ヘッド・ピンと呼ばれるトップに立っている①番ピンと、その左後ろに立っている②番ピンの間の〝逆ポケット〟を狙うことになるのだ。
 
 リルリルの投げたボールは、まさしくその左からのストライク・ポケットを捉えた。
 しかし、ピン・アクションが弱いため、パタパタとしかピンは倒れない。
 
 矢島は、フォームと球種の事は後回しにして、リルリルにボールの重さを上げるように指示を与えようと考えた。
 彼には、ボールの重さは、体重の十分の一くらいが目安と最初に伝えた筈だ。
 リルリルは、体重を過少申告しているに違いないと、矢島は確信していた。

 
          第1レーン

 バタバタとピンが倒れるのは同じだが、ベテラン・ボウラー塚田の場合は、そのボールの回転が生み出したピン・アクションが生きていて、最後の一本までも残らず倒していた。
 彼はストライクの数をひとつ増やし、ターキーから4回連続ストライクの“fourth”へと、そのスコアを伸ばしていた。
 頭上のスコア・モニターには、チアリーダー姿のアイドル・グループが、ストライクを喜ぶ映像が映し出されている。
 ストライクの文字に続いて英文字で<FOURTH>と派手に表示が出る。
 しかし、そのモニターを見ようともしないで、塚田は、あくまでもマイペースで、相変わらず非常にゆっくりとしたテンポで自分のルーティーンを続けていた。

 
        第8レーン
 
 川島は、隣りのレーンの高校生グループに、アドバイスというよりは、マナーに関する注意を口角泡を飛ばしながらしている。
 いつもは、ガラガラのハッピイ・ボウルなので、そんなに気になる事は無いのだが、今日に限っては、騒がしい二組に挟まれてしまっているので、彼も堪忍袋の緒がキレてしまったのだろう。
 同じようにマナーを無視する反対側のママ友グループにも聞こえるように、
 「アノネ君たち、アプローチの上には投球する人しかね、立っちゃいけないんだよ。」
 「それでね、ボールが帰ってくるのを待ってる時も、一度降りる。こう・・降りる!」
 彼はアプローチに上ったり、降りたりして、身体を使って必要以上に大げさに説明を加えている。
 どちらかと言うと、相手が自分より強そうな男性の場合とかだと、グッとこらえて、下手な事はしないのだが、弱者、特に女、子供に対してだけは強いのだ。
 先刻、彼らにルールの説明を、優しく丁寧にしてあげた(本人は、そう思っている)時に、その中の一人が影で〝チッ〟と舌打ちをしたのがどうやら、川島の気分を害したようだ。
 こういった場合、怒り慣れてない人間は、一寸面倒くさい。
 怒りの収めどころを計る事が出来ないのだ。 

 
         第11レーン 

 正義は、もう随分と長い時間、自分の妄想の世界に入り込んでしまっている。
 もう、そこから戻って来れないと思いきや、時々現実には戻れてはいるようだ。
 しかし、ブツブツと微妙なボリュームで、独り言を呟いて、時には、ニカッと不気味に笑ったり、誰にでもなく手を振り、笑顔を振りまいたりしているので、一寸気味が悪いというか、大分〝あぶない人〟の様相を呈している。
 
 他の客は皆、夫々のゲームに集中しているので実害は無いのだが、ネット・ニュース〝ブロワー〟のディレクター兼カメラマンの黒山だけは、その模様をカメラ越しに捉えていた。
 正義のゲームは、スペアとストライクが交互に繰り返されているので黒山の興味を多いに引いていたのだ。
 しかし、黒山は撮影を始めてみたものの、先程からの正義の様子から、この男にだけはインタビューしないようにしようと固く心に決めていた。

 
          第2レーン 

 大輝は、次第に両手投げのコツをつかみ始めていた。
 最初は、力任せに、ボールを放り気味にしていたのだが、ボールへの回転を加える方法が判って来てからは、力の加減を計り、丁寧に投げるようになった。
 それでも、力のある大輝の投げるボールは、レーン上を約25kmのスピードで転がって行く。
 丁度、ボールをリリースしてから、17mを越えた地点でクイッとボールは左に急角度でフックする。
 ボールは鋭く、1番ピンと3番ピンの間のストライク・ポケットに吸い込まれる。
 ドカンと、まるでダイナマイトが爆発したような激しいピン・アクションの音が響く。
 しかし、ストライクにはならず⑩番ピンがタップして残ってしまう。
 大輝は、一寸がっかりするが、その結果に満足げでもあった。
 
 隣のレーンの塚田が、パチパチと大輝に向かって拍手をしてくれている。
 先程から、大輝の投球がサマになってきているのを見て〝ヨシ!〟とか〝エエゾ!〟とか、声もかけてくれたりしている。
 今まで、大輝が見ていた塚田の動きからは想像のできない、そのハッキリと通る元気な声に、大輝は驚いてもいた。
 ふと、不思議な感覚が蘇る。
 〝エッ?・・この声・・もしかして?・・まさかね・・・〟

  
          第2レーン続きます。
       ―(副題)トリテキ大輝のヒミツ 前篇―

 大輝は、小学生の時に両親が離婚した事もあって、関東の北部の地方都市にある父方の実家で育てられた。
 ほとんど家にいない運送業の父は、大輝の面倒を祖父母に任せっきりだった。
 大輝は、小さい頃から身体が大きかった。
 祖父の亀太郎は、身体の大きな大輝に何かスポーツをやらせようと考え、自分の好きなボウリングを勧めた。
 野球やサッカーは、見て応援するだけだが、ボウリングなら一緒にプレイする事が出来るからだ。
 大輝は、身体が大きい(太っている)=動きが鈍いという通説には当てはまらず、どんなスポーツもこなした。
 
 彼は、最初から15ポンドのボールを大人と同様に軽々と投げていた。
 亀太郎が最初の基本を教えると、大輝は、すぐに上達していった。
 シニアの大会で、多くの優勝経験のある祖父の亀太郎だったが、そのスコアを大輝が越えるまで、あまり時間は掛からなかった。
 大輝が、大人達に混じり、リーグ戦で好成績を出すと、亀太郎の夢は膨らんでいった。
 
 〝これなら、うちの孫はプロボウラーになるのも夢じゃない!〟
 
 可愛い孫とのボウリングは、亀太郎にとって生き甲斐になっていった。
 といっても、スポーツが得意な大輝は、他のスポーツ、野球やサッカーの地元チームから、試合になると協力な助っ人として駆り出される事が多かった。
 中でも、彼の恵まれた体躯は、街に毎年夏巡業でやってくる相撲の大鉄山部屋の親方の目に止まり、小学生の時から部屋への入門を親方直々に勧誘される程、期待されていた。
 
 これには、普段大輝の事を、ほったらかしにしていた父も刺激を受けたらしく、さらに皮算用も働いたのか、地元の少年相撲倶楽部での活動を大いに奨励した。
 それでも、祖父想いの大輝は、亀太郎とのボウリングをやめる事なく続けた。
 大輝は、ボウリングが好きというより、祖父と一緒にやるボウリングが好きだった。
 良い成績を出した時の祖父の喜ぶ顔を見たくて、他のスポーツよりも力を注いでいた。  
 
 しかし、大輝が中学に入ってすぐに、祖父は腰を痛め、大好きなボウリングが出来無くなってしまった。
 その頃から、一人でボウリング場に足を向けるのは、腰の悪くなった祖父に対して、悪いと思うようになり、自然と、大輝はボウリングから離れていった。
 
 祖父の影響が弱まったと見るや、父は攻勢に出て、相撲への道を強く勧めた。  
 相撲の道を進ませたい父は、高校も県内で有数の相撲の強豪校に大輝を進学させた。
 大輝の担任が、相撲部の部長という事もあり、父の相撲への想いは加速していった。  
 大輝が根負けして相撲部に入部するのも時間の問題だった。
 
 元々、何かを始めると、中途半端な事が嫌いで、最後までやり遂げる性格の彼は、相撲部に入るとすぐに、頭角を現した。
 それまでの少年相撲倶楽部の試合とは比べ物にならない、いわゆる超高校級の対戦相手にも打ち勝つ実力を身につけ、みるみるうちに、地区大会、県大会、関東大会、全国大会と良い成績を残していった。
 祖父も、そんな大輝の活躍を見て相撲への道を応援するようになった。
 亀太郎も相撲が嫌いな訳ではなかった。
 しかし、一緒に大輝とボウリングが出来ないという事実は、祖父から何かしらの気力を奪ってしまったのかも知れない。
 大輝が高校を卒業して、晴れて大鉄山部屋に入門して一年経った昨年、祖父の亀太郎は突然、他界してしまったのだ。

 隣のレーンで投げる年配の塚田に、知らず知らずの内に祖父の面影をダブラせていた大輝は、ふと呟いていた。
 「もう一度、お爺ちゃんに会いたい!」

 

             第11レーン 
        ―(副題)栗原正義のヒミツ 前篇― 

 正義が、妄想の一人ボウリング・チャンピオン決定戦をやるようになったのは、ここ数年の話である。
 最近、彼の中では、現実と非現実の境が、判らなくなる事が多かった。
 その原因を作っているひとつに、彼の今の仕事・・というか、生業(なりわい)が影響しているのは確かだった。
 そこら辺のところは、又後で、お話しするとして、マア、彼は本来、一人遊びが他の人より好きなんだとお考え頂きたい。
 想像力が、人一倍旺盛でもあるのです。
 
 元々、正義は、子供の頃からプロボウラーになる事を夢見ていた程のボウリング・ファンだった。

 憧れのスポーツが、時間と共に憧れの職業となり、現実的に、その道に進もうとチャレンジする対照になっていったのだ。
 そんな彼がボウリングを始めたきっかけは、第2レーンの、トリテキの大輝と同じだった。
 一緒に暮らしていた祖父が、やはり、大のボウリング好きで、正義がヨチヨチ歩きを始めた頃から、ボウリング場に連れていっていた。
 両親が仕事で忙しかった事もあり、自然の成り行きで、正義はおじいちゃん子になっていた。
 
 地方の田舎町で、他に娯楽らしいものが無かった事もあり、正義もボウリングにハマっていったのだ。
 あまり、同年代の子供達とは遊ばず、祖父の知り合いの大人達と遊んでもらう事が、多かった。
 だから、学校での人気は、あまり無かったが、大人達、特に年配者の受けが良く、可愛がられた。
 彼は、大人達を自分の世界に引き込む狡猾さがあった。
 持って生まれた性格もあるだろうが、ボウリング場という大人の社交場で、自然とそういったスキルを、身につけていったのかも知れない。
 
 祖父は、正義のボウリングがさまになってくると、特訓を始めた。
 特訓といっても祖父は、厳しさよりも、美味しいエサを与えるタイプだった。
 正義がボウリングの腕を上げると、ボウリング場に併設されていた喫茶コーナーで、大好物のソフトクリームを、よく御馳走してくれた。 
 他にも、ゲーム・ソフトなど、欲しいものは、何でも買ってくれた。    
 そんな人参に釣られ、ドンドンと、腕を上げた正義は、とうとう、小学校の卒業式の謝恩会で行われたボウリング大会で、パーフェクト一歩手前の、299点というハイ・スコアを記録した。

 ここで、ボウリング経験の無い方に、パーフェクトゲームについて説明しておこう。
 ボウリングは1ゲーム、全10フレームからなり、そのスコアは、倒したピンの数の合計が点数となる。
 一つのフレームの第1投で10本のピンを全部倒すとストライク。
 一投目で倒せなくても、2投目で残りピンを倒せばスペアという。
 スペアは、次の1投で倒れたピン数が足され、ストライクは次の2投分の倒されたピン数が足される。
 ストライクを出し続けた場合、1から9フレームまでは1投のみ、10フレームだけが3投出来るので、合計12個のストライクで最高得点の300点となる。
 そして、そのゲームはパーフェクト・ゲームと呼ばれる。
 
 この場合の正義のゲームは、最後の10フレームの3投目に、最後の最後で9ピンしか倒せなかったので、299点という記録に終わったが、十分に高成績なのである。
 
 それまで、勉強の成績では、目立つ事の無かった正義だが、小学校生活最後の日に、ヒーローとなり、彼を相手にもしなかった同級生達の羨望のまなざしを、一身に集める事になったのだ。
 この事が、彼の人生を大きく変えた。
 
 その後、正義は、大人の主催するボウリング大会に出始め、優勝タイトルを総なめにする地元では有名な少年ボウラーになった。
 しかし、中学から高校に進む時、彼にとっての心の支えであり、ボウリングの師でもある祖父が亡くなった事もあり、一時、正義は、あれ程好きだったボウリングから離れ、悶々とした日々を送っていた。
 だが、彼は高校を卒業すると、進学せずに地元を離れる事を決意する。
 アマチュア・ボウラーとして、そこそこ地元で名を上げていた彼にとって、唯一、出来る事と言えば、やはり、ボウリングしか無かったのだ。
 
 今から8年前、高校の卒業式を終えた正義は、祖父の墓前に立っていた。
 彼は地元を離れるにあたり、祖父の墓前に報告に来ていたのだ。
 「爺ちゃん、俺、プロボウラーになるよ。それで、本場アメリカのPBAの大会に出て、チャンピオンになるんだ!」

 こういった場合、物語の登場人物は、必ずと言って良い程、高い目標を宣言する。
 そうしないと、読者の想像力を、かき立てられないし、物語的に面白く無いし、〝ユメちっちゃ!〟と、ディスられてしまうからだろう。
 
 しかし、この時の正義の亡き祖父への誓いは、彼の本当の想いだったのだ。
 進学を考えてみたものの、進学指導の先生から提示された進学先は、納得のいくものではなかった。
 だからといって、それまで怠ってきた勉強の足りなさを補う事が難しいのは、彼自身、良く分っていた。
 
 高校卒業後の進路決定の書類提出を目前に控えた或る日、正義は、ボウリング場のアプローチ上にいた。
 
 彼は、この日投げたボウリングのスコアで、自分の進路を決めようと考えていた。
 6ゲーム投げて、その平均点(アベレージ)が200点以上ならプロ・ボウラーへの道を進むという、自分なりのルールを決めていたのだ。
 
 ちなみに、プロボウラーになる為には、実技と面接試験があり、まず実技では、4回に分け各15ゲーム、合計60ゲームを投げ、その平均点が男子の場合、200点以上の点数を取らなければいけない。(※日本プロボウリング協会=JPBA資料より)
 正義の進路決めのルールの基準は、その200点からきていた。
 
 (ボウリングの点数で、将来の進路を決めるなんて)と、お考えの方もいるだろうが、そこのところは、大目に見て頂きたい。
 
 誰も相談相手のいなかった正義が、祖父との想い出の残るボウリング場で、このような形で自分の未来を決める事は、必然的だし、彼にとっては、納得のいくものだったのだろう。
 正義は、もしも、その点数が取れなかったら、大好きなボウリングを、一生封印するつもりとも決めていた。
 
 彼の将来を決める大事なゲームが、始まった。
 1ゲーム目は、213点と、幸先の良いスタートを切った正義だったが、2ゲーム目、192点。3ゲーム目、172点。4ゲーム目、164点と、ドンドン点数を落としていった。
 5ゲーム目は、159点。
 残り1ゲームの時点で、合計900点。アベレージは、180点だ。
 
 正義自身、コレはやはり、ボウリングの道を断念するしかないと、ほとんど覚悟を決めていた。
 「これで、もうボウリングとは、お別れか・・」
 正義は、噛み締めるように呟いた。
 人生最後のゲームを投げている時の、彼の頭の中は、ゲームの事よりも、祖父との想い出で一杯だった。
 
 どうにか、ボールを持てるようになった足下もおぼつかない正義が、アプローチを走り、最後にドンとボールをレーンに落とすように投げる。
 ボールの行方など見ようともしないで、投げる事が出来た喜びに満面の笑みで走って戻って来ると、祖父の大きく広げられた腕の中に飛びこんでいた。
 
 小学生の正義が、初めて自分の想い通りにストライクを出せた時には、自分の事のように祖父は喜んでくれた。

 子供ボウリング大会で、優勝トロフィーを持った少年の横で、その悔しさに泣きじゃくる、二位の盾を持った正義を、祖父は〝ヨシヨシ〟となだめてくれた。
 次の瞬間、そのあまりの悔しさに、優勝した少年のトロフィーを奪おうとして、正義は祖父と周りにいた大人達に取り押さえられていた。
 
 砂浜で、ネットに入れた複数個のボウリング・ボールを引きずりながら、必死に前に進もうとする正義少年を、〝完全試合〟と書かれた鉢巻を締め、手に竹刀を持った祖父が、普段の優しいキャラクターに似合わない鬼の形相で檄を飛ばしていた。 

 小学校の謝恩会での快挙もあった。
 人生初の最高得点〝299点〟の快挙に、同級生から声援が起こり、可愛い女の子達が正義を『スゴイスゴイ』と取り巻いた。
 そのボウリング場の柱の影では、人知れず祖父が嬉し涙を流していた・・・。 
 
 このように正義の頭の中に、走馬灯のように蘇っている祖父との沢山の想い出なのだが、この他にも、〝中学校時代篇〟〝祖父との別れ篇〟と、まだまだ続き、全てを書き出すと、全然、話が先に進まなくなってしまうので、ここら辺で、話を本筋に戻す事をご了承下さい。
 
 <お話は“将来を決める大事なゲーム=人生最後のゲーム”のあたりに戻ります。>
 
 その〝人生最後のゲーム〟が、良いか悪いかは別として、〝人生最後〟には、ならなかったのだ。
 6ゲーム目の最終ゲームで、なんと正義は、祖父との想い出が頭の中にフラッシュ・バックしたまま、ある種のトランス状態に陥り、無意識の中、身体が勝手にゲームを続けていた。
 だから、身体の何所にも無駄な力が入っていなかった。
 彼は、(正確には彼の身体は)ストライク・ラッシュを続け、第9フレームまで、全てのフレームをストライクで終えていた。
 さらに、その勢いは止まらず、第10フレームに入っても、ストライクが続いた。
 ボウリング場の他の客やスタッフは、徐々に、彼のスコアの偉業に気付き、そのパーフェクト・ゲームへの期待から、ゲームが進むにつれ、正義の投げるレーンをとり囲むように、ギャラリーとして集まり始めていた。
 正義自身は、トランス状態のままで、ボウリングを続けていた。
 しかし、自分の周りが、ざわつき始めた事や、人々の視線が集中している事で、彼は五感で、何かを感じたのだろう。
 ふと、正義は我に返った。
 
 ハッとして、自分の背後にいるギャラリーに驚き、手に持っているボールを、取り落としそうになった。
 そのギャラリーから、子供の叫び声が聞こえた「パーフェクト! パーフェクト!」
 正義は、その声に反応し、スコア・ボードを見上げた。
 ストライクが11個。
 なんとパーフェクトまで、10フレームの残り一投を残すのみとなっていた。
 彼の頭脳は、急速回転でスコア計算を始めた。勉強での数学は苦手だが、ボウリングのスコア計算は得意なのだ。
 このままストライクが続けば、この6ゲームはパーフェクトで300点になる。今までの5ゲームの合計は900点で・・6で割ると・・
 〝オオッ、なんとアベレージは200点だ!〟
 
 ギャラリーからは、「パーフェクト! パーフェクト!」と、パーフェクト・コールが起こっていた。
 (あの時と同じだ! あの小学校の卒業式の謝恩会の時と同じだ! みんなが、俺に注目している!)と正義は思った。
 
 彼は、普段よりも慎重に、ピンとスパットを交互に見た。
 そして、自分を鼓舞する。
 (今度こそパーフェクトを出すんだ!)
 しかし、この想いが、投球動作に入った正義の筋肉系統に微妙な変化を与えたのかも知れない。
 その投球は傍目から見ると、それまでと何ら変わりないように見えた。
 だが厳密に言えば、ボールの指穴を抜ける時の中指と薬指の引っかけが、微妙にこれまでとは違っていたのだ。
 ギャラリーは、息を飲んで、正義の放ったボールの行方を見つめていた。
 ボールは、彼の手を離れ、レーン上を17m程真っ直ぐに転がると、クイッと左ナナメにフックして、そのまま、ピンに向かって行く。
 そして、①番ピンと③番ピンの間に吸い込まれるようにヒットした。
 コースは先程と寸分も違わぬ、いわゆる、ポケット・ヒットだった。
 場内に激しいピン・アクションの衝撃音が鳴り響いた。
 誰もが、そのパーフェクト・ヒットにストライクを確信し、歓声を上げた。
 正義も「やった!」と、思わず声を出していた。
 しかし、
 ギャラリーの「オオッ!」という歓声が、そのわずか数秒後に、「アアーッ」という、落胆した声とため息に変わっていた。
 ストライクではなかった。
 完璧だと思われたピン・アクションだったが、⑩番ピンだけが、他のピンの激しい動きに触れもせず、ピン・デッキに残っていたのだ。
 タップだった。

 タッとは、どんなに優れたボウラーでも幾度も経験しているに違いない。
 完全にボールがポケットを捉えているにも関わらず、他のピンの激しい動きに一切触れること無く、たった1本だけが残ってしまう。
(天は、我を見放したか!)と、感じてしまうような、不運としか言い様の無いものなのだ。
 タップの説明を何度も繰り返し書いてしまったが、それほどボウラーにとっては悔しいものなのである。
 
 潮が引くように、あれだけ盛り上がっていたギャラリーが、一瞬にして、何事もなかったかのように、夫々の場所に引き上げて行った。
 正義は自嘲気味に呟く。
 「10ピン・タップか、フフッ・・人生こんなもんか・・」
 次の瞬間、正義は天からの啓示を受けたように、ビクッと身体を震わせた。
 〝待てよ、でもこれって、もしかしたら、まだまだボウリングを続けろって、爺ちゃんからのメッセージなんじゃないのか・・〟
 正義の頭の中は、何かが吹っ切れたように、楽天的な思考に変化していった。
 〝俺に出来る事って、やっぱり、ボウリングしか無いんじゃないのか?〟
 もしかしたら、祖父との想い出が沢山詰まったこのボウリング場で、将来の進路に関する結論を出そうと考えた時点から、正義の結論は出ていたのかも知れない。
 元来、自分に対して、甘えが強い性格の正義らしく、結論はアッサリと導き出された。

 結論は、(東京に出て、プロボウラーになる!・・)だった。
 その結論の為に、彼はその正当性を、無理矢理自分自身に納得させていた。
 〝6ゲームのアベレージは、199、833・・・。マァ良いか、四捨五入すれば良いじゃん、ほとんど200だもんね〟
 これが、この栗原正義という男なのだ。

 しかしこの甘さが後々まで、彼の人生を安易な方向へ導く事になるのを、この時点では正義自身は、まだ気付いていなかった。
 
 その頃、フロアの隅にあるガラス張りの喫煙ブースの中で、一通りインタビューを終えた取材陣の神野と黒山は、撮影素材の“撮れ高”を確認していた。
 “撮れ高”というのは、業界用語で撮影素材の量を指すのだが、それは、沢山撮れば良いという物ではなく、番組で使える内容のクオリティの物がどれだけあるかという指針でもある。
 素材ファイルNo1は、ボウリング場の外観と受付の谷田へのインタビューだが、黒山はどうでも良いといった風に、早送りでスキップした。
 夫々の素材には、最初の方に黒山の声で、クレジット変わりに取材対象の説明が簡潔に入れられていた。

 「第3レーンの四人家族、子供は幼稚園に通う男児二人・・」
 40代の夫婦が、神野からの質問を受け、インタビューに答えていた。
 その背景では、子供達がボウリングを楽しんでいる。
 まずは、父親が語る。
 「今日は子供の幼稚園が振替休日で、僕の会社の休みと重なったので、家族でボウリングをする事になったんです・・」
 横から母親が割り込み、
 「本当はね、家族揃って浦安のシーに行く筈だったのに、この人、昨日、会社の同僚と飲み過ぎて、寝坊したのよ・・だから、家の近くにあるこのボウリング場で安上がりのレクリェーションになっちゃったのよ!」
 父親は、言い訳がましく続けた。
 「付き合いなんだから仕様が無いじゃないか・・(カメラに向かいエヘヘと笑い)それで、急遽近場でのレクレーションに切り替えたんです・・ボウリング?・・子供達も好きですよ・・ナアそうだろう?」
 と、奥さんに同意を求めた。
 子供達がボウルの取り合いから喧嘩を始めたので、我慢できずに母親が、仲裁に入っていった。
 「みっともないから止めなさい!」
 とかナントカ言っている。
 「まあ、子供達が一緒に遊んでくれるうちは、手軽にできるんで、ボウリングなら家族みんなで楽しめるし・・オイ、(背後を振り返り)コラッ、いい加減にしなさい!」
 母親の手に負えないと見て、兄弟喧嘩の仲裁に向かう父親を映している画面が突然乱れて暗転した。

 次の素材への黒山のクレジット。
 「第4レーンのアラサーカップル、二人の関係は、微妙な感じ・・それ程、進展してなさそう・・」
 神野は、そんな二人の関係には、おかまい無しに質問をした。
 「お二人は、どのくらいのお付き合い? 良くボウリング・デートするの?」
 照れる仁志をよそに、水樹が答えた。  
 「聞いてもらえますか? もう付き合って一年も経つのに、ヒトシ・・ああ、彼の名前ヒトシって言うんですけど、手も握ろうとしないんです・・一年も経つんですよ!」
 顔を紅くさせて、仁志は水樹を制した。
 「ミズキ先輩・・」
 「先輩?・・彼女さんは会社の先輩? 」
 神野は、何故か、急に親しげな話し方になって本筋からそれた部分に食いつく。
 「そうなんです、それに高校時代も部活で・・バスケ部でも先輩後輩で・・」
 神野は水樹から仁志にマイクを向ける。
 「ボ、僕はスポーツが大好きなんで、バスケ部に入ったら、水木先輩がいて・・当時は怖くて、口も利けなかったんですが・・社会人になって会社に入ったら、又そこに先輩がいて・・」 
 「エッ・・高校から!?・・ナルホド・・そこら辺が、彼氏さんのトラウマになってるんちゃうの? 今時、手を握らないって・・天然記念物級やで・・」
 いきなり関西弁でヤンキー風になっている神野の変化よりも、その衝撃的な神野の分析に驚いた水樹は、
 「でも、私たち付き合ってるんですよ!・・そうなの!?」
と、神野にではなく、仁志に疑問を投げかけた。
 映像のカメラもつられて、仁志にズーム・イン。
 思いがけない展開に、大きな身体を小さくして、仁志はたじろいでいた。
 
 画面は黒山のクレジットに変わった。
 「第13レーン、バラエティ・タレントのリルリル。後で事務所の許可必要とのこと。」
 いきなり、リルリルは神野のマイクを奪うように取ると、カメラに向かって話し始めた。
 「今度、わたくしリルリルは、初めて映画の主演をやらせて頂く事になりまして、今その映画に向けて、準備をしてる最中なんでーす。」
 一度マイクを神野に返し、ボールベッドからボールを抱えると、再びマイクを受取り、ボール片手に話し始めた。
 「その映画っていうのは、男の子に生まれた主人公が、本来の心の性を取り戻して、このボウリングというスポーツの世界で、女子プロボウラーとして活躍すると言うお話なのね・・だから私が選ばれたちゃったんだけど、今までスポーツとか全然してなかったので大変なんですけど、リルリル頑張りまーっす!」
 そこまで言うと、カメラの背後を気にする様子で、
 「エッ? ボウリングに関しての話?・・ウーン?・・エッ? ボウリングは好きかって・・ウーンまだ今日初めてやったんで、まだ面白いかどうか解んない・・アアこういうときは好きって言わなくちゃいけないのよね、ボウリング大好きでーっす・・横のガーターっていうの・・あそこに落ちてばかり・・・」
 リルリルは答えにつまり、さらに神野の質問の声が良く聞こえないらしく、それを聞こうとして、カメラ画面から外れてしまう。
 「(リルリルが、再び画面内に戻って来て)一寸まだ止めないでね・・この映画の公開は来年の予定ですので・・又お話が出来るようになったら、皆さんに情報をお伝えしますね・・共演は、あのイケメンの・・アッ、まだ話しちゃいけないんだわ・・監督も・・アッ、それもまだ言えない・・一寸、チョット・・まだカメラ止めないで頂戴・・イヤ・・アレレッ!・・」
 小さなモニターで再生した画像を見ながら、神野が黒山に聞いた。
 「1レーンのお爺ちゃんは、インタビューしたんだっけ?」
 「一寸話し聞いたんですが、耳が遠いらしくて、話がなんか通じなくてパスしました。」
 「2レーンのお相撲さんは?」
 「彼は、何か事情があるらしくて、顔出しNGでした」
 「顔出しNG多すぎ・・まあ平日のこの時間にボウリングやってる人って、余程の余裕があるか・・そりゃあ訳ありだったりするわよね」
 ここまで、あまり取材の内容としては満足いく物が撮れていない神野は失望して言った。
 
(これじゃ、又フォロワーが減ってしまう。)
 神野は焦った。
(広告主を増やす為にも、もっと刺激のある内容を配信しないと・・)
 
 しかし、彼らにとって、こういう事はよくあるらしく、神野はテキパキと黒山に編集箇所と、自分の頭の中にある構成を伝えると、 
「一寸受付で、もう少し、何か良いネタが無いか聞いてくるわ・・編集しといて頂戴」
 と言い残し、受付のカウンターに向かった。

 
                           第11レーン 
    ―(副題)栗原正義のヒミツ 後篇―

 正義は高校を卒業すると、東京のボウリング場のスタッフとして働きながら、プロボウラーへの道を目指した。
 彼は、祖父が亡くなってから数年、ボウリングから離れた時期があったこともあり、そのブランクを取り戻すために、人一倍熱心に、仕事も練習も頑張った。
 しかし、それ程、充実したボウリング生活を送っていた正義だったが、彼の性格の悪いところが出てしまった。
 慢心してしまったのだ。 
 彼が最初のプロテストを受けた時、〝プロテストなんて〟と、高をくくり、一発合格する事を確信していた。
 
 日本プロボウリング協会(JPBA)が、行っている、プロボウラーへの登竜門であるプロテストは、日本だけでなく韓国等、アジアの国からも優秀なボウラー達が受験する狭き門である。
 正義は、意気揚々とプロテストに望んだのだが、実力者ぞろいのテスト生たちの姿を目の当たりにして、すっかり試験会場の雰囲気に呑まれてしまい、実力を出すどころではなかった。
 それでも、初めての経験という事で、すぐに気持ちを切り替えて、次に向けての気力を奮い起こし、翌年もプロテストに臨んだ。
 
 しかし、結果は不合格だった。
 さらにプロテストを三回、四回と、受けたところで、正義は、次第にボウリングへの情熱が失せていったようだった。 
 それまで、苦労という苦労もせず、欲しい物を手に入れて来た彼にとって、先の見えない今の生活が堪え難いものになっていったのだ。
 気付くと、練習をするより、遊ぶ時間が増えていった。
 今までボウリング中心の生活で、都会の生活にあまり触れていなかった地方出身の若者にとって、その魅力ある世界には、誘惑が多かった。
 さらに、悪い友達と付き合い始めるようになり、仕事もサボるようになっていった。
 それは、まるでドミノ倒しのような彼の転落人生の始まりだった。
 五回目のプロテストを受ける当日、正義はその会場に来る事も無く、勤め先のボウリング場からも姿を消してしまった。
 
 
                第2レーン
           ―(副題)トリテキ大輝のヒミツ 後篇―

 東京の下町にある大鉄山部屋は、関取が一人しかいない小さな相撲部屋だった。
 しかし、大鉄山親方は、現役時代〝雷柱〟という四股名で大関まで昇進し、二場所程の優勝経験もある技巧派力士であった。
 大輝の地元出身のヒーローでもあり、ボウリング少年だった大輝にとっても、スポーツのジャンルを越えて憧れの存在だ。
 そんな尊敬する親方からの誘いは、大輝の将来性ある才能を見込んでの事だった。
 相撲部屋への入門を決める前、大輝は、今の時代、大学くらい出た方が良いかなとも考えていた。
 複数の、相撲で名声を馳せた有名大学からの誘いもあり、学費に関しても心配する事が無かった。
 しかし、どうせ大学を出て相撲をやり続けるとしたら、最初からプロの世界に行く方が得策と考えた。 
 性格上、中途半端な事が嫌いな大輝が、自分の進路を決めるのに、そう時間は掛からなかった。
 何よりも、一番彼を応援してくれていた祖父亀太郎がかけてくれた言葉が彼の背中を押してくれた。
 「お前なら、なんでも出来る。相撲の世界でもストライクは出せるだろう! お前ならプロの世界でも頑張れる。関取になって優勝する立派な姿を私に見せて欲しい!」
 
 相撲の修行は、それまでの学生の部活動とは違い、肉体的にも精神的にも、大輝にとっては辛いものだった。
 いや、どちらかと言うと肉体的な稽古は、大輝の想像通りのもので、彼の頑強な肉体でなら、辛いけれど、どうにか受け応えられるものだった。
 実際、それには耐えていくんだという大輝の強い意志もあった。
 生活面では親方や女将さんが、十代の大輝達新弟子に、親身になって、面倒を見てくれたので、実家を離れての寂しさは、それ程感じてはいなかった。
 だが、この世界に付きものの、上下関係というものは、大輝の想像を遥かに超えたものだった。
 高校の相撲部でも、上級生の言う事は下級生にとっては絶対的という、運動部特有のルールは経験した大輝だったが、それ以上の厳しい上下関係が彼を追い込んで行った。
 時により人格を否定するような兄弟子達の執拗なイジメもあった。
 勿論、全ての者が、そのような行いをする訳ではないのだが、大輝の才能を妬む者が、わずか数年、数カ月でもキャリアの差があれば、上という立場から、事ある度に、ありとあらゆる嫌がらせをする。
 最初は耐えていた大輝だが、次第にそれが苦痛になってきていた。
 兄弟子の怒号が飛ぶ。
 「今、言った事が聞こえないのか?」
 「何、黙ってるんだ?」
 「何だその目は?」
 「何か言いたい事があるのか?」
 「口が利けるなら、もっと早く返事しろ」
 「声が小さい」
 「お前舐めてんのか?」
 立場の上の者が軽く発した言葉でも、立場の下の者にとっては苦痛を伴い、矢のように心に突き刺さるものなのだ。
 言葉に続いて、ある時は暴力も加わる。
 大輝にとっては、それが永遠に続くように感じられた。
 普段の稽古にも必死に耐えて頑張っているのに、それ以上の苦痛からは逃げ出したかった。
 それでも、一年はどうにか過ぎ、二年目の事だった。
 新たな弟子が入ってきた頃、大輝の同期だったトリテキ仲間数人が部屋を辞めていった。
 お互い励まし合い、辛い修行に耐えた同志とも言える仲間。
 大輝と同様、その才能を見込まれて、希望に溢れ、入門してきたはずの者が、まるで逃げるように部屋を後にした。
 その時は一瞬だが、兄弟子達の態度も、変わったように感じられたのだが、すぐに又、何事も無かったように、いつもの過酷な日常に戻っていった。
 
 それから、約半年、三場所程過ぎた九月の暑い日、東京での本場所がもうすぐ始まろうとしていた頃だった。
 大輝は突然、父から祖父亀太郎の死を告げられた。
 入門してからずっと、面会に来なかった父が大鉄山部屋に何の前触れもなく顔を出したのだ。
 そして、祖父の死を告げただけで、帰っていった。
 祖父の遺言で修行中の大輝には、その事を知らせるなと言う事だったらしい。
 しかし、父はその想いを自分一人の胸の中に留めておく程の度量が無かった。
 東京についでの仕事があったということを口実にして、大輝への精神的影響など考えず、自分の責任を転嫁するように祖父の死を報告した。
 腰を悪くしていた祖父は体力が落ち、一寸した風邪から肺炎をおこし、春先から入院していたようだ。
 すでに、葬式も四十九日の法要もすませているとの事だった。
 大輝は祖父の死に目に立ち会えなかった事よりも、この相撲と言う特殊な世界への道を選んだ自分に腹を立てゝいた。
 自分の為というより、どちらかと言えば祖父や父の喜ぶ顔が見たくて、関取への道を選んだ大輝の精神的支柱が崩れ落ちたようだった。
 将来への展望が閉ざされたように感じた。
 それからの大輝は、相撲への情熱が次第に薄れていった。
 すると今まで、大輝に辛く当たっていた兄弟子達の行動にも憤りを覚える事無く、寛容になっていく自分を感じた。
 もうどうでも良くなっていたのかも知れない。
 
 それから程無く。
 午前中の稽古が終わり、兄弟子に一寸した使いを頼まれ部屋を出た時、大輝はこのままどこかへ行ってしまいたい衝動に駆られた。
 もう秋だと言うのに、夏のような暑さの中、大輝はその熱に浮かされたように、歩き続けた。
 気がつくと、今まで来た事の無い隣町の見知らぬ路地に大輝は足を踏み入れていた。
 「どこに行こうっていうんだ?・・・家に帰ったって、お爺ちゃんは、もういないんだ! 」
 急に現れたヘリコプターの爆音に空を見上げると、大輝の視線の先に、大きなボウリングのピンが立っていた。
 近視と乱視の混じった彼の視力でも解る、大きなピンだった。
 
         *  *  *
 
          喫煙ブース

 喫煙ブースでは、神野と黒山が編集後の素材を確認していた。
 編集後の4グループのインタビューはこうも変わるかという程、変わっていた。
 収録前のインタビューと比較すると、一目瞭然である。
 一部の質問部分に関しては、神野が戻って来たところで撮影し直してもいた。

 
<映像素材>第4レーンのファミリー(/は編集点)
 
父親が答える。
 「今日は子供の幼稚園が振替休日で、私の会社の休みと重なったので、/ボウリングをする事になったんです・・」
 横から母親が割り込み、
 「だから、家族揃って/家の近くにあるこのボウリング場で/レクリェーションよ!」
 父親のマイクの音声だけがオンで聞こえていた。
 子供達の笑い声が足してあるので、背後で喧嘩してるようには見えない。
 「ボウリング?・・子供達も好きですよ・・まあ、手軽にできるんで、ボウリングなら家族みんなで楽しめるし!/おい(背後を振り返る)/そうだろう?・・」

 
 <映像素材>第3レーンのカップル
 
 神野が質問する。
 「お二人は、どのくらいのお付き合い?」 
 水樹が答える。
 「聞いてもらえますか? もう付き合って/一年も経つんですよ! 」
 別撮りの新たな質問が追加される。
 「お互いに、何て呼び合ってるの?」
 「ああ、彼の名前ヒトシって言うんですけど/ヒトシ・・」
 「ミズキ先輩・・」 
 さらに神野の質問をガラッと変えてインサート。
 「ボウリングデートを楽しむ二人ですが、先輩とボウリングとどちらが好きですか?」  
 仁志が答え(ているようになっている)   
 「僕は/ミズキ先輩が/大好きなんで・」
 水樹がそれを受け(ているようになっていた)
 「/そうなの!?」

  <映像素材>第13レーンのリルリル
 
 「わたくしリルリルは、/ボウリング大好きでーっす・・/今まで、全然スポーツとかしてなかったので、大変なんですけど、リルリル頑張りまーっす!」

 このように、一例ではありますが、メディアの情報操作なんて、本当に簡単に出来てしまうものなんです。
 皆様、努々忘るべからずです。

 編集後の素材を見て、ため息をつく神野に黒山が聞いた。
 「タレントのリルリルは、これだけですか?」
 「充分でしょ、事務所の許可取れなかったらすぐカットよ」
 その時、背後からヒューッと、ちゃんとした音にならない透かしっ屁のような口笛が聞こえた。
 黒山は、思わずいやな予感に首を竦めた。
 神野は、背後を振り返ってしまい〝しまった〟と後悔した。
 ブースのガラス越しに立っていたのは、第12レーンの鍵先だ。
 たまたま、煙草を吸いにやって来たのだが、二人の作業に多いに興味を示してしまったのだ。
 鍵先はブースのドアを開けると、額に上げていたサングラスをかけ直し、二人の覗いていたモニターに目を付けて、
 「いやあ、お仕事大変ね、アノよろしければ、俺にもインタビューしてくれないっかなあー?」
 と、わざとらしく声をかけて来た。
 ジャケットを脱いでいた鍵先の不思議な配色のドット模様のシャツは、絶好の獲物を見つけたハイエナを連想させた。

 
         第2レーン

 大輝は、10フレーム目の第1投を投げ終わったところだった。
 次にスペアを取れないと、これでゲームは終わりだ。
 ベンチにいったん戻り、懐の小銭を出して手の上に広げた。 
 「この金じゃどこへも行けない・・・どころじゃない。もう一回ゲームをプレイする事も出来やしない・・・」
 ふと視線を感じ、隣のレーンを見ると、ベンチの塚田老人と目が合った。
 老人はゆっくりと大輝に笑顔をよこす。
 大輝も笑顔を作ろうとするが、ぎこちない笑顔になってしまう。
 大輝は老人から目をそらし、「あれっ? そう言えば、最近笑ってないぞ、もしかして、笑い方を忘れたのか? 」
 ホッペタを手で摘み、顔の筋肉をほぐそうとする。
 その瞬間、何故か大輝は、どこからとも無く吹いてきた生温かな風を感じた。
 気付くと、塚田老人が隣に立っていた。
 (エッ? )
 大輝は、離れた場所にいた筈の塚田が、一瞬にして真近に移動していた事に驚くが、自分がボォッとしていたのだろうと、頭を左右に振った。
 (暑い中、フラフラと歩き廻った所為だ)
 塚田は屈んで、大輝に一枚のチケットを差し出した。
 「良かったら、使わないかい?」
  塚田の手が震えているので、最初それが何のチケットか解らなかったが、よく見ると、それは、このハッピイ・ボウルの優待券だった。
 塚田からそれをもらう理由も見当たらなかったので、大輝はしばらく皺だらけの手の中にあるチケットを見つめていた。
 しかし、塚田が一生懸命に震える手で彼の為に差し出しているのをすまなく感じて、大輝は両手でその手を包み込むようにして、チケットを受け取った。
 
 「ありがとう・・でも・・」
 「なかなか迫力あるボウリングをするのう・・楽しませてもらってるその礼だから、使えばイイ」
 塚田は先程から、大輝のプレイに興味を持ったのか、それとも人のプレイを見て楽しむのがいつもの習慣なのか、大輝に向かって声をかけていた。
 大輝は、そのかけ声を自然に受け入れていたのだ。
 どこか懐かしく感じる、耳障りの良い、その塚田の応援の声。
 
 大輝はハッとした。
 (亀太郎お爺ちゃん・・・)
 塚田の言い回しといい、その声のトーンが祖父亀太郎と同じだったのだ。
 (お爺ちゃんの声だ。)
 塚田が聞く、
 「お相撲は楽しいかい?」
 大輝はしばらく塚田の顔を凝視した。
 塚田は、意味ありげに大輝にウインクすると、スッと立ち上がった。
 今までの動きとは別人の機敏な動きで、隣のレーンに行くと、アプローチを始めた。
 大輝の目に映る塚田が見せたのは、子供の頃に見た元気な祖父、亀太郎の投球フォームに間違いなかった。
 
 
          受付カウンター 
 
 「おお、1レーンの塚田さん、ストライク6連チャン、6thですよ!」
 谷田が多田の横っ腹を突いて知らせた。
 多田は書類に目を通しているところで、興味なさげに伝達事項を谷田に伝えている。
 「それから、第10レーンだけどメンテは終わっていて、もう一回業者が最終チェックをしてから再稼働するから・・」
 「本当にうちの機材ポンコツなんだから新しいのに取り替えてほしいですよね・・きっと、又すぐ調子悪くなって止まっちゃうんだから」
 谷田はそうぼやき、再び第1レーンの方を向いて続ける。
 「同じポンコツ・・いやいや、これは失言ですが、でもお金を落としてくれるほうは大事にしたいですね」
 多田からの(無駄口をしてないで早く仕事をしろ)と言う冷たい視線を受け、取り繕うように谷田は話題を変える。

 「どうしちゃったんでしょうね?いつも腰が痛い痛いって、ゲームするのが、やっとだったのに・・・」
 谷田は、さらに冗談半分で、
 「まさかパーフェクト出したりして・・」
 谷田のその言葉に、ハッとして塚田に視線を向けた多田の表情が変わった。
 その頭の後ろにある、いつもは接触が悪く、時々思いついたように光るネオン・ボードの英語で書かれた〝HAPPY BOWL〟の文字が、突然異常に光り輝いた。
 
 「そうだ、谷田君、至急、取材スタッフを呼んで来てくれ給え・・あの女性レポーターを!」
 「ハッ?! 神野さんですか?・・美人の神野さん・・何ですか?・・・」
 「良いから早く呼んで来たまえ!」
 谷田は、だらしないニヤケ顔になるのと同時に、(喜んで)とか叫んで、飛び出して行った。
 「良いネ、これは良いネタになりますよ!・・我ながらナイス・アイディア!」
 もう一度、ネオンボードが怪しく〝ジジッ〟と光り輝いた。
 普段あまり表情を変えない多田が、カウンターで一人微笑んだ。
 彼は、あまり笑い慣れていないようで、その笑みは、本人の意思かどうかは解らないが、どこか近寄りがたい不気味で怖い笑いだった。

 
  第2レーン

 塚田は、大輝に聞いた。
 「お相撲は楽しいかい?」
 (同じだ・・あの時と同じ・・)

 それは、祖父と生前にたった一度だけ電話で交わした会話の中で、亀太郎が発した言葉だった。
 修行の辛さに逃げ出したい気持ちを祖父に相談しようと電話をかけた時、一番最初に祖父の口から出た言葉だった。
 大輝は、その時、本当の気持ちを祖父に告げる事は出来なかった。
 まだ入門して一年も立たない頃の話だ。
 (部屋を・・相撲をやめたい)
 それだけ言えば、祖父は解ってくれると思っていた。
 「辛かったら帰ってくりゃいい。」
 祖父だったら、そう言ってくれると思っていた。
 その時の電話は、相談と言うよりは、大輝が相撲をやめるという意思を伝えるための電話の筈だった。
 しかし、祖父は大輝の健康状態を最初に聞くと、次にその質問をしてきた。
 「お相撲は楽しいかい?・・」
 さらに加えて、
 「ボウリングと、どっちが楽しい?・・」
 祖父の質問は久しぶりの孫からの電話に何を話したら良いのか言葉が浮かばずに、思いついた事を軽い気持ちで質問したものかも知れなかったが、大輝はそう質問され、何か肩透かしを食った感じになった。
 それと同時に、好きな道を選んでおいて、もう諦めてしまうのかという祖父の想いだと自分の中で勝手にそう判断していたのかも知れない。
 どちらにしても、その時、祖父と久々に電話で話した事で、大輝の気持ちは収まっていた。
 まだ18歳の大輝には自覚が無かったが、ホームシックにも罹っていたのだ。
 祖父との、わずか一言二言の会話が、大輝を安心させた。
 そして、気持ちが落ち着いてきた大輝は自分の弱さを恥じた。
 まだ高校を卒業したばかりの未熟な子供の自分が大人の社会に入ったのだから、辛いのは当たり前なのだ。
 その辛さを祖父に聞いて欲しかったのだが、逆に祖父だけには心配をかけないようにしようと思った。
 今ここで投げ出したら、自分の未来だけでなく、祖父の想いも裏切ってしまうのだ。
 大輝は、答えていた。
 「うん、相撲・・面白いよ・・・ボウリングと比べたことないけど・・相撲は、面白い・・ボウリングも好きさ・・」
 その後の会話は、何故か尻つぼみな内容で、大輝は普段の連絡の不義理を詫びる、杓子定規な内容の言葉を言って終わってしまった。
 大輝としては、亀太郎にそれ以上の心配をかけないようにするしか無かった。

 「そうかい、相撲、面白いかい・・ボウリングも忘れなかったんだな・・」
 祖父との記憶から現実に戻り、何気なく塚田の言葉に相槌を打つと同時に、大輝はさらに驚いた。
 あの時の大輝と祖父の会話を知ってるはずの無い塚田の口から、祖父の言葉を聞いたのだ。
 それも、あの時に聞く事の出来なかった祖父の反応だった。
 「エッ、やっぱりお爺ちゃん?・・亀太郎・・お爺ちゃんだね!」


       第14レーン

 通路とロッカーに挟まれた場所にある喫煙ブースの中には、鍵先に襟元をつかまれている谷田の姿があった。
 黒山と神野が鍵先を止めに入っているようだ。
 ブースは煙を遮断する替わりに、音も遮断するようで、ガラス張りの割には密室のような環境になってしまっていた。
 だから、そんな事になってるとは気付かずに、14レーンの二人組に会いに来たスーツ姿の男は、その前を素通りしていった。

 「おう」
 と、ストライクを出したばかりで機嫌の良い都筑は笑顔で男を迎えた。
 男は、二人と同僚の井上で、本署からの情報を持ってきたのだ。
 佐藤は仕事の顔に戻り、井上を促した。
 「どうですか?」
 井上はスマホを見せ、二人に小声で何かを伝えた。
 都筑は目を細め、更に、顔を離し気味に画面を見る。
 典型的な、老眼である。
 「この写真じゃ解らないな・・」
 スマホ画面には、防犯カメラに映っている黒いフード付きジャケットの男が映し出されていた。
 「今、別の防犯カメラを確認してるので、それが手に入り次第、送ってもらえます。・・通報して来た協力者に頼んで、今日この場所で予定通り15時に金の受け渡しの約束をしてもらいました。」
 井上の報告に都筑が即座に反応する。
 「相手からの決めごとは?」
 「時間と場所だけの指定です。相手は協力者の顔を知ってますから」
 都筑と井上の会話に佐藤も参加した。
 「ホントに被害者の住む地域のボウリング場を受け渡し場所にしてるんですね」
 都筑は鋭い眼光で応える。
 「だから俺たちは、ヤツの事をボウラー No.1って呼んでるんだぜ 」

 ボウラー No.1、都筑達の所属する警視庁捜査二課が担当する、特別詐欺のひとつ、いわゆるオレオレ詐欺の、広域手配犯のグループの通称で、そのだましたお金を、このハッピイ・ボウルのようなローカルの古いボウリング場で被害者から直接受け取ることから、その名が付けられていた。
 大抵の古いボウリング場は、レーン側にはメンテナンスの為、カメラが付いているものゝ、受付やロビー等には、防犯カメラなどの設置がされておらず、さらに、不特定多数の人間が出入りする場所でもあり、この詐欺犯は、好んで金の受け渡し場所に使っていた。
 今までは、主に地方都市で多く発生していた事件だが、今回は、この東京には珍しい地方色の濃いハッピイ・ボウルが、犯行場所として目を付けられたようだ。

 「そろそろ、ボウリング場の方にも、話を通しておきましょうか?」
 佐藤は都筑に指示を仰いだ。
 「配置はどうなっている?」
 と、井上に都筑は確認した。
 「協力者のご婦人には2名、時刻に会わせて他に3名が入り口を固めます。」
 「そうか、まだ一時間あるな、ついでに受付で、井上の名前も追加してこい! 2ゲームくらいできるだろう・・」
 佐藤が???な顔をしたので、 
 「バカやろう、張り込みってのは自然にやらなきゃいけねえんだ。何だその目は?・・」
 声が思わず大きくなってしまい、隣のレーンでリルリルを教えていた矢島が振り返った。
 「支配人のところには、俺も後で顔を出すって伝えておいて頂戴!」
 佐藤への指示が急に尻窄みになり、都筑は引きつりながらも、こちらを見るスーパー・レジェンドへの憧れも入り混じり、複雑なごまかし笑いをしていた。
   
 佐藤と井上はカウンターに向かう途中で鍵先とすれ違った。
 鍵先は、スタッフの谷田からせしめた優待券の束を手に持ち、ニヤニヤしていた。
 佐藤は立ち止まって、井上に囁く、
 「一寸、マークしておいて下さい・・もう既に、ここに犯人が来てるとしたら、あいつが一番怪しいです」
 「でも、いかにも過ぎないか?」
 「だってあいつ、携帯ばっかりしていて、全然ボウリングしないんですよ」
 
       
       受付カウンター

 その頃、受付カウンターでは、多田が神野と黒山に取材のネタを提供していた。
 その横では、何故かヨレヨレの谷田がメガネのフレームを絆創膏で修理していた。
 鼻の頭にも絆創膏が張ってある。
 「成る程、このボウリング場で一番の、ご長寿ボウラーがパーフェクト達成ね・・良いじゃナイ・・ソレ、頂きますわ・・じゃあコレから生配信しちゃおう・・でも、必ずパーフェクトになるって保証は、あるのかしら?」
 神野の質問に、多田が待ってました、とばかりに、
 「お任せ下さい、私たちはプロフェッショナルですから、ねえ谷田副支配人!」
 谷田は、いきなりの多田の提案に理解が追いつかないながらも、ウンウンと頷いている。
 神野は、二人に色気タップリに、こう甘く囁いた。
 「私、この街の駅ビルの最上階にあるバー・ラウンジの会員ですの・・うまく行ったら、アソコでたっぷりと御馳走させて頂きますわ・・ウフン」
 最後にはウインクも付き、その仕草に分けも解らずにメロメロになってしまっている谷田の耳に、多田はヒソヒソと耳打ちをする。
 谷田の周りに飛び交っていた、ピンク色のエンジェルが一瞬にして消えた。
 「エーッ! そんな事・・やって良いんですか?・・」
 谷田は、ニヤケ顔の余韻を残しているものゝ多田への疑問を投げかけた。
 「アレッ? キミはいつも私の言う事は絶対で、従いますって・・何処までも私について行きますって・・言ってなかったっけ? アレは、嘘だったのかなー?」
 多田が続いて、
 「谷田・フ・ク・・」
 まで言ったところで、
 「御意!」
 と、谷田は直立不動になり、大声で叫んでいた。
 多田は、黒山にカメラのベスト・ポジションを教える為に、カウンターから出て、テキパキと指示を与える。
 黒山は、三脚の足を目一杯に伸ばして、第1レーンの背後にカメラをセットする。
 谷田が、カウンターのピンを抱え、出ていこうとすると、刑事の佐藤がやって来た。
 佐藤は、いきなり谷田に、警察手帳を見せた。
 谷田はピンをぎゅっと抱きしめ、
 「ゴメンなさい、もう悪い事しませんから!・・それに僕じゃなくて、支配人がやれっていうから・・僕は悪く無いです・・」 
 と、佐藤には分けの解らない釈明をいきなり始めた。
 「いやそうじゃ無くて、実は・・」
 そこまで佐藤が言うと、多田が戻って来て
 「私は支配人の多田です。私がお聞きしましょう。」と谷田から、用件を引き継いだ。
 佐藤が再び出した警察手帳を確認すると、
 「一寸彼は、機械のメンテにバック・ヤードに行かなければいけないので、失礼しますよ。」
 と付け加え、多田は、谷田に(早くしろ)と、目配せをして、カウンターから送り出した。
 谷田は、これから自分たちがやろうとしている事が、警察にばれてしまったのかと思い込み、あらぬ行動をとってしまったのだ。
 多田の命令は、法律上はいけない事では無いかも知れないが、道義的には、決してやってはいけない事だった。
 特にこの業界で飯を食っている人間にとっては・・。
 
 しかし、谷田にとっては、多田支配人の言葉は絶対であった。
 多田への忖度が、彼自身の出世・・谷田の夢に見る、憧れの支配人への道だったのだ。

 
 フロアの左端のバックヤードへ向かう細い通路を駆けていく谷田とすれ違いに、川島がトイレから出てきた。
 彼は、ハンカチで手を拭きながら、スラックスへの水ハネを気にしていた。
 (なんかお漏らししちゃったみたいに見えないかな?)
 周りをキョロキョロ気にするも、誰も見ていないのに安心すると、すまし顔になり、フロアを見渡した。
 
 川島がゲームを中断して、トイレに行った理由は、生理的現象以外にも、左右のレーンでプレイするグループから少しでも離れ、クールダウンする必要を感じたからだった。
 彼は、自分ではクレイマーとかボヤキとか好きではないのだが、性格上黙っていられない体質だった。
 だから、そんな自分の行動に時々疲れ、何をするにも息抜きが必要になってくるのだ。
 今年定年を迎えた、自分にとっての人生の息抜きとして始めた趣味としてのボウリングだが、そのボウリングにしても、その最中には息抜きが必要になってくる。
 息抜きの息抜きが必要なのだ。
 困ったものである。
 
 こういった時に、川島がよくやる息抜きのひとつは、第1レーンから順々に、そのボウラー達を観察していく事だった。
 川島は、ブツブツと独り言のようにその観察したままを言葉にしていく。
 ボールの転がる音、ピンの倒れる音、ユウセンのBGMの中、本人は聞こえないと思っているようだが、結構その独り言は、独り言にしては、ボリュームが大きかった。
 「おう、1レーンの塚田老人・・・後ろからカメラで撮影してますね・・何だろう・・・どこかのTV局?・・オッ美人レポーターさんもいますよ・・何で、オレにインタビューしてくれないんだろう?・・さっき、隣の高校生に説教しちゃってたからなあ・・危ないオヤジって思われたのかな・・」
 「2レーンは、お相撲さん・・大きくてパワーありそう・・ビッグでビッグリシタナアモウなんちって・・そう言えば、昔てんぷくトリオっていたなあ・・」
 「3レーンはカップルか・・彼氏の方が⑤番―⑩番のスプリットに挑戦!・・なんか彼女が叫んでるぞ、エツ?子供作ってあげるって?・・アアあなたのおうちに行って親子丼作ってあげるってか・・驚いた。アレ、彼氏わざとはずしたぞ・・今度は、彼女の番だ・・これもビッグスプリット、⑥番―⑦番―⑩番・・エッ、これ取ったら、お泊まりで温泉だって!? もう勝手にしてよ・・オッ・・スゴイ! 彼女ビッグスプリット取っちゃったよ・・」

 その頃、バックヤードの谷田は、塚田の投げる一番レーンのピンセッターの上部に足場を探り、持ち込んだピンの頭に自分のベルトを巻きつけていた。
 彼はそれを使って、万が一、塚田が投げるボールがストライクにならなかった場合に、残りピンを倒すべく準備をしていたのだ。
 
 そう、支配人の多田が谷田に与えた指示は、塚田老人の投球を、全てストライクにする事だった。
 谷田は、支配人への忖度もさることながら、神野と一緒にお酒を飲めるという夢のような彼女の甘い囁きとウインクを思い出し、必ず成功させてやるぞと、強く心に誓っていた。
 
 7フレーム目は、塚田が自力でストライクを出してくれたのだが、8フレーム目は、⑩番ピンがタップして残ったので、間髪入れずに、谷田は幻の⑪番ピンを使い、辛うじてそれを叩き倒した。
 
 それは不自然な動きだったが、アプローチ側から見るとピンがイレギュラーな跳ね返りを見せたようにも見え、多少の遅れは許容範囲だった。
 隣の3レーンのファミリーや、4レーンの水樹達も塚田老人の快挙に気付き、注目し始めていた。

 川島は、相変わらず観察を続けていた。
 「5、6番レーンのお姉さん対決は迫力あるね・・ブルブルッ、あー恐ッ!・・僕は友達いないけど、ああいうのは、一寸勘弁だな・・楽しく。ボウリングは楽しくなきゃいけないな・・」
 
 「7番レーンの高校生のボク達、人数いるから、まだ4ゲーム目ですか!? これじゃ、まだ帰りませんね・・」
 
 「9レーンのママさん達も、まだまだやりそうですね・・」
 「11レーンは・・なんかブツブツ言ってますよ、まだ若いのに・・なんだ結構うまいじゃない・・オッと、このままいくとダッチマンですか!? 」


 栗原正義は、突然、自分の妄想の世界であるボウリング・チャンピオン決定戦から、現実の世界であるハッピイ・ボウルの11レーンのアプローチに引き戻されていた。
 彼のスコアはスペアとストライクが交互に繰り替えされ、既に9フレームまで進んでいた。
 このままでいけば、ダッチマンと呼ばれるゲームスコアになる。
 
 ダッチマンとは、スペアとストライクを最後迄、交互に繰り返し、200点をマークするゲームの事を言い、スペアとストライクどちらが先でも、スコアは同じ200点となる。
 
 彼が現実に戻った理由は、正義のワイヤレス・イヤホンから、スマホの呼び出し音が聞こえて来たからだ。
 ちなみに、彼が着メロにしてるのは、昭和のボウリング・ブームの時に流行った〝ゴー・ゴー・ボウリング人生〟という歌謡曲だ。
 彼の祖父の大好きだった曲で、確か浪曲界出身の歌手が歌っていた筈である。  
 
 正義は画面で発信元を確認すると、ひと息深呼吸をして、通話を始めた。
 相手を優しく宥め好かすような声色で、その表情も笑顔に変わっている。
 しかし、その笑顔は、ボウリングをしている時の、あの清々しさとは程遠い、どこか卑しさと冷たさを感じるものだった。

 
 川島は、まだ観察を続けていた。
 「12レーンは、アレ、誰もいないですね・・さっきは一寸怖そうなお兄さんがいたみたいだけど、帰ったのかな?」
 
 「13は、名前なんて言ったかな?リンリン?ランラン?・・TVに出てる人じゃない・・そのタレントをビッグ・ジュンが教えてますよ・・いいな、でもあんなレジェンドには、ビビっちゃって、教われないな・・凄さを知らない今の若い子なら・・平気なんだろうね・・そうだ、ボールだけでも今度見てもらおうかな・・なんか指の調子がオカシイんだよね・・」
 
 「14レーンは仕事の途中の営業マンがサボリってとこですか?・・アレ、目つき悪いな・・睨まれちゃいましたよ・・」

 その14レーンでは、井上が佐藤にスマホ画面を見せていた。
 「新しく送られて来た写真も、あまりはっきりしませんね、、今ここにボウラーNo.1が来ているとしたら、あの男が一番怪しいんですけど、一寸、体型が違うようにも見えますね」
 井上の言葉に佐藤も納得しつゝあった。
 「もっとはっきりした写真が来ると思ったのに、これじゃあ・・」
 二人は、フロアの隅にある喫煙スペースで携帯をかけている鍵先とスマホの写真を見比べていた。

 バックヤードの谷田は孤独の闘いを続けていた。
 
 塚田の9フレーム目のストライクをアシストしていたのだ。
 今度は、⑦番ピンのタップだった。
 その前のフレームと同じと予想していた谷田は、⑩番ピンの上で待っていたので、慌ててしまい、手にぶら下げた幻の⑪番ピンをかなり振り回さなければならなかった。
 その所為で、⑦番ピンはどうにか倒せたのだが、⑪番ピンを吊っていたベルトが外れ、ピンを落としてしまった。
 ピンを拾おうと、必死になってジタバタしたのだが、危うく自分の身体も落ちそうになり、両手をピンセッターの枠に突っ張り、どうにか支えるのがやっとだった。
 谷田は窮地に追い込まれた。
 次の塚田の投球で、万が一倒れないピンがあったら、一体どうすれば良いのか?
 「谷田、絶体絶命!タニダ、どうする?」
 と、ピンの弾ける音で耳がバカになってしまっている谷田はヤケになって、大声で叫んでいた。

 川島は14レーン迄の観察を終えると、自分のレーンに戻ろうとしていた。
 その時、何か嫌な気配を感じた彼は、それまでまるで意識してなかったフロアの片隅にある喫煙ブースを見た。
 そこには、12レーンにいる筈の鍵先がボーッと、何故か不思議な笑みを浮かべ、視点の定まらない目で川島を見ていたのだ。
 川島にはそう見えていた。
 しかし、鍵先は、川島を見ていた訳ではなかった。
 実際には、鍵先は1レーンを取材しているスタッフを見ていたのだ。
 たまたま、その視線の間に川島が入ってしまっただけなのだ。
 蛇に睨まれたカエルとはこういう事を言うのだろう。
 悲鳴を上げる事も出来ずに、ウヒャーという表情で顔を引き攣らせながら、ゆっくりと鍵先の視界から外れるように振り返った直後だった。
 鍵先はバタンと大きな音を立てゝ喫煙ブースのドアを開けて出てきた。
 (来た来た・・来ちゃったよ)
 背後に鍵先の荒い鼻息を感じ、川島は首を竦めながらも、震える足で少しでもその場から離れようと必死だった。
 鍵先にとっては、取材陣の神野達にちょっかいを出す為に1レーンに向けて歩いているだけなのだ。
 川島は、その場の状況をつかめずに、一人相撲を取っているだけだった。
 次の瞬間、川島は恐怖のあまり、足がもつれてしまい、ボールラックに手を付きガクッとへたり込んでしまった。
 鍵先は、元々川島の存在が眼中に無かったので、何も無かった様にその横を通り過ぎていった。
 川島は、ホッとするも、それ迄の恐怖からまだ立ち直れないでいた。

 鍵先は、お目当ての神野に近づくと、早速ちょっかいを出す。
 「ヨー、ネーちゃん、これから俺と呑みに行かないかなー、もう仕事切り上げちゃいなさいよ・・・」


 14レーンの佐藤に井上が囁いた。
 「アイツ、撮影スタッフに、なんか絡んでますよ・・アララ、女性に迫ってるし」
 「まいったな、もうじき犯人の指定時間になるし、その前に騒ぎを起こすと、取り逃がす事になるぞ」
 その時、都筑が戻って来て、佐藤に小声で指示を出す。
 「良いぞ、アイツこのフロアから強制排除しろ、うまく言葉で納得してもらえないようなら、それなりに・・手段は佐藤君に任せるから」
 「良いんですか?」
 「支配人に確認済みだ・・あの男、最近駅前に開業した不動産屋だそうだが、商店街でも問題を起こしてる札付きらしい」
 佐藤は、井上に目配せすると腰の手錠を確認しながら立ち上がった。
 都筑が二人に念を押す。
 「目立つなよ!・・極力、周りに気付かれないように」
 行きかけた佐藤は振り返り、
 「ハイッ、それなりって事で、任せて下さい」
 佐藤は、どうやらこういった事に異様に燃えるタイプらしかった。不敵な笑みを浮かべてる。
 それを見越して都筑が釘を刺す。
「お前、ちょっとやりすぎる傾向があるから慎重にな!」
 
 
 ボールラックの側で、何故か身もだえている川島の横を、佐藤と井上は素早く通り過ぎた。
 川島は、倒れた時に腰を捻ってしまったようで、一寸した振動にも敏感になっているようだ。
 佐藤と井上の行動は迅速だった。
 その場に到着するや、有無をいわさず、力づくで両脇から鍵先を抱きかかえると、そのままカウンター後ろの事務所の中に消えた。
 支配人の多田も協力して、ドアの開け閉めを手伝っていた。
 鍵先が、一瞬抵抗して手足をバタバタと動かしたが、有無をいわせない佐藤と井上の腕力の前では、なす術も無かった。
 数分後には、殺風景な事務所の中に、後ろ手に手錠をかけられ、事務椅子にがんじがらめに拘束されている鍵先の姿があった。
 その口には、センスの無いヒョウ柄のネクタイで猿ぐつわが咬まされていた。
 

 正義のいる11レーンから1レーンは、かなり離れていたが、正義にはその様子が十分に認識出来ていた。
 佐藤達、刑事の動きは機敏で速やかな物だったが、正義の鋭い感覚は自分への危険を察知していた。
 その危険察知能力があったからこそ、今まで正義は捕まる事無く、警察の手から逃げ延びて来たのである。
 
 
 引き上げる途中の佐藤と井上、そして14レーンで投球を終えた都筑、3人の刑事のスマホが同時にメール着信を知らせるバイブで震えた。
 佐藤も井上も、そして都筑も即座に自分のメールを確認していた。
 そして、次の瞬間、3人の視線は、正義の姿を追っていた。
 
 そう、都筑達、張り込みの刑事達が追いかけている詐欺犯のメンバーとは、正義だったのである。
 
 プロボウラーへの夢が破れ、生まれて初めて挫折を味わった正義は、悪の道に手を染めていた。
 さらには、ボウラーズ No.1という、彼にとって一番不本意な名前を、付けられてしまっていたのだ。
 今の彼は、詐欺グループの中で、主に〝受け子〟と呼ばれる役割を任されていた。 
 数時間後には、このボウリング場で、被害者である警察の協力者から、お金を受けとる事になっていたのだ。
 彼がボウリング場を好んで犯行の場所に選んでいたのは、防犯設備の整っていない古い施設が多いという理由もあったが、それよりも、ただ正義がボウリング好きだったというのが一番の理由だった。
 
 その時、バックヤードでは谷田の身にさらなるアクシデントが起きつゝあった。
 塚田の10フレームの一投目では、⑤番ー⑩番のスプリットが残りそうになり、谷田は、やけくそ気味に手をガムシャラに動かし、払い倒したのは良いのだが、再びバランスを失い、今度は顔から逆さまに落ちかけてしまった。
 不幸中の幸いというか、谷田の姿が一瞬ピンデッキの背後に見えたのだが、鍵先のドタバタで、取材スタッフとギャラリーは、一瞬そちらに気をとられ、ピンアクションの瞬間を見ていなかったのだ。
 間一髪でセーフだった。
 それでも一人だけ、家族連れの内の幼稚園、年少組の男の子が、一瞬その光景を見ていて、母親に何か言ったのだが、相手にされなかったようだ。
 そして、さらに続く二投目。
 谷田は、身体のバランスを崩さない様に両手で機械の枠をつかみ、今度は足でピンを倒そうと待ち構えていた。
 塚田の投球はストライクだった。
 しかし、谷田には⑦番ピンが残りそうに見えていた。
 条件反射もあったのか、身体が勝手に動いてしまっていたのだ。
 両手でしっかり支えて身体を深く落とし込ませ、足をおもいきり延ばしていた。
 倒そうとする⑦番ピンに足が届こうとしたその時だった。
 ピンアクションで⑦番ピンが倒れてしまったので、足が空振りをした拍子に身体が機械の隙間にスッポリとハマってしまった。
 谷田の足がピンデッキの上に丸見えになってしまったのだ。
 
 谷田は身動きが取れなくなっていた。
 
 白いスラックスで白いシューズなので、ピンに見えない事は無いが・・いや、やはり足にしか見えなかった。 
 カメラの液晶モニターを覗いていた黒山が最初に、そのトラブルに気付いた。
 口を開けたまま、そのあまりにも非現実的な画に、しばらく口をあんぐりと開けたままでいた。
 塚田老人は、というより中の人である亀太郎は、谷田の姑息な疑似ストライクの裏工作が始まった時から気付いていたのだが(とうとうやらかしたな)と冷めた目で失笑していた。
 
 楽しかった孫とのボウリングも、後一球を残して中断してしまったのだ。
 ようやく、ありえない物が見えているピンデッキの状況を把握し、驚いている大輝の横に塚田は腰掛けると、大輝の大きな手の上に自分の手を重ねた。


 「ダッ、誰か助けてーっ!」
 あらぬ場所から聞こえてくる谷田の悲鳴に、近くのレーンにいたギャラリー達が、
 「何あれ、インチキじゃない」と、呆れたような声を上げた。
 事故に対する同情の声は、まるで聞こえなかった。
 
 カウンターの多田は、自分の考えた事とは言え、その不測の事態に普段の冷静さを失っていた。
 谷田を助けにいかなければいけないという頭があるので、あわてて第1レーンのスイッチを切り、バックヤードに向かおうと走りだした。
 しかし、その際に、自分の肘が使われていない第10レーンのスイッチに触れてしまった事には気付かなかった。

 そのアクシデントをよそに、そこからは離れた場所にある第9レーンのママ友グループのゲームは、盛り上がりをみせていた。
 広美に続き亜利、と連続でストライクが出ていた。
 愛子もそれに負けじとストライクを出す気満々でボールを顔の高さまで持ち上げ、投球スタンスをとっていた。
 愛子を応援する「頑張れ」という二人の声援に応え、「やってやるわよ!」と鼻息も荒い。
 そんな母親達の興奮状態の中、愛子の息子である俊は先程より、昼寝から目覚めていた。
 それどころか、その興奮が伝染したように、ベビーカーのガードを乗り越えて外に飛び出していた。
 カウンターの多田が誤って、10レーンのスイッチを入れたのと同時だった為、ピンデッキの照明が点灯し、俊の注意を余計に引いてしまったようだ。
 彼の脳裏には、昼寝前に見ていた、ボールに勢い良く倒されるピンのイメージが焼き付いていた。
 
 母親の投げるレーンのすぐ隣にある照明の点いた10レーンのピンに向かって、俊は走り出した。
 彼は自分がボールになったつもりで、ストライクをとるつもりなのだ。
 俊の母親は、まだその事に気付いていなかった。
 大人3人の目は、9レーンのピンだけを見ていた。
 
 一番先に、それに気付いたのは11レーンの正義だった。
 刑事達の存在に気付き、自分の逃走経路を探っていたところ、10レーンの異変に気付いたのだ。
 しかし、隣で投げている母親がいくら何でも気付くだろうと考えたのと、自分はこの場所から逃げなければいけないという考えが、正義の判断を遅らせた。
 愛子はリターナーからボールを持ち上げスペアを取るために、二投目のアプローチに上ろうとしていた。
 顔を上げた瞬間、自分の視界に入った隣のレーンを走る息子の姿に気付くが、あまりの想定外の出来事に、呆然として、その場に立ち尽くしてしまった。
 ボックスの二人も固まっていた。
 愛子の手からボールがドスンと落ちた。
 
 「誰か止めてーっ!」
 叫んだのは、13レーンのリルリルだった。
 
 「クソッ!」
 正義はボールをその場に放り出し、自分のレーン上を走り出した。
 俊は、その間にも「シュッ、シュッ、シュトライプ! シュッ、シュッ、シュトライプ!」と、暴走機関車のようにピンに向かってまっしぐらに走り続けていた。

 正義の動きを注視していた都筑は、何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
 普段なら、まず容疑者の逃走経路を予測して犯人確保に向かうのだが、正義の向かった先は出口とは正反対の方向だった。
 部下の佐藤と井上は、逃げる物を追うという身に染み付いた刑事の条件反射で、状況を把握する事無く飛び出していった。

 正義は11レーン上を走っている。
 刑事の佐藤と井上も同様に正義の後を追いかけた。
 その頃には、他の人々も10レーンで起きている異変に、気付き始めた。
 川島と高校生達、
 カップルの水樹と仁志、
 中山と須田、
 取材の神野と黒山、
 しかし、誰もが見守るだけだった。

 塚田はムンという気合いを発すると目を閉じて動かなくなった。
 「どうしたのお爺ちゃん?」
 大輝が塚田に声をかけるが、塚田は目を閉じたままだ。

 リルリルの叫び声に反応して、ビッグ・ジュンは振り返った。
 その目は異様に光り輝いていた。
 そして、アプローチを13レーンから10レーンに、慌てる事なく素早く移動していた。
 常日頃から、そのゲームメイクでも冷静沈着さが評判の彼らしい動きだった。
 その躊躇無い動きは、何かに取り憑かれたようでもあった。
 
 その時、人々の「アーッ」という叫びとも悲鳴ともいえないどよめきが起きた。

 大人の足なら、すぐに俊を捕まえられると思われた正義の動きだったが、レーンのオイルに足を取られ、バランスを崩していた。
 レーン上は、かなりの量の油が塗られているのだ。
 正義は体勢を崩しながらも、隣のレーンの俊に必死で手をのばした。
 しかし、その瞬間、正義の後を追う佐藤の手が正義の足を掴んだ。
 同じように、足を取られた佐藤は倒れこみながらも必死に正義の足にしがみ付いたのだ。
 正義は転倒し、その手は俊を捉える事なく虚しく空を切った。
 
 その一連の行動から、都筑は正義の目的にようやく気付き、叫んだ。
 「子供!井上っ、子供だ!」
 都筑は後続の井上に指示を飛ばす。
 
 井上は、倒れた佐藤の体を踏み台にしてさらに前進したのだが、今度は正義の体に躓き、頭からダイビングするように倒れこんだ。
 その手も隣のレーンの俊に届くことはなかった。
 さらに打ち所が悪かったらしく、井上は唸り声を上げると、その場に蹲ってしまった。
 
 俊は、そんな大人たちの奮闘を余所にヨタヨタと頼りないが、速度を増し、転ぶ事無く、さらに走り続けていた。

 その間に、ビッグ・ジュンは移動途中に拾った正義のボウルを右手に、9番レーンの愛子が落としたボールを左手に持つと、俊の走る10番レーンに素早く投球を開始した。
 その際、微妙な加減で、右手よりも左手のバックスイングをやゝ大きめにし、さらにリリースも遅らせ気味にした。
 
 「キャー!」
とママ友なのか、女性の叫び声が近くで聞こえた。
 
 ビッグ・ジュンの投げたボールは、夫々レーンの端を進み、俊に当たる事無く、追い越していった。
 最初のボールが隣のレーンに倒れこんだ正義の目前を通り過ぎた時から、正義は間近で繰り広げられるその奇跡の一部始終を目の当たりにしていた。
 
 投球者から約18メートル離れているピンの直前で、まずは、先行気味に右側を通過したボールが、左方向に急角度でフックが掛かり、ポケットに吸い込まれた。
 すぐさま、左からのボールも、右に切り込んでいった。
 しかし、ビッグ・ジュンはなぜか、さらに続けざまにもう一投、投球していた。
 無意識にビッグ・ジュンを追いかけて来たリルリルの抱えていたボールを素早く取り上げると、超高速で投げていたのだ。
 まさしく〝目にも止まらぬ速技〟というのは、この事だろう。
 
 再び場内に悲鳴が響く。
 俊が、ピン直前で倒れこんだ。
 しかし、その惰性とオイルのせいで、彼の軽い身体は、ピンに向かいスベリ続けた。
 それは、第一投のポケットヒットによる最初のピンアクションに続き、二投目のボールによって、その軌道を変えられた一本のピンが、マシーンの内側上部に取り付けられているピンセッターの停止スイッチを押すのと同時だった。
 そして、オイルの切れたピンデッキに体を半分突っ込んだ形で、ようやく俊の身体は、止まる事ができた。
 直前のダイナミックなピンアクションでほとんどのピンは背後に弾き飛んでいたが、その余勢で、デッキの上を最後まで高速で回転していた一本のピンが、彼の鼻先でピタリと静止した。
 
 人々が「ホッ」と安堵するのも束の間、次の瞬間だった。
 ピンを払う為のスイープ・バーが俊の頭を目がけて落ちて来た。
 
 誰よりも近くからその光景を見ていた正義は、自分でも思いも寄らない言葉を心の中で叫んでいた。
 「神様助けて」・・
 
 その時、スパンと音を立てて、レーンとスイープ・バーの間に挟まったのは、俊の頭では無く、それをガードする為に投げられたビッグ・ジュンの三投目のボールだった。
 
 一部始終を見ていた場内のギャラリーは、歓声を上げるどころではなかった。
 そこで起こった奇跡に驚くよりも、ハラハラドキドキの連続に疲れてしまっていたのだろう。
 場内は一瞬の静寂に包まれていた。

 ゆっくりと立ち上がった正義の視線の先にはプロボウラーのレジェンド、ビッグ・ジュンこと矢島純一の姿があった。
 その性格無比なボールコントロールを文字通り目の当たりにした正義は、思わず呟いていた。
 「ボウリングの神様がいた・・」 
 
 レジェンドの神技を見て、正義は忘れかけていた自分の夢を想い出していた。
 「そうだ俺の夢は・・いったい俺は何をやってるんだろう?・・」

 母親に抱きかかえられた俊の笑顔を確認すると、やっと一息つけたのか、場内の人々のビッグ・ジュンを讃える賛辞の声が、拍手と共に沸き起こっていた。
 中でも一番感激して派手に拍手をしているのは川島だった。感動のあまり涙まで流している。 
 高校生のグループは、リーダー格のショウを始め、他の3人も、間近で見たバーチャルではない現実の出来事、本物の技に興奮を隠せなかった。
 ショウが真っ先に叫んだ。
 「スゲー! マジ、プロ技、スゲー!・・」
 「まさに、神!」
 「ヒーロー! まるでアベンジャーズ」
 仲間も数少ないボキャブラリーで、彼らにとっては最高の賛辞を贈った。
 
 水樹と仁志は、あまりの劇的な展開に興奮して、思わず抱き合って喜んでいた。
 ふと、冷静になり身体を離そうとしたが、水樹は力任せに仁志を抱き直し、叫んでいた。
 「コレよコレ、私が望んでたのは・・もう離さないんだから!」
 「ミズキ!」
 仁志の方も、顔を真っ赤にして、何か叫んでいる。
 「ミズキ・・・先輩・・クッ苦しい・・イタイっす・・」
 
 
 そんな中で、もうひとつの奇跡が起こっていた。
 「ウウーン」
 塚田は目を開けると、自分を心配そうに覗き込んでいる大輝に笑顔を見せた。
 
 大輝は嬉しそうに塚田の手に自分の手を重ねていた。
 電源の落ちた一番レーン横のスタッフ通路を、多田に肩を貸してもらいながら痛々しく助け出されてくる谷田を遠目に見て、
 「良かったら最後、こっちのレーンで投げてみたら良いよ」
と、自分の投げていたレーンを指差す。
 
 塚田はニコリと笑い、大輝のレーンで最後の一投を投げた。
 ゆっくりとしたボールだが、しっかりとポケットをついてストライクになった。
 ハイタッチをする二人の姿が大輝の子供の頃の姿と亀太郎の姿に変わっていた。
 
 「お爺ちゃん、やったね」
 「ああ、次はお前の番だぞ」
 「うん、わかった」
 大輝は、自分の情けなさを恥じた。
 「だからお爺ちゃんは、心配になって僕の為に・・」
 亀太郎は、大輝の背中を押した。
 「最後にお前の投げる姿を見たいな・・」
 子供の大輝は答える。
 「ウン、そこで見ていてね!」  
 ボールをかまえた大輝は、大人の姿に変わっていた。
 
 しっかりと狙いを定め、投球をする大輝の表情からは、このボウリング場に足を踏み入れた時のあの迷いは、全て消し飛んでいた。
 (いつもお爺ちゃんはボクの側にいてくれてるんだ・・)
 ダイナミックに投球する大輝の姿からは自信に溢れた力強さが感じられた。
 まさに割れんばかりの豪快なピンのヒット音が響き渡った。
 笑顔で戻って来た大輝は、塚田老人の笑顔に迎えられた。 
 「お相撲さん・・凄いな、見事なストライクだった!」
 大輝は、ふと空中を見上げると、呟いた。
 「お爺ちゃん、ありがとう!」 
 
 佐藤と井上の両刑事に腕を掴まれ自分のレーンに戻って来た正義を都筑が迎えていた。
 正義は観念した様に、都筑に話しかけた。
 「刑事さん、オレはどこにも逃げたりしませんよ、解ってます・・」
 「お前、あの子を助けようとしたのか? 逃げようと思ったら逃げられたのにな・・」
 佐藤が正義に手錠をかけようとした時、都筑が制した。
 「一寸待て、最後の一投、投げさせてやれ、ケリがつかないだろ」
 「さすが刑事さん、ボクの性格をわかってらっしゃる」
 正義は最後のボウリングだとばかりに、時間を駆けてボールをタオルで拭いた。
 彼は先ほどまでのゲームで、10フレームの二投目を既に投げ終わり、スペアを取っている。
 最後の三投目でストライクを取れゝば、ダッチマンのゲームが成立する。
 
 正義の投球は、いつもと変わらない、基本に忠実なきれいなフォームだった。
 そして、彼の回転の良いボールは、綺麗なフックがかかり、ポケットに吸い込まれていった。
 爆発的なピンの破裂音が響き渡る。

 ①番ピンから次々とピンアクションの連鎖が起こり、激しいピンアクションが繰り広げられる。
 
 だが・・・しかし、レーンのオイル状態が微妙に変わったのか、僅かにボールのポケットへヒットする角度が変わったのかもしれない。
 
 ⑩番ピンだけが微動だにせずピンデッキに残っていた。
 
 しばらくの静寂の後、スイープ・バーが、残ったピンを奥へと掃き落とした。
 
 「⑩ピン、タップ・・ラインは悪くないと思ったんですけどね! 刑事さん、コレがオレの人生なんすよ・・」
 自嘲気味な笑いを浮かべ、正義は同情でも買おうとしたのだろうか、自分で自分のゲームをそんなコメントで締め括った。

 「あの、もうひとつ、お言葉に甘えて、一寸トイレに行って来てもイイですか、」
 「ア?アァ行ってこい、今更急いじゃいないさ、そのぐらいの時間は十分にあるよ」
 〝オイ〟と佐藤にトイレまで付いて行くように促し、都筑は二人を見送った。
 
 ゴトゴトンとリターナーに戻って来たボールをポンと叩き、都筑は呟いた。
 「これまで続いたノーミスゲームも、たった一投のミスでオジャンか?・・人生、そううまくはいかねえってことか・・」

 人々の歓喜は続いていたが、フロアーの端にある通路ではピンセッターマシーンから助け出された谷田が救急隊員の押すストレッチャーに乗せられて運び出されていた。
 取材スタッフの黒山は、何故か、その様子まで撮影し続けていた。
 「支配人、これ労災おりますよね?」
 傍で心配する多田は頷き、さらに弁解するように、
 「谷田君、今回の事は、私の指示では無く、君の意思でやったことにしてくれないかな・・パワハラとかモラハラとか、そんなんじゃないから」
 「パワハラ?モラハラ?ですか?・・」
 それまで足の痛さに顔を歪めていた谷田は、黒山のカメラに向かい何故かニヤリと冷たい笑いを浮かべた。

 トイレの外で待っていた佐藤は、正義がなかなか出てこないので、
 「オイ、そろそろ行くぞ!」
 と、声を掛けながら中を覗いてみた。
 しかし、そこには、正義の姿は無かった。
 事前に佐藤が確認した筈の、突き当たりの窓の格子戸が外されていた。
 「エエーッ」
 と間の抜けた奇声を発して、トイレに駆け込み、窓から外を見ると非常階段に向かう踊り場を駆けていく正義の後ろ姿を見つけた。
 窓から、正義を追いかけるために出ようとするが、スリムな正義と違ってガタイの良い佐藤の身体は、どうやっても抜ける事は出来なかった。
 もう一度「エエーッ」と叫ぶとトイレから勢い良く飛び出していった。
 
 佐藤の報告を聞いた都筑は、その失態に呆れながらも、ジャケットを掴むと、一言呟いた。
 「ホント、最後くらいは、ストライクでビシッと決めたいもんだぜ!」

 
 

 それから3年の月日が流れた。

 まだハッピイボウルは、相変わらず細々と営業を続けていた。
 どうやら、ワンマンオーナーは、健在なようだ。
 
 相変わらずスタッフは多田と谷田の二人だけだった。
 しかし、良く名札を見ると、多田と谷田の役職は逆転していた。
 権力を手にした弱者ほど怖いものはない。
 次から次へと、雑用を多田に命じる支配人谷田の生き生きした姿がそこにあった。
 
 そのカウンター横には豪華な飾り棚が新しく設けられており、レジェンド・プロボウラー、ビッグ・ジュンが本場アメリカのシニア大会で優勝を果たした記念楯と満面の笑みの写真が飾られていた。
 
 トリテキの大輝は〝大輝山〟の四股名で幕下優勝を果たし、十両に昇進していた。
 次の場所では幕内への昇格も期待されていた。
 因みに、彼の化粧回しはタニマチとなったハッピィ・ボウルから寄贈されたものである。
 
 そして、あの日ハッピイ・ボウルから逃走した正義は、オレオレ詐欺などの悪事からは足を洗ったようではあるが、警察の指名手配は続き、その消息は一向に掴めていなかった。
 
 日本全国を巡り、オレオレ詐欺の専従班として捜査を続けている刑事の都築は、他の捜査の合間に正義の存在を気にかけているようだ。
 今日も地方への出張中に、地元のボウリング場に足を運び、正義の情報を求めていた。
 いつものルーティーンでカウンターで正義の写真を見せた都築は、首を振るスタッフにさらに質問を重ねる。
 
 「ところで、今、レーン空いてる?・・シューズは、僕マイ・シューズ持ってきてるんで、レンタル無しで・・ウン、宜しく!」
                         
           ハッピイ・ボウルの奇跡   〈終わり〉
            
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