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31話 ようこそ研究所へ!
しおりを挟む「ソフィアちゃん会いたかった!!」
次の日。
ルヴァイス様に紹介したい人がいるといわれて、私の部屋の衣装クローゼットの中から現れたのは初日に会った赤髪の男の人だった。
いつもは衣装しか入っていない普通の衣装クローゼットから、その人はひょいって現れるなり、私の手を握って目を輝かせる。
ど、どうなってるんだろう?
私がクローゼットの中を覗こうとするのを赤い髪の人に視界をふさがれる。
「俺の名前はジャイル。研究の所長をしている。君に会えるのを心待ちにしていたよ!」
手を握ってぶんぶんっされる。
「あ、あー?」
私が固まっていると
「ジャイル、この子は人見知りが激しいと教えたはずだが」
ルヴァイス様がジャイルさんの襟袖をつかんで私から引き離した。
「そういわれても!?
10日以上も待たされたんだぞ!?」
「その間に送った植物の研究はさぞかし進んだことだろう?」
ルヴァイス様がジャイルさんに言う。
「当たり前だ!送られてきたサンプルは余すことなく調べた!!
遺伝子情報を掛け合わせるなんて聞いたことがない。それを可能にしてるんだ!!」
ジャイルさんが目を輝かせた。
『いでんしじょうほう?』
よくわからなくて私は隣にいたテオさんに聞くと
「生物を司る情報とでもいいましょうか。
これからジャイル達に習うことになります」
笑って答えてくれる。
「ソフィア、これからは毎日朝食が終わり、夕食までの間は研究所に行ってもらうことになる。
こちらのことは気にしなくていい」
ルヴァイス様がそう言いながら頭を撫でてくれた。
「そうそう。あそこは竜人の半聖域で先代の国王が特別な手段で作った研究所だからな。
世間から半分隔離されている地下にある。
竜神官達がおしかけてくることもない。
ルヴァイス様が竜神官達に内緒にしている秘密基地みたいなもんさ。
そこで俺たちは長年【聖気】の必要のない作物を作る研究をしているんだ」
そういってジャイルさんが説明してくれたのは、なぜこの世界の植物が【聖気】を過剰に必要として育つようになったかの歴史だった。
聖女の教育でも教えてくれない、人類が隠してしまった真実。
そもそもこの世界の人間が食することのできない木々や草などは、人間や竜人が食べる植物ほど聖気を必要としていない。
とっても少ない聖気で育つことができるの。
でもなぜか食べ物のなるものだけはたくさんの【聖気】を必要とする。
なぜ【聖気】が必要なのか。
それは1000年前の【降魔戦争】が原因。
神と古代の子(エルフ)と聖獣と、天界から神々から逃れ降りてきた魔族との闘いのせいだった。
魔族と神と古代の子と聖獣は地上で争い、地上は荒廃してしまった。
植物すら育たない荒れ地に。
そこでエルフたちは魔族を天界へと追いやり、地上が荒れないように天界で魔族と戦っている。
そして聖獣たちは荒れた地上をもとに戻すために、【瘴気】に侵され植物すら育たなくなってしまった世界を、自らの力を振り絞って【聖気】で満たしたの。
聖獣たちのちからで地上の瘴気は聖気で打ち勝つことができたのだけれど、今度は世界は【聖気】が過剰になってしまった。どんなに体にいいものでも過剰にとれば、それは毒になる。人間や生き物が生きるのに【聖気】も【瘴気】もどちらも必要なんだって。
そこで地上に残ったエルフたちがとった行動は【聖気】を過剰に必要とする作物を育てて、世界の【聖気】をなくし【瘴気】と【聖気】のバランスを戻すことだった。
いまある作物はエルフたち失われた技術【錬金術】で作った新種。古代の作物はもっと少ない【聖気】で育つ作物だった。
そしてなぜこの歴史が、聖女の教育でも、人間の世界の歴史書でものっていないのか。
それはこれから後におこる出来事が理由だった。
人間たちは豊穣に実るエルフたちの作物を強奪してしまった。
地上に残ったエルフたちは人間の行動に激怒して天界へと去ってしまう。
本来地上を守るはずだった役目のエルフは人間と世界に見切りをつけてしまったの。
そして人間たちの育てた過剰に【聖気】を必要とする作物は、過去に聖獣たちが満たした【聖気】を吸い尽くし、今は聖女や竜神官に頼らないと作物が育たないいびつな状態になってしまったの。
人間達は長い歴史の中でエルフたちから作物を奪い取ったことを隠匿してしまい、そして本当に忘れてしまった。知っているのは竜人の国のごく一部。
ルヴァイス様やジャイルさんといった、今の世界に疑問をもつごく一部のひとだけらしいの。いくら世に広めようとしても竜神官やリザイア家がその事実を握りつぶしてしまうらしい。
『じゃあ昔の作物を作り出せば、【聖気】のいらない植物ができる?』
私の質問にジャイルさんは大きくうなずいた。
「もちろんさ! 君の力はそれだけの可能性を秘めている!
なんたって失なわれた【錬金術】の【錬成】ができるんだ!」
そういって手を握られる。
「ではあとは任せたぞ。ジャイル。テオ」
ルヴァイス様がそういうと、ジャイルさんとテオさんが頷いた。
「任せてくださいよ。ちゃんと夕方には連れてもどりますから」
そう言ってジャイルさんは私の部屋のクローゼットをあけた。
「それじゃあ行こうかソフィアちゃん」
『行く?』
私が?マーク浮かべるとジャイルさんがにかっと微笑んでクローゼットの中に足をいれるとずぼっと何か魔法陣の中にはいった。
「転移の魔法陣です。ここから研究所に移動できます」
テオさんが言ってくれた。
「ここからラボに通じるようにしたんだ。さぁ行こう!」
そう言ってジャイルさんが私に手を差し伸べてくれて、私はその手を握りしめた。
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