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1章 異世界に召喚されました

25話 魔族

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 そこは不思議な空間だった。
 白と黒の空間のその狭間。
 おそらくここが精神世界。

「タスケテ……イタイ……クルシイ……」

「コロネサン……コワイヨ……サムイヨ……ナンデタスケテクレナイノ?」

 目から血の涙を流しながら必死にコロネの足にすがりつく元プレイヤーとその仲間たち。
 私が駆けつければ、白い空間からコロネを引きずり下ろそうと、元プレイヤー達が怨念の言葉を吐きながらコロネの足を引張いっている。

「うっ……ぐっ……」

 コロネもなんとか白い空間の端をつかんで引き込まれないようにしているが、その手からは血が滲み、表情的にも限界に見えた。

「コロネッ!!」

 私がガシッと手を掴めば――コロネが驚きの表情でこちらを見やる。

「……その声は……猫様……?」

 呆然とコロネがこちらを見つめた。
 うん。そりゃそうだ。何故か姿が女の姿に戻っている。
 どうやら精神世界では魂の性別が優先されるらしい。
 
「そうっ!!」

 私が言いながらコロネを引き上げようとする。が、元プレイヤー達の怨霊も負けじとコロネを引っ張る力を強めた。

「何故っ!!何故きたのですか!!精神世界に来てしまえばもう助からないっ!!」

 コロネが絶望的な声をあげ――その声に怨霊達が笑を浮かべた。
 あああ、ダメだ!!

「アホっ!!精神世界でそういうマイナスイメージもっちゃだめ!
 マイナスイメージもつと本当にそうなるからっ!!
 助かるっていったら助かるっ!!!」

 そう、精神世界でマイナスイメージは負けフラグと漫画やアニメのお約束なのだ。
 何事もポジティブにいかないといけないのだよポジティブに!

「しかしっ!!私のために猫様の命を危険に晒すなどっ!!
 ご自分の命をなんだと……」

 まだ何か言いかけるコロネに

「ああああ、うるさぁぁぁい!!
 コロネは大事な仲間って言ったでしょ!!!
 仲間がピンチなのに放っておける奴がどこにいるのよ!!
 そもそも人庇ってこんな状態になった人にそんな事言われても全然説得力ないんですけど!!

 自分の命が危ないからって助けるなっていうならそもそもコロネの方でしょ!
 黙って助かることだけを考えなさいっ!!」

 言って私がさらにコロネを引っ張る力を強めようとした時。
 怨霊達の表情に一瞬躊躇が生まれる。

 ――ああ、もしかしてこの子達……。まだ意思が少し残っているのだろうか?

 しかし、ひるんでくれたのだ、今がチャンスに違いない。

「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 私は気合とともにコロネを引っこ抜くのだった。


 △▲△

「おしゃぁぁぁぁ!!見たか!!田舎のおばあちゃんの家で大根抜きの天才といわれた私の実力を!!」

 コロネを引っこ抜いて地上にひっぱった私はそのままガッツポーズをとってみせる。

「だ、大根……ですか」

 ゲホゲホと咳き込みながら、地上に這い出したコロネが情けない声をあげた。
 うん。どうやら大根扱いされたのがちょっとショックなのかもしれない。
 そんな事を考えていると
 
 ガシッ

 光と闇のその境目から手が伸ばされ――

 先程のプレイヤー達の怨霊だろうか?複数の顔をもった巨大なオークのような物が這い出してくる。

「ちっ!!コロネッ!!」

 私はそのままコロネの手首をつかんで私の後ろにほおり投げ、鑑定でレベルを測定しようとするが……。

 ……。

 ………。

 …………。

 あれ?おかしい。鑑定のスキルが発動しない?

 私が疑問符を浮かべていると、

「この世界ではスキルは全て使用不可能だ」

 私の疑問に、誰かが答える。
 私が気配を辿って振り向けば、そこには真っ白な空間に浮かぶ人影一つ。
 その肌は黒く、背中には禍々しい翼が生えている。

 そう、そこにいたのは漫画やアニメでお馴染みの魔族だった。

 

 △▲△

 気をつけろ。魔族は本当の事は言わない。
 気をつけろ。だが全て嘘ではない。

 彼らは巧妙に嘘と真実を織り交ぜる。

 精神世界では嘘が誠となり誠が嘘となる。


 どこかのダンジョンで、名もなき冒険家が壁に落書きした言葉。

 あの時は、でた中二設定!とワクワクしながら読んでいたが、魔族本当にいたんだ。
 ゲームではまだ魔族は未実装だった。

 まぁ、罠だから何かあるとは思ってたけど、魔族となると、こいつも女神関連なのだろう。
 隣のコロネが構え、詠唱をはじめた。

 うん。さすが、状況判断がはやい。

 しかし魔法を発動しようとし――ぽしゃる。

 コロネが仰々しいまでの詠唱をして、魔法を放とうとしたのだが、魔法は発動しなかった。
 結局そのせいで、なんだかすごそうな独り言を言って、杖を振ってるだけの怪しいおっさんと化しただけたったのだ。

「馬鹿なっ……魔法が使えない!?」

「諦めろ、エルフと人間よ、貴様らでは我らに勝つことは不可能。
 この精神世界は我々魔族の世界。ここではレベルも1となり、魔法もスキルも使用不可能だ」

 と、わりと絶望的なセリフをはく。

「……なっ!?」

 コロネが息を飲むのがわかった。
 そりゃ、レベル1で魔族相手じゃどうしようもできないしねぇ。

 ――まぁ、それが本当の話だったらの話だが。

「コロネ。信じたらダメ。
 そいつの言っている事は全部嘘。レベルも下がらないし、スキルも全部使えないわけじゃない」

 私が言えば、魔族が表情一つかえずに

「現実逃避か……そうやっていつまでも現実から目を逸らしていればいい」

 私の言葉に魔族が言う。

「あー。はいはい。ハッタリですね。わかります」

 言って這い出してきた、オークに私は視線を向けた。
 一応こっちの会話が終わるまで動く気はないようだ。つまるところ魔族に操られているのだろう。
 まぁ、もう油断はしないが。それなりに対策はとっておこう。
 私は視線を魔族に戻し。

「大体、本当にこっちのレベルが1ならとっくにあんたが攻撃してきて終わりでしょう?
 なんで攻撃してこないわけ?」

 私の言葉に魔族が目を細める。

 そう、本当にこちらのレベルが1なら話しかける事などせず、魔法でドッカーンで終了である。

 何故、それをしなかったのか。
 答えは簡単。しなかったのではなく、出来なかっただけ。

 恐らくだが、この魔族のレベルでは私に攻撃が効かなかったんじゃないだろうか。

 そしてダンジョンに書いてあった一文


―― 精神世界では嘘が誠となり誠が嘘となる ――


 たぶん、これが、漫画やアニメの中の精神世界ではよくありがちの、思い込んだら、本当にそうなるよーという設定。
 だから魔族は弱くなったとか弱体化したとか言わないでわざわざ「レベルが1になる」なんて具体的な事を言ったのだ。

 私のレベルを1にするために。
 
 大体、本当にレベル1になっているなら、コロネ片手でを持ち上げるなんて力業できるわけないし。

「精神世界って、どうせ思い込んだらそうなるよーっていう設定なんでしょ?
 弱くなるとか弱体化するとか言わずにご丁寧にレベルが1になるって、わざわざ具体的な数値をいったのもそのため。
 魔法もスキルも使用できないとか言ってるけど、そう思い込ませようとしたってことは実は全部使えないわけじゃない。
 恐らく一部の魔法とスキルが使えないだけ。違う?」

 私がドヤ顔で言うと魔族は押し黙る

「私たちに魔法もスキルも使えないと思わせるためにご丁寧にコロネの魔法は封じているようだけどね。
 わざわざこんな手のこんだことをしたのも、あんたのレベルじゃ私を殺せないから。
 でもレベル500間近のコロネには魔法を封じたりいろいろ出来るところをみると、レベル600くらいってところかな?
 恐らく、この山の結界を破ったのもあんたなんでしょ?」

 言って私はアイテムボックスから死神の鎌を取り出した。
 こちらも課金アイテムでレベル700台のBクラス武器だが、600レベルの魔族を倒すには十分だろう。

「……なかなかどうして。他のプレイヤー連中よりは頭が回るようだが、だがそれを見破っくらいでいい気になるなっ!!
 精神世界は我らの領分なのだっ!!」

 言って魔族が笑い羽を広げたその瞬間。

 グサァ

 魔族の羽から血が吹き出す。

「……なっ!?」

 魔族が驚きの声を上げた。
 そう、魔族の羽は私がおしゃべり中にこっそり張り巡らせたトラップの糸に引っかかったのだ。

「まさか、こっちが何も考えもせず、ベラベラ喋っていたとでも?
 敵を言葉で欺くのがアンタたち魔族の専売特許らしいけど。
 どう?逆にはめられる気持ちは」

 言って私は糸を絡めた指に力を強めた。
 
 ……正直人間タイプの魔族を殺すのに躊躇がないわけではない。
 が、先ほどそれでコロネを危険な目にあわせてしまったばかりなのだ。
 恐らく、ここに私とコロネを精神世界に連れてくるまでは完璧に魔族の思惑通りだった。
 最初からあの呪われた物体だけだったら、こちらも警戒して、精神世界に連れ込まれることもなかっただろう。
 だが、ラファをワンクッションとして置く事によって、こちらの警戒を解いたのだ。
 私はラファの件が片付いた事によってすっかり安心してしまっていた。
 間抜けだったというしかない。
 あちらはそれなりに私の性格を把握していたことになる。
 いままでの間抜けプレイヤー達と違いこいつは頭はいい。
 アニメやゲームのヲタ知識がそのまま通用したため今回は助かったにすぎない。
 こちらが油断すればすぐ立場は逆転する。
 だったら、さっさと殺してしまう他ない。
 相手が人間やプレイヤーならともかく魔族なのだ。

 コロネとリリを守る為なら――私はなんだってやってやる。

「き、貴様っ!!」

 魔族が憎悪の瞳でこちらを睨んだその瞬間

 魔族の身体は私の糸で粉々に砕け散るのだった。
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