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1.プロローグ
1.プロローグ 1
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「神官長!!助けに参りました!!」
金色の鎖でぐるぐる巻にされて、情けない姿で牢屋に放り込まれている、その男性――神官長に私は駆け寄った。
「レイナ……何故ここに?」
神官長が情けない顔で私に問う。
ここは魔の巣窟と言われる、サキュバスの住む洞窟。
神官や巫女などの、聖職者を誘拐しては、その生気を吸い取って養分とする魔物がすむ魔窟。
彼は村人をサキュバスから守るために闘い――そして捕まった。
はい。いつもの事です。
私は気にしていません。ええ気にしていませんとも。
「神官長の事ですから、またきっと何か揉め事に巻き込まれて捕まっていると思いましたので。
こうして助けにきた次第です」
「えっと……また捕まっている……ですか?」
情けない顔で抗議の声をあげる神官長に
「捕まってましたよね?サキュバスに今こうして捕まってましたよね?
普通に村に視察に行っただけで、本来ならすぐ帰ってこれるような仕事のはずなのに何故か捕まっていましたよね?
なにか反論はありますか?」
と、ギロリと睨むと
「はい……おっしゃる通りです。すみません」
と、しゅんと落ち込むような表情になる。
本当に――このお方はお姫様体質過ぎて困ります。
本来このお彼方は数百年に一度の逸材と言われ、ありとあらゆる悪霊を払い、世界に平和をもたらした英雄とでもいうべきお方なのですが……。
世に病気をまき散らす悪霊が消え、そこそこ世界が平和になった現在。
決して弱いわけでもないのに、何故か行く先々で誰かを人質に取られ、結局自分が誘拐されるという物語にでてくるお姫様も真っ青っぷりのお姫様体質なのです。
今日も、神殿の神官の一人に、『神官長は村に視察にいきましたよ』という言葉に胸騒ぎを覚えて、追ってみればこのざまです。
「あの、助かりました。ありがとうございます。
他の者は無事だったのでしょうか?」
心配そうに尋ねるこの人に私はため息をつきたくなる。
「はい。護衛や村の者は無事です。
ですが、神官長、人の心配よりご自分の心配をするべきでしょう?
確かに神官長の命の重さに違いはないという考えは尊重したいと思いますが……。
貴方が死んだら悪霊がまた世にはびこることになるんですよ?
他の者よりご自分を優先してください」
そう、綺麗事など言っている場合ではない。
この人が死んだら本当に世界に再び悪霊や病気が蔓延することになる。
「すみません、気を付けているつもりなのですが……」
「気を付けていて、かれこれもう10回ほど捕まっていますよね?
普通にありえない数字なんですけど?」
「はい。そのたびに貴方に助けていただいてますね。
ありがとうございます」
と、皮肉を言ったつもりなのに、何故かにっこりお礼を返される。
本当に――敵わない。
本来貴族出の30代男性が、屈託もなく平民出の20そこそこの女騎士にお礼など言うような事はない。
この人はそういう事を平気でやってのけるのだ。
「本当に感謝をしているなら、次からは捕まらないでください。
これ、前にもいいましたよね?」
「はい、次から気を付けます……」
がっくりと項垂れる彼に、私はため息をついた。
そして鎖を引きちぎると、彼を持ち上げる。
「ちょ!?私は自分で歩けます!!」
と、言ってはいるが、彼の足は、逃げられないようにするためだろう、骨折でもしてるのか足が歪な方向に曲がっている。
「嘘を言わないでください。骨折してるじゃありませんか!
歩くどころか立てないでしょう!
ああ、聖女様に治していただかないといけませんね。
これで聖女様に借りができますね。よかったですね」
「レ、レイナ……何か怒っていますか?」
「怒ってなどいませんよ?」
私は微笑んでかえした。
聖女様が神官長様の妻の座を虎視眈々と狙っているのを知っているのに、また借りをつくるとか。
この人はよほど聖女様と結婚したいらしい。
「私とアンテローゼとはそういう関係ではないのですが……」
「隠さなくてもいいですよ?
あれだけ毎日結婚してくれと迫られててお断りできないのですから、神官長もまんざらでもないのでは?」
私の言葉に神官長はうっと困ったような顔になる。
何か言ってあげるべきなのかもしれないが、イケメン顔の困った顔もなかなか目の保養になるので放っておくことにした。
「レイナは……私の気持ちは知っているでしょう?
貴方は意地悪です……」
と、私に抱かれた状態で、居心地悪そうに呻く。
――はい。知っていますよ?
だからこそ虐めたくなるんですけれどね。
「何の事ですか?」
ワザととぼけて聞いてみせると、神官長は困ったよな顔になり
「私は何度も告白しているつもりなのですが――。
いつになったら貴方に想いが通じるのでしょうか?」
と、手で顔を被った。
「そうですね。いつか誘拐される立場と助ける立場が入れ替わった時にでも告白していただければ」
私の答えに神官長は絶望的な顔をして
「ドラゴンをも単独で倒し、サキュバスの巣でさえも楽々と突破する貴方が誘拐される日が来ることなどないと思うのですが。
これはお断りの言葉と受け取っても?」
と、やや泣きそうな顔になる。
この人の困った顔は本当に可愛くてつい虐めたくなるのですが――。
少しいじめすぎたでしょうか?
「そうですね――では、せめて誘拐される癖を治していただいたら考えましょうか?」
私の返事に神官長は嬉しそうに顔をほころばせ
「はい。善処します」
と、にこやかに微笑んだ。
それから数日後――やはり、誘拐される事になるのですが……。
本当にこのお方はお姫様体質すぎて困ったものです。
まぁ、そこがまた放っておけない可愛い所なのですけれどね。
金色の鎖でぐるぐる巻にされて、情けない姿で牢屋に放り込まれている、その男性――神官長に私は駆け寄った。
「レイナ……何故ここに?」
神官長が情けない顔で私に問う。
ここは魔の巣窟と言われる、サキュバスの住む洞窟。
神官や巫女などの、聖職者を誘拐しては、その生気を吸い取って養分とする魔物がすむ魔窟。
彼は村人をサキュバスから守るために闘い――そして捕まった。
はい。いつもの事です。
私は気にしていません。ええ気にしていませんとも。
「神官長の事ですから、またきっと何か揉め事に巻き込まれて捕まっていると思いましたので。
こうして助けにきた次第です」
「えっと……また捕まっている……ですか?」
情けない顔で抗議の声をあげる神官長に
「捕まってましたよね?サキュバスに今こうして捕まってましたよね?
普通に村に視察に行っただけで、本来ならすぐ帰ってこれるような仕事のはずなのに何故か捕まっていましたよね?
なにか反論はありますか?」
と、ギロリと睨むと
「はい……おっしゃる通りです。すみません」
と、しゅんと落ち込むような表情になる。
本当に――このお方はお姫様体質過ぎて困ります。
本来このお彼方は数百年に一度の逸材と言われ、ありとあらゆる悪霊を払い、世界に平和をもたらした英雄とでもいうべきお方なのですが……。
世に病気をまき散らす悪霊が消え、そこそこ世界が平和になった現在。
決して弱いわけでもないのに、何故か行く先々で誰かを人質に取られ、結局自分が誘拐されるという物語にでてくるお姫様も真っ青っぷりのお姫様体質なのです。
今日も、神殿の神官の一人に、『神官長は村に視察にいきましたよ』という言葉に胸騒ぎを覚えて、追ってみればこのざまです。
「あの、助かりました。ありがとうございます。
他の者は無事だったのでしょうか?」
心配そうに尋ねるこの人に私はため息をつきたくなる。
「はい。護衛や村の者は無事です。
ですが、神官長、人の心配よりご自分の心配をするべきでしょう?
確かに神官長の命の重さに違いはないという考えは尊重したいと思いますが……。
貴方が死んだら悪霊がまた世にはびこることになるんですよ?
他の者よりご自分を優先してください」
そう、綺麗事など言っている場合ではない。
この人が死んだら本当に世界に再び悪霊や病気が蔓延することになる。
「すみません、気を付けているつもりなのですが……」
「気を付けていて、かれこれもう10回ほど捕まっていますよね?
普通にありえない数字なんですけど?」
「はい。そのたびに貴方に助けていただいてますね。
ありがとうございます」
と、皮肉を言ったつもりなのに、何故かにっこりお礼を返される。
本当に――敵わない。
本来貴族出の30代男性が、屈託もなく平民出の20そこそこの女騎士にお礼など言うような事はない。
この人はそういう事を平気でやってのけるのだ。
「本当に感謝をしているなら、次からは捕まらないでください。
これ、前にもいいましたよね?」
「はい、次から気を付けます……」
がっくりと項垂れる彼に、私はため息をついた。
そして鎖を引きちぎると、彼を持ち上げる。
「ちょ!?私は自分で歩けます!!」
と、言ってはいるが、彼の足は、逃げられないようにするためだろう、骨折でもしてるのか足が歪な方向に曲がっている。
「嘘を言わないでください。骨折してるじゃありませんか!
歩くどころか立てないでしょう!
ああ、聖女様に治していただかないといけませんね。
これで聖女様に借りができますね。よかったですね」
「レ、レイナ……何か怒っていますか?」
「怒ってなどいませんよ?」
私は微笑んでかえした。
聖女様が神官長様の妻の座を虎視眈々と狙っているのを知っているのに、また借りをつくるとか。
この人はよほど聖女様と結婚したいらしい。
「私とアンテローゼとはそういう関係ではないのですが……」
「隠さなくてもいいですよ?
あれだけ毎日結婚してくれと迫られててお断りできないのですから、神官長もまんざらでもないのでは?」
私の言葉に神官長はうっと困ったような顔になる。
何か言ってあげるべきなのかもしれないが、イケメン顔の困った顔もなかなか目の保養になるので放っておくことにした。
「レイナは……私の気持ちは知っているでしょう?
貴方は意地悪です……」
と、私に抱かれた状態で、居心地悪そうに呻く。
――はい。知っていますよ?
だからこそ虐めたくなるんですけれどね。
「何の事ですか?」
ワザととぼけて聞いてみせると、神官長は困ったよな顔になり
「私は何度も告白しているつもりなのですが――。
いつになったら貴方に想いが通じるのでしょうか?」
と、手で顔を被った。
「そうですね。いつか誘拐される立場と助ける立場が入れ替わった時にでも告白していただければ」
私の答えに神官長は絶望的な顔をして
「ドラゴンをも単独で倒し、サキュバスの巣でさえも楽々と突破する貴方が誘拐される日が来ることなどないと思うのですが。
これはお断りの言葉と受け取っても?」
と、やや泣きそうな顔になる。
この人の困った顔は本当に可愛くてつい虐めたくなるのですが――。
少しいじめすぎたでしょうか?
「そうですね――では、せめて誘拐される癖を治していただいたら考えましょうか?」
私の返事に神官長は嬉しそうに顔をほころばせ
「はい。善処します」
と、にこやかに微笑んだ。
それから数日後――やはり、誘拐される事になるのですが……。
本当にこのお方はお姫様体質すぎて困ったものです。
まぁ、そこがまた放っておけない可愛い所なのですけれどね。
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