内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
19 / 91
鰥寡孤独の始まり

18. 交わらぬ平行線

しおりを挟む
セイファー歴 756年 3月5日

セルジュの元を懐かしい顔が訪ねていた。と言っても最後に会ってから半年程度しか過ぎていないが。

「久しいな、セルジュ殿。詳しい話を伺おうか」
「ご無沙汰しております、ダドリックさん。お知恵を拝借できればと思います」

そう、東辺境伯の配下であるダドリックである。彼を呼んだのは東辺境伯にファート士爵との仲立ちを依頼するためであった。そのためセルジュは現状を掻い摘んでダドリックに説明した。

「なるほど、それで儂を呼んだ、と」

ダドリックが髭を撫でながら得心がいったと言わんばかりにしきりに頷いていた。それからセルジュの要望を尋ねた。

「それでセルジュ殿はどうしたいのだ」
「理想は領土を広げたいですね。できればコンコール村まで欲しいところです」

セルジュはファート領には既にお金はないだろうと睨んでいた。お金が無ければ領地を差し出せということである。

「それから今後一〇年の不可侵条約の締結。この二つが成れば後はどのようにでも」

セルジュの立場は一方的に有利であった。既に賠償金は受け取っており、リベルトが死のうがどうしようがセルジュには関係のないことだからだ。

これに困るのはゲルブムである。リベルトを救うにはセルジュの言いなりになるしか他に方法は無かった。

「それではウチに旨味が無いな。東辺境伯家にも賠償金を払ってもらうことにしよう」
「え?」

セルジュは耳を疑った。東辺境伯家に賠償金を払うこと、これに関しては難癖付けて払わせる気だろうと考えていた。

しかし、セルジュはファート士爵にはお金が残っていないために賠償金の支払いは無理だと考えていたからである。

「なに。ああいう奴はたんまりと私腹を肥やしてるもんだ。もう出ないというところからいくら引き出せるかが勝負だぞ」

ダドリックの有り難い説明を聞いているとドロテアがセルジュの傍によって耳打ちをした。

「坊ちゃま。表にファート家の使いの者がきておりますが」

折角なのでセルジュはダドリックにも同席してもらうことにした。今回やってきたのはキャスパー=コンコールと言う男と長髪のモパッサという男である。ダドリックはこの男を確認したところで顔つきが変わった。

「これはこれはベルドレッド南辺境伯のモパッサ殿ではありませんか」
「お前はダドリック」

モパッサという男はダドリックの顔を見るなり苦虫を嚙み潰したような表情をした。おそらく、アシュティア家を南辺境伯派に寝返らせてリベルトを返してもらおうという算段だったのだろう。

しかし、偶然とはいえダドリックがその場に居合わせたことで目論見が全てご破算となってしまったのだ。

「本日はどのようなご用件でアシュティア領へといらっしゃったのですかな?」

本来であればセルジュのセリフなのだが相手が南辺境伯とあっては話が別である、とダドリックは考えていた。

「もちろんリカルド卿の解放を願いに参ったまで。その前に自己紹介をさせていただくと私はモパッサと申す者。ベルドレッド南辺境伯の家臣である」
「私はキャスパー=コンコール。ファート士爵配下の者だ」
「ボクがアシュティア領の領主を務めておりますセルジュ=アシュティアです」
「みな儂のことを知っとるようだから儂は割愛するぞ」

一通りの自己紹介が済んだ後、モパッサが金貨の入った革袋を机の上に置いてこう言った。

「金貨が一〇〇枚ある。どうだ? ここらへんで手打ちにしては如何かね?」
「悪いがそれでは足らんなぁ。最初の要求は金貨三〇〇だぞ? それに加えてコンコール村までアシュティア領として割譲願いたい」

これに一番反応したのはコンコール村を治めているキャスパーである。自身が手塩にかけて育ててきた村を寄越せと言われて素直に渡せるわけが無いだろう。

リベルトとゲティスが決めた出兵のしわ寄せが猛反対していたキャスパーのところに来る。なんと皮肉な事であろうか。こんなことになるのであればあの時にもっと強く反対しておくべきであったとキャスパーは後悔した。

議論が平行線を辿るようになった頃合いにセルジュがキャスパーとモパッサにお引き取りを願った。このままだと地方領主の小さな諍いが大貴族同士の戦争にまで発展しかねない勢いだったからだ。

しかしこの時、セルジュの頭の中には既にある一つの解決策が浮かび上がっていた。

「ダドリックさん。コンコール村ってそんなに重要な村なんですか?」
「いや、儂の記憶では五、六年前に新たにできた村で村人も七十人前後と重要な村ではなかったはず」
「何か特別な生産物や技術があるとか?」
「いやいや、そんなものは無いわい」

セルジュはなぜ今日の会議が平行線に終わったのかを再度検証することにした。それはキャスパーが領土の割譲をかたくなに拒否したからである。

つまり、セルジュはキャスパーさえ説得できれば話はうまくまとまるのではないかと考えていた。

そこでセルジュはダドリックに一つのお願い事をすることにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...