内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

59. 気乗りしない襲撃

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充分な休息を取ったおかげで太陽は天高く昇っていた。バルタザークも起き上がり辺りを見回してみると、心なしか皆の表情が晴れやかになったように感じた。

最後の水を口に含む。これで食糧は全て無くなってしまった。全員を叩き起こさせ、昨夜の三人を集める。

「向こうの様子はどうだ?」
「かなら疲弊しているようですね。中から子どもの鳴き声が時折聞こえてきます」

フィーゴが答えた。バルタザークの読み通りである。その回答を満足そうに聞いたバルタザークは静かに自身の策を三人に説明し始めた。

「隊を三つに分ける。西はオレたちが、南からフィーゴ隊、北からコスタ隊だ。無益な殺生はするな。できるだけ拘束しろ。それから食糧を見つけたとしても絶対に手を出すな。配給は集めてから、だ」
「刃向かう者は殺しても良いんじゃろ」

コスタが残虐な笑みを浮かべてバルタザークに尋ねる。

「もちろんだ。見せしめとして派手に殺れ。よぉーし! 持ち場に着けぇ! ゲティスが突っ込んだらそれが合図だ! 着陣するまでに伏兵の索敵をしとけよぉ!!」

バルタザークは気乗りしてはいなかったが、そこは軍人である。やるからには徹底的に行うつもりであった。

「ゲティス。準備は良いか?」
「誰に言ってんだ? ったりめぇよ!」

バルタザークは大きく息を吸い込むと、出せるだけの大声で叫び飛ばした。

「全軍、突撃ぃぃぃぃぃっ!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」」

バルタザークの大地が揺れるような大声に合わせて兵士たちが雄叫びをあげながら村へと突撃していった。村人たちも弓や投石で応戦する。

「無理に前へと進むな。矢には限りがある。盾を使って慎重に進め! だが声だけはあげ続けろ!!」

バルタザークは無理に前進することはしなかった。これは兵の損耗を抑えるためである。そのため、兵士たちは村の防護柵から三〇メートルも離れた場所で固まっていた。この間にも北と南から激しい怒号が飛び交っている。

すると、バルタザークが攻めている西から一人二人と兵が南北の守りを手厚くするために移動を始めた。バルタザークはそれを見逃さなかった。

「ゲティス、今だ! 思いっきりぶつかっていけ!! 他の者はゲティスに続けぇー!!」

人が居なくなって薄くなった村の西側に突撃するゲティス。矢を盾で防ぎながら防護柵に取り付いた。その後ろに続いていた兵たちも防護柵に近づいていく。

「おらおら! オレの槍に近づくと怪我するぞぉ!!」

ゲティスが槍を振り回す。お陰で村人兵たちは奥へと避難してしまった。これ幸いとバルタザークは全軍を村の中へと侵入させた。

「隊を二つに分けるぞ。ゲティスは手勢を率いて南側の援護に回れ!」
「あいよっ!」

ゲティス以下五人が南側の援護のためにバルタザークたちの元を離れた。その隙にバルタザークはダンドンに先程のことを実行するよう命じた。

「では、私とデグは隊を離れます。ドージェは置いて来ます故、お役立てください」

ダンドンはそう言い残すと手近な家に入り込んだ。バルタザークは残りを率いて北側へと向かう。北側も大詰めと言ったところであった。

コスタ隊の一人が防護柵へと走り寄っていく。このままだと危ないと判断したバルタザークは北側を守っている村人兵たちに対し、横槍を刺すべく兵士たちを突撃させた。

「今が好機だ! このまま突っ込むぞ!!」

先陣を切って走るバルタザーク。相手は兵士と言えど元は村人であり、不意を突かれている。そんな状態でバルタザークに敵うはずもなく薙ぎ倒されていった。

その隙にコスタ隊の面々も次々と柵を乗り越えてくる。村を守っていた農民兵たちはそれを見て早々に引き上げてしまった。

「深追いはしなくて良い。まずはこちらの隊列を立て直すぞ」

バルタザーク隊とコスタ隊は隊列と息を整え、ゆっくりと村の中心部へと進んだ。フィーゴ隊とゲティス隊は既に中心部で農民たちと睨み合いを始めている。すると農民たちの中から一人の聖職者らしき男性が進み出たのであった。
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