内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

58. モカ村

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セイファー歴 756年 9月24日

バルタザークたちが襲う予定の村は一番人数が少ない村だったが、その分距離も遠かった。兵站もなく食糧も心許ない今、バルタザークたちに出来ることといえば少しでも早くモカ村に到着することである。

そのため、バルタザークたちは昼夜を問わず歩いた。寝ている間もお腹が空くのであれば寝なければ良いと言う筋肉理論である。

「バルタザーク隊長。あと一〇〇〇ルメールで目的の村です」

そう声を掛けたのはフィーゴだ。フィーゴはバルタザークよりも少しだけ年下だろう。素直そうな見た目をしており、年上のマダム受けが良さそうだ。

「そうか。じゃあ、フィーゴの隊で交渉および偵察に行って来てくれ」
「交渉……ですか。条件は?」
「食糧と金目の物を引き渡してくれるんなら命までは取らん、と伝えろ。他の隊はここで休憩だ。寝て良いぞ!」
「了解しました」

バルタザークの寝ても良いという許可に隊が歓喜した。これまで二日歩いて一日休む――と言っても睡眠時間は五時間程度しか貰えなかったのだが――という行軍を続けていた。

全員が就寝の準備を進める中、バルタザークは三馬鹿トリオを呼び出していた。

「良いか。お前たちは村に襲い掛かったら金目の物を根こそぎ奪え。もちろんバレないようにな」

ダドリックから貸与されたフィーゴとルイスの部隊は目付の意味も兼ねているのだろうとバルタザールは判断していた。抜け目のない男だとダドリックを苦々しく思うバルタザール。

「わかりました。我々は金目の物を見つける嗅覚には自信がありますからね、お任せあれ」

胸を叩くダンドン。こう言っては失礼だがバルタザークもこの三人は金目の物を見つける自信がありそうだと思っていた。

そうこうしているうちにフィーゴが戻ってくる。バルタザークはそのフィーゴの報告をゲティスとコスタを含めた三人で聞くことにした。

「村人たちは徹底抗戦の構えでした。取り付く島もありません。兵士の姿は見られなかったことから徴発されたのでは無いか、と」
「そうか、ご苦労。すぐに仕掛けはせずに休息を挟むぞ。全員、就寝を取った後に部隊を三つに分けて攻撃を開始する」
「面倒だなぁ、おい。さっさとケリ付けるべきじゃあないのか?」

しゃがれた声で文句を垂れるコスタ。齢が四〇を越えているコスタには堪えるのか、さっさと終わらせたいのだろう。しかし、ここで手を抜けば被害が拡大することが分かっているバルタザーク。

「ダメだ。向こうは緊張の糸を張り詰めている。ならば、精神的に疲弊してもらった方が得策だ」

去年は襲われる側の立場だったバルタザークは窮鼠猫を嚙むことを知っているのであった。
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