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暖衣飽食の夢
57. 軍議ースポジーニ東辺境伯ー
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セイファー歴 756年 9月16日
アシュティア領にスポジーニ東辺境伯から招集の知らせが届いた。バルタザークたちは既に準備万端である。
アシュティア家の紋章旗――盾の中に逆三角が描かれているシンプルな紋章――をドージェが掲げて目的地であるドゴス男爵の元へと向かって行く。
大将はもちろんバルタザークだ。副将はダンドンに任せることにした。彼ならば年齢と経験から適格とは言わなくても妥当な判断を下してくれるだろう。
「よし、じゃあボクたちは畑を耕すか」
未だ不満顔のヴェルグとボルグを宥めながらで畑仕事に精を出す。二人はバルタザークに戦場に連れて行ってもらえなかったことが余程納得いかなかったのだろう。
「ほら、まだまだ食べ物は足りてないんだから手を動かして!」
セルジュは自身の気を紛らわせるかのように一心不乱に鍬を振るった。だからこそ、気が付いていなかったのだ。一人いないことに対して。
セイファー歴 756年 9月21日
バルタザークたちはリベルトが派遣したゲティス達と合流して目的地であるドゴス男爵の元へと向かっていた。
「戦だなぁ、腕が鳴るぜ!」
「全くだぁ。はっはっは!」
ゲティスは腕を大きく回して肩を慣らしている。戦が楽しみで仕方がないと言った表情だ。そしてそれに同調したのはジェイクであった。なんとジェイクはこっそりと紛れ込んで付いてきてしまったのだ。
「お前たちも参戦してくれるのか。心強いぞ!」
バルタザークの横にダドリックがホンスに騎乗したまま並んだ。どうやら数人の部下とこの辺りの地形を調査していたらしい。
「ダドリックのおっさんか。まぁ、東さんにはお世話になってるからな。何人ぐらい集めるつもりだ?」
「儂らは七〇〇名を動員したぞ。あとは諸侯から五〇〇といったところじゃろうて」
つまりスポジーニ東辺境伯側は合計で一二〇〇名をこの戦に動員したということになる。作物の凶作が祟って諸侯たちは大量の兵を派遣できなかったようだ。
「こりゃ集めたな」
「守備兵も残さねばならんからの。これでも少ない方だぞ」
「参加してるのは誰だ?」
「ミロス子爵にドゴス男爵など、大抵の諸侯は集まっておる」
バルタザークはダドリックと情報交換を行い、そのまま目的地に着陣した。紋章官にアシュティア家とベルフ家が到着したことを告げる。そしてバルタザークはそのままダドリックに連れられてドゴス男爵の館へ足を運んだ。
そこの広間には名だたる面々が居た。スポジーニ東辺境伯をはじめ配下のドッダードルグにレボルト、ドゴス男爵にコルトス男爵、ウィート士爵にバルタザークの因縁の相手でもあるウェリスがそこにはいた。
「ミロス卿とブライゼル卿は遅参するようにございます」
ダドリックがスポジーニ東辺境伯に告げ、それから後ろに控えていたバルタザークを紹介した。
「アシュティア士爵の名代として参上したバルタザークにございます」
バルタザークはダドリックの紹介にあわせて跪き、首を垂れた。スポジーニ東辺境伯はバルタザークを立ち上がらせて肩を叩きながら感謝を述べた。
「よう来てくれた。頼りにしておるぞ」
「はっ」
元々、バルタザークはスポジーニ東辺境伯の配下だったのだがどうやら覚えていないらしい。それもそのはず、一〇〇〇名以上を越える兵士の名前など忙しいスポジーニ東辺境伯が把握できるはずもなかった。ただ、この男だけは違っていた。
「逃げ出した先で上手くやってるようじゃないか」
ウェリスである。ウェリスはスポジーニ東辺境伯の第二騎士団の副団長を務めている男だ。バルタザークが東辺境伯の元でお世話になっていた時の上長と言う関係である。
また、バルタザークはウェリスと考え方が合わないから騎士団を辞めたという経緯を持っている。それをウェリスは尻尾を巻いて逃げたと常に中傷していた。
「お陰さんでね。この戦、背後にも気を配れよ?」
「何をやっとる! 軍議を始めるぞ!!」
二人が他愛もない会話をしていると、唯一事情を知っているダドリックがそれを嗜めた。二人は大人しく用意されている机の周りに集まる。それからレボルトが現状を説明し始めた。
「現在、バルドレッド南辺境伯は兵の準備に苦心している様子。丁度良いのでこの間にティモテ卿の町や村から食糧などを接収いたしましょう」
「ティモテ子爵が打って出てきたらどうする?」
「それこそ好機です。ティモテ卿の元には多くても四〇〇の兵しか居ないはず。三倍の兵力差で踏み潰してやりましょう」
レボルトが諸侯を見回す。誰も異存はないようであった。これでスポジーニ陣営の方針が固まった。ここからは誰がどこの村を襲うかの役割決めだ。
ティモテ子爵の領土に村は四つある。どれも規模が大きく人口は四〇〇人から七〇〇人は居るだろう。バルタザークとゲティスたちは一番小さいモカ村を襲撃することになった。
「お前たちは合わせて二〇人だったな」
ダドリックがバルタザークに確認する。バルタザークが首を縦に振るとダドリックは後ろの書記官を呼び出してこう伝えた。
「儂のとこのコスタとフィーゴを呼んできてくれ」
書記官に二人を呼びに行かせるダドリック。そしてバルタザールに向き直し、こう言った。
「コスタ隊とフィーゴ隊それぞれ一〇名居る。四〇名で村を襲って来い。それと、悪いがこちらから補給は出せん。デレフ村をやられて糧秣がカツカツなんだ」
四〇名で四〇〇名の村を襲う。純粋に考えれば一〇倍差だ。しかし村と言う性質上、半分は女性だろう。そして四割は子どもと老人だ。
そう考えると実質的な戦力は一二〇名と言うとこだ。四〇対一二〇であれば戦えない数ではないとバルタザークは判断し、この任務を拝命することとなった。
アシュティア領にスポジーニ東辺境伯から招集の知らせが届いた。バルタザークたちは既に準備万端である。
アシュティア家の紋章旗――盾の中に逆三角が描かれているシンプルな紋章――をドージェが掲げて目的地であるドゴス男爵の元へと向かって行く。
大将はもちろんバルタザークだ。副将はダンドンに任せることにした。彼ならば年齢と経験から適格とは言わなくても妥当な判断を下してくれるだろう。
「よし、じゃあボクたちは畑を耕すか」
未だ不満顔のヴェルグとボルグを宥めながらで畑仕事に精を出す。二人はバルタザークに戦場に連れて行ってもらえなかったことが余程納得いかなかったのだろう。
「ほら、まだまだ食べ物は足りてないんだから手を動かして!」
セルジュは自身の気を紛らわせるかのように一心不乱に鍬を振るった。だからこそ、気が付いていなかったのだ。一人いないことに対して。
セイファー歴 756年 9月21日
バルタザークたちはリベルトが派遣したゲティス達と合流して目的地であるドゴス男爵の元へと向かっていた。
「戦だなぁ、腕が鳴るぜ!」
「全くだぁ。はっはっは!」
ゲティスは腕を大きく回して肩を慣らしている。戦が楽しみで仕方がないと言った表情だ。そしてそれに同調したのはジェイクであった。なんとジェイクはこっそりと紛れ込んで付いてきてしまったのだ。
「お前たちも参戦してくれるのか。心強いぞ!」
バルタザークの横にダドリックがホンスに騎乗したまま並んだ。どうやら数人の部下とこの辺りの地形を調査していたらしい。
「ダドリックのおっさんか。まぁ、東さんにはお世話になってるからな。何人ぐらい集めるつもりだ?」
「儂らは七〇〇名を動員したぞ。あとは諸侯から五〇〇といったところじゃろうて」
つまりスポジーニ東辺境伯側は合計で一二〇〇名をこの戦に動員したということになる。作物の凶作が祟って諸侯たちは大量の兵を派遣できなかったようだ。
「こりゃ集めたな」
「守備兵も残さねばならんからの。これでも少ない方だぞ」
「参加してるのは誰だ?」
「ミロス子爵にドゴス男爵など、大抵の諸侯は集まっておる」
バルタザークはダドリックと情報交換を行い、そのまま目的地に着陣した。紋章官にアシュティア家とベルフ家が到着したことを告げる。そしてバルタザークはそのままダドリックに連れられてドゴス男爵の館へ足を運んだ。
そこの広間には名だたる面々が居た。スポジーニ東辺境伯をはじめ配下のドッダードルグにレボルト、ドゴス男爵にコルトス男爵、ウィート士爵にバルタザークの因縁の相手でもあるウェリスがそこにはいた。
「ミロス卿とブライゼル卿は遅参するようにございます」
ダドリックがスポジーニ東辺境伯に告げ、それから後ろに控えていたバルタザークを紹介した。
「アシュティア士爵の名代として参上したバルタザークにございます」
バルタザークはダドリックの紹介にあわせて跪き、首を垂れた。スポジーニ東辺境伯はバルタザークを立ち上がらせて肩を叩きながら感謝を述べた。
「よう来てくれた。頼りにしておるぞ」
「はっ」
元々、バルタザークはスポジーニ東辺境伯の配下だったのだがどうやら覚えていないらしい。それもそのはず、一〇〇〇名以上を越える兵士の名前など忙しいスポジーニ東辺境伯が把握できるはずもなかった。ただ、この男だけは違っていた。
「逃げ出した先で上手くやってるようじゃないか」
ウェリスである。ウェリスはスポジーニ東辺境伯の第二騎士団の副団長を務めている男だ。バルタザークが東辺境伯の元でお世話になっていた時の上長と言う関係である。
また、バルタザークはウェリスと考え方が合わないから騎士団を辞めたという経緯を持っている。それをウェリスは尻尾を巻いて逃げたと常に中傷していた。
「お陰さんでね。この戦、背後にも気を配れよ?」
「何をやっとる! 軍議を始めるぞ!!」
二人が他愛もない会話をしていると、唯一事情を知っているダドリックがそれを嗜めた。二人は大人しく用意されている机の周りに集まる。それからレボルトが現状を説明し始めた。
「現在、バルドレッド南辺境伯は兵の準備に苦心している様子。丁度良いのでこの間にティモテ卿の町や村から食糧などを接収いたしましょう」
「ティモテ子爵が打って出てきたらどうする?」
「それこそ好機です。ティモテ卿の元には多くても四〇〇の兵しか居ないはず。三倍の兵力差で踏み潰してやりましょう」
レボルトが諸侯を見回す。誰も異存はないようであった。これでスポジーニ陣営の方針が固まった。ここからは誰がどこの村を襲うかの役割決めだ。
ティモテ子爵の領土に村は四つある。どれも規模が大きく人口は四〇〇人から七〇〇人は居るだろう。バルタザークとゲティスたちは一番小さいモカ村を襲撃することになった。
「お前たちは合わせて二〇人だったな」
ダドリックがバルタザークに確認する。バルタザークが首を縦に振るとダドリックは後ろの書記官を呼び出してこう伝えた。
「儂のとこのコスタとフィーゴを呼んできてくれ」
書記官に二人を呼びに行かせるダドリック。そしてバルタザールに向き直し、こう言った。
「コスタ隊とフィーゴ隊それぞれ一〇名居る。四〇名で村を襲って来い。それと、悪いがこちらから補給は出せん。デレフ村をやられて糧秣がカツカツなんだ」
四〇名で四〇〇名の村を襲う。純粋に考えれば一〇倍差だ。しかし村と言う性質上、半分は女性だろう。そして四割は子どもと老人だ。
そう考えると実質的な戦力は一二〇名と言うとこだ。四〇対一二〇であれば戦えない数ではないとバルタザークは判断し、この任務を拝命することとなった。
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