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暖衣飽食の夢
56. 開戦の狼煙
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「お待たせして申し訳ない」
ベルドレッド南辺境伯が応接間へと足を踏み入れる。そこに居たのはダドリックと一〇人にも満たない兵士たちであった。武器は預かられているが鎧は着こんでおり臨戦態勢と言っても過言ではないだろう。
ベルドレッド南辺境伯は着席してダドリックに声を掛けた。
「要件を聞こう」
すると、ダドリックは後ろに控えている者から一つの包みを受け取る。広げるとそこには人間の生首が鎮座されていた。
「見覚えが無いとは言いますまい」
確かにベルドレッド南辺境伯には生首の人物には見覚えがあった。その人物は父の腰巾着であったサロモン卿の家臣で、名をサビーノと言った。
「確かに。だが、そやつは先のスポジーニ卿との戦に敗れたときに離反している」
「そんな子供騙しな言い訳が通用するとお思いかっ!! そやつに村を一つ潰されているのだぞ!!」
ベルドレッド南辺境伯が言ったことは事実であった。父から当人に権力が移ってからというもの。サロモン卿はベルドレッド配下でいる旨味がなくなってしまったのだ。
そこでサロモン卿とその配下は暇を願い出た。そこから先はベルドレッド南辺境伯も知らない。何故なら興味が無かったからだ。
では実際はどうだったのか。実際はレグニス公爵の元へと身を寄せていたのであった。何故ならレグニス公は未だ幼く、操りやすいと考えたからである。しかし、ジグムンド候と激しい戦を繰り広げ敗戦を喫してしまった。
サビーノは手勢を連れて落ち伸び、盗賊に身を窶したと言う訳であった。
事情はどうあれ、スポジーニ東辺境伯側から見ればベルドレッド南辺境伯に領土を荒らされたと考えるだろう。これはベルドレッド南辺境伯にとっては不可抗力の落ち度となってしまった。
「回りくどい話はよそう。何が目的だ」
これは水掛け論になると判断したベルドレッド南辺境伯はダドリックに対し単刀直入に切り出した。
「まずは賠償金だ。少なくとも大金貨で一〇〇〇枚は必要だ。それに穫れるはずであったムグィクを大樽で五〇〇もらおう」
かなり吹っ掛けてきた、というのがベルドレッド南辺境伯の第一感であった。事実、ダドリックもこれが全て通るとは思っていない。
「流石にこれは無理であろう。現実的な落としどころは大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ」
これでも多いとベルドレッド南辺境伯は思っていた。何せ今年はムグィクもムグィラも不作だったのである。
「何を世迷い言を申すか。最低でも大金貨七〇〇枚にムグィクを三〇〇樽だっ!!」
強きの姿勢を崩さないダドリック。相当頭に来ているのが伺える。村を一つ焼かれているのだ。無理もないだろう。
しかし、これを二つ返事で承諾するわけにいかないのはベルドレッド南辺境伯。こうなっては腹を括るしかないと覚悟を決めた。
「大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ。これは変わらん。飲むのか、飲まんのか?」
ベルドレッド南辺境伯が挑発的にダドリックに二択を迫る。ダドリックのこめかみには欠陥が浮き出ていた。もちろん、この条件を飲めるはずもないダドリックは怒りに身を任せて席を立った。
「それは宣戦布告と捉え、我が主に伝えさせていただくっ!!」
そう吐き捨ててダドリックは配下の者を引き連れて自領へと帰って行った。
「よ、よろしいので?」
「仕方なかろう。ぼさっとしてないで戦の支度をするぞ」
「は、はいっ!」
こうしてベルドレッド南辺境伯はスポジーニ東辺境伯と再び相まみえることとなった。
ベルドレッド南辺境伯が応接間へと足を踏み入れる。そこに居たのはダドリックと一〇人にも満たない兵士たちであった。武器は預かられているが鎧は着こんでおり臨戦態勢と言っても過言ではないだろう。
ベルドレッド南辺境伯は着席してダドリックに声を掛けた。
「要件を聞こう」
すると、ダドリックは後ろに控えている者から一つの包みを受け取る。広げるとそこには人間の生首が鎮座されていた。
「見覚えが無いとは言いますまい」
確かにベルドレッド南辺境伯には生首の人物には見覚えがあった。その人物は父の腰巾着であったサロモン卿の家臣で、名をサビーノと言った。
「確かに。だが、そやつは先のスポジーニ卿との戦に敗れたときに離反している」
「そんな子供騙しな言い訳が通用するとお思いかっ!! そやつに村を一つ潰されているのだぞ!!」
ベルドレッド南辺境伯が言ったことは事実であった。父から当人に権力が移ってからというもの。サロモン卿はベルドレッド配下でいる旨味がなくなってしまったのだ。
そこでサロモン卿とその配下は暇を願い出た。そこから先はベルドレッド南辺境伯も知らない。何故なら興味が無かったからだ。
では実際はどうだったのか。実際はレグニス公爵の元へと身を寄せていたのであった。何故ならレグニス公は未だ幼く、操りやすいと考えたからである。しかし、ジグムンド候と激しい戦を繰り広げ敗戦を喫してしまった。
サビーノは手勢を連れて落ち伸び、盗賊に身を窶したと言う訳であった。
事情はどうあれ、スポジーニ東辺境伯側から見ればベルドレッド南辺境伯に領土を荒らされたと考えるだろう。これはベルドレッド南辺境伯にとっては不可抗力の落ち度となってしまった。
「回りくどい話はよそう。何が目的だ」
これは水掛け論になると判断したベルドレッド南辺境伯はダドリックに対し単刀直入に切り出した。
「まずは賠償金だ。少なくとも大金貨で一〇〇〇枚は必要だ。それに穫れるはずであったムグィクを大樽で五〇〇もらおう」
かなり吹っ掛けてきた、というのがベルドレッド南辺境伯の第一感であった。事実、ダドリックもこれが全て通るとは思っていない。
「流石にこれは無理であろう。現実的な落としどころは大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ」
これでも多いとベルドレッド南辺境伯は思っていた。何せ今年はムグィクもムグィラも不作だったのである。
「何を世迷い言を申すか。最低でも大金貨七〇〇枚にムグィクを三〇〇樽だっ!!」
強きの姿勢を崩さないダドリック。相当頭に来ているのが伺える。村を一つ焼かれているのだ。無理もないだろう。
しかし、これを二つ返事で承諾するわけにいかないのはベルドレッド南辺境伯。こうなっては腹を括るしかないと覚悟を決めた。
「大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ。これは変わらん。飲むのか、飲まんのか?」
ベルドレッド南辺境伯が挑発的にダドリックに二択を迫る。ダドリックのこめかみには欠陥が浮き出ていた。もちろん、この条件を飲めるはずもないダドリックは怒りに身を任せて席を立った。
「それは宣戦布告と捉え、我が主に伝えさせていただくっ!!」
そう吐き捨ててダドリックは配下の者を引き連れて自領へと帰って行った。
「よ、よろしいので?」
「仕方なかろう。ぼさっとしてないで戦の支度をするぞ」
「は、はいっ!」
こうしてベルドレッド南辺境伯はスポジーニ東辺境伯と再び相まみえることとなった。
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