内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
59 / 91
暖衣飽食の夢

56. 開戦の狼煙

しおりを挟む
「お待たせして申し訳ない」

ベルドレッド南辺境伯が応接間へと足を踏み入れる。そこに居たのはダドリックと一〇人にも満たない兵士たちであった。武器は預かられているが鎧は着こんでおり臨戦態勢と言っても過言ではないだろう。

ベルドレッド南辺境伯は着席してダドリックに声を掛けた。

「要件を聞こう」

すると、ダドリックは後ろに控えている者から一つの包みを受け取る。広げるとそこには人間の生首が鎮座されていた。

「見覚えが無いとは言いますまい」

確かにベルドレッド南辺境伯には生首の人物には見覚えがあった。その人物は父の腰巾着であったサロモン卿の家臣で、名をサビーノと言った。

「確かに。だが、そやつは先のスポジーニ卿との戦に敗れたときに離反している」
「そんな子供騙しな言い訳が通用するとお思いかっ!! そやつに村を一つ潰されているのだぞ!!」

ベルドレッド南辺境伯が言ったことは事実であった。父から当人に権力が移ってからというもの。サロモン卿はベルドレッド配下でいる旨味がなくなってしまったのだ。

そこでサロモン卿とその配下は暇を願い出た。そこから先はベルドレッド南辺境伯も知らない。何故なら興味が無かったからだ。

では実際はどうだったのか。実際はレグニス公爵の元へと身を寄せていたのであった。何故ならレグニス公は未だ幼く、操りやすいと考えたからである。しかし、ジグムンド候と激しい戦を繰り広げ敗戦を喫してしまった。

サビーノは手勢を連れて落ち伸び、盗賊に身を窶したと言う訳であった。

事情はどうあれ、スポジーニ東辺境伯側から見ればベルドレッド南辺境伯に領土を荒らされたと考えるだろう。これはベルドレッド南辺境伯にとっては不可抗力の落ち度となってしまった。

「回りくどい話はよそう。何が目的だ」

これは水掛け論になると判断したベルドレッド南辺境伯はダドリックに対し単刀直入に切り出した。

「まずは賠償金だ。少なくとも大金貨で一〇〇〇枚は必要だ。それに穫れるはずであったムグィクを大樽で五〇〇もらおう」

かなり吹っ掛けてきた、というのがベルドレッド南辺境伯の第一感であった。事実、ダドリックもこれが全て通るとは思っていない。

「流石にこれは無理であろう。現実的な落としどころは大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ」

これでも多いとベルドレッド南辺境伯は思っていた。何せ今年はムグィクもムグィラも不作だったのである。

「何を世迷い言を申すか。最低でも大金貨七〇〇枚にムグィクを三〇〇樽だっ!!」

強きの姿勢を崩さないダドリック。相当頭に来ているのが伺える。村を一つ焼かれているのだ。無理もないだろう。

しかし、これを二つ返事で承諾するわけにいかないのはベルドレッド南辺境伯。こうなっては腹を括るしかないと覚悟を決めた。

「大金貨一〇〇枚にムグィクを大樽で一〇〇だ。これは変わらん。飲むのか、飲まんのか?」

ベルドレッド南辺境伯が挑発的にダドリックに二択を迫る。ダドリックのこめかみには欠陥が浮き出ていた。もちろん、この条件を飲めるはずもないダドリックは怒りに身を任せて席を立った。

「それは宣戦布告と捉え、我が主に伝えさせていただくっ!!」

そう吐き捨ててダドリックは配下の者を引き連れて自領へと帰って行った。

「よ、よろしいので?」
「仕方なかろう。ぼさっとしてないで戦の支度をするぞ」
「は、はいっ!」

こうしてベルドレッド南辺境伯はスポジーニ東辺境伯と再び相まみえることとなった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...