内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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狼心狗肺の報

71. 蠢く闇

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「遅かったじゃないか。キャスパー」

黒いマントで全身を覆った男が居酒屋でキャスパーに声を掛けた。あからさまに浮いた格好である。しかし、周りの者たちは酒に溺れているせいか、気に留める者は皆無であった。

「相変わらず新規臭い外套だな。店内ぐらい脱いだらどうだ?」
「これはあっしのアイデンティティなんで」

外套の男は飄々とキャスパーの提案を断った。それよりも、と早速本題へと移る。

「ナグィスの旦那が兵を一〇〇ほど率いて西へと向かうそうだな」
「ああ、お陰で手薄になった」
「前の侵攻に失敗してくれたお陰もあるがな。アシュ……なんとか領の」
「その話はやめろっ!」

キャスパーの怒号も酒場の喧噪にかき消されてしまった。流石に虎の尾を踏んだと思った外套の男はキャスパーを宥める。

「まぁ、そう感情的になるな。お陰でお前にもチャンスが回って来たんだ。旦那は兵を五〇〇用意すると言っていた。そのうちの一〇〇をお前任せるそうだ」
「その言葉に二言はないだろうな」

キャスパーが外套の男を睨みつける。男は笑顔で「もちろん」と答えた。キャスパーはまだ信じ切れていないようであった。そんなキャスパーの耳元で外套の男が囁く。

「お前は憎いんだろう? コンコール村を奪ったゲルブムが。千載一遇の好機は今をおいて他には、ない」

キャスパーの耳元でいやらしく囁いた外套の男は「また連絡する」とだけ言い残し、キャスパーを置いて店を後にした。彼は暫く酒場で眉間に皺を寄せていたという。



「どうだ? 決心はついたか?」

キャスパーはこの日も外套の男と話をしていた。今日は人目を避けての密会である。ファート領の領都アルマナにある一軒家で落ち合っていた。

「ああ。腹は決まった。手伝おうではないか」

キャスパーは外套の男にそう返答する。加担する方で腹を括ったようであった。

「よし! よーしよし。これでオレとアンタは正真正銘の同胞だ。これから頼むぞ」

外套の男がフランクにキャスパーと肩を組む。が、キャスパーはすぐにそれを払いのけてしまった。

「別に慣れ合うつもりは毛頭ない。早く計画を話してくれ」

外套の男は宙に浮かせた手を所在無さげに静かに下ろすと計画の内容をキャスパーに話し始めた。と言っても内容自体は至極簡単な内容だ。

ゲルブムがナグィスと一〇〇の兵を派兵した留守を狙って襲撃するという、シンプルな作戦だ。だが、シンプルなだけに強力な策だと言っても過言ではないだろう。

「ほかにも盗賊の連中に声を掛けてある。折角の祭りだ。めちゃくちゃ派手にやろうぜ!」

決行の日時はスポジーニ東辺境伯とベルドレッド南辺境伯が衝突した日だ。こうして、キャスパーはゲルブムに反旗を翻す決断をしたのであった。
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