審美眼持ちの青年貴族は、筋肉の檻に閉じ込められる

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外伝.花びらは風に舞う

ダンデライオン

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「ダリオ様!こんなところに!」

 ガルテオの顔は明るく輝いた。
 背景に犬が尻尾を振ってる映像が見えるかのようだ。
 ヴァルトはこんなやつが本当に荷物の番をしてるオーガだったのか……?と首を傾げた。だってあまりにも無防備すぎる。
 しかし、これがディアスの与えた愛により変質した、ガルテオの今の姿なのだ。

 ミーナも彼の姿に驚きを隠せなかった。
 逃亡生活とは縁遠い、整った服装。丁寧に丸く削られた爪は、大事な人に触れるためのそれだ。なにより、本人の幸せそうな表情は、幸せな生活を絵に描いたようだった。

「うーん……、眩しい……。」

 商人歴20年、今期を逃した薬草魔女には少し眩しすぎる笑顔だった。


 一度ノクシアに戻って動き方を相談すると言い、ポータルへとんぼ返りしたガルテオを見送り、代わりに置いていかれたミレクを囲んで行商団メンバーは質問攻めにしていた。

「質問は!ひとりひとつでお願いします!!」

 泣きそうな声に同情はしつつも、自分も質問を抑えられないとリオネットも彼を質問責めにする。
 
「エズメちゃんと結婚したって本当ですか!僕にも紹介してよ!」

「りっ、リオネットさんはだめです!存在が破廉恥です!」

 どっと笑いが起きる。
 地下空洞に清廉な魅力を振り撒き、ドワーフの子女たちの顔を赤くさせたエルフの青年がそれを言うか、と行商団はにこやかに野次を飛ばした。
 それを肴にドワーフ達も樽を空けていく。
 こんなに別の種族が集まるのは地下に入って以来初めてのことで、後にドワーフの王国に記念日として刻まれる日だった。



 しばらくするとガルテオはディアスを伴って帰還し、3商人とダリオを交えた5名は小さく円を組んで今後についての話し合いを進めていった。
 行商団での方針会議は、いつもこうして進められる。

「ガルテオは少し待っていてくれ。あとでたくさんこの国をデートしよう。」

 ディアスの甘くて優しい音声に、周囲も含めて蕩けそうになる。
 凛々しい主人の、かつてない優しい態度に、行商団のメンバーはいかにガルテオが愛されているのかを知ったのだった。

「さて、まずはノクシアの状況を伝えておこうと思う。正面からは幻惑魔法で侵入不可。よってノクシアへの経路はポータルのみ。だが、そのポータルも私が掌握した。こんなところか。」

 さらりと語られた衝撃的な話に、一同唖然とする。
 幻惑魔法に、ポータルの掌握……?
 いきなり情報量が多すぎではないか。

 しかしヴァルトだけは、なるほどと唸った。
 北の端という地の利を生かした籠城作戦。しかしポータルという抜け道が全世界に繋がっていて、妖精たちに愛されるディアスのおかげで完全にこちらの好きにできると。
 ならば食料の心配も必要なし、武器の補充もし放題。有利すぎる籠城である。

「坊ちゃん……っと、すみません、ディアス様はこの先どうするおつもりで?永遠に籠城も可能ですし、腐った木を押し倒すこともできます。地方領主たちの打倒中央の機運も高い。打って出るなら今、ですぜ。」

 ヴァルトの助言に、ディアスはにこやかに答えた。

「なぜ私が世界のお守りをせねばならん?放っておいてもへし折れるものを、わざわざ押してやる必要もない。私たちがやるべきは異種族として迫害されてきた者たちとの交流、新たな商品の仕入れと備えだ。そうだろう?」

 どこまでも商人としての答えに、リオネットは打ち震えた。どこか平和主義的なイヴェインとは違い、ディアスは自分と同じ数字主義者だ。
 戦争は失う金が多すぎる。そんなものは正義感に駆られた英雄が起こせばいい。
 その時に武器を売り、薬草を格安で提供すれば後々大きなバックが得られるのだから、そこに集中投資するべきだ。

「あとは投資先の選定だな。どの地方領主が一番武器を持っているか?既存戦力の洗い出し。ふふ、見るべき数字はたくさんあるぞ。」

 ディアスの楽しそうな笑いに、リオネットは同調した。
 そこから戦略家と投資家、そして商人の計算は早かった。あっという間に諜報員の潜入先と行商のスケジュールを組み、その場を解散させる。

「ポータルでどこにでも迅速に荷を届けられるのは最強のカードだな。」

 ディアスの三日月のような笑みは、師匠たる自分とそっくりそのままなので、思わずリオネットは笑ってしまった。


 彼が13歳くらいのころだったか。
 ディアスは父の背中をみても、何かを得られる気配がしないと打ち明けてきた。
 情報をいち早く仕入れ、勘で商流を読んでいってしまうイヴェインは天才と呼ぶべき商人で、ディアスはその背中を追うことを早々に諦めたのだった。
 ならば、数字で対抗しなさいとリオネットはディアスに帳簿の付け方を叩き込んだ。
 領主の息子が親の事業を継ぐのは、それ自体が一人前として認められるのに必要な試練である。
 リオネットは充分それに応えられるだけの才能があったが、なにせ生まれた順番が悪かった。裕福ではあるものの、侯爵に比べるとそこまで、といった子爵家の五男に引き継げる事業があるはずもなく。
 彼はチャンスを与えられることもなく、落ちぶれるしかなかった。
 
 荒れたリオネットは放蕩し、気付くとこの行商団に紛れ込んでいた。
 酒場でイヴェインの誘いに軽く応じた記憶はあるのだが、なにせ遠い昔だしあまり鮮明に覚えていない。
 気付けば3商人などと呼ばれる地位に立っていて、居場所は与えられるものではなく、得られるものなんだなと朗らかに笑う。
 特に、弟子の存在は大きくて、リオネットはディアスの第二の父親のような気持ちで接してきた。

 そんな彼も、誰かの伴侶か。
 イヴェインに続き、リオネットもまた寂寥感に包まれ、ゆっくり肩をおとした。
 
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