ダークマター~二つの記憶

おはようバス

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新たな協力者と根底にあるもの

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煙草を吸い終わり、席に戻ると3人がパソコンの画面に目を落とし、楽し気にしていた。 見ていたのは、DTXの今度立ち上げる予定の動画「童貞墓参りに行く」で、内容は綱島が墓参りに行き、声を掛けられた人をナンパして、故人について語りあうという内容であった。
「そんなの不謹慎で、炎上するぞ。」とダイスケが言うと、
綱島は、「不謹慎で炎上するのは仕方ないけれど、心にグッとくる話が多いですよ。やはり故人を偲ぶという行為と言葉には、他にはない力がある」と言い、動画を落とした。
ダイスケに「作戦は、あるのかい?」と雪乃が聞くと、
「今のご時世、ネットで日韓問題を取り上げ、韓国側に立ったコメントをすれば、あっという間に非難の嵐になるよね。 炎上戦略では、感情論で真面な話も十分に伝わらない。」とダイスケが言った。
それに対し、雪乃が「まさに、ダイスケ炎上だな。 左翼認定されて、アンチのコメントで世の中から抹殺される。5チャンネルではスレが立ち、身元が曝されて、家が燃やされる。」
「じゃあ、僕みたいにユーチューブで少しチャラけた感じで、取り扱ってみればどうかな?」と綱島くんが言うと、 「問題が問題だけに、チャラい感じは問題ある。」と山田さんに突っ込まれた。
「そうね、歌なんかはどうかしら。まずは、元慰安婦人の思いを歌にするの。 そして見ている人に気持ちを伝えるの。」千鶴がそう言うと、全員が「いいかも」と答えた。
「でも、慰安婦や日本軍、戦争という直接のワードは抜いた方が得策だな。ワードに敏感な奴がいるから。注意深く。」と、ダイスケが言うと、「スピードも大事だよ」と雪乃が言って、続けた。 「まあ、今日は、大まかな戦略でいいから、次の一手は?」
千鶴が答えた。「次に、ツイッターとかインスタとかで思いを伝えることのサイトを作っておいて、それを読んでもらえるようにしたらどうかな?」
千鶴の発言は、大筋でダイスケの考えていた戦略と同じであった。
ダイスケが付け加えた。 「実際に元慰安婦の人と話をする必要もあるし。韓国の仲間も早急に見つける必要がある。さらに、リアルな集会も必要だしな。」
「まずは、歌詞とSNSの文書の用意ですね。」と綱島が言い、各人が一週間後にそれぞれ、用意するという宿題が出された。
別れ際に雪乃から、これからお金も掛かるし、ギャンブルもほどほどにねと憎まれ口を叩かれたが、気にも留めずにダイスケはPCXで、久里浜のパチンコ屋に向かった。 期待値越えの台を探したが、見つからなかったので、店を出て、134号を逗子方面に向かって流した。 秋谷からは相模湾が一望できる。 晴れていれば、富士山や伊豆半島が見られるが、夏だと江の島までしか見られない日も多い。 明日からは充実した日々がやってくるに違いないと思いながら、相模湾の夕焼けを見ていた。

作戦会議の5日後の9時過ぎ、だらだらとテレビを見ながら朝を過ごしているダイスケは焦っていた。先週の会議では、明日から充実した日々が始まると思っていた。そもそも、会議後にパチンコ屋を覗いている時点で、ダイスケの今日が決まっていたのかもしれない。なんにも進んでいないのであった。しかし、まずいなと思いながらも明日があるし、明後日の午前中もあると思ってしまう。
そう考えながら、煙草に手を伸ばし、テレビに目を移すと「サバイバー(宿命の大統領)」で、主人公の大統領が奥さんを不注意の事故で死亡させてしまった運転手に、大統領権限で面会し「お前は、不注意で俺の妻を殺した。一生を掛けて償わせてやる。」と脅しているシーンであった。この後この面会ーンのビデオが世に流され、主人公は職権乱用と恫喝で糾弾されてゆくことになるが、ドラマとはいえ大統領ですらこのような行為を行うのであるから、人を失うことの意味は大きい。だいたいドラマでは復讐ものがヒットするなと思っているところへ綱島くんから連絡がきた。 今日の13時に会えないかというもので、ダイスケは「いいよ。」と答え、待ち合わせ場所に横浜のドトールを指定した。それから素早く身支度をして、バスと電車で横浜に向かった。 「まあ、今日、宿題が出来てないのは、綱島のせいだよな。」そう呟いて言い訳にしていた。
横浜には11時前に着いた。ダイスケは先ずパチンコ店を回り、稼働状況を確認した。  綱島と会った後に打てる店がないか確認するためであった。 昼は、西口の回転寿司で済ませることにした。この店は、回転寿司では珍しく、関サバや、関アジを出す店で、初夏には、新子が出ることがあった。 新子は、出世魚の小肌の稚魚の名称で、非常に柔らかく、強い旨味がある。 残念ながら新子はなかったが、適当に数品注文し、生ビールで流し込んだ。
この店の良いところは、お酒を頼むと次回に使える生ビールクーポン券が付いてくる。
平日の昼からのビールは最高である。時計を見ると約束の10分前になっていた。
ドトールで煙草を吸わないといけないので、会計をし、店を後にした。
横浜西口にあるドトールは、客の割に席の少ない店舗で、特に喫煙席はぎゅうぎゅう詰めで狭苦しかった。ダイスケが煙草を吹かしていると、ほどなくサングラスを掛けた綱島が急ぎ足で現れた。 綱島は、ダイスケに気付くと、ぺこりと頭を下げた。 後ろにいる小綺麗な女の子も頭を下げたところをみると連れと言ったところか。 ダイスケも頭を下げ、煙草を消して向かった。 彼女の名前はキムジウといい、綱島くんと同じ大学の韓国人留学生で友達であるとのことであった。 ダイスケが、言ったことに反応した綱島が声を掛けたところ、賛同を得られたので連れてきたとのことであった。
「今度、みんなで会うときでも良かったのに。」とダイスケが綱島に言うと、
「皆に会う前にちょっと僕の文書を見て欲しかったのでね。」と答え、メッセンジャ-バックから原稿を取り出した。
綱島の文書の主眼は、仲間や兄妹が他国の戦争に巻き込まれ、戦死あるいは、慰安婦として強制労働させられた時の自身の喪失感と憎悪の感情を表したものであった。
「悪くないよ。」とダイスケが言うと、綱島は、嬉しそうに笑った。
「どうして、ダイスケさんがこんな構想を考えられたのですか?」
それまで、静かにしていたキムジウが聞いてきた。
「うん、難しい話ではないよ。アーサー・ダートンが提唱した”物語としての歴史“を知って
るかい?」二人とも知らないと首を振った。
「ダントーは、“歴史の言説が、事後性に基づいて、出来事を組織化する「物語」によって成り立っているため、その記述は、決して歴史にはなりえない“と主張し、言い換えるとその歴史の中で、多くの人が多様の体験をしているので、事後性に基づき作成された歴史書は、特に国家のイデオロギーとして捻じ曲げられていくということだよ。」
「ということは?」と綱島が聞き返すと、ダイスケは続けた。
「個々の歴史では、体験者本人しか知りえない無数の体験が折り重なり、歴史が紡ぎ出されているが、歴史の見解は一致している。確かに戦争の勝敗などは、大まかに言って間違っていないと思うが。その中で生じた事象については、その歴史書を記した人の主観のみで語られ、しばしば国家により書き換えられてきた。 だから、経験したものが語る歴史が重要になる。」
二人は「ふむふむ」と耳を傾けていたが、綱島が聞いた。
「その、イデオロギーって、よく聞く言葉で、なんとなく分かっているけど?」
「イデオロギーとは、もとはイデア(観念ないし理念)のロゴス(倫理)のことであり、歴史的展開を研究しようとする学説であったが、マルクス主義においては、人びとが信仰している虚無の思考、物質の秩序に規定されている社会関係を、人間の心が、別のものとして意識したものとされている。言い換えれば、宗教であり、資本主義であり、国家であり、家庭の思想と言っていいかもしれない。」とダイスケが答えた。
「なんか、分かってきたかも。」と、綱島が言った。
「そこで、今回の慰安婦問題を考えると慰安婦であった人たちの経験よりも、国家のイデオロギーの中で勝手に解釈され、利用されてきたことに問題があると思っているんだ。」
ダイスケの言葉に、キムジウが反応した。
「では、おばあさんたちは、韓国と日本のイデオロギーの中で翻弄されているということなの。」
「そうだ、確かに日本政府は、慰安婦問題は解決しているというスタンスで、韓国は解決していないというスタンスで接しているうえ、それを利用する人たちも元慰安婦の気持ちにあたかも寄り添っているかのように振舞いながら利用している。もちろん、そうでない人もいるけれど。だから個々に取り扱わない限りこの問題は解決し得ないことになるんだ。」
「なるほど。」と、二人が頷いたが、ダイスケは続けた。
「しかも経験者が亡くなれば、そのルサンチマン、怨念が伝説に昇華し、もはや取り戻せない物語となっていく。」
「ぞっとするわね。」 キムジウがそう言うと、綱島が言った。
「ここで解決しないと。」
「まあ、解決できるかどうかわからないけれど、チャンスはまだ、ある。」とダイスケが答えると、キムジウが不満そうな顔で、聞いてきた。
「そんな風に思っていたのに、なんでダイスケさんは、何もして来なかったの。」
ダイスケは、思わず目を反らし、「君たち若者が立ち上がれる機会を待っていたんだ。」と、嘘をついた。

会議当日の朝、ダイスケは、ギターを片手に苛立っていた。
ギターは、中学からの趣味であったが、ここ数年は使っていなかった。メッセージやメロデイーは、昨日までにだいたい完成していたが、歌詞が思いつかなかった。キーワードをいくつか挙げてつなげてみるも、しっくりこなかった。
「くそー。」そう言いながらも、もう出かけないと間に合わないので適当に歌詞をつくり、PCXにまたがった。 雪乃さんも外に出ていて、ダイスケを見つけると言った。
「準備はできたかい。そういえば、今日は、千鳥も来るよ。私は、千鳥の迎え待ちさ。」
千鳥は、千鶴の母でシングルマザーであった。ダイスケもよく知っていたが、最近は見かけていなかった。「了解しました。」と答え、スロットルを回した。

店に着くと、山田が既に来ていて、だらだらと喫煙席で煙草を吹かしていた。
ダイスケが席に付いて煙草に火をつけると山田が切り出した。
「ついに、やっちまったな。」
ダイスケは、昨日は一日中、宿題を片付ける為にニュースを見ていなかったので、
「何かあったのですか。」と、尋ねると、「日韓軍事情報包括保護協定の破棄だよ。まったく、成るべくして成ったがね。こりゃ、アメリカさんも、さぞご立腹だろうね。」と、困った表情で山田が言った。
「しかし、きな臭くなってきましたね。どうにかしないと。」
ダイスケはそう言い、ネットニュースに目を落として、幾つかのニュースを読んでみた。
一時間前に公開された安倍総理の発言のニュースで、安倍首相の毅然とした態度を褒め称えるコメントには「そう思う」が3万に対し、「そう思わない」は8百件程で、その数も比率も異常であるように思えた。
ほどなく、全員が揃うと、雪乃が「困ったものだね。」と言いながら、
「もう、両国とも完全に引けなくなった。日本は、“韓国の責任だ“と、どの記事でも書いているけど、他の国は、どう思っているか分かったものじゃないよ。」
「そうですね、リーマンショックの時も“日本は大丈夫”って色々なニュースで言っていたけど、最終的には日本が一番被害を受けていたし。21世紀に入ってから、日本人の想像力って本当に乏しくなってきているわね。」と千鳥が言った。
“他の国がどう思っているか”の例えとしては的が外れているとは思いながらも、これから生じる日本の被害や日本人の想像力の欠如については、賛同できるなとダイスケが考えていると、
「もう一度、各自の自己紹介を再度行う。」と綱島が言った。
「宿題の回収ですよ。 皆さん、出来てますか? とりあえず、このアドレスに送ってください。」
「送ってくださいって、紙じゃよ。紙。」と山田が言うと、鞄から原稿用紙100枚はあると思われる束を持ち出した。
ダイスケは、綱島君の顔がわずかに曇るのを見逃さなかったが、彼にテキストに起こすよう依頼した。しかしキムジウが日本語の練習の為引き受ける旨の申し出をしてくれた。
その文書については、綱島くんがフェイスブックに新たなアカウントを作り、アップすることになり、次にそれぞれが持ち寄った歌詞についての検討を行うことにした。
それぞれの歌詞に目を通し終えると、重苦しい雰囲気になった。
「なるほど、これは難しいわね。でも、大丈夫。まずは、キーワードを抽出してそれを一つの作品にしていく方法でどうかな?」と千鳥が提案した。
抽出されたキーワードは、以下の通りとなった。
*少女、夢、理不尽な大人、心、喪った魂、怒り、悲しみ、虚無な物語、
ここで、上げた言葉を千鳥が紡いでいった。
*本当はただ慎ましく、生きていきたかった
やさしい家族に囲まれて
少女の夢は、はかなく消えた
理不尽な大人たちの力は、少女を踏みにじり、少女の心を奪っていった
もう、どこにも行けない
少女の願いはただ一つ
喪った魂には憎しみと怒りだけが残っていった

少女は、成長した
心は、抜け出すことはできなかった
周りに人が集まり、少女は、虚無な物語になった
汚らわしい過去と共に
少女はまた、周りに利用されていった
大人の都合で もうどこにも行けない
少女の心は、憎しみと怒りだけが残っていた
世界は、救ってくれなかった
「こんな感じでどうかしら。」歌詞を書き上げると千鳥が得意げに言った。
全員、微妙な表情で歌詞を見つめていて、しばらく沈黙の時間が流れていたが、
「いいのではないか。誰かメロディーをつけてよ。」と山田さんが言うと、全員の目が泳いだ。
ダイスケが、仕方なしとの表情で、ギターが弾けるからと言って名乗り出た。
「大丈夫。大体言いたいことが入っているし、メロディーと歌唱力で勝負できるわ。」
千鶴が、そう言うと誰が歌うのかが問題となったが、千鶴とキムジウがデュエットで歌うことになった。二人とも初めは不満そうであったが、知り合いの元歌手から一回二万円のボイストレーニングを受けさせてやるからと雪乃が提案したので、承諾した。
撮影は、ダイスケの住んでいる六畳一間のアパートの空き室で行うことで、昭和の哀愁を演出するとの綱島の提案を全員が了承した。
その後、「では、ここで買売春の犯罪性について話し合ってみよう。」ダイスケがそう言うと、千鳥が「売春が犯罪なのは明らかだし、千鶴の前で話す内容ではないわ。」と言った。
「本当にそうなのか?これから我々が対面する相手は傍からみれば売春婦であり、言い換えれば犯罪者となると言うのか?」と山田が問いただす。
その言葉に、千鳥が黙って顔を伏せた。
ダイスケが「千鶴ちゃん、買売春の犯罪性について君の意見は言えるかい?」と聞くと、
千鶴は「まず、道徳的に問題があるわ。学校でも先生に絶対いけないって言われているし、お金で自分の体を売るというのはおかしな考えよ。絶対に間違っているわ。」と力強く答えた。 雪乃がその答えに対し「千鶴、道徳的な問題って何だい?」と聞くと千鶴は困った表情で口を噤んだ。
綱島が千鶴に替わり「人間の尊厳に関わる事項ではないでしょうか。それでなくとも性病のリスクや強制など、本人の意志に係わらず働かされることもあるでしょうし。」と答えた。
ダイスケが「人間の尊厳の正体は何かわかるかい。綱島くん。」と聞くと。綱島が黙った。
ダイスケが続けて「人間の尊厳の正体は、教育だよ。それは、宗教であり、倫理であった。そもそもキリスト教では売春はおろか夫婦間以外の性交も禁じていた。」と言うと、千鶴が   「やっぱりキリストね。正しいことを言うわ。」と嬉しそうに言った。
ダイスケが千鶴の様子に水を差すかのように「本来、男女は対等であったが、キリスト教の“弱者である女性は、保護を行う男性の支配を受けなければならない”という教義から家父長制が強力になり、支配される性としての女性が誕生した、という考え方がある。これは同一の経典を根底にもつ、イスラム教にもある考え方であり、過激に解釈され、捕虜にした女性への強姦や売買、重婚や肌の露出制限などが行われる根拠ともなっている。」と言った。
「では、売春は善い行いと解釈してもいいわけ?」とキムジウが聞くと、
雪乃が「そういうものではないよ。綱島くんが言ったように、感染症や強制労働の温床になるし、そもそも我々が教えられてきた公序良俗に反する行為だ。」と言った。
それに続き、山田が「日本における売春の歴史を少し。」と言いその知識を披露した。
「万葉集の時代から日本でも売春は行われていた。但し、安土桃山時代までは、一般的ではなかったようだ。安土桃山時代に豊臣秀吉が大坂道頓堀において、遊女を一箇所に集めた遊郭を作って以後一般化されていった。江戸時代の遊廓は、代表的な娯楽の場であり、文化の発信地でもあった。上級の遊女は、太夫や花魁などと呼ばれ、富裕な町人や、武家・公家を客とした。このため上級の遊女は、芸事に秀で、文学などの教養が必要とされた。しかし、その内面では人身売買や強制労働といった問題が内包されており、遊女の約定が彼女たちの自由を奪っていた。明治維新以後もこのような遊郭は存在していたが、転換点となったのは1872年(明治5年)である。この年、マリア・ルーズ号事件が発生し、日本政府はペルー船籍の汽船船内における中国人(清国人)苦力に対する扱いを「虐待私刑事件」として日本の外務省管下で裁判を行ったが、この裁判において被告側より「日本側が奴隷契約無効を
いうなら、日本においてこそ最も酷い奴隷契約が有効に認められて、悲惨な生活を余儀なくされていることがあるではないか。それは遊女の約定である」との主張がなされた。
この主張に対して、特命裁判長を務めた神奈川県権令大江卓は「日本政府は近々公娼解放の準備中である」と公娼廃止の声明を発し、1872年10月2日、芸娼妓解放令された。これにより、女衒による遊女の人身売買は規制されることになったが、実際は娼婦が自由意思で営業しているという建前になっただけで、前借金に縛られた境遇という実態は変わらなかった。
戦後の1946年、日本の軍政を担当していたGHQは公娼廃止指令を出し、女給による売春を行う赤線を除いて遊郭は廃止されることになった。国際法の「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」を批准するための国内法である売春防止法が1956年5月に公布、1958年4月1日に施行され、これによって赤線も廃止されることになった。しかし、遊郭はソープランドと名前を変えて存在しているし、援助交際やパパ活と名前を変えていきながらえている。」
(※以上ウイキペディア参照)
「では、”売春が犯罪である“との視点から整理して考えてみよう。犯罪であるのであれば、被害があると仮定してみよう。」とダイスケが言うとみんな考え込んだ。
「先ほど言ったように性病とかの感染症を広めるということはどうでしょうか?」と自信なさ気に綱島が言うと、ダイスケが「自由性交でも広まるし、インフルエンザや風邪なんかは、性交しなくても広がる。」と答えた。
「では、強制性や搾取する大人たちの存在は?」と千鶴が聞くと、ダイスケが、「国民の三大義務である勤労の義務に果たして強制性がないと言えるのか、また、高い利益を上げている企業が低賃金で労働者を働かせることが、搾取する大人たちと言えないのか。」とダイスケが答えた。
「公序良俗に反するよ。」と雪乃が指摘すると「そもそもそれ自体が権力者のイデオロギーではないのか。公序良俗の正体は何なのか。人により押し付けられた思想そのものだろう。」とダイスケが指摘し,返答した。
ダイスケが、「俺も売春に対し偏見があるし、多くの女性は、自分が売春婦にならないようにと、注意して生きている。確かに性を売りにすることは、倫理的に許されないように思われるが、では、女子アナや女性アイドルは、性を売りにしていないと言えるのだろうか。化粧することやセクシーな服を着飾ることで自分を美しく見せる女性が、性を売りにしていないと言えるのだろうか。そもそも自由意志による売春に被害者がいると言えるのだろうか。」言うと、悲しそうな目で「でも体が穢れる。」と千鶴が言った。
「体が穢れるっていう人がよくいるけど、その正体は何なのか? そもそも、生物的にみても避妊具を付けて性交を行えば、後に残るものなどなにもないではないか。」とダイスケは指摘した。「それは、違うよ。心が穢れるのさ。」と雪乃が指摘すると、ダイスケが「そのとおり。」と答えたうえで、「売春がいけないのは、それがいけない行為と本人が考えているにも関わらず、そういった行為に、女性が追い込まれることが問題なのだ。だから、自発的な売春は、犯罪ではあるものの、そこに本質的な悪性はない、と俺は、考えている。しかし、注意しないといけないのは、本質的にいけない行為と本人が捉えているのにも関わらず、追い込まれて行なわざるをえない状況になったにも関わらず、徐々に本人の倫理観が薄れ正当化する現象が現れる場合にある。これは、麻薬中毒でも、戦争の殺人行為でも、場合によっては家族の間にもみられる現象だ。」と言った。
暫くの沈黙の後にダイスケが「学習性無力感と言う言葉をきいたことがあるか?」と聞くと全員が首を横に振った。「学習性無力感とは、長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象なんだ。なぜ罰されるのか分からない(つまり非随伴的な)刺激が与えられる環境によって“何をやっても無駄だ”という認知を形成した場合に、学習に基づく無力感が生じ、それはうつ病に類似した症状を呈するという。1967年にマーティン・セリグマンらのオペラント条件づけによる動物実験での観察に基づいて提唱されたんだ。」
(※以上ウイキペディア参照)
「即ち、これが売春に潜む根底にある問題なのだ。十分な教育を受けたうえで、平等な世界観が構築されていれば、果たしてその職業を選んだだろうか? と問えば、それは果てしなく限られた人数ということになると言えないだろうか。日本が統治していたのであれば、そのような世界を作れなかったことに責任があるということは言いすぎになるだろうか。」
ダイスケの言葉にみんなが頷き、元慰安婦は被害者であるという認識が合意された。

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