感染

宇宙人

文字の大きさ
321 / 419

第26話

しおりを挟む
    もはや、邦子の瞳には叫声なのか、破顔しているのか、どちらともとれる笑いをあげる東しか映っておらず、そこに緩んだ目付きなど無かった。固まった瞼が閉ざすことを拒否している。知らぬ間に唇が震え、かち合った歯が音をたて始めた時、東の爆笑が不気味なほど、ぴたり、と止まり、激しく狼狽する邦子を見据えた。 

「......俺はな支配したいんじゃない。服従なんざお前には求めてねぇよ。俺は理解者を求めているだけだ。俺が、何故、お前を抱いたのか、安部さんが何故、子供を必要だと説いたのか、お前はこれから考えて理解していく必要がある。邦子、さっき俺が話した日本人みていな、曖昧な性質を持つな。それは、お前を深い所で壊しちまう」

「わ......私を心配して......?」

「ガキを産めるのは女だけだ。そして、俺と安部さんの理想を受け継げるのも、子供だけだ」

 冷淡と言い放った東は、再び衣類へと顔を下げると、言葉を付け加える。 

「だが、子供に理想を語れるのは女の特権だ。邦子、テメエは安部さんと俺の為にも死ぬな」

 はい、と邦子は短く返した。
 東にとって、第一は安部だ。第二は自身、第三は邦子となる。それは、安部の、唯一の親友と呼べる男の夢を叶える為のパーツとして加えられていることを暗に示した言葉だった。
    それでも良い、東との繋がりを残せるのであれば、邦子は満足なのだろう。
 そして、邦子は、さきほど、はぐらかされた質問をする。

「あの......東さん......これから、どこへ向かうのですか?」

「小倉に忘れ物を取りに行く」

「......小倉......ですか?一体、なにを?」

「俺と安部さんにとって、一番の繋がりと言える物だ」

 愛おし気にテーブルのリュックサックを眺め、適当に選んだ服を着ていき、一息に背中にからうと足早に東は寝室の扉を開く。
 その背中を追い掛ける邦子を一瞥すれば、不意に、ある二人組を思い出して微笑し、気付いた邦子が首を傾ける。

「何か、楽しいことがありましたか?もしかして、さっきの話しを思い出しでも?」 

    マンションの外階段を降りながら、東は首を振った。

「いや、ある男女を描いた映画を思い出してな」

「......東さんも映画とか見るんですね」

「結構な名作と名高い映画だがな。アメリカ全土を股に駆けた、実在した男女二人組の犯罪者の話しだ。英雄的な扱いまで受けていたんだが、最後は警察に銃殺されちまう」 

    一階に到着し、非常口を開けば、すぐ目の前にある車に乗り込んだ。助手席に座る邦子が、再度、訊いた。

「その映画のタイトルは?」

「......俺達に明日はない」

 東の返答に、邦子は随分と皮肉なタイトルだと眉をひそめた。特に、この九州地方における惨状を考慮すれば、もっともなタイトルだ。そんなことを考えているのかなど、問い掛けることも出きる筈もなく言葉を呑み込んだ。
    車内に微妙な沈黙を残したまま、東がアクセルを踏み込めば、車はゆっくりと速度を上げていき、二人は小倉へと出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...