言われてみれば確かに

そらき

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第9話 ジョウビタキのキーホルダー

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 入学して一か月が経った頃、僕はまだ友達が出来ていなかった。馴染めていないというわけではきっとないと思う。挨拶はするしされるし、時折話したりもする。きっと僕がボーッと外を見ていたり、本を見たりしているので、1人でも大丈夫なタイプと思われているのだろう。事実そうだったし、偶然にもクラスメイトは落ち着いた人ばかりだったので、皆で仲良くしようとか興味本位で馬鹿なことを聞いてきたりする人はいなかった。
 でも友達がいらないかといったらそれは嘘。欲しい。けど中学時代に自分の趣味をクラスメイトに酷くからかわれて、それにキレて孤立したことがトラウマになっているので、自分からグイグイと前に踏み込む気にはなれない。
 だから今の状態が丁度良いのかもしれない。
 というなんだか暗めの思考のままゴールデンウィークに突入した。今年は10連休と長く、思う存分バードウォッチングと漫画と読書を堪能しようと思った。お父さんも今年は珍しく全部休めるようで、一緒に温泉に行こうと誘ってくれたのが嬉しかった。
 ゴールデンウィークの初日。1泊2日でお父さんと温泉に行ってきた。3日目は家でダラダラと過ごした。
 お父さんは4日目から友達とキャンプに行ったり自転車旅へ出たりとかなりアクティブに過ごしていた。キャンプに誘われたが丁重にお断りした。バードウォッチングは好きだけどキャンプはそんなに好きじゃなというアウトドアなんだかそうじゃないんだか面倒な属性を持っていた。
 そして僕の4日目の朝。僕はいつものように大田堀公園にバードウォッチングに行って、家に帰ってきて二度寝していた。
 昼前にアラームをかけたつもりだったが、目が覚めて時計を見るともう16時近くだった。ボーッとしなが晩御飯のことを考えていたが、そろそろ学校の課題にも取り掛からないとまずいなと思い机に向かった。
「あ、やべ」
 リュックの中に入れておいたと思った課題の範囲が書かれていたプリントが無かった。恐らく教室の机の中だ。
 こういう時友達がいれば教えてもらえたがあいにく1人もいなかったので、僕は学校に向かった。これが休日出勤というやつか。
 無事プリントを回収して学校を出てきたら17時過ぎになっていて、外は良い感じに黄昏ていた。僕は夕暮れ時の雰囲気が好きだったので、時折ふらふらとあてなく散歩することがあった。
 この日は課題をやると決めていたから、ちょっとだけ寄り道をして帰ろうと少し遠回りする道を歩き始めた。
 その途中、道端に鍵が落ちていた。鍵にはジョウビタキのキーホルダーが付いていた。ジョウビタキは10月に頃になると全国各地になると飛来してきて、住宅地などでも見ることができる冬鳥。一部は日本で繁殖することもある。
 野鳥好きの中では超有名な鳥だけど、興味が無い人にとってはただの鳥。
 ということはこのキーホルダーを付けているのは余程の野鳥好きかもしれない。
「届けてあげなきゃ」
 鍵が無くて今頃凄い困っているだろう。
 そしてこのキーホルダーが無くなっているのもきっと辛いはずだ。というのは思い込みかもしれないけど。
 スマホのマップで検索してみると直ぐ近くに交番があったのでそこへ向かった。
「すみません」
 中に入ってみると警察官は不在で、机の上に『何か御用の方はこちらにお電話下さい』という立て札が置いてあった。
「あの」
「ぎゃっ」
 5分位待って戻って来なかったら電話してみるかなと考えていると、突然後ろから声をかけられ思わず叫んでしまった。
「は、はい」
「それ」
 後ろ振り返ると、黒いキャップに黒いパーカーにジャージパンツをはいた男の子が立っていて、僕が持っているジョウビタキのキーホルダーを指さしていた。
「あ、もしかしてこの鍵の」
「そう。……どうも」
「いやーよかったよかった」
 家の鍵なんて大事な物落としたら気が気でないだろうし、無事持ち主の手に戻って本当良かった。
「……こんな鍵無くなってもよかったのに」
「え?」
「……お礼は」
 男の子にそう聞かれて僕が要求することはただ一つしかなかった。
「そのジョウビタキのキーホルダーはどこに売ってるんですか?」
 この情報こそが僕にとっての最高のお礼。もし近くに売っていてなおかつお値段がリーズナブルであればこのまま買いに行く。
「え?ジョウ……なに?」
「えと、そのキーホルダーは、ジョウビタキっていう種類の鳥なんです」
 僕は説明ついでにスマホでジョウビタキと検索してその結果を男の子に見せてあげた。
「ふーん……本当だ」
 男の子は特に興味無さげに画像を見た後、鍵からキーホルダーを外した。
「手出して」
「え?」
「手」
「あ、はい」
「これお礼。じゃ」
「あっ」
 男の子は僕が出した手の上にキーホルダーを置くと、走って夕暮れに染まる路地へと消えていった。
 男の子の姿が完全に見えなくなった後、僕は手に置かれたキーホルダーを見た。
 明日になったら木葉に戻っていそうな、なんだか少しミステリアスな雰囲気に思えた。
 翌日、ジョウビタキのキーホルダーは木葉に戻ることなく机の上に置かれていた。僕はそれをなんとなく朝日にあててキラキラ輝かせボーっと見ていた。
「このキーホルダーどこに売ってるんだろ?」
 ジョウビタキ以外の野鳥もあるのか気になって色々ググってみたけど結局見つからなかった。あの男の子に聞こうも名前も連絡先も知らないし。
 それからゴールデンウィーク最終日まで課題をしたりバードウオッチングをしたり昼寝したり漫画読んだりと悠々自適に過ごした。
 最終日の夕方前にお父さんは帰ってきた。遊び疲れたのか。お風呂場で寝てしまい起こすのが大変だった。お風呂から上がった後また寝室で泥のように眠ってしまった。
 一緒に寿司でも食いに行こうといってたのに、これではどうしようもないので、家からちょっと離れた所にあるスーパーの寿司を買いに行くことにした。
 鮮魚売り場の一画にあるお寿司コーナーで物色中、2割引きになったあじのお寿司を取ろうとしたら、反対方向から手が伸びてきた。これはできれば欲しいが、こういう時はゆずってしまう。
「あ、どうぞ……あ。昨日の男の子」
 なんと、あじのお寿司を取ろうとしていたのは、昨日僕にキーホルダーをくれた男の子だった。
「……ぷっ……アハハ」
 男の子は僕をじっと見た後思い切り笑い始めた。
「ほ、本気だったの」
「え?な、何が?」
 そういうとまた笑い始めた。さすがに周りの視線が痛かったので、僕はあじのお寿司と彩りという8貫入ったパックを取った。この寿司代はお父さんに請求する。
「と、とりあえず寿司買ってさ、近くの公園で食べない?」
「公園で寿司!」
 どうやら何かのツボに入ったのか、男の子はお腹を抱えて笑い始めた。
 僕はなんとか男の子を促してレジで会計しスーパーの外へ出て、近くの公園へ行った。
 公園にある屋根付きのテーブルと椅子がある所へ行き、僕達はそこに座った。男の子はまだおかしそうに笑っている。
「はーおかしい」
「何がそんなにおかしいの……」
 本当変な薬でもキメてしまっているのではないかと思う位テンションがおかしい。
「だって」
「とにかく食べよう。お腹空いた」
 僕は買ってきた寿司を袋から取り出しテーブルの上に置いた。
「あ。寿司のお金」
「別にいいよ」
「でも……」
「じゃあお茶買ってほしいな」
「わかった」
 冷静に考えてみると、昨日鍵を拾った持ち主とこうして公園でスーパーの寿司を食べることになるなて思ってもいなかった。自動販売機の方へ歩く男の子の後ろ姿を見ながらぼんやり考えていた。
 そういや名前を聞いていない。こうして公園でスーパーの寿司を食べるんだから、聞いても特におかしくないはずだ。
「はい」
「ありがとう」
 男の子が席に戻ってきてお茶を置いた。僕はそれを開けて一口飲んだ。
「僕……清里幸太郎っていうんだけど、君の名は?」
「宮水三葉だったらどうする?」
「……どうもしない」
「ふふっ。わた……いや。俺の名前は宝田春」
「宝田君ね」
「ぶはっ」
「汚っ」
 宝田君は口に含んでいたお茶を吐き出しまた笑い始めた。やっぱり怪しい薬をキメているのではないだろうか?僕は疑惑の眼差しをむけた。
「悪い悪い。いやぁ幸太郎みたいな奴は初めてだよ」
「僕も宝田君みたいな奴初めて……」
 それから僕達はお寿司を食べながらお互いのことを話始めた。
 僕と宝田君は同い年だけど通っている高校は別々だった。
 そして僕は母親がいなくて、宝田君は父親がいなかった。片親同士という所で謎の連帯感が生まれたのか、僕と宝田君は初めてだけど気を使わず色々話すことができた。
 寿司を食べ終わった後も色々と話し込み、気が付けばいい時間だった。
「明日から学校だな……」
「そうだね……」
 学校のことを考えると気が重かった。宝田君と喋るように友達が出来たらいいんだけど。1人で過ごしても大丈夫キャラと思われているし、ゴールデンウィーク明けにいきなりテンション上げて絡んできたら明らかに怖い。
「テンション低いな」
「まぁ……ね。友達いないし」
「あぁいなそう」
「なんでよ!」
「冗談。俺もいない」
「嘘。いそうに見えるけど」
「幸太郎……友達欲しいの?」
 欲しいけど、また関係がこじれるのが怖いという気持ちもある。でも1人で過ごすのが嫌いかといったらそうではないし、この気持ちはただのわがままなんだと思う。あまり考えず流れに身を任せよう。それがいい。
「も、もしよかったら……俺が友達になってあげてもいいけどっ」
「え?」
 宝田君は深く帽子をかぶり明後日の方向を見ていた。なんだかその様子がおかしくて、僕は笑ってしまった。
「おい!」
「ご、ごめんごめん!」
「この話は無しな」
「ごめん!僕で良ければ……友達になって下さい」
 僕はよく分からないけど、勢いで手を差し出した。
「ふん……」
 宝田君は相変わらず帽子を深くかぶりながら手を握ってくれた。華奢な手だと思った。
「幸太郎。これ」
「うん?あ、ありがとう」
 帰り際、宝田君と僕はLINEを交換し「またな」と「またね」で別れた。
 それから学校帰りに会ってたまに話すようになった。
 これが僕と宝田との出会い。

「ということなんだけど……」
「同級生じゃなかったんだ?!」
 僕が話し終えた瞬間ツチカが叫んだ。
「言わなかったっけ?」
「そんな風に喋ってたけど……」
「まぁこんな感じだからさ。説明するのも面倒で」
 ツチカは「そう」と呟いて腕を組み唸っていた。それはまるで難事件にぶつかった探偵かのように。今の話に何をそんな考える要素があるのか。
「はーそういう馴れ初めもあるんだね」
 市川のおばさんはビールをかっと煽り「いいねぇ」と呟いた。友達とのこと馴れ初めっていう?
「だいちゃん。今度その宝田君連れてきたら?」
「うんうん。それがいいわよ。辛肉そばごちそうしてあげる」
 大介おじさんと奈織おばさんの提案はとても魅力的だった。実際なおりの辛肉そばを宝田に食べさせてあげたかった。
「そうしようかな。宝田も喜ぶと思う」
「じゃあその時私も同席させてもらうわ」
 漆原さんは日本酒をカッと煽り不敵な笑みを浮かべた。
「発狂してそばどころじゃなくなりそうだけど……」
「かわいい弟分のお友達が私のファンだなんて嬉しい偶然じゃない」
 いつから僕が漆原さんの弟分になったのか。
「ツチカちゃんも来るよね?」
 漆原さんに声をかけられたツチカは「可能性」とか「本当かも。いや絶対に違う」とか何やら1人でぶつぶつ呟いていた。
 漆原さんはそれを見てクックッ笑っていた。
「面白くなりそうね」
 何が面白くなりそうなのかよく分からなったけど、満足げに日本酒を飲む漆原さんを見て、僕は就職祝いのプレゼントをどうするか迷っていたけど、ファンである宝田を誘うと決めた。
 後は女子力が高そうなツチカも誘って3人で出かければきっと良い品が見つかるはずだ。
「幸太郎……何も分かってなさそう」
 ツチカはフンと鼻息を荒くして炭酸水を日本酒のように飲んだ。
 一体何なのよ。
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