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エルンの失敗(1)
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学校から帰ると珍しくガルディが起きていた。
「いいことがあったようですね」
「わかるか。大物が売れたぞ。カルーディアの竪琴だ」
この竪琴は、竪琴を弾きながら念じると動物たち、例えばヤギとか羊、牛など家畜を自由に動かせる魔道具だ。
牧畜関係者なら喉から手が出るほど欲しがるものだ。
「本当ですか、すごいじゃないですか。この店でも三本の指に入る高額商品ですよ」
「三本の指に……そうじゃないだろ、もっと高い商品なんていくらでもある」
「そんなにありましたっけ」
「あっちの棚には二十万デリラを越える物がずらりとならんでいるだろ」
「いいいいくらで売ったんですか」
「十二万デリラだが……」
「十二万って、えー……あれは百二十万デリラですよ。修理に一週間もかかったんですから。それに魔力を込めるにもへとへとになりました。他の店で買えば百五十万デリラはする物をあえて安くして目玉にしたんですが……」
「でも、値札には十二万と書かれていたぞ」
ガルディははぎ取った値札を見せた。
——あああああ……しまった、一桁間違ってた。僕のミスだ。どうりで売れるわけだ。十二万なら破格の安さだ。またやっちゃった——
エルンは再び落ち込むことになった。
「そう落ち込むんじゃねよ。エルン、そうやって失敗を繰り返して成長するもんだ」
「ガルディさんはいいですよ。給料をもらう側だから。僕は払う側だから、大変なんですよ」
「じゃあなにか、俺は気楽だっていいたいのか? 俺だってお前やこの店のことを真剣に考えているんだぞ。……お前、そんな風に考えていたのか」
「いえ、そうじゃないですけど……ごめんなさい。これも僕のミスです」
「まあいい、お前が大変なこともわかる。学校へも行き、店も切り盛りするなんて十歳やそこらの子供ができることじゃない。今回は大目に見てやる」
エルンは畳みかけて落ち込むことになった。
ドアが開く音でエルンは我に返った。気を取り直して接客をする。
「いらっしゃいませ」
ウイザードハットを被った、どうやら魔法使いの女の人だ。若いようだが、なんだか疲れたような印象だ。頬がこけ目の下にクマが現れている。生活に困っての金策とエルンは見た。
「……買ってもらいたい物があるんですけど」
「はい、どんなものでしょう。拝見します」
彼女が背中に隠すようにしていた物は箒(ほうき)だった。年季の入った古い箒だ。
彼女はカウンターの上におずおずと置いた。
エルンはそれを見てすぐにわかった。ダリアンドゥールの箒だ。一級の魔道具。状態の良いものなら二百万デリラで売れそうな代物だ。
——彼女はそれを知っているんだろうか。ただの中古の魔箒として買い取れば、使えないことはないので修理して五万デリラくらいが相場だ。だったら二万デリラが買い取り値でいいだろう。しかし、ダリアンドゥールの箒なら買い取り値は百万から百二十万デリラが妥当だ——
エルンは一瞬でこれだけのことを考えた。
——どうしよう。お店のことも考えないといけないし。だからといって安い値を付けて、これ本当は有名な魔法使いが作った箒でしょっていわれたら、店の沽券に関わる。悩ましいところだ——
「これはどうされました?」
「うちの家系に古くからある箒で、これがどんな箒なのかは知らないんです」
「なるほど」
「箒が魔道具か?」
ガルディが口を挟む。
「昔の魔法使いはこれで空を飛んだんです。今でも魔力を込めるか、魔女の軟膏を塗れば飛べますよ」
「俺でもか?」
「ガルディさんには無理です。あくまでも魔法使いです」
エルンは箒をじっくりと観察した。そして決めた。
「九十五万デリラでどうでしょうか?」
「おいおい、エルン。九十五って……正気か?」
エルンは決めた。やっぱり信用が大事だ。
——相手が無知だからってそこに付け込んじゃだめだ。一度失った信用は取り返せないんだから——
「ガルディさんは黙てってください。やりにくいな……。ダリアンドゥールの箒は箒の中では最高峰です。魔女の中には箒のコレクターもたくさんいて珍しいものなら高額で売買されるんです。ただ、多少の修理も必要なようですし、魔女の軟膏の効果もだいぶ弱ってますから。うちとしてはこれが限界なんです」
女は、エルンの顔をじっと見ていた。そしてニヤッと笑った。
「坊や、正直ね。しかも見る目が確かね。よかった。どこよりも正確で、どこよりも高額な買い取りね。それでお願いするわ」
——やっぱり、知ってたんだ。危なかった——
「エルン、お金あったか?」
「ぎりぎりです。ですがこれならすぐに売り手は付きますよ」
商売って難しい。だけど楽しい。エルンは身に染みてそう思った。
「いいことがあったようですね」
「わかるか。大物が売れたぞ。カルーディアの竪琴だ」
この竪琴は、竪琴を弾きながら念じると動物たち、例えばヤギとか羊、牛など家畜を自由に動かせる魔道具だ。
牧畜関係者なら喉から手が出るほど欲しがるものだ。
「本当ですか、すごいじゃないですか。この店でも三本の指に入る高額商品ですよ」
「三本の指に……そうじゃないだろ、もっと高い商品なんていくらでもある」
「そんなにありましたっけ」
「あっちの棚には二十万デリラを越える物がずらりとならんでいるだろ」
「いいいいくらで売ったんですか」
「十二万デリラだが……」
「十二万って、えー……あれは百二十万デリラですよ。修理に一週間もかかったんですから。それに魔力を込めるにもへとへとになりました。他の店で買えば百五十万デリラはする物をあえて安くして目玉にしたんですが……」
「でも、値札には十二万と書かれていたぞ」
ガルディははぎ取った値札を見せた。
——あああああ……しまった、一桁間違ってた。僕のミスだ。どうりで売れるわけだ。十二万なら破格の安さだ。またやっちゃった——
エルンは再び落ち込むことになった。
「そう落ち込むんじゃねよ。エルン、そうやって失敗を繰り返して成長するもんだ」
「ガルディさんはいいですよ。給料をもらう側だから。僕は払う側だから、大変なんですよ」
「じゃあなにか、俺は気楽だっていいたいのか? 俺だってお前やこの店のことを真剣に考えているんだぞ。……お前、そんな風に考えていたのか」
「いえ、そうじゃないですけど……ごめんなさい。これも僕のミスです」
「まあいい、お前が大変なこともわかる。学校へも行き、店も切り盛りするなんて十歳やそこらの子供ができることじゃない。今回は大目に見てやる」
エルンは畳みかけて落ち込むことになった。
ドアが開く音でエルンは我に返った。気を取り直して接客をする。
「いらっしゃいませ」
ウイザードハットを被った、どうやら魔法使いの女の人だ。若いようだが、なんだか疲れたような印象だ。頬がこけ目の下にクマが現れている。生活に困っての金策とエルンは見た。
「……買ってもらいたい物があるんですけど」
「はい、どんなものでしょう。拝見します」
彼女が背中に隠すようにしていた物は箒(ほうき)だった。年季の入った古い箒だ。
彼女はカウンターの上におずおずと置いた。
エルンはそれを見てすぐにわかった。ダリアンドゥールの箒だ。一級の魔道具。状態の良いものなら二百万デリラで売れそうな代物だ。
——彼女はそれを知っているんだろうか。ただの中古の魔箒として買い取れば、使えないことはないので修理して五万デリラくらいが相場だ。だったら二万デリラが買い取り値でいいだろう。しかし、ダリアンドゥールの箒なら買い取り値は百万から百二十万デリラが妥当だ——
エルンは一瞬でこれだけのことを考えた。
——どうしよう。お店のことも考えないといけないし。だからといって安い値を付けて、これ本当は有名な魔法使いが作った箒でしょっていわれたら、店の沽券に関わる。悩ましいところだ——
「これはどうされました?」
「うちの家系に古くからある箒で、これがどんな箒なのかは知らないんです」
「なるほど」
「箒が魔道具か?」
ガルディが口を挟む。
「昔の魔法使いはこれで空を飛んだんです。今でも魔力を込めるか、魔女の軟膏を塗れば飛べますよ」
「俺でもか?」
「ガルディさんには無理です。あくまでも魔法使いです」
エルンは箒をじっくりと観察した。そして決めた。
「九十五万デリラでどうでしょうか?」
「おいおい、エルン。九十五って……正気か?」
エルンは決めた。やっぱり信用が大事だ。
——相手が無知だからってそこに付け込んじゃだめだ。一度失った信用は取り返せないんだから——
「ガルディさんは黙てってください。やりにくいな……。ダリアンドゥールの箒は箒の中では最高峰です。魔女の中には箒のコレクターもたくさんいて珍しいものなら高額で売買されるんです。ただ、多少の修理も必要なようですし、魔女の軟膏の効果もだいぶ弱ってますから。うちとしてはこれが限界なんです」
女は、エルンの顔をじっと見ていた。そしてニヤッと笑った。
「坊や、正直ね。しかも見る目が確かね。よかった。どこよりも正確で、どこよりも高額な買い取りね。それでお願いするわ」
——やっぱり、知ってたんだ。危なかった——
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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