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契約の加護

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俺だけカイウスの倍はイかされて、へとへとになった頃…窓から見える空は明るい青色が広がっていた。

ベッドでカイウスに抱きしめられたままいつの間にか眠ってしまっていて、目を擦りながら起き上がる。
この場所は気温というものがないからか、裸で寝ても寒くはなかった。

隣を見ると、ゲームの登場人物と何一つ変わらない美しい寝顔があった。

俺、昨日カイウスとエッチしてしまったんだと思うと顔が一気に真っ赤になった。
あんなに愛を囁いて、カイウスで中をいっぱいにされるのが幸せだって思うなんて…

「…恋、してるからかな」

「俺もだ」

「か、カイウスッ…起きてたの!?」

独り言のつもりで呟いた言葉を拾われて顔を両手で隠すとカイウスに抱きしめられた。
指の隙間からカイウスを眺めていたら、眩しいくらいの笑顔を見せられた。
いつも無表情なカイウスの貴重な微笑みに目が開けられないほどに感じた。

こんなカイウス、ゲームにだってなかった…俺だけが知ってる。

見えない布団の中で指を絡められて、擦り合わされると変な気分になる。
でも腰は痛いし、俺にそんな元気はないなと思っていたらカイウスが先に布団から出た。
解かれた指がちょっと切なくて眺めていたら、カイウスに手を取られてチュッと軽い口付けをされた。

「着替えを持ってくるだけだ、それから朝食にしよう」

カイウスの言葉に頷き、布団で体を覆い寝室を出るカイウスを見送った。

足をぶらぶらと動かしながら待っていたら、すぐに帰ってきた。
てっきり着替えは普通の服だと思っていたから、その服を見て驚いた。

白をベースに所々金の不思議な模様が描かれているRPGの聖職者のような服装には見覚えがあった。
これはゲームでマリーが着ていた服装だ、唯一違うのはこれは男物というところだ。

マリーが精霊王と契約を交わす時に着ていた服で、カイウスにとってそれは特別なものだろう。

「…カイウス、これ」

「ライム、お願いがあるんだ」

「お願いだから断ってもいい」と念入りに言われてから、カイウスは俺の手を握り膝を曲げていた。
まるで童話の王子のような優雅な仕草で俺を見上げて真剣な眼差しで見つめていた。

俺と契約してほしい…と言われた、ゲームではマリーは精霊王だったが直接カイウスに言われた。
カイウスの話によると、リーズナは幼少期から共にいる精霊の化身だという説明から始まった。
リーズナはゲームでも出てくるから俺はよく知っている、雌猫好きでカイウスと喧嘩ばかりするけど信頼しあっている良き相棒。

そして精霊の化身だから俺の影響を一番に受けやすくもある、残念ながら俺からは近付けない相手だ。
ゲームではリーズナとライムは接点がない、ゲームではヒロインに懐いていたが俺は男だからどう思われているかは分からない。
カイウスに悪い影響を与える存在と思われているだけかもしれない。

そしてリーズナの説明が終わり、カイウスは自分の胸に俺の手を押し当てた。
これは帝国の騎士が主に絶対の忠誠を誓う仕草だった、自分の心臓を捧げるという意味がある。

「俺の加護があればライムを守れる、誰にも文句は言わせない…俺と永遠を生きてくれますか?」

「…俺で、いいの?」

「ライム以外を加護する気はない」

きっぱりとそう言うカイウスに、俺も覚悟を決めようととまっすぐ見つめた。
俺がここで頷いたらきっとゲームの世界は崩壊する、でも…俺の人生は俺が主人公なんだ。

今までずっと、自分の気持ちよりゲームのような幸せなハッピーエンドがカイウスにとっていいと思った。
でもそれはゲームのカイウスの幸せだ、俺の目の前にいるカイウスとは別人だ。

カイウスは俺と永遠を生きたいと言ってくれた、俺だって同じだ。
悪役として生まれた俺にだって幸せになる権利がある、そう思わせてくれたのはカイウスなんだ。

「俺は誓う、カイウスと永遠を生きる…隣に相応しい存在になる…またカイウスが暴走したら俺が止める」

「……あぁ、よろしく頼む」

二人で見つめ合い、カイウスが俺の手を握り立ち上がり体を引き寄せた。
密着すると、耳元でカイウスが聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いていた。
すると足元が光り、俺とカイウスの体も熱くなりカイウスの背中に腕を回してしがみ付いた。

だんだん上昇していく熱が怖い、息も荒くなっていき終わりのない快楽が体をぐるぐると回っているようだ。
安心させるようにカイウスが背中を撫でてくれて、だんだん熱も落ち着いてきた。

完全に熱が引いた時にカイウスが離れていき、契約の儀式が終わった事を知らせていた。
呆気なく感じて、体を見てみたが何も変わっていない…悪魔の紋様もある。

「契約は目に見えないものだ」

「そうなのか?」

「だけどライムと繋がった感じはする」

「心が…」とカイウスの指先が俺の胸をトンと軽く触れて、俺も心の変化を感じていた。
言葉にすると難しいが、カイウスと離れているのにまだ密着しているような安心感が凄い。

自分の胸に触れてカイウスも自分の中にいると思っていたら、カイウスに抱きしめられた。
本物も近くにいると二倍の幸福を味わって頬が自然と緩んでしまう。

契約をしたからこの場所は俺一人でも入れるようになったとカイウスは言った。
でもカイウスがいないなら来る意味はあまりなさそうに感じた。

「そろそろ帰らないと…」

「俺の屋敷に連れていきたいが、屋敷を襲った犯人を捕まえないとな」

カイウスの屋敷を襲った犯人、ゲームでもそんな事件があった気がする。
なんだったっけ…少し状況は違うがあの話だろうか…だとしたら犯人はローベルト家だ。
ローベルト家がしたなら俺の責任でもあり、謝って済む話ではない。

今までは直接カイウスに危害を加えていなかったから良かったが、今回はダメだ。
一族の悪事を止められるなら、俺は出来る限りカイウスに協力したい。
でもその作戦は聞かされていないから不確定な話をカイウスに出来ない。
俺が個人的に調べてからカイウスに伝えよう、そのためなら家に戻るくらいなんて事はない。

俺にはいつも傍にカイウスがいてくれる、もう一人じゃないんだ。

「ライム、大丈夫だ…すぐに解決してお前の疑いを晴らしてやるから」

「うん、ありがとう」

もう一度口付けて、明日は学校があるから俺達は宮殿を後にした。
カイウスは察しがいいからきっと犯人がローベルトの一族だって知っているだろう。
でも俺に聞く事はせず、優しい言葉で不安を取り除いてくれる。

カイウスはローベルトの一族を捕まえたいだろうが、俺が危険な目に遭う事は望んでいない。
でも俺だってカイウスに守られるだけなんて嫌なんだ、カイウスを守る男になりたい。
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