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カイウスの話17
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ライムを襲った体罰男の処理も終わり、騎士団の仕事に戻った。
放火事件の犯人が精霊だという事は分かったが、何故そうしたのかはまだ分からない。
他の精霊に聞いても手がかりはない。
リーズナは精霊の化身だから俺よりもその辺の情報に詳しい。
だから今リーズナに調べてもらっているが、手がかりがなかった場合…あの放火事件の犯人である精霊を探すしかない。
……でも、何処にいるんだ?それにあの音と精霊の抜けた羽は…
「カイ様?どうかされたんですか?」
「……いや、何でもない」
「俺、ずっとカイ様に憧れてて…こうして一緒に仕事出来るなんて夢みたいです!」
そう言って俺にキラキラした眼差しを向ける見習い騎士に「そうか」とだけ言った。
放火事件の手がかりを探すついでに街の見回りをしようと思い、見習い騎士と共に歩いている。
俺への憧れもあるだろうがハイドレイの家は貧しくて、両親を養うために騎士団に入ったと聞いている。
先輩騎士達からの評判も悪くないし、まだ未熟だが鍛錬すればユリウスよりも強くなるかもしれない。
国民の評判も悪くはないが、物を貰いすぎるのはどうかと思う…仕事中だ。
周りを見渡して怪しい奴がいないか確認する。
「そういえばカイ様、ライムと知り合いだったんですね」
「………」
「き、聞いちゃダメでしたか!ごめんなさい…」
俺が少しキツい目で見たからハイドレイは肩をびくつかせて怯えていた。
別に関係を隠すつもりはない、後ろめたい事なんて何もないから…
ただ、ライムを呼び捨てで呼んでいるのが嫌だ…器が小さいだろうが、それは嫌だ。
リーズナとかクマとかライムの家族ならまだ許せるが、なんでお前が呼ぶんだ。
ライムを医務室に運んでくれた恩はあるが、それとこれとは話が別だ。
ハイドレイは誤魔化すように、別の話題に変えた。
マリーの話に変わり、いつの間に知り合ったんだと不思議に思った。
別に聞いてはいないが、マリーは最近騎士団の兵舎でも手伝いをしているとハイドレイがペラペラと喋っていた。
再び「そうか」とだけ言うと、俺の目の前になにかが通り過ぎていった。
ハイドレイの目の前も通ったので、きっと見ている筈だ。
「ハイドレイ、今なにか通らなかったか?」
「えっ、いえ…」
ハイドレイが見えないならそれは精霊か魔物。
でも俺達に危害を加える気はなさそうだから魔物ではなく精霊。
しかもまっすぐに飛んでいるようには見えなかった、小刻みな動きが不自然だった。
もしかしたら羽根が少ない精霊なのかもしれない。
そう思ったら、見失う前に精霊を捕まえて今度こそ事情を聞こうと走り出した。
後ろから訳も分からず付いてくるハイドレイの足音が聞こえてきた。
街の広場を抜けて、人気のない路地裏まで走っていた。
だから、広場で起こった出来事を知らなかった。
「おい止まれ!手荒な真似はしたくない!」
「はぁはぁ…カイ様、いったい誰に言ってるんです?」
何も見えていないハイドレイからしたら俺は可笑しな奴だろう。
俺の声は精霊に届いている筈だ、それでも止まらないというなら仕方ない。
手に電流を流して、精霊に向かって放った。
精霊はフラフラしているから避ける事も出来ずに直撃した。
力を弱くしたから身体が痺れて動けない程度だ。
走るスピードを遅くして、地面に落ちた精霊を手のひらに乗せる。
「…すまなかった、君に聞きたい事があったんだ」
『……ふ、ふ…』
「君は…もしかして」
羽根が、この前よりも減っている…何とか飛べるだろうが…こんなに少なかったら長距離は無理だ。
それに、それだけではない。
精霊の小さな首をよく見てみると、傷があった。
犯人が自分だと言わないために喉を潰したのか。
こんな酷い事をするなんて、眉を寄せて名も知らない犯人に怒りを覚えた。
とりあえず連れて帰ってリーズナと相談するかと、転送魔法を使った。
ハイドレイはずっとなにかを見ようとしていて、俺が見ている方向とは別の方向を見ていた。
突然走り出したから戸惑っただろう、すまないとだけ言って仕事に戻ろうと路地裏を出た。
いつも通り賑やかな街だと思っていたが、何だか様子が可笑しかった。
俺の顔を見るなり「カイ様!」と近付いてきた。
それだけでなにかあったのだろうという事は分かる。
「どうかしたのか?」
「それが…悪魔の子が現れたんです」
「……悪魔?」
「カイ様が戦ったあの悪魔を召喚した男が現れたんです!」
あの悪魔とは俺の事だろう。
しかし俺は誰にも召喚された覚えはない。
上手く話せないのか、俺にはなにが言いたいのか分からなかった。
「ゆっくりでいいから話してくれ」と落ち着かせていたら、俺を呼ぶもう一人の声が聞こえた。
そこにいたのは買い物カゴを抱えているローズがいた。
ローズは後は自分が話すと、街の人の肩に手を添えていた。
ローズも知ってる事なのか、俺が街を少し外していた間にいったいなにがあったんだ?
「カイ様、ここでは話しづらい内容なので…」
「………」
話しづらい?嫌な予感がするが、今は仕事中だからここで話してほしい。
そうローズに言うがローズは頑なに口を閉ざしている。
急ぎではないのか?見るかぎり怪我人はいないように見えた。
急ぎではないなら、仕事が終わったら聞く事にした。
俺がいる事で広場にいた街の人達がホッとしたような顔をしていた。
本当になにがあったのか、俺とハイドレイは顔を見合わせていた。
そして仕事を早めに終わらせて、急いで屋敷に向かって帰った。
玄関前にはローズがいて、俺とローズは俺の部屋に向かった。
周りの人物が知ってる事を誰にも聞かせたくない理由が分からない。
最近のローズは幼馴染みの俺でも理解出来ない事が多すぎる。
部屋に到着してドアを閉めると、ローズが口を開いた。
「あの場でカイ様に話しづらいと判断しましたので、お待たせしました」
「…どういう事だ」
「アイツとご友人である事を隠すために、アイツの話題を避ける事がよろしいかと…」
「俺に後ろめたい交友関係なんてないが…」
「アレを友人だと呼びたくないと言うなら申し訳ございません」
アイツとかアレとか、誰の事を言っているのか……俺の大切な人なら容赦はしないぞ。
ローズに背を向けて上着を脱ぐと、近付いてきた。
俺の上着を受け取ろうとしているのだろうが、拒否した。
このくらい自分一人で出来る。
窓からリーズナが入ってきて、ローズは「ローベルト」と口にした。
「ローベルトがとうとう正体をあらわしました」
「…正体って何の事だ」
「手の甲の悪魔の紋様を街の人々に見せつけて殺害予告もしたんです、やはりローベルトは危険な存在です」
ローズの言っている事を事実だとすると、ライムはいつもしている手の甲を隠す手袋が外れてしまい、他の人に見られた。
殺害予告はよく分からないが、ライムは勘違いされやすいから聞き間違いかなにかだろう。
今回もまたライムは悪くはない、広場の人間達が無傷なのが何よりの証拠だと思う。
ローズが言うような悪のローベルトなら脅すだけなんてしない筈だろ?
俺の言葉だけじゃなく、証拠もあるのに何故ローズはそこまでローベルトを恨むんだ?
最近のローベルトの動きも関係しているのか?
ローズはメイド長であるが、騎士団員とも知り合いがいる。
だから最近の事件の事もローズは知っている。
誰が話したか犯人探しをするつもりはないが、騎士団の極秘に近い情報を話すのはいい事ではない。
「ローズ、また騎士団員に情報を聞いたのか?」
「カイ様を守るためです」
「お前になにが守れるんだ」
「私はカイ様のために…」
「……もういい、出ていってくれ」
ローズと話していると頭が痛くなる。
俺を何だと思っているんだ……お前になにが出来るんだ?
守るべき者は俺じゃない、弱い人だろ…ライムを守れよ。
ライムが守れないなら、軽々しく守るなんて口にするな。
……俺が、ライムを守る…何を犠牲にしても…
ローズが部屋からいなくなり、リーズナは精霊の傷を見ていた。
背中を見ても、無理矢理引きちぎられた痛々しい痕が残っていた。
『カイ、俺が調べた情報…聞きたいか?』
「…当たり前だろ、最近精霊が起こす事件が目立つ…早く解決しないと犠牲者が出る」
『精霊が見える奴がいる、お前とライム以外に…』
なるほど、確かにこの傷は荒いが手当てをしている痕跡がある。
魔物に襲われても精霊同士の喧嘩でも、精霊がこんな手当ての仕方はしない。
ソイツが犯人なら捕まえる必要がある。
そしてそれは一人ではないとリーズナが衝撃的な事を言っていた。
そう何人もいるものなのか?でもそんな奴、今までライム以外見た事がない。
相手がどんな奴なのか、慎重に調べる必要があるな。
今日の広場の件もある、ライムが心配でベランダの扉を開ける。
外も暗くて、もう帰ってきてもいい時間帯なのに部屋は暗い。
寝た可能性もあるが、嫌な感じがした。
ベランダから出るとリーズナがもうベッドで丸まって眠っていた。
俺の心配のせいで今起こすのも可哀想だ…明日、ライムに聞いてみようと思い…窓を見つめた。
そして翌日、ライムが仕事場に来ていないとクマから聞かされた。
今まで遅刻や休んだ事がないから余計に心配していた。
俺はライムに食事を作るために買い物をしていたが、すぐにやめて急いで家に帰った。
部屋のベランダを開けても、ライムの部屋は真っ暗だった。
『カイ、何処かに行くのか?』
「もしかしたらいるかもしれない」
リーズナにそう言い、精霊の宮殿に向かった。
俺とライムが離れていても、唯一繋がっている場所。
ライムが望んでいないと、会えないが…もしかしたら…と思ってやってきた。
夜桜が舞う美しい宮殿の扉の前で誰かがいるのが見えた。
この場所にいるのはたった一人しかいない。
「ライム!!」
「…っ、かい…うす?」
急いで駆け寄り、その小さな身体を抱き寄せる。
震えている、いったいなにがあったんだ?
ライムも弱々しい力ですがるように俺の腕を掴んでいた。
泣いてるのか「ぐすっ」と聞こえる。
不安定な状態で聞くわけにもいかない、とりあえず今は何も聞かない。
ずっとここにいたら風邪を引いてしまう。
ライムを横抱きして、宮殿に入るとライムのお腹から小さな音が聞こえた。
恥ずかしそうにお腹を隠すライムに、向かう場所を変えた。
「ライム、先に食事にしようか」
「…で、でも…カイウス…仕事終わりじゃないの?」
「俺も夕飯まだだから、付き合ってくれ」
そう言うとライムは断れないからズルイやり方だが、一緒に食べてもらう。
ライム…もしかして、飯を食べていないのか?
食堂にやってきて、ライムを座らせて料理を作ろうとライムから離れようとした。
しかし、一歩が踏み出せなかった。
後ろを見たら、ライムが俺の服を掴んでいた。
震えるライムの手を握って、両手で包み込むと服を離した。
「一緒に料理、作るか?」
放火事件の犯人が精霊だという事は分かったが、何故そうしたのかはまだ分からない。
他の精霊に聞いても手がかりはない。
リーズナは精霊の化身だから俺よりもその辺の情報に詳しい。
だから今リーズナに調べてもらっているが、手がかりがなかった場合…あの放火事件の犯人である精霊を探すしかない。
……でも、何処にいるんだ?それにあの音と精霊の抜けた羽は…
「カイ様?どうかされたんですか?」
「……いや、何でもない」
「俺、ずっとカイ様に憧れてて…こうして一緒に仕事出来るなんて夢みたいです!」
そう言って俺にキラキラした眼差しを向ける見習い騎士に「そうか」とだけ言った。
放火事件の手がかりを探すついでに街の見回りをしようと思い、見習い騎士と共に歩いている。
俺への憧れもあるだろうがハイドレイの家は貧しくて、両親を養うために騎士団に入ったと聞いている。
先輩騎士達からの評判も悪くないし、まだ未熟だが鍛錬すればユリウスよりも強くなるかもしれない。
国民の評判も悪くはないが、物を貰いすぎるのはどうかと思う…仕事中だ。
周りを見渡して怪しい奴がいないか確認する。
「そういえばカイ様、ライムと知り合いだったんですね」
「………」
「き、聞いちゃダメでしたか!ごめんなさい…」
俺が少しキツい目で見たからハイドレイは肩をびくつかせて怯えていた。
別に関係を隠すつもりはない、後ろめたい事なんて何もないから…
ただ、ライムを呼び捨てで呼んでいるのが嫌だ…器が小さいだろうが、それは嫌だ。
リーズナとかクマとかライムの家族ならまだ許せるが、なんでお前が呼ぶんだ。
ライムを医務室に運んでくれた恩はあるが、それとこれとは話が別だ。
ハイドレイは誤魔化すように、別の話題に変えた。
マリーの話に変わり、いつの間に知り合ったんだと不思議に思った。
別に聞いてはいないが、マリーは最近騎士団の兵舎でも手伝いをしているとハイドレイがペラペラと喋っていた。
再び「そうか」とだけ言うと、俺の目の前になにかが通り過ぎていった。
ハイドレイの目の前も通ったので、きっと見ている筈だ。
「ハイドレイ、今なにか通らなかったか?」
「えっ、いえ…」
ハイドレイが見えないならそれは精霊か魔物。
でも俺達に危害を加える気はなさそうだから魔物ではなく精霊。
しかもまっすぐに飛んでいるようには見えなかった、小刻みな動きが不自然だった。
もしかしたら羽根が少ない精霊なのかもしれない。
そう思ったら、見失う前に精霊を捕まえて今度こそ事情を聞こうと走り出した。
後ろから訳も分からず付いてくるハイドレイの足音が聞こえてきた。
街の広場を抜けて、人気のない路地裏まで走っていた。
だから、広場で起こった出来事を知らなかった。
「おい止まれ!手荒な真似はしたくない!」
「はぁはぁ…カイ様、いったい誰に言ってるんです?」
何も見えていないハイドレイからしたら俺は可笑しな奴だろう。
俺の声は精霊に届いている筈だ、それでも止まらないというなら仕方ない。
手に電流を流して、精霊に向かって放った。
精霊はフラフラしているから避ける事も出来ずに直撃した。
力を弱くしたから身体が痺れて動けない程度だ。
走るスピードを遅くして、地面に落ちた精霊を手のひらに乗せる。
「…すまなかった、君に聞きたい事があったんだ」
『……ふ、ふ…』
「君は…もしかして」
羽根が、この前よりも減っている…何とか飛べるだろうが…こんなに少なかったら長距離は無理だ。
それに、それだけではない。
精霊の小さな首をよく見てみると、傷があった。
犯人が自分だと言わないために喉を潰したのか。
こんな酷い事をするなんて、眉を寄せて名も知らない犯人に怒りを覚えた。
とりあえず連れて帰ってリーズナと相談するかと、転送魔法を使った。
ハイドレイはずっとなにかを見ようとしていて、俺が見ている方向とは別の方向を見ていた。
突然走り出したから戸惑っただろう、すまないとだけ言って仕事に戻ろうと路地裏を出た。
いつも通り賑やかな街だと思っていたが、何だか様子が可笑しかった。
俺の顔を見るなり「カイ様!」と近付いてきた。
それだけでなにかあったのだろうという事は分かる。
「どうかしたのか?」
「それが…悪魔の子が現れたんです」
「……悪魔?」
「カイ様が戦ったあの悪魔を召喚した男が現れたんです!」
あの悪魔とは俺の事だろう。
しかし俺は誰にも召喚された覚えはない。
上手く話せないのか、俺にはなにが言いたいのか分からなかった。
「ゆっくりでいいから話してくれ」と落ち着かせていたら、俺を呼ぶもう一人の声が聞こえた。
そこにいたのは買い物カゴを抱えているローズがいた。
ローズは後は自分が話すと、街の人の肩に手を添えていた。
ローズも知ってる事なのか、俺が街を少し外していた間にいったいなにがあったんだ?
「カイ様、ここでは話しづらい内容なので…」
「………」
話しづらい?嫌な予感がするが、今は仕事中だからここで話してほしい。
そうローズに言うがローズは頑なに口を閉ざしている。
急ぎではないのか?見るかぎり怪我人はいないように見えた。
急ぎではないなら、仕事が終わったら聞く事にした。
俺がいる事で広場にいた街の人達がホッとしたような顔をしていた。
本当になにがあったのか、俺とハイドレイは顔を見合わせていた。
そして仕事を早めに終わらせて、急いで屋敷に向かって帰った。
玄関前にはローズがいて、俺とローズは俺の部屋に向かった。
周りの人物が知ってる事を誰にも聞かせたくない理由が分からない。
最近のローズは幼馴染みの俺でも理解出来ない事が多すぎる。
部屋に到着してドアを閉めると、ローズが口を開いた。
「あの場でカイ様に話しづらいと判断しましたので、お待たせしました」
「…どういう事だ」
「アイツとご友人である事を隠すために、アイツの話題を避ける事がよろしいかと…」
「俺に後ろめたい交友関係なんてないが…」
「アレを友人だと呼びたくないと言うなら申し訳ございません」
アイツとかアレとか、誰の事を言っているのか……俺の大切な人なら容赦はしないぞ。
ローズに背を向けて上着を脱ぐと、近付いてきた。
俺の上着を受け取ろうとしているのだろうが、拒否した。
このくらい自分一人で出来る。
窓からリーズナが入ってきて、ローズは「ローベルト」と口にした。
「ローベルトがとうとう正体をあらわしました」
「…正体って何の事だ」
「手の甲の悪魔の紋様を街の人々に見せつけて殺害予告もしたんです、やはりローベルトは危険な存在です」
ローズの言っている事を事実だとすると、ライムはいつもしている手の甲を隠す手袋が外れてしまい、他の人に見られた。
殺害予告はよく分からないが、ライムは勘違いされやすいから聞き間違いかなにかだろう。
今回もまたライムは悪くはない、広場の人間達が無傷なのが何よりの証拠だと思う。
ローズが言うような悪のローベルトなら脅すだけなんてしない筈だろ?
俺の言葉だけじゃなく、証拠もあるのに何故ローズはそこまでローベルトを恨むんだ?
最近のローベルトの動きも関係しているのか?
ローズはメイド長であるが、騎士団員とも知り合いがいる。
だから最近の事件の事もローズは知っている。
誰が話したか犯人探しをするつもりはないが、騎士団の極秘に近い情報を話すのはいい事ではない。
「ローズ、また騎士団員に情報を聞いたのか?」
「カイ様を守るためです」
「お前になにが守れるんだ」
「私はカイ様のために…」
「……もういい、出ていってくれ」
ローズと話していると頭が痛くなる。
俺を何だと思っているんだ……お前になにが出来るんだ?
守るべき者は俺じゃない、弱い人だろ…ライムを守れよ。
ライムが守れないなら、軽々しく守るなんて口にするな。
……俺が、ライムを守る…何を犠牲にしても…
ローズが部屋からいなくなり、リーズナは精霊の傷を見ていた。
背中を見ても、無理矢理引きちぎられた痛々しい痕が残っていた。
『カイ、俺が調べた情報…聞きたいか?』
「…当たり前だろ、最近精霊が起こす事件が目立つ…早く解決しないと犠牲者が出る」
『精霊が見える奴がいる、お前とライム以外に…』
なるほど、確かにこの傷は荒いが手当てをしている痕跡がある。
魔物に襲われても精霊同士の喧嘩でも、精霊がこんな手当ての仕方はしない。
ソイツが犯人なら捕まえる必要がある。
そしてそれは一人ではないとリーズナが衝撃的な事を言っていた。
そう何人もいるものなのか?でもそんな奴、今までライム以外見た事がない。
相手がどんな奴なのか、慎重に調べる必要があるな。
今日の広場の件もある、ライムが心配でベランダの扉を開ける。
外も暗くて、もう帰ってきてもいい時間帯なのに部屋は暗い。
寝た可能性もあるが、嫌な感じがした。
ベランダから出るとリーズナがもうベッドで丸まって眠っていた。
俺の心配のせいで今起こすのも可哀想だ…明日、ライムに聞いてみようと思い…窓を見つめた。
そして翌日、ライムが仕事場に来ていないとクマから聞かされた。
今まで遅刻や休んだ事がないから余計に心配していた。
俺はライムに食事を作るために買い物をしていたが、すぐにやめて急いで家に帰った。
部屋のベランダを開けても、ライムの部屋は真っ暗だった。
『カイ、何処かに行くのか?』
「もしかしたらいるかもしれない」
リーズナにそう言い、精霊の宮殿に向かった。
俺とライムが離れていても、唯一繋がっている場所。
ライムが望んでいないと、会えないが…もしかしたら…と思ってやってきた。
夜桜が舞う美しい宮殿の扉の前で誰かがいるのが見えた。
この場所にいるのはたった一人しかいない。
「ライム!!」
「…っ、かい…うす?」
急いで駆け寄り、その小さな身体を抱き寄せる。
震えている、いったいなにがあったんだ?
ライムも弱々しい力ですがるように俺の腕を掴んでいた。
泣いてるのか「ぐすっ」と聞こえる。
不安定な状態で聞くわけにもいかない、とりあえず今は何も聞かない。
ずっとここにいたら風邪を引いてしまう。
ライムを横抱きして、宮殿に入るとライムのお腹から小さな音が聞こえた。
恥ずかしそうにお腹を隠すライムに、向かう場所を変えた。
「ライム、先に食事にしようか」
「…で、でも…カイウス…仕事終わりじゃないの?」
「俺も夕飯まだだから、付き合ってくれ」
そう言うとライムは断れないからズルイやり方だが、一緒に食べてもらう。
ライム…もしかして、飯を食べていないのか?
食堂にやってきて、ライムを座らせて料理を作ろうとライムから離れようとした。
しかし、一歩が踏み出せなかった。
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きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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