冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
91 / 299

不穏な予感

しおりを挟む
身体が揺れたり浮いたりしていて、変な気分だった。

近くで変な音も聞こえる、なんだろう…うるさい。
それに肌寒い、布団を探そうと手を伸ばすが硬いものしか手が当たらない。

不思議に思い、ゆっくりと目を開けると目の前になにかが広がっていた。
黒いなにかが見える、そしてその先には薄暗いけど人のようなものが見える。

そこで驚いて、慌てて起き上がりよく見てみる。

やっぱり人だ…しかもこの黒いの…もしかして血?

暗くてよく見えなくて、遠くにある外灯でかろうじて見えるくらいの薄暗さだ。
死んでるのか、分からないけど倒れている人に触れてみた。
顔に手を近付けると、息はしていてとりあえず安堵する。

ここは何処なんだろう、外だけど知らない場所だ。

近くに店も何もない場所で、俺はポツンと立っていた。
近くには倒れている人と変なものが落ちていた。
何なのか分からないが、倒れている人を介抱しようと肩を軽く揺すってみる。

医者に知らせた方がいいけど、この人をここに放置するのも心配だ。

「あの、大丈夫ですか?」

「ん、うっ…」

男の人のようで、低い声で唸っていて抱き寄せる。
男の人は目を開いて俺を見ていた、良かった…目が覚めた。

大丈夫ですか?と聞くと頭が痛いと言っていた。

そういえば血が出ていたんだよな、頭からだったのか。
すぐに医者を呼ぶと言って、男の人に言ってその場から出た。

確か病院は噴水広場の傍にあり年中無休でやっていた気がする。

ここが何処か分からないから、ちょっと迷ってしまった。
他の店は酒屋と病院以外電気が消えていて、すぐに見つける事が出来た。

「先生いませんか!?」

「どうかしましたか?」

慌てて病院に入ると先生がすぐに見つかり、俺は先生に説明した。

突然寝ていて起きたら知らない人が倒れていたなんて簡単に信用出来るものじゃないよな。
しかし、倒れている人がいるならと着いてきてくれた。

「………これは、どういう事なんだ」

「そ…んな」

俺は覚えた道を通り、倒れている人のところにやってきた。
灯りを持ってきた人がその道を照らしたら、目を覆いたくなる光景がそこにはあった。

血が飛び散り、壁も地面も真っ赤に染まっていた。
そして、倒れている人はもうピクリとも動かない。

頭が痛いと言っていたのに、身体には無数の刺し傷があった。

医者は確認するために近付き、いろいろと調べていた。
そして、医者は俺の方を向いて「これは君が?」と言っていた。

俺は本当に何も知らないから必死に首を横に振った。

俺がなんて言っても、この状況の犯人は俺しか考えられないのだろう。
犯人である証拠より、犯人ではない証拠の方が説明に難しい。
それに俺の今の状況を考えると、俺が嘘を言っているように感じるのだろう。

……正直、俺はやってはいないが罪悪感はある。

俺がこの場から離れなければ、この人は死なずに済んだかもしれない。

何も言えなくなり、医者が俺の腕を強く掴んだ。

「騎士団に突き出してやる、来い!」

「俺、本当に何も…」

「言い訳は見苦しいぞっ…さっさと…ぐっ!?」

騎士団に行ったら、どうなるか分からず怖くて抵抗した。
カイウスに会える保証もなく、そのまま冤罪で処刑されるかもしれない。

なかなか歩こうとしない俺に医者は苛立っていたが、すぐに俺の腕を引く手に力がなくなった。
そのまま俺の前に倒れてきて、大の大人を支えきれずに俺も倒れた。

医者は動かなくなり、医者の後ろに誰かが居るのが見えた。
まさか、犯人がまだいたのか……心臓の音がうるさく響き緊張が走る。

医者が持っていた、灯りを持って後ろを照らしてその人物が露になる。

「……み、ミロ?」

「何やってんですかライム様」

ミロがそこに居て、見知った顔に安心より恐怖が勝った。

ミロの服が真っ赤に染まっている、元々ある服の色とは違うように感じた。
なにかが飛び散ったようで、ミロが犯人なのではないかと思ってしまう。

ミロの手を見ると、小さなナイフが握られている。
これはもう言い訳出来ないほどの証拠がそこにあった。
俺は医者の肩を押してなんとか脱出する事が出来た。

気絶しているみたいだから、きっとミロの手袋でだろう?

「ミロ、なんでこんな事…」

「これはローベルト一族の仕事ですよ」

「……えっ」

「この男は元ローベルトのスパイです、抜けたいと言っていたので抜けさせたんです」

「…じゃあ、なんでこんな事…」

「泳がせていたんですよ、騎士団にローベルトの事を話すのを」

ミロの言っている話は、ローベルトのスパイで帝国に出入りしていた業者でもあった。

でもローベルトに情報を流していた自分に恐怖して、やめたいと言っていた。
簡単に辞められるとは思っていなかったが、呆気なく父は了承した。

ローベルトがそんな簡単に逃がしてくれると思っていなかったから、騎士団にローベルトの情報を話す代わりに匿ってもらおうと思っていたらしい。

しかし、その日の夜…こんな事になるなんて…

騎士団は守ってくれなかったのか?それをミロに言うと笑われた。

「はははっ、スパイだったからローベルトの内情を知らなかったのでしょうね…騎士団の中にも我らの仲間がいる事を…」

そうか、騎士団にはカイウスの兄がいる…ローベルトと繋がっている事を知らなかったのか。

ユリウスに話したのか、運が悪かったのか…ユリウスに誘導されたのか…そこは話してくれなかったから分からない。
ユリウスが守ってくれる筈はなく、ローベルト一族に彼の行動は筒抜けだったみたいだ。

ミロは「あのユリウス様でも分からなかった騎士団の抜け道をあの男が知っていたから泳がせただけなのに、明日に希望を抱いていたなんて哀れな男だ」と笑って見下していた。

酷い、なんでこんな事をするんだ…死ぬまで利用され続けるなんて…

ミロは視線を医者に向けていた、嫌な予感しかしない。

「あまり騒がれるのは困るな、口止めで殺しとくか」

ミロが医者に向かってナイフを向けるから、俺は両手を広げた。
もう俺の前で殺させない、こんな事絶対許さない。

ミロはまだ笑っていて、それが不気味に思えた。
「ライム様が離れなければ、その男も死ななかったのに…」と呟かれて、俺は身体を震わせた。

ローベルト一族の事だから今日殺せなくても明日殺されていただろう。

でも今の俺にはそこまで考えられなくて、俺が殺したと錯覚までしてしまう。

固まる俺に向かってミロは離れろと目で訴えていた。
でもここで離れたら、もう一人の犠牲者が出る。

ここだけは絶対に離れるわけにはいかないんだ。

ミロを睨んで、俺は医者の前に立つとミロはため息を吐いた。

「まぁいいや、コイツは殺しのリストに入ってないから見逃します」

「…本当に?」

「僕の顔は見られてないし、犯人にするならライム様ですから…ライム様の悪名が上がるのなら今は見逃します」

確かに俺の顔は見られているが、今となっては別に変わらない。
どうせもう、昔のように街を自由に歩く事が出来ないから…

ミロに「帰りましょう」と言われて、俺の腕を掴んで引っ張られた。

俺を気絶させて運んだのはミロで、最初から俺を犯人にしようとしていたんだなと思っていた。

部屋に戻ってきて、真っ先にリーズナを探したがリーズナは何処にもいなかった。

まさか、リーズナも……顔が青くなり血の気が引いた。
ミロは俺がまだあの人が死んだ事を考えていると思っていて「夕食を持ってきます」と言っていた。

もう夕飯の時間ではないけど、夕飯を食べていないからだろう。

ミロがいなくなり、部屋の隅から隅まで見てみたがやっぱりリーズナはいない。
……電気だけとはいえ、無事かどうか分からない。

リーズナまで居なくなったら……俺、どうしたら…
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...