冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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小さな少年

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「お待たせ致しました」

下を向いて、気分が沈んでいたら声が聞こえた。
ミロが帰ってきたと思ったら、目の前にいたのは小さな子供だった。

見た目からして小学生くらいの身長の子供が料理が乗ったトレイを持っていた。

フードを深く被っていて、顔は見えないが見た事がない子供がそこにいた。
テーブルにトレイを置くと、床にちょこんと座った。

ミロの代わりの子だろうかと思って、俺も子供の向かいに座った。

いつもの料理は、人が食うような色がしていない残飯ばかりだった。

でも、目の前の料理はとても美味しそうで食欲がそそる。

いきなりこんな美味しそうなものが出てきたら、作った人には悪いけど…毒物を疑ってしまう。

「お召し上がりください」

「…うっ、い…いただきます」

とはいえお腹が空いているのは事実だ、腹の音が後押しして俺は料理に口を付けた。

よく噛んで飲み込んで、頬につたうものがあった。
自然と俺は、涙を流していたんだ…美味しいのもあるがそれだけではない。

この味は俺がよく知っている、大好きな人が作ってくれる味に似ていた。
俺の好みに合った味付けで、毒で死んでも構わない…全部食べたいと箸が止まらなかった。

泣きながら食べると行儀が悪く感じるが、涙も止まらなかった。

「顔ぐちゃぐちゃじゃねぇか、そんな事しなくてもカイの飯はなくならねぇよ」

「……え?」

止まらなかった箸がピタリと止まり、子供を見つめた。

子供は俺に綺麗な新品の真っ白いタオルを渡してきて涙を拭った。
今、この子はカイって呼んだよな…じゃあカイウスの料理?
だとしたら、俺好みの味付けにも納得出来る。

じゃあこの子の正体は…もしかして……恐る恐る口を開いた。

「君はもしかして、リーズナ?」

「何だよ、もっとからかってやろうと思ったのにもうバレたのか…やっぱりカイの名前出したからか?」

リーズナはそう言うと、フードを取って俺に素顔を見せた。

黒い髪の幼い少年だけど、頭の上には三角の形の耳が見えた。
その耳だけで彼はリーズナだというのが分かる。

ゲームでそんな話あっただろうか、見逃していたのかな。
リーズナに聞こうと思っていたら、バタバタと慌ただしい足音が聞こえた。

リーズナは嫌そうな顔を隠しもしないで、ドアを睨みつけていた。
すぐにドアは開き、ミロが入ってきた…荒い息で走ってきた事が分かる。

「ライム様!!大丈夫でしたか!?ドアを見張っていた護衛達が皆気絶していて」

「護衛じゃなくて監視って言えばいいのに」

「だ、誰だお前!?」

ミロにリーズナが言うと、リーズナの存在に気付いたミロが怒りを露にしていた。
人間の姿だと見えるのか、リーズナにミロの手袋を教えようと思った。

だけどその前にリーズナがミロの手袋をしている方の手を握った。

リーズナが自分からやった事に驚いていたら、いつもより強くバチバチと音を鳴らしていた。

ガラスが次々と粉々になるほどの強い力に、布団を被って自分の身を守った。
リーズナはあの時のように気絶する事なく、むしろミロの顔がどんどん歪んでいた。

「どうかしたのか?俺様の力の前ではただの手袋か?」

「くっ、うっ…」

灯りが消えて、部屋が真っ暗になってミロは発狂し出す。
そのあまりのミロの可笑しい行動に、驚いた。

どうかしたのか?こんなにパニックを起こしたミロは初めてだ。
ミロは物を倒しているのか、大きな音が聞こえる。

こんな夜中に騒音立てると、また兵士達が現れる事は分かっていた。

灯りを新たに付けられて、部屋が明るくなった。

そこにいたミロは、肩で息をしていてミロの近くにはいろんな物が散乱していた。
リーズナは居なくて、兵士達は布団を被る俺を見て「またコイツか」という顔をされた。

また、というか…一回目も二回目も俺ではないんだけど…

兵士二人がミロの身体を押さえつけて、腕になにか注射のような物を刺していた。
するとミロの身体は人形のように意識がなくなって支えられていた。

「監視役がいないからといって、変な事をしてみろ……三度目はないと思え」

「……」

そう捨て台詞のようなものを吐いて、部屋を出ていった。
外には新しい黒子が用意されているから、自由になったわけではないのは分かってる。

モゾモゾと布団の中が動いていて、布団を少し上げると猫の姿のリーズナがいた。
こんなところに隠れていたのか、兵士達に見つからなくて良かった。

リーズナは一緒に居てくれるらしくて、一緒に一夜を共にした。
リーズナなんだけど、カイウスと一緒に寝ているみたいでとても安心した。

そして翌日、何事もなかったかのようにミロが部屋にやって来た。
俺は昨日は夜更かししてしまったから、眠たくてボーッとしつつミロに目線を向ける。

ミロは俺に紙を見せてきて、それを受け取った。
そして、眠気が一気に吹き飛ぶような事が書かれていた。

これはこの世界の新聞だ、あまり読んだ事はないけど見た目は普通の新聞だ。

その新聞には早速昨日の出来事が記事にされている。

小さな事件から、大きなものまであり…俺は一つの記事に釘付けになった。

それは殺人事件の記事で、犯人が逃走して指名手配されているものだった。
この世界に写真はないから、目撃者から聞いた似顔絵を頼りに書かれている。

暗かったからか、似顔絵は俺にあまり似ていないのが救いだ。
俺は犯人ではないが、あの医者は俺の事を犯人だと思っているからな。

「ライム様があの男を逃がしたからこうなったんですよ、じゃなきゃ完璧だったのに」

「…完璧な犯罪なんてない、あの場で逃げても絶対に捕まるよ」

俺は見られて指名手配された事より、一人でも助けられたのなら嬉しい。

ミロは俺のせいだ俺のせいだと言っていたが、俺は別の事を考えていた。
あの時、ミロは医者を殺そうとして…俺はそれを止められた。

もしかしたら、これからも犯罪を防げるかもしれない。

ローベルト一族のせいで悲しむ人が減るなら俺は…

ミロは俺の言葉に「いいや、完璧な犯罪でした!!」と声を荒げた。
そして、ミロは手袋をしている手を振り上げた。

バシッと乾いた大きな頬を叩かれて、床に倒れた。

ぽたぽたと床に赤い点が出てきて、鼻を触るとヌルッとした感触がした。
リーズナが慌てて駆け寄ってきて、全身の毛を逆立っていた、

俺はリーズナを落ち着かせようと、背中を撫でる。

今のミロはあまり刺激しないようにジッとしている方がいいと思った。

ミロに聞きたい事があり、顔を上げるとミロに睨まれていた。

「…もしかして、昨日…初めて人を殺したの?」

「はぁはぁ…あ、当たり前じゃないですか!?初めてローベルト卿に認められて手に掛けたんですよ!!なのに貴方が邪魔をした…!!」

「そんな風に思うなら、なんで俺を連れて行ったんだ?」

「だってローベルト卿がライム様に人が死ぬところを見せてローベルト一族の自覚を持たせろって言うから……なかなか起きないし、我慢出来なくて先に殺しちゃいましたけど」

そう笑顔で言われて、ミロに恐怖を感じて…同時に確信した。

ミロは今まで人を殺したどころか、死ぬところを見た事がなかったのだろう。
変わってしまったんだ、人を殺して…自分が俺よりも勝ると思っている。
だからこの前まで、手袋でお仕置くらいしかしなかったのに今は俺より強いと見下している。

俺は人を殺した事がないからなんだろう……一生人を殺さなくていい。

ローベルト一族はそうやって、人を殺す事を繰り返して…簡単に人を殺す事を何とも思わない人の心を忘れた兵器を作り出す。

「ずっと貴方の悪魔の力に憧れていたんですけど、この程度なら僕が代わり出来そうですね」

「……か、わり?」

「えぇ、僕がローベルト一族を引っ張っていきます……だから貴方は自分のした責任を取って下さい」

ミロはニヤッと笑って、俺の前にしゃがんでそんな事を言っていた。

ミロは自分の事を大きく見すぎだ、ミロが引っ張っていけるほどローベルト一族は簡単ではない。
勿論俺にだって無理だ、人を道具としか思っていない父ぐらいだろう。
カイウスの事だって帝国を支配する駒としか思っていない。

俺がした責任っていったい何の話だろう、話の流れからして医者を逃がした事か?
でも、これ以上何をさせようと言うんだ?ミロの顔が不気味に歪んだ。

「自分が犯人だって騎士団に言ってきて下さいよ」

「は?俺はやってない!」

「でもこの新聞には貴方の似顔絵が描かれているし、僕の代わりに処刑されて下さい」

まさか俺に身代わりになれと言うなんて思わなかった。
ミロにとって俺はもう不要という事なのだろう。

だったらこの家から出してくれと言ってみたが、まだ父は俺を必要としているらしく不要だと言っているのはミロだけのようだ。
ずっとここにいるか、外に出て騎士団に処刑されるか…俺にとってはどちらも嫌だ。
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