冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
286 / 299

裏の話9

しおりを挟む
この男はカイウスの中に余計なものは入れたくないのだろう。
神が求めているのは自ら生み出した力だけだ。

ライムは死んだような事を神は言っていた。

確かにライムが神を足止めしていた筈なのに、神は今ここにいる。

神を見逃すとは思えない、神がカイウスのところに行くのは目に見えている。
ライムが神に敗れたのか、それとも別の何かがあったのか。

カイウスのためにも、ライムの無事を確認したいとリーズナはカイウス達からだんだんと離れていく。

神とカイウスが合流したのなら、リーズナの作戦は失敗に終わった。
この場にいて、無理矢理カイウスを説得しても神に邪魔されてリーズナは今度こそ消滅してしまう。

怪我をしている状態で、満足に戦えるとも思えない。
それよりも、ライムに伝えなくてはいけない事がある。

リーズナが後ろに下がるのを神は気付いた

「逃げるのか?」

「……」

「逃してくれるんじゃないのか?」

「逃すとは言っていない、お前がいたら目障りな事もある…カイウスの手を煩わせるものじゃないって事だ」

神は手から黒い力を出して、リーズナに向かって投げた。
カイウスほどではない軽い力だが、それでも殺傷力はある。
大きな爆発音と地響きが周りを包み込んでいた。
大量の砂埃が舞い、視界が一気に遮られた。

それと同時に別のところでも爆発音がして、屋敷から煙が出ている。

あちこちで神の化身達が暴れているのだと分かる。
偽物の力で強くなったと勘違いしている人間なんかに負ける筈がない。

もし、いたとしたらそれはもう神の化身ではない。
生きていたとしても、神がそれを許さず消滅させる。

ライムに負けた神の化身も許せなかったが、この戦いのために人数がほしくて今まで生かしてきた。

成果を上げなくては、生かした意味がなくなる。

それなりに期待はしている、守られてばかりいたあの男を殺す事なんて、カイウスの手を煩わせる事もない。

カイウスには力を温存してもらわないといけない、この世を壊滅させるために…

「カイウス、行くぞ…早くお前の完全なる力を見てみたい」

「……」

神とカイウスはそのまま背を向けて歩いていった。
神達にとってもあまり時間がないのだろう。

体のあちこちが負傷していた猫は、あの攻撃を避ける力すらも残されていないだろう。
奇跡的に生きていたとしても虫の息で、放っておいても死ぬ。

これ以上時間を取られるわけにはいかないと判断した。

二人が向かうのはローズとライムが戦っているであろう場所だ。

神の力を与えて、神に近い存在となったローズだ。
薬という間接的なものではなく、直接与えた力だ…それにライムへの憎悪でさらに強くなっている。

負ける要素など何処にもない。

神とカイウスがいなくなって、しばらくしたら二人の影が現れた。

影の一人は周りを見渡していて、首を傾げていた。

「あれ?ここに逃げたと思ったんだけどな」

「……メシアの気配」

「あ?マジ?じゃあもう殺しちゃったかぁ」

殺伐とした空気に似つかわしくない明るい声が聞こえる。
残念そうな声を出しているが、その場から離れようとしない。

本当に死んだか確認するまでは、行く事は出来ない。

まだ神が放った力で砂埃が舞っていて気付かれてはいなかった。

それでも、あまり時間は残されていない。

風により砂埃がだんだんと薄れていった。

リーズナは自分の体の上にいる男に声を掛けた。
大人の男に乗られるのは、傷もあるからかなり重いし痛い。

「…重い」

「わ、悪い…逃げてて」

「おかげで助かったからいいけどな」

リーズナは突然誰かに横に引っ張られてバランスを崩して倒れた。
神の化身から逃げてきたハイドレイが、たまたまリーズナを見つけて助けた。

神の攻撃は避ける事が出来たが、二人共この先の事は考えていなかった。

砂埃がなくなり、木の影に隠れながら様子を伺う。

あの二人は神の化身、力のある者ならすぐに気付かれただろうが、今の空っぽのリーズナには気付かなかった。

神より先にライムのところに行きたいが、神の化身を避けて行くとライムのところに大勢連れて行く事になる。

一番の安全は、神の化身を倒してから行く事だ。

人間と人間に近い存在の二人でどう勝てるかは分からないが、やらないといけない。

ふと視界が暗くなり、上を見上げると鷹が空を舞っていた。

リーズナはハイドレイを力いっぱい引っ張り、木の影から離れた。
間一髪で、木が粉砕されて跡形もなくなっていた。
まだあそこにいたら確実に死んでいただろう。

「鬼ごっこは終わりにしようぜ」

神の化身達が武器を構えていて、ハイドレイは剣を構えていた。
リーズナは魔力が使えない手を見つめて、握りしめた。

魔力がなくなっても元の姿に変わる事は出来る。

リーズナの周りに光が集まってきて、人の姿から獅子の姿に変わった。

そして、神の化身達に向かって爪を振り下ろした。

リオはマシンガンをリーズナに向かって放った。
全体重を足に掛けて、リオに向かって飛びかかった。
鷹が飛んできて、リーズナの体にくちばしを刺したがリーズナの攻撃はリオに届いた。

ハーネルはリーズナに気を取られていて、その隙に一気にハイドレイに詰められた。

槍と剣がぶつかる金属音がその場に響いた。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...