どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

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Ⅱ 黒い石のようなもの

2-17.

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 王都八番街通りにある、ジェイロの棲み処。俺がさんざん散らかして衛兵が踏み込んだ場所だが、リスクを承知で棲み続けてもらっていた。今日という日のために。

「すまねぇな、旦那。学園が休みでゆっくりしてたろうによ」
「大事な手下に呼びだされたんだ。ベッドに入っていても飛んでくるぞ」
「ちっ、嫌味だってのに。真っ当に返しやがって」

 半笑いで無駄口を叩き合う、こいつとの相変わらずの〝挨拶〟。
 少し遅いと思っていたが……ついに玄晶をばら撒いたの依頼人と接触する時が来た。向こうから突然、呼び出しが来たという。
 
「……で、旦那はどう思う? やっぱり向こうはりにくるのかな、おれを」
「俺ならそうする。学生とやりあって、衛兵が踏み込んだことも知っている可能性が高いし。どっちにしろ用済みだな」
「くっ、辛ぇなあ。だが依頼主を捕まえるタイミングはこれしかねえ。旦那には来てもらうのがベストだろ」
「ああ。ただし、護衛代と差し引きチャラだぞ」
「へいへい、十分でございますって」
「とにかく、訊かれたことは全部正直に答えて構わない。俺がお前の雇い主になったことはなるべく伏せたいが……まあバレたらそれでもいい。返って動きやすくなるかもしれん」

 ここはひとつの正念場だ。向こうのほうがこっちを把握している可能性が高い……が、俺について知っていたとしても、問題外ってところだろう。
 俺の周辺で、直接的な不穏は今のところない。変わったことと言えばジァージ=コデクスの出現だが、ジェイロの依頼主とは別口で、繋がっているとは考えにくい。

 ジェイロには悪いが、玄晶の関係者を引っ張り出すには、こいつを矢面に立たせてるしかない。まあ、死んだとしても俺がいる限りは生き返らせてやるからな。雑な扱いだが、命の保障はしてやる。
 

 月と星が良く見える夜空の下。向こうが指定してきた王都西郊外の空き家へ向かうため、馬を駆る俺とジェイロ。遅れてモスが付いてくる。
 依頼時は八番街へやって来た。それを急遽郊外に変えての呼び出し。これによって、向こうは事の顛末をつかんでいると判断できる。

 近くまで来て、俺はジェイロから受け取ったアイマスクを着けた。『無関心の装いディフレクト』 なる魔術が付与されている。付き人として同席する際、必要以上に注意を引かせないためだ。
 どう見ても女性用なのがちょっとキツい。社交パーティで既婚者が〝訳あって着けるもの〟、らしい。子供なのでよくわからない。
 

 空き家は、まばらな林に囲まれた場所に、ひっそりとあった。朽ちてはいるものの、それなりに立派な構えからすると、豪商が棄てた物件といったところか。
 
 窓の向こうにぼんやりとランタンの灯りが見える。どうやら先方は既に待機済み。ジェイロと俺は今一度目を合わせ、覚悟を確認しあった。

 玄関扉のぎい、ときしむ音を背中に、灯りの元へ。聞いていた依頼主───仮面の男が椅子に掛けており、その横には長髪を後ろに束ねた用心棒らしき男が立っていた。

「遅かったな。依頼主を待たせるとは、太い傭兵だ」
「申し訳ねぇ。なんせ急だったもんで」
 
 嫌味で高圧的。ただ、それなりの物腰であるも、貴族と言うよりはバスチァンみたいな執事のそれに近い。おそらくこいつも遣いだろう。身に纏う独特の香は甘く、一度嗅いだら忘れないにおいだ。
 
 用心棒のほうも気になる。帯刀しているが……この柄の様式に、独特の鞘の反り。ニホン刀ってやつだぞ。俺も持ってるからよくわかる。
 こいつ、かなりできるな。今は抑えているが、よっぽど呑気なやつでなきゃ、時折漏れる殺気を見逃すことはない。

 仮面の男は腕と足を組み、態度を大きくする。
 
「捕まったそうだが、何もしゃべっていないだろうな」
「そっちでも確認してるみたいだが、当然だ。まあおれのほうが被害者みたいな格好で済んだから、問題はねえ。集めた傭兵たちはまた呼び戻せる」

 男は少しいらいらした調子で続けた。
 
「〝あれ〟は最終、幾つ撒いた?」
「24個だ。残り16個は持ってきてねえぜ。できたら引き続きやらせてもらおうと思ったからよぉ」
「それはもういい。死んでもらうからな」

 言い終わると同時に、用心棒が抜刀。だが俺のほうが断然早い。だんっと懐に踏み込み、思いっきり殴り飛ばした。
 壁へと派手に打ち付けられ、倒れる用心棒。残るは仮面の男一人。

「ジェイロ、そいつを捕まえろ!」
「───なっ? くそっ、何ということだっ」

 仮面の男は左手の指輪を掲げるなり、ふうっとその姿を気配まで消した。ちっ、『隠影の薄衣インヴィジブラ』か。姿が見えなくなる魔術だ。男を追うべく、慌てて部屋を出るジェイロ。
 
「旦那っ! おれは外を探す。そっちは頼んだぜっ」
「〝そっち〟って───! っとお?」

 殴り倒したはずの用心棒が復帰した。俺との距離を一気に詰め、刀を振り降ろしてきた。直感的に避けた……ものの、継ぎ手が速い。今の流気では追い付いていない。

(こいつの技量、〝かなりもかなり〟だ。このまま遊んでいたら首が飛ぶな)

 下手に【斬撃型】を出さないほうがいい。あの刀身の輝きと鋭さからして、つば競り合いなんて絶対無理だ。あ~、こんなことなら俺も刀───『おとんの一振り』を持ってきておけばよかった。

「だけどまあ、どうにでもなる。しょうがない、大サービスだぞ!」

 ひと呼吸、どんっと青の流気【闘衣・弐】を展開。加速して踏み込み、もう一度腹パン! 用心棒は放たれた【發気ほっき】~衝撃波と一緒に飛んでいき、壁をぶち抜いた。

「……ふう。勢いあまってしまったな。【聖光】で生き返らせる身体が残っていればいいが」

 ゆっくりと壁の大穴へ近づいた、その時。
 
「───っ!」

 俺は反射的に身体を逸らした。青の斬撃が俺をかすめ、背後の壁をぱっくり斬った。

「うっそだろ。生きてんの?」

 ゆらりと穴から出てきた用心棒。衣服が破れているが、どうやらノーダメージ。何よりこいつ……全身から刀身まで、俺と同じ青の流気を纏っている! いや、同じとは言わんが、防御と速度を上げているのは間違いない。
 ぶっちゃけ、ぞくぞくした。

「へえ~! おとん以外で、ここまで俺の力を引き出すやつが、この世にいるなんて。まあ序の口だが」

 それに、もう〝わかった〟。
 こいつから感じる活力からして、これ以上の〝伸び〟は無い。俺は闘衣を両足に集中させて、最大加速を倍化。もうこいつが目で追える速度じゃない。

 時間の流れがゆっくりになる。
 こいつ、さすが。見得ずとも、反射で俺の軌跡めがけて刀を振り下ろしている。いい戦闘センス。そして刀もなかなかの業物、もったいないが……
 両足の闘衣を右拳に全移動。そのまま高速回転させ……刀の腹を削り折る!

「何ィッ!?」

 お、初めて口を開いたな。
 折れた刀はくるくると空を舞い、彼方の壁に突き刺さった。戦闘終了だな。こいつタフだから、最初から武装解除に徹すればよかった。

 用心棒は数秒、信じられないとばかりに柄だけになった刀を見つめていたものの……俺をひと睨みして、懐から黒い玉を取り出した。

「何だ、まだ何かしようって言うのか───うぉっ!?」

 用心棒が玉を勢いよく床にぶつけるなり、強烈な光が。次いで耳をつんざく爆発音。爆風が壁と天井を一気に捻じ曲げ、俺は壁と一緒に吹き飛ばされた。
 
「……くっそ。自爆なんて」

 数メートル飛ばされた先から、爆心の建物を見る。半壊したところから濛々もうもうと立ちのぼる煙。少しずつ晴れていく中……床には血や肉片は見当たらず、散乱した瓦礫だけが残っていた。

「この状況で逃げるとは。あっぱれ、だな」
「旦那ぁ、無事かっ!」

 ジェイロが走り戻って来た。

「仮面の男は近くに馬を繋いでいやがった。今、モスが追っている」
「上出来。こっちは逃したがな」
 
 瓦礫の中からきらりと光るものが目に留まる。さっき殴り折った刀身だ。俺はそれを拾い上げ、何となく月明かりを照り返してもてあそんだ。

「まあ、再会は近いうちにあるさ。あの用心棒、今夜はベッドの中で泣いてるだろうからな」

 刀身に映った俺の顔は、笑っていた。
 
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