二度転生令嬢の落ち着く先

蒼黒せい

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第22話

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「さぁこちらへ」

 取り囲む騎士の一人が闘技場の外へと誘導しようとする。
 どうする?このまま闘技場へと出れば、中に戻るのはそれだけで困難になる。しかし、今のままではこの状況を打破するのは難しい。今手にしているのは模擬剣だ。…騎士たちが手にしている実剣ではない。模擬剣同士ならまだしも、模擬剣と実剣。それに、模擬剣では本来の私のスタイルでは戦えない。……剣が必要だ。戦い、勝つために。陛下を救うために。

「…分かりました」

 私は模擬剣を鞘に収め、腰から外す。それを騎士の一人へと差し出すと、騎士はうやうやしく受け取り、頭を下げた。……その瞬間を待っていた。

「ぐえっ!?」

 下がった頭を掴んで引きずり下ろし、その背を足蹴にして一気に跳躍。囲みを突破。さらにそのままの勢いで一気に闘技場外へと走り出す。

「っ!追え!」

 すぐに騎士たちが追いかけてくるも模擬剣すら身に着けていない身軽な私に、早々追いつけるはずもない。この半年、陛下に追いかけられて逃げきれなかった反省から、足腰の鍛錬は欠かさなかった。瞬発力も持久力も、以前とは違う。
 だからといって油断はできない。私は気を引き締め、客室として宛がわれている部屋へと向かった。

「っ!シセリア様!?」

 部屋に飛び込むと、ベッドメイキングをしていた侍女が驚き、こちらに振り向く。申し訳ないと思いながらも彼女を無視し、立てかけてあった愛剣を手に取る。そして扉から戻ろう…として聞こえる複数の足音に足を止めた。

(このままじゃ鉢合わせね)

 ここで彼らと立ち向かい、少しでも陛下の『今』の敵を減らしておくか。それとも、すぐさま闘技場に戻り陛下の援護に向かうか。
 確か人数は4人。しかもこのまま鉢合わせれば戦場は広くない廊下となる。なら、囲まれるリスクがないうちに、この場で倒しておいた方がいい。

(………いや)

 そもそもだ。彼らは騙されている。陛下のことも私のことも。話の通じないただの脳筋バカの集団ではないはずだ。…多分。団長までも騙されているのは気がかりだけど、逆に団長が騙されれば、団長を慕い尊敬している騎士たちも一緒に騙されてしまう。
 通じるはずだ。きっと。

 私は剣を収めたまま、廊下へと歩み出る。そして、彼らを待った。
 ほどなく、大きくなる足音とともに彼らが姿を現した。

「…抵抗はしないでいただきたい。王妃様を傷つけたくありません」

 彼らの言う王妃とは、はたして誰の伴侶を指すのか。…想像しただけで怖気がする。

「あなたたちは勘違いをしています」

 そう彼らに告げるも、彼らは哀れむような視線を私に投げかける。

「…安心してください。直に彼は王でなくなる。そうなれば、彼をかばうような真似をせずとも、罰せられることはありません」

 どうやら彼らの中では、私は陛下に怯え、決して陛下を裏切るような真似はできないと思われているようだ。

(そこまで臆病なご令嬢だと思われていたのだとしたら…不愉快ね)

 話し合いなんかより、力づくで分からせた方が早かったかなと今更後悔しかけた。そう思ったけれど、うまくいけば彼らをこちら側に引き戻せる。今は少しでも戦力が必要だ。

「さぁ、剣をこちらに」

 そう言って、呑気に手をこちらに伸ばす。彼らはもう忘れたのだろうか?目の前にいるのが、何人もの騎士兵士を倒して闘技大会準決勝まで進んだ相手だということを。そんな呑気に伸ばした手を、切り落とすことなど造作も無いというのに。

 気が変わった。ことは一刻を争う事態だが、目の前の騎士たちの腑抜け具合に『グリエ』の仕置心に火が付いた。

「えっ?」

 呑気に手を伸ばした騎士の首元には、私の愛剣が突きつけられている。その様子に周りの騎士たちもざわめく。突き付けられた当人は、いつ突き付けられたのかわからずにいた。

「舐められたものですね」
「シセリア…様?」
「私が陛下に脅されている?世迷言を…。そのような曇った目で、一体何をその剣で守ろうというのですか」
「………」
「もう私の腕を忘れましたか?先刻見せてあげたばかりだというのに……」
「あれ…は……八百長でごっ!?」

 あまりに愚かしい結論を口にしたので、ついカッとなってやってしまった。喋る口を閉じらせる意味も含めて顎を強打させたわけだが、その衝撃が脳まで達したのか、そのまま気絶してしまった。

「…そのような目でしかものを見れないなんて……わかりました。もういいです」

 がっかりした。失望した。務めて半年。多少なりとも彼ら騎士団のことは知ったつもりだった。彼らも、私を知っていると思っていた。…本当に『つもり』でしかなかった。

「あなたたちは騙された……それは致し方ない事です。あなたたちは悪くない。ですが……あの程度の世迷言の、真偽も見極められない愚かしさは許しがたいことです」

 気絶した騎士の首に剣を突き付ける。それだけで相対している彼らの喉が鳴る。やっと、今どういう状況なのかを理解できたようだ。

「『仕置』してあげます。…次に会う時とまでに反省しておくように」



 闘技場へ向かい、駆ける。彼らの『仕置』は一呼吸しか掛からなかった。いくら動揺していたとはいえ、この体たらく。もう一度会うことがあれば、本気で鍛え直した方が良さそう。
 しかし余計な時間を喰った。闘技場ではきっと陛下と親衛隊が襲撃されたままだ。いくら質で勝るとはいえ、数で押されれば勝機は薄い。早く援護に向かわないと。

 けれど、闘技場に到着した私の目に飛び込んできたのは、予想外の光景だった。

「残るは貴様だけだ」
「…くっ…」

 キラルド陛下の悠然と立つ姿。その体には切り傷はなく、無傷であることが窺える。そして、正面に立つ団長は苦悶の表情。その表情の理由は、周囲の状況から分かった。未だ陛下と団長の決着はついていないようだが、周囲…親衛隊と騎士団の決着はついていた。親衛隊の勝利という形で。
 多少の傷は負っていても、立ち上がれない程ではない。陛下を守るという強き意思を持った彼らの前に、腑抜けた騎士団では相手にならなかったようだ。

(どうしよう……)

 援護に駆け付けたつもりが、もうとっくに勝敗は決している。わざわざ取りに行った愛剣が寂しそうに光を返す。その光が、何しに来たんだと問いかけているようでちょっと恥ずかしい。
 親衛隊の一人が、戻ってきた私に気付いた。

「シセリア様もお戻りになられたようで。追っ手はいかがされました?」
「…仕置してきたわ」
「我々も、彼らを仕置し終えたところですよ」
「そう……」

「シセリアも戻ってきたな」

 陛下も私に気付いた。団長もそれに続き、そして哀しげな瞳でこちらを見る。そんな目で見ないでほしい。

「団長、剣を収めてください。……もう終わりました」

 もうこれ以上戦ってほしくない。そんな願いから団長に声を掛けるも、団長は首を横に振った。

「シセリア…様。我々は貴女を解放したい。ただそのために剣を取ったのです」

 解放?何から解放したいというのだろう?
 
 …陛下の思いもよらなかった方向からの偏愛からの解放だったらしてほしいけど、そういうことではないだろうし。
 
 どうすれば団長は言葉を受け入れてくれるのか。きっと、いくら私が陛下に脅されていることや、チェスティス家のことについて誤解だと言っても、全て彼の耳には私が罰されることを怖れて陛下を庇う様にしか見えない。
 陛下が私を王妃と決めたのは陛下の意思ではなく、神殿の…光の意思。大神官を買収したところで意味は無いし、それに……

 ならどうすればいいのか?団長の剣を収めさせるためには?
 そもそも、どうして団長は私を開放させようとそこまで意固地になっているのか。もはや今回の事件は、完全に失敗だ。団長含めたこの事件に加担した騎士たちは全員反逆罪。……どう軽く見積もっても死刑は免れない。
 そのリスクを冒してまで、私を開放させたい?何故?
 
 …心当たりがないと言えばうそになる。団長は……私に惚れていたから。もう振ったのに。それでも団長は…私の為にと思い、行動に移したのかもしれない。
 だとすれば……これは……

「シセリア、来るな!」

 陛下の言葉を無視し、私は二人に…いや、団長へと歩み寄る。
 徐々に近づくにつれ、団長の顔には何かを期待するような色が浮かぶ。しかし、私の心には、その期待に応えるようなものは何もない。
 静かに歩み寄る私に、二人は微動だにしない。そして、団長へとあと一歩というところで……甲高い音が響いた。

「………」
「………」
「………」

 私の振りぬいた右手が、団長の頬を叩く。叩かれた団長は唖然とし、陛下は厳しい目でこちらを見ている。
 団長へ向かって、私は言い放った。

「迷惑です」

 唖然としたままの団長は変わらない。一方、私の心にはこの事態を引き起こした団長への怒りが湧きあがってくる。その感情のまま、怒りをみなぎらせた表情へと変えて団長を睨みつける。

「私を開放したい?解放だなんて……あなたが私の何を知っているのですか?私がいつそんなことをあなたに望みました?真偽も確かめず、このような行為をしでかすあなたには失望しました」

 完全に突き放す言葉に、団長は唖然とした表情を徐々に青ざめさせていく。その様子を見ても、私には怒り以外の感情は無い。

「俺は……ただ……あなたのため…」
「それが迷惑だと言っているんです」
「………」

 縋る言葉も拒否する。これだけの事態を引き起こした以上、明確に罰が下るだろうけどだからといってその原因扱いされたままなのは気に入らない。

「……さようなら」

 それだけを言い、団長から離れていく。本当は一発殴ってやりたかったけど、それはやめた。下手に殴れば、それだけでも私からの罰を受けた…という風に捉えられてしまいそうだったから。罰を受けることを許さない……それが私からの罰。
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