51 / 62
終幕~わたしはもう死に戻らない⑤~
しおりを挟む
「ウルスラ……!」
ウルスラの気持ちを聞けたフェリクスは、それはもう嬉しそうに破願した。
なんだその顔は…とラルフは思いながら、動かない。3年彼の元で鍛えられた彼らだが、そんな顔をしたところは見たことが無い。むしろそんな顔をできたのかと驚くくらい、フェリクスは紳士然とした、目が笑ってない笑顔しか見せないのだ。
誰が言ったか、『微笑みの死神』。敵国の諜報部にも恐れられる彼だ。そんな彼が、愛する存在が出来たなど、彼の下にいる諜報部員が聞いたらどう思うか。…今度は、からかうことはしないだろうと思う。
さておき。
二人の気持ちが確認し合えたことで、ウルスラは染まった頬を誤魔化すように咳払いをしつつ、ウルスラ側の本題を切り出すことにした。
「殿下、実は…」
「殿下じゃなくて、名前呼びがいいな」
「……あの、殿下。これはまじめな話を…」
「ぼくも十分まじめな話だよ?せっかく好きだと分かった相手に、敬称呼びされるのは辛いなぁ~」
何だその顔は。口をとがらせて、まるで拗ねる子どもではないか。27歳がやるには少々痛い仕草だが、ウルスラはそれすら可愛いと思っている。ユーリスとラルフは視線を外に向け、見ていないフリをしていた。
「…おほん、フェリクス様、実はモートンが裏ギルドと接触しました」
ちょっと照れた様子を残しながらも、ウルスラは本題を切り出した。裏ギルドという言葉に、フェリクスの目が細められる。
「へぇ……。詳しくいいかい?」
ウルスラは知っている限り詳しく話した。
モートンに裏ギルドから接触したこと。
モートンが裏ギルドの建物に入っていき、それからの動向がつかめないこと。
そこまで聞くと、フェリクスは息を大きく吐いた。そして何か考えるように、視線を天井へと向ける。
「モートンが依頼したのならともかく、裏ギルドから接触した……それは問題だね」
「はい。どんな思惑があるのか……」
それが分かれば、対策の立てようもある。だが、分からないと動きようがない。モートンの動向もつかめず、そこに裏ギルドまで関わるのであれば、危険性が飛躍的に上昇する。具体的に言えば、ウルスラの命が危ない。
こうなる前にやっておけばと後悔ばかりが募る。手に力が入り、己の不甲斐なさが悔しい。
しばし目を閉じて考え込んでいたフェリクスだが、考えがまとまったようで目を開いた。
「おそらく…だけど、裏ギルドはぼくへの意趣返しだね」
「えっ、フェリクス様へ……ですか?」
どうしてそこでフェリクスが出てくるのか。意味が分からず、ウルスラは首を傾げた。
「以前、君のご両親への暗殺依頼書を裏ギルドから頂戴してきたのは覚えてる?」
「はい。まだとってあります」
「まだあるんだ…」
「何かの時には証拠に使おうかと」
なにせあれを衛兵に突き出せば、モートンはもれなく逮捕だ。高位貴族の暗殺依頼など、厳罰ものである。モートンへの脅しの一つとして取っておいたのだが、こんな事態になってからではもう必要は無さそうだ。
「もう捨てようかと思います」
「…いや、まだ取っておいた方がいいと思う。もしかしたら、使う場面が出てきそうだ。そうならないのが、一番いいんだけどね」
「わかりました」
フェリクスにそう言われれば、まだ保管していよう。正直、モートンとのかかわりはサッサと無くしたいところだが、こればっかりはしょうがない。
「それで続きだけど、その件で裏ギルドがぼくに恨みを持ってる可能性がある。ただ直接ぼくにどうこうできないから、ぼくと関わりのある人を害することで恨みを晴らそうとしてるんだろう。それがウルスラ、君だ。おそらく、暗殺依頼書の関係者から、ぼくに依頼をしてきたのが君なんだと関連付けたんだと思う。裏ギルドは君とぼくが個人的な関係にあると踏んでる。だから君を害そうと考え、それと同じ目的を持つモートンに目を付けた。彼らの目的は一致したんだろう、だから同行した…と見るところかな」
「なるほど……」
確かに理屈は合ってる。
もうそうだとするなら、裏ギルドはウルスラも恨んでいることになるだろう。恨まれる筋合いなど無いと言いたいけれど、そんなことを話し合える相手でもなさそうだ。
ただ、その場合、モートンはウルスラを殺しに来るとして、裏ギルドは何をするのかというのが分からない。もし裏ギルドもウルスラを殺そうとするなら、それではモートンとぶつかり合うだろう。
彼は徹底的に自らの手を下したがる。5回のうち、2回は彼に直接斬られているのだ。3回は毒殺によるものだが、それでも結果的には彼が看取る形になっている。彼のあずかり知らないところでウルスラが殺されるという状況を、モートンが望むと思えない。
となると、裏ギルドは何をするか。おそらく、その舞台を整える黒子の役目と考えるべきかもしれない。
ウルスラは自分の考えを述べた。
「そうなると、裏ギルドはモートンが私を直接殺せるよう、誘拐か何かの手段でサポートする…ということでしょうか?」
ウルスラの考えに、フェリクスは深くうなずいた。
「だろうね。裏ギルドの連中は、実は自分で決めたくない連中ばかりなんだ。だから今回も、本当は自分たちが殺したいけど、モートンからの依頼という形にしているだろう。陰気な連中だからね、自己決定が出来ない。これが問答無用で殺しに来られていたら、裏ギルドを潰すしかなくなっちゃうけど、その選択は最後にしておきたいから」
「そう、なんですね…」
サラリと潰すとか言わないでほしい。一応この国最大の闇のはずなんだから。
そう思うと、実はこの国一番の闇は、この人なのではなかろうかと今更ながらに思ってしまう。
奴隷市場も裏ギルドも、どちらもあえて泳がせ、潰そうといつでも潰せる。改めてフェリクスの恐ろしさを再認識することになってしまった。
「ただ、それなら事態の解決の目途も立てやすい。モートンを殺しさえすれば、裏ギルドは動けなくなる。その時点でぼくたちの勝ちだ」
「依頼人さえいなくなれば、それで終わりということですね」
それなら単純明快だ。とはいえ、現状はそのモートンが行方不明。いや、これは裏ギルドがモートンをかくまっていると見るべきか。モートンが裏ギルドの命綱だとすれば、守ろうとするのは当然だろう。
となると、これからこちらがするのはモートンを追う事になる。そして、追い詰めた先には彼を殺す。
問題は、モートンがいる場所だ。裏ギルドに立てこもりされていては、手の出しようがない。
その場では良い策が思い浮かばないまま、解散となった。ただそのままフェリクスは帰宅というわけではなく、ウルスラの父と二人きりの『お話』をしたという。
次に会った時に、彼は遠い目をしながらこう言った。
「父親って……恐ろしいねぇ」
ウルスラの気持ちを聞けたフェリクスは、それはもう嬉しそうに破願した。
なんだその顔は…とラルフは思いながら、動かない。3年彼の元で鍛えられた彼らだが、そんな顔をしたところは見たことが無い。むしろそんな顔をできたのかと驚くくらい、フェリクスは紳士然とした、目が笑ってない笑顔しか見せないのだ。
誰が言ったか、『微笑みの死神』。敵国の諜報部にも恐れられる彼だ。そんな彼が、愛する存在が出来たなど、彼の下にいる諜報部員が聞いたらどう思うか。…今度は、からかうことはしないだろうと思う。
さておき。
二人の気持ちが確認し合えたことで、ウルスラは染まった頬を誤魔化すように咳払いをしつつ、ウルスラ側の本題を切り出すことにした。
「殿下、実は…」
「殿下じゃなくて、名前呼びがいいな」
「……あの、殿下。これはまじめな話を…」
「ぼくも十分まじめな話だよ?せっかく好きだと分かった相手に、敬称呼びされるのは辛いなぁ~」
何だその顔は。口をとがらせて、まるで拗ねる子どもではないか。27歳がやるには少々痛い仕草だが、ウルスラはそれすら可愛いと思っている。ユーリスとラルフは視線を外に向け、見ていないフリをしていた。
「…おほん、フェリクス様、実はモートンが裏ギルドと接触しました」
ちょっと照れた様子を残しながらも、ウルスラは本題を切り出した。裏ギルドという言葉に、フェリクスの目が細められる。
「へぇ……。詳しくいいかい?」
ウルスラは知っている限り詳しく話した。
モートンに裏ギルドから接触したこと。
モートンが裏ギルドの建物に入っていき、それからの動向がつかめないこと。
そこまで聞くと、フェリクスは息を大きく吐いた。そして何か考えるように、視線を天井へと向ける。
「モートンが依頼したのならともかく、裏ギルドから接触した……それは問題だね」
「はい。どんな思惑があるのか……」
それが分かれば、対策の立てようもある。だが、分からないと動きようがない。モートンの動向もつかめず、そこに裏ギルドまで関わるのであれば、危険性が飛躍的に上昇する。具体的に言えば、ウルスラの命が危ない。
こうなる前にやっておけばと後悔ばかりが募る。手に力が入り、己の不甲斐なさが悔しい。
しばし目を閉じて考え込んでいたフェリクスだが、考えがまとまったようで目を開いた。
「おそらく…だけど、裏ギルドはぼくへの意趣返しだね」
「えっ、フェリクス様へ……ですか?」
どうしてそこでフェリクスが出てくるのか。意味が分からず、ウルスラは首を傾げた。
「以前、君のご両親への暗殺依頼書を裏ギルドから頂戴してきたのは覚えてる?」
「はい。まだとってあります」
「まだあるんだ…」
「何かの時には証拠に使おうかと」
なにせあれを衛兵に突き出せば、モートンはもれなく逮捕だ。高位貴族の暗殺依頼など、厳罰ものである。モートンへの脅しの一つとして取っておいたのだが、こんな事態になってからではもう必要は無さそうだ。
「もう捨てようかと思います」
「…いや、まだ取っておいた方がいいと思う。もしかしたら、使う場面が出てきそうだ。そうならないのが、一番いいんだけどね」
「わかりました」
フェリクスにそう言われれば、まだ保管していよう。正直、モートンとのかかわりはサッサと無くしたいところだが、こればっかりはしょうがない。
「それで続きだけど、その件で裏ギルドがぼくに恨みを持ってる可能性がある。ただ直接ぼくにどうこうできないから、ぼくと関わりのある人を害することで恨みを晴らそうとしてるんだろう。それがウルスラ、君だ。おそらく、暗殺依頼書の関係者から、ぼくに依頼をしてきたのが君なんだと関連付けたんだと思う。裏ギルドは君とぼくが個人的な関係にあると踏んでる。だから君を害そうと考え、それと同じ目的を持つモートンに目を付けた。彼らの目的は一致したんだろう、だから同行した…と見るところかな」
「なるほど……」
確かに理屈は合ってる。
もうそうだとするなら、裏ギルドはウルスラも恨んでいることになるだろう。恨まれる筋合いなど無いと言いたいけれど、そんなことを話し合える相手でもなさそうだ。
ただ、その場合、モートンはウルスラを殺しに来るとして、裏ギルドは何をするのかというのが分からない。もし裏ギルドもウルスラを殺そうとするなら、それではモートンとぶつかり合うだろう。
彼は徹底的に自らの手を下したがる。5回のうち、2回は彼に直接斬られているのだ。3回は毒殺によるものだが、それでも結果的には彼が看取る形になっている。彼のあずかり知らないところでウルスラが殺されるという状況を、モートンが望むと思えない。
となると、裏ギルドは何をするか。おそらく、その舞台を整える黒子の役目と考えるべきかもしれない。
ウルスラは自分の考えを述べた。
「そうなると、裏ギルドはモートンが私を直接殺せるよう、誘拐か何かの手段でサポートする…ということでしょうか?」
ウルスラの考えに、フェリクスは深くうなずいた。
「だろうね。裏ギルドの連中は、実は自分で決めたくない連中ばかりなんだ。だから今回も、本当は自分たちが殺したいけど、モートンからの依頼という形にしているだろう。陰気な連中だからね、自己決定が出来ない。これが問答無用で殺しに来られていたら、裏ギルドを潰すしかなくなっちゃうけど、その選択は最後にしておきたいから」
「そう、なんですね…」
サラリと潰すとか言わないでほしい。一応この国最大の闇のはずなんだから。
そう思うと、実はこの国一番の闇は、この人なのではなかろうかと今更ながらに思ってしまう。
奴隷市場も裏ギルドも、どちらもあえて泳がせ、潰そうといつでも潰せる。改めてフェリクスの恐ろしさを再認識することになってしまった。
「ただ、それなら事態の解決の目途も立てやすい。モートンを殺しさえすれば、裏ギルドは動けなくなる。その時点でぼくたちの勝ちだ」
「依頼人さえいなくなれば、それで終わりということですね」
それなら単純明快だ。とはいえ、現状はそのモートンが行方不明。いや、これは裏ギルドがモートンをかくまっていると見るべきか。モートンが裏ギルドの命綱だとすれば、守ろうとするのは当然だろう。
となると、これからこちらがするのはモートンを追う事になる。そして、追い詰めた先には彼を殺す。
問題は、モートンがいる場所だ。裏ギルドに立てこもりされていては、手の出しようがない。
その場では良い策が思い浮かばないまま、解散となった。ただそのままフェリクスは帰宅というわけではなく、ウルスラの父と二人きりの『お話』をしたという。
次に会った時に、彼は遠い目をしながらこう言った。
「父親って……恐ろしいねぇ」
35
あなたにおすすめの小説
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~
柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。
そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。
クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。
さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる