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婚約破棄しなさいよ!
「婚約を解消して欲しい、ですか?」
銀色の髪に透き通った紫色の瞳をした少女は、優雅に首を傾げた。
「だって、間違っていると思うんです!結婚は、愛し合う者同士でするべきでしょう⁉︎」
ピンク色の髪を靡かせ、ピンク色の瞳に涙をたっぷりと溜めた儚げな見た目の少女が、胸の前に手を組んでテーブルに着いた少女に詰め寄った。
「あなたは……マリナ・ストーン男爵令嬢でしたかしら?随分と……お可愛らしい考えをお持ちですのね」
「バ、バカにしてるんですか⁉︎」
「そういう訳ではありませんわ。……そうね。あなたは、何故王族の婚約者が高位貴族令嬢なのか、知っていて?」
「そんなのっ!身分のおかげでしょう⁉︎」
「まあ、あながち間違いではないけれど……とにかく、お座りになって?落ち着きませんから」
人形のように美しい少女にテーブルの向かい側を示され、マリナは渋々席に着いた。
少女がちらりと視線を向けただけで、周りの侍女たちがするすると動き、新しいお茶に入れ替えられ、マリナの前にも用意される。
ティーケーキのスタンドまで新しくされてから、エヴァンジェリン・シャイルードル公爵令嬢は口を開いた。
「あなたは、高位貴族の令嬢が基礎の淑女教育を終えるのに、どのくらいの費用がかかるか、ご存知?」
「……は?」
いきなり変わった話題について行けず、マリナが首を傾げる。
エヴァンジェリンはまるで見せつけるように、流れるような美しい所作でカップを持ち上げ、優雅に紅茶を嗜んだ。
「し、知る訳ないじゃないですか!」
「そうね。簡単に言えば、裕福な男爵家の収入の、ざっと50年分くらいかしら」
「……へ?」
「一流のガヴァネスを雇う費用など、必要経費をまとめると、どうしてもそれくらいにはなりますわね。そして、これはあくまで基礎教育。つまり、伯爵家のご令嬢まで」
再びちらりと視線を向けられた侍女が、今度は2人の前にケーキをサーブした。
ちなみにマリナは、ちゃんと好みを聞かれた。
「侯爵家以上になりますと、その上に更に高位貴族の淑女教育が加算されます。具体的には、数か国語と周辺国のマナーや歴史など、多彩ですわね。高位貴族の令嬢ですと、各国の要人のお相手をする機会がありますから」
「……はあ」
何ソレ自慢⁉︎とでも言いたい表情で、マリナがエヴァンジェリンをうろんげに見る。
エヴァンジェリンは見惚れるほど美しくケーキを口にし、愛しむようにカトラリーを置いた。
お気に召したらしい。
「そこまでが、王子妃教育の前提ですね。つまり、王子妃教育を受けるためには、そこまでは学んでいる必要がありますの。ちなみに、王太子妃教育、王妃教育は、王子妃教育を基礎といたします」
エヴァンジェリンが何を言いたいのか判って、マリナはキッと睨みつけた。
「わたしを脅すつもりですか⁉︎教育なんて、やる気があればいつかは終わるわ!」
「いえ、そういうことではなく。かかる費用のお話ですわ」
「……は?」
「先程言いましたでしょう?伯爵令嬢レベルの教育で、男爵家の収入の50年分だと。もちろん、生活もしなければなりませんから、その教育を受けるのには、それ以上の年月がかかることになりますわね」
「うえ⁉︎」
「もちろん、王子妃教育からの費用は王家で支出して下さいますけれど……そこに至るまでは、ね」
「…………」
「それに、婚姻を結んだ後も物入りですわ。何しろ、暮らすのが王宮ですから、部屋から一歩出るためには正装をしなければなりません」
「……はぁ」
「そして、そのドレスやお飾りは自分持ちですの」
「はぁ⁉︎何でよ!!結婚したら、予算が付くんでしょ⁉︎」
ガタン、と音を立てて立ち上がったマリナに、侍女たちは蔑んだ目を向ける。
エヴァンジェリンは、微動だにしなかった。
「その予算は、公務に伴うドレスなどを仕立てるためのものですわ。民からの税収なのですもの」
「……へ?」
「一度公務で身につけたドレスは、二度と袖を通せません。王家の予算が不足している、と見られますからね。つまり、公務に出る機会が多ければ多い程、たくさんドレスが必要ですの」
「それは……」
「公務としてドレスを身につけるのに、予算を掛けない訳には参りません。ですから、普段のドレスまでは手が回りませんの」
「あの……その場合って……」
「もちろん、持参金で賄います」
「……ですヨネー」
「普段着とはいえ、王宮を歩くのですから、格の高いドレスでなくてはいけませんし……王家に嫁ぐ方の殆どは、持参金として実家に裕福な土地を持たせてもらうのです」
「そ……そんな土地……」
「そうでなければ、部屋から一歩も出ることができませんものね」
「……そ……ですか……」
「それはもちろん、生まれたお子たちの分もですわ」
にっこりと微笑まれ、マリナはぎこちないながらもカーテシーをした。
「くつろぎのお邪魔をして、大変申し訳ございませんでした。わたしはこれで失礼させていただきます」
「あら、そうですの?では、ごきげんよう」
クルッと踵を返し、マリナはとっととその場から逃げ出した。
銀色の髪に透き通った紫色の瞳をした少女は、優雅に首を傾げた。
「だって、間違っていると思うんです!結婚は、愛し合う者同士でするべきでしょう⁉︎」
ピンク色の髪を靡かせ、ピンク色の瞳に涙をたっぷりと溜めた儚げな見た目の少女が、胸の前に手を組んでテーブルに着いた少女に詰め寄った。
「あなたは……マリナ・ストーン男爵令嬢でしたかしら?随分と……お可愛らしい考えをお持ちですのね」
「バ、バカにしてるんですか⁉︎」
「そういう訳ではありませんわ。……そうね。あなたは、何故王族の婚約者が高位貴族令嬢なのか、知っていて?」
「そんなのっ!身分のおかげでしょう⁉︎」
「まあ、あながち間違いではないけれど……とにかく、お座りになって?落ち着きませんから」
人形のように美しい少女にテーブルの向かい側を示され、マリナは渋々席に着いた。
少女がちらりと視線を向けただけで、周りの侍女たちがするすると動き、新しいお茶に入れ替えられ、マリナの前にも用意される。
ティーケーキのスタンドまで新しくされてから、エヴァンジェリン・シャイルードル公爵令嬢は口を開いた。
「あなたは、高位貴族の令嬢が基礎の淑女教育を終えるのに、どのくらいの費用がかかるか、ご存知?」
「……は?」
いきなり変わった話題について行けず、マリナが首を傾げる。
エヴァンジェリンはまるで見せつけるように、流れるような美しい所作でカップを持ち上げ、優雅に紅茶を嗜んだ。
「し、知る訳ないじゃないですか!」
「そうね。簡単に言えば、裕福な男爵家の収入の、ざっと50年分くらいかしら」
「……へ?」
「一流のガヴァネスを雇う費用など、必要経費をまとめると、どうしてもそれくらいにはなりますわね。そして、これはあくまで基礎教育。つまり、伯爵家のご令嬢まで」
再びちらりと視線を向けられた侍女が、今度は2人の前にケーキをサーブした。
ちなみにマリナは、ちゃんと好みを聞かれた。
「侯爵家以上になりますと、その上に更に高位貴族の淑女教育が加算されます。具体的には、数か国語と周辺国のマナーや歴史など、多彩ですわね。高位貴族の令嬢ですと、各国の要人のお相手をする機会がありますから」
「……はあ」
何ソレ自慢⁉︎とでも言いたい表情で、マリナがエヴァンジェリンをうろんげに見る。
エヴァンジェリンは見惚れるほど美しくケーキを口にし、愛しむようにカトラリーを置いた。
お気に召したらしい。
「そこまでが、王子妃教育の前提ですね。つまり、王子妃教育を受けるためには、そこまでは学んでいる必要がありますの。ちなみに、王太子妃教育、王妃教育は、王子妃教育を基礎といたします」
エヴァンジェリンが何を言いたいのか判って、マリナはキッと睨みつけた。
「わたしを脅すつもりですか⁉︎教育なんて、やる気があればいつかは終わるわ!」
「いえ、そういうことではなく。かかる費用のお話ですわ」
「……は?」
「先程言いましたでしょう?伯爵令嬢レベルの教育で、男爵家の収入の50年分だと。もちろん、生活もしなければなりませんから、その教育を受けるのには、それ以上の年月がかかることになりますわね」
「うえ⁉︎」
「もちろん、王子妃教育からの費用は王家で支出して下さいますけれど……そこに至るまでは、ね」
「…………」
「それに、婚姻を結んだ後も物入りですわ。何しろ、暮らすのが王宮ですから、部屋から一歩出るためには正装をしなければなりません」
「……はぁ」
「そして、そのドレスやお飾りは自分持ちですの」
「はぁ⁉︎何でよ!!結婚したら、予算が付くんでしょ⁉︎」
ガタン、と音を立てて立ち上がったマリナに、侍女たちは蔑んだ目を向ける。
エヴァンジェリンは、微動だにしなかった。
「その予算は、公務に伴うドレスなどを仕立てるためのものですわ。民からの税収なのですもの」
「……へ?」
「一度公務で身につけたドレスは、二度と袖を通せません。王家の予算が不足している、と見られますからね。つまり、公務に出る機会が多ければ多い程、たくさんドレスが必要ですの」
「それは……」
「公務としてドレスを身につけるのに、予算を掛けない訳には参りません。ですから、普段のドレスまでは手が回りませんの」
「あの……その場合って……」
「もちろん、持参金で賄います」
「……ですヨネー」
「普段着とはいえ、王宮を歩くのですから、格の高いドレスでなくてはいけませんし……王家に嫁ぐ方の殆どは、持参金として実家に裕福な土地を持たせてもらうのです」
「そ……そんな土地……」
「そうでなければ、部屋から一歩も出ることができませんものね」
「……そ……ですか……」
「それはもちろん、生まれたお子たちの分もですわ」
にっこりと微笑まれ、マリナはぎこちないながらもカーテシーをした。
「くつろぎのお邪魔をして、大変申し訳ございませんでした。わたしはこれで失礼させていただきます」
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クルッと踵を返し、マリナはとっととその場から逃げ出した。
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