どうしてか、知っていて?

碧水 遥

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淑女たちのお茶会

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 よく晴れた、学園の中庭。

 学園の薔薇の花束ローズ・ブーケと称される美少女たちが、楽しげにランチを取っていた。

 王太子の婚約者、エヴァンジェリン・シャイルードル公爵令嬢。銀髪紫眼で、まるで人形のように整って美しい。曰く、氷の薔薇。

 王太子の側近候補の婚約者、レイチェル・ペリアール侯爵令嬢。赤髪緑眼で、色気たっぷりタイプの美女。曰く、真紅の薔薇。

 王太子の専属護衛を兼ねる武官の婚約者、パトリシア・ケルディン伯爵令嬢。金髪水色眼で、華奢で儚げな美少女。曰く、玻璃の薔薇。

 第3王子の婚約者、ヘンリエッタ・ディエリ侯爵令嬢。紺髪黒眼で、男装が似合いそうな、キリッとした美人。曰く、漆黒の薔薇。

 そんな4人が集まると、それだけでその場が華やかになる。

「あー、ほんと、自称ハーレム男がいなくなると、平和でいいですわー」

「あのピンク女もよ」

 レイチェルとパトリシアの言葉に、エヴァンジェリンが苦笑を浮かべる。

「お2人とも、お口が悪くてよ」

「4人だけだし、いーじゃない。……結局、退学になったんですって?」

「……彼女に関しては、わたくしへの不敬ですね」

 2回も突撃して来たのは、である。しかも、誰でも入れる場所の。

 男爵令嬢が公爵令嬢に酷い態度を取っているのを、大変な数の一般人が目撃していた。
 大層な数の陳情が、王宮に寄せられたらしい。

「あ、それでだけど、エヴァ」

「なぁに?」

「エヴァのスパイスクッキー、とっても美味しいんだって?王太子殿下が自慢なさってるとか」

 ヘンリエッタの言葉に、エヴァンジェリンがかすかに眉を寄せる。

「何をなさってるの?殿下は」

「あー、わたくしも聞いたかも。絶対に、他の人には譲らないんですって」

「確かに。……そんなに美味しいなら食べてみたいな」

 キラキラと目を輝かせたパトリシアに、エヴァンジェリンは溜息を吐いた。

「いいけど……レシピは差し上げるわ。ただ、かなり辛くてよ」

「え、そうなの?」

「殿下向けですもの。普通のジンジャークッキーより、砂糖が控えめなの」

「成程?それで男性受けがいいのか」

「自分で召し上がるなら、普通のレシピのほうがいいと思うわ」

 甘ーいマドレーヌに舌鼓を打ちながら、エヴァンジェリンが肩を竦める。

「ふふふ、じゃあもっと砂糖を減らして作ろう」

 ヘンリエッタの言葉に、3人は顔を見合わせた。

「何?第3王子殿下が何かした訳?」

「何って程でも?彼女が退学になった訳を、王太子殿下に詰め寄っただけ」

「……ああ」

「それは……」

「また」

 3人は第3王子殿下の舌の冥福を祈り、話題を変えた。

「で、彼の方は?」

「王太子殿下に対する不敬ですわ。殴りかかろうとしたのですって」

「はぁ?護衛に囲まれてるだろうに」

「ただの生徒に見えたのではなくて?」

「あー、お取り巻きって奴?」

「気持ち悪かったから、ザマァですわ」

「特にレイチェルは、凄い目で見られてましたものね」

「妄言も吐き散らされたわ。エヴァが自分を生まれ変わらせる、とか何とか」

「……は?」

 3人が首を傾げると、絡まれることの多かったレイチェルは、物凄く嫌そうに吐き出した。

「何でも、自分に惚れ込んだエヴァが、自分のためだけに料理を作り、運動に付き合い、服装にも気を遣って、見違えるような美少年になるんですって」

「何でわたくしが」

「美少年?どこが⁉︎」

「ごく目立たない顔立ちじゃなかったっけ⁉︎」

 太っていた、と言っても、顔立ちが肉に埋もれる程ではないのを知っている3人は、愕然とした。

「殿下たちの前で、大した心臓だわぁ」

「……きっと、何処かの国では、あの顔立ちが、至高、なのですわよ」

「はぁ、何処か、ねぇ……」

「あるといいねぇ……」

 遠い目をした4人は、とりあえず目の前の美味しいお菓子に集中することにした。

「美味しいよね、このマドレーヌ」

「バターをたっぷり使うのがコツだそうですわ」

「甘みにコクがあって」

「ハチミツが入っているそうですの」

「ハチミツと言えば、この間頂いたお菓子だけど……」

 美少女たちがニコニコと口にしているお菓子が、飛ぶように売れたのは言うまでもない。
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