どうしてか、知っていて?

碧水 遥

文字の大きさ
5 / 17

淑女たちのお茶会

 よく晴れた、学園の中庭。

 学園の薔薇の花束ローズ・ブーケと称される美少女たちが、楽しげにランチを取っていた。

 王太子の婚約者、エヴァンジェリン・シャイルードル公爵令嬢。銀髪紫眼で、まるで人形のように整って美しい。曰く、氷の薔薇。

 王太子の側近候補の婚約者、レイチェル・ペリアール侯爵令嬢。赤髪緑眼で、色気たっぷりタイプの美女。曰く、真紅の薔薇。

 王太子の専属護衛を兼ねる武官の婚約者、パトリシア・ケルディン伯爵令嬢。金髪水色眼で、華奢で儚げな美少女。曰く、玻璃の薔薇。

 第3王子の婚約者、ヘンリエッタ・ディエリ侯爵令嬢。紺髪黒眼で、男装が似合いそうな、キリッとした美人。曰く、漆黒の薔薇。

 そんな4人が集まると、それだけでその場が華やかになる。

「あー、ほんと、自称ハーレム男がいなくなると、平和でいいですわー」

「あのピンク女もよ」

 レイチェルとパトリシアの言葉に、エヴァンジェリンが苦笑を浮かべる。

「お2人とも、お口が悪くてよ」

「4人だけだし、いーじゃない。……結局、退学になったんですって?」

「……彼女に関しては、わたくしへの不敬ですね」

 2回も突撃して来たのは、である。しかも、誰でも入れる場所の。

 男爵令嬢が公爵令嬢に酷い態度を取っているのを、大変な数の一般人が目撃していた。
 大層な数の陳情が、王宮に寄せられたらしい。

「あ、それでだけど、エヴァ」

「なぁに?」

「エヴァのスパイスクッキー、とっても美味しいんだって?王太子殿下が自慢なさってるとか」

 ヘンリエッタの言葉に、エヴァンジェリンがかすかに眉を寄せる。

「何をなさってるの?殿下は」

「あー、わたくしも聞いたかも。絶対に、他の人には譲らないんですって」

「確かに。……そんなに美味しいなら食べてみたいな」

 キラキラと目を輝かせたパトリシアに、エヴァンジェリンは溜息を吐いた。

「いいけど……レシピは差し上げるわ。ただ、かなり辛くてよ」

「え、そうなの?」

「殿下向けですもの。普通のジンジャークッキーより、砂糖が控えめなの」

「成程?それで男性受けがいいのか」

「自分で召し上がるなら、普通のレシピのほうがいいと思うわ」

 甘ーいマドレーヌに舌鼓を打ちながら、エヴァンジェリンが肩を竦める。

「ふふふ、じゃあもっと砂糖を減らして作ろう」

 ヘンリエッタの言葉に、3人は顔を見合わせた。

「何?第3王子殿下が何かした訳?」

「何って程でも?彼女が退学になった訳を、王太子殿下に詰め寄っただけ」

「……ああ」

「それは……」

「また」

 3人は第3王子殿下の舌の冥福を祈り、話題を変えた。

「で、彼の方は?」

「王太子殿下に対する不敬ですわ。殴りかかろうとしたのですって」

「はぁ?護衛に囲まれてるだろうに」

「ただの生徒に見えたのではなくて?」

「あー、お取り巻きって奴?」

「気持ち悪かったから、ザマァですわ」

「特にレイチェルは、凄い目で見られてましたものね」

「妄言も吐き散らされたわ。エヴァが自分を生まれ変わらせる、とか何とか」

「……は?」

 3人が首を傾げると、絡まれることの多かったレイチェルは、物凄く嫌そうに吐き出した。

「何でも、自分に惚れ込んだエヴァが、自分のためだけに料理を作り、運動に付き合い、服装にも気を遣って、見違えるような美少年になるんですって」

「何でわたくしが」

「美少年?どこが⁉︎」

「ごく目立たない顔立ちじゃなかったっけ⁉︎」

 太っていた、と言っても、顔立ちが肉に埋もれる程ではないのを知っている3人は、愕然とした。

「殿下たちの前で、大した心臓だわぁ」

「……きっと、何処かの国では、あの顔立ちが、至高、なのですわよ」

「はぁ、何処か、ねぇ……」

「あるといいねぇ……」

 遠い目をした4人は、とりあえず目の前の美味しいお菓子に集中することにした。

「美味しいよね、このマドレーヌ」

「バターをたっぷり使うのがコツだそうですわ」

「甘みにコクがあって」

「ハチミツが入っているそうですの」

「ハチミツと言えば、この間頂いたお菓子だけど……」

 美少女たちがニコニコと口にしているお菓子が、飛ぶように売れたのは言うまでもない。
感想 2

あなたにおすすめの小説

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました

桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」 婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。 三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。 どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。 しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。 ならばもう、黙っている理由はない。 これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……