どうしてか、知っていて?

碧水 遥

文字の大きさ
6 / 17

その裏で

 そんな4人を見つめている集団の中の1つに、彼女たちの婚約者の姿があった。

 レンドール王国王太子、クローディアス・レンドール。ハチミツのような濃い金髪に、王家の瞳である紫眼の美男。

 クローディアスの側近候補、ジェレミー・ドミナート侯爵令息。透けるような淡い金髪にペリドット・グリーンの瞳で、繊細な美青年。

 王太子の専属護衛を兼ねる武官、レイモンド・ロー伯爵。黒髪黒眼に浅黒い肌の、鍛え上げた長身の美丈夫。彼だけは学生ではなく、10歳近く歳上で、既に爵位を継いでいる。

 レンドール第3王子、ルイズフェルド・レンドール。色合いは兄と同じだが、全体的に淡い。王妃にそっくりの美少年。

 ちなみに第2王子のクラウディオは、他国に留学中である。

「兄上が悪いんだ、あんな可愛い娘を退学させるなんて!」

「どこが」

「ピンクで!ふわふわして!明るい笑顔で!素直に笑って泣いて!可愛いじゃないか!!」

「アホか」

 豪快に肉を片付けながら、クローディアスは、己の弟の妄言を切り捨てた。

「何でさ⁉︎」

「お前ね、今でさえ婚約者ヘンリエッタ嬢に頼ってる癖に、自力で立てない女なんて、丸抱え出来る訳ないだろうが」

「そこがいいんじゃないか!何でも頼ってくれてさ、ボクって出来る男って思わせてくれて」

「アホか」

「何だよっ!」

 ちょうど食べ終わったクローディアスは、ジロリと目の前の弟を見据えた。

「で?頼られた分の仕事は?お前がやるのか?2人分?」

「……え」

「何にも出来なぁい、と頼ってる内容が、一生学園の課題なのだったら私だって別に止めない。だが、お前は2年後には学園は卒業するんだし、王子として人前に立つんだし、そのあとは臣籍降下するんだぞ」

「そんなの」

「今だってろくにない公務をサボっている癖に、いつまでヘンリエッタ嬢に頼るつもりだ」

「サボってなんか!」

「へぇ?じゃあ、お前に任せた使用人の休暇で揉めた件、ここできっちり説明してみろ」

 意気込んだルイズフェルドは、クローディアスの言葉にモゴモゴと口ごもった。

「い、今は、……資料、資料がないから……」

「いい加減にしろよ」

 クローディアスは弟の胸ぐらを掴み、ぐいと顔を近づけた。

「報復がスパイスクッキーで済んでるうちに改めんと、取り返しのつかないことになるぞ」

「兄上のバカぁ!そんなに言うなら、城なんか出てってやる!」

 腕を振り払って逃げていったルイズフェルドを護衛に追いかけさせると、クローディアスは盛大に溜息を吐いた。

「あー……エヴァのクッキー食べたい……」

「殿下、よろしいのですか」

 ジェレミーの言葉に、クローディアスは肩を竦めた。

「よろしくないが、面倒だ。護衛も付けたし、影も追わせたから充分だろ」

「しかし、ルイズフェルド殿下がお可哀想かと」

「……何?お前もピンク女が可愛いとか言い出す気か」

「いえ!……そうではありません、が。その……シャイルードル公爵令嬢への不敬など、口実にすらならないでしょう?学生の戯れで済むことではありませんか。それなのに、退学など……」

 勢いよく言いかけたジェレミーは、クローディアスの冷たい視線に黙り込んだ。

「今のは聞かなかったことにしてやる。……ジェレミー、お前は少々、婚約者殿レイチェル嬢に鍛えてもらえ。人は、発した言葉がすべてじゃないんだぞ」

「そんなことは判ってますよ!ただ、マリナはいい子だったでしょう⁉︎」

「いい子、ねぇ……」

 クローディアスは、呆れたようにジェレミーを見やった。

「婚約者がいようが関係なく、高位貴族の令息と見ればベッタリと胸を押しつけてくる女が?勝手に愛称で呼んで、抱きつこうとする女が?自分で水を被って、誰だかの婚約者にやられた、と泣きつく女が?」

「それは……」

「エヴァンジェリンに向かって、婚約を破棄しろと噛みつく女が?挙句に、エヴァに苛められたと私にタックルかました女が?」

 もちろん、レイモンドが止めた。少女だと油断していたとはいえ、一瞬ぐらついたくらいの勢いだった。

「お前の中の“いい子”とやらは、随分変わってるんだな」

「…………」

 何も言えなくなって俯いたジェレミーを、クローディアスは憐れむように見た。

「甘えて欲しい……もしくは甘えたいんだったら、レイチェル嬢に言え。婚約者は大事にするものだ。あくまで政略なのだから」

「……いけませんか」

「ん?」

「自分で選んではいけませんか。レイチェルあの女は、私が選んだ訳じゃない。恋人くらい、自分で選んではいけませんか⁉︎」

「別にいいぞ」

 そう言って微笑んだクローディアスは、幼馴染に向けるいつもの笑みではなく、他人に向ける王太子の微笑みだった。

「きみが、ただの幼馴染に戻るだけだ」

 レイモンドに、行くぞ、と声をかけて立ち上がり、クローディアスは表情を殺して歩き出した。

「……ジルには荷が重かったか」

「殿下」

「いつまでも候補のままだったからなー……焦ってたのかもな」

「殿下のせいではありません」

「私も側近としてなら、気に入ってたのはレイチェル嬢の方だし」

「……それは確かに?」

「あー、もう、本当に面倒くさい」

 ルイズフェルドの婚約者であるヘンリエッタに登城するよう声をかけ、勝手に早退した弟の後始末をし、もちろん授業も受け、クローディアスは帰城した。

 鞄を侍従に預けながら、部屋に向かって歩き出す。

アレはどうした?」

「その……既にお部屋で寛いでおられます……」

 クローディアスは、廊下にめり込みたくなった。
 
感想 2

あなたにおすすめの小説

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました

桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」 婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。 三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。 どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。 しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。 ならばもう、黙っている理由はない。 これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……