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その裏で
そんな4人を見つめている集団の中の1つに、彼女たちの婚約者の姿があった。
レンドール王国王太子、クローディアス・レンドール。ハチミツのような濃い金髪に、王家の瞳である紫眼の美男。
クローディアスの側近候補、ジェレミー・ドミナート侯爵令息。透けるような淡い金髪にペリドット・グリーンの瞳で、繊細な美青年。
王太子の専属護衛を兼ねる武官、レイモンド・ロー伯爵。黒髪黒眼に浅黒い肌の、鍛え上げた長身の美丈夫。彼だけは学生ではなく、10歳近く歳上で、既に爵位を継いでいる。
レンドール第3王子、ルイズフェルド・レンドール。色合いは兄と同じだが、全体的に淡い。王妃にそっくりの美少年。
ちなみに第2王子のクラウディオは、他国に留学中である。
「兄上が悪いんだ、あんな可愛い娘を退学させるなんて!」
「どこが」
「ピンクで!ふわふわして!明るい笑顔で!素直に笑って泣いて!可愛いじゃないか!!」
「アホか」
豪快に肉を片付けながら、クローディアスは、己の弟の妄言を切り捨てた。
「何でさ⁉︎」
「お前ね、今でさえ婚約者に頼ってる癖に、自力で立てない女なんて、丸抱え出来る訳ないだろうが」
「そこがいいんじゃないか!何でも頼ってくれてさ、ボクって出来る男って思わせてくれて」
「アホか」
「何だよっ!」
ちょうど食べ終わったクローディアスは、ジロリと目の前の弟を見据えた。
「で?頼られた分の仕事は?お前がやるのか?2人分?」
「……え」
「何にも出来なぁい、と頼ってる内容が、一生学園の課題なのだったら私だって別に止めない。だが、お前は2年後には学園は卒業するんだし、王子として人前に立つんだし、そのあとは臣籍降下するんだぞ」
「そんなの」
「今だってろくにない公務をサボっている癖に、いつまでヘンリエッタ嬢に頼るつもりだ」
「サボってなんか!」
「へぇ?じゃあ、お前に任せた使用人の休暇で揉めた件、ここできっちり説明してみろ」
意気込んだルイズフェルドは、クローディアスの言葉にモゴモゴと口ごもった。
「い、今は、……資料、資料がないから……」
「いい加減にしろよ」
クローディアスは弟の胸ぐらを掴み、ぐいと顔を近づけた。
「報復がスパイスクッキーで済んでるうちに改めんと、取り返しのつかないことになるぞ」
「兄上のバカぁ!そんなに言うなら、城なんか出てってやる!」
腕を振り払って逃げていったルイズフェルドを護衛に追いかけさせると、クローディアスは盛大に溜息を吐いた。
「あー……エヴァのクッキー食べたい……」
「殿下、よろしいのですか」
ジェレミーの言葉に、クローディアスは肩を竦めた。
「よろしくないが、面倒だ。護衛も付けたし、影も追わせたから充分だろ」
「しかし、ルイズフェルド殿下がお可哀想かと」
「……何?お前もピンク女が可愛いとか言い出す気か」
「いえ!……そうではありません、が。その……シャイルードル公爵令嬢への不敬など、口実にすらならないでしょう?学生の戯れで済むことではありませんか。それなのに、退学など……」
勢いよく言いかけたジェレミーは、クローディアスの冷たい視線に黙り込んだ。
「今のは聞かなかったことにしてやる。……ジェレミー、お前は少々、婚約者殿に鍛えてもらえ。人は、発した言葉がすべてじゃないんだぞ」
「そんなことは判ってますよ!ただ、マリナはいい子だったでしょう⁉︎」
「いい子、ねぇ……」
クローディアスは、呆れたようにジェレミーを見やった。
「婚約者がいようが関係なく、高位貴族の令息と見ればベッタリと胸を押しつけてくる女が?勝手に愛称で呼んで、抱きつこうとする女が?自分で水を被って、誰だかの婚約者にやられた、と泣きつく女が?」
「それは……」
「エヴァンジェリンに向かって、婚約を破棄しろと噛みつく女が?挙句に、エヴァに苛められたと私にタックルかました女が?」
もちろん、レイモンドが止めた。少女だと油断していたとはいえ、一瞬ぐらついたくらいの勢いだった。
「お前の中の“いい子”とやらは、随分変わってるんだな」
「…………」
何も言えなくなって俯いたジェレミーを、クローディアスは憐れむように見た。
「甘えて欲しい……もしくは甘えたいんだったら、レイチェル嬢に言え。婚約者は大事にするものだ。あくまで政略なのだから」
「……いけませんか」
「ん?」
「自分で選んではいけませんか。レイチェルは、私が選んだ訳じゃない。恋人くらい、自分で選んではいけませんか⁉︎」
「別にいいぞ」
そう言って微笑んだクローディアスは、幼馴染に向けるいつもの笑みではなく、他人に向ける王太子の微笑みだった。
「きみが、ただの幼馴染に戻るだけだ」
レイモンドに、行くぞ、と声をかけて立ち上がり、クローディアスは表情を殺して歩き出した。
「……ジルには荷が重かったか」
「殿下」
「いつまでも候補のままだったからなー……焦ってたのかもな」
「殿下のせいではありません」
「私も側近としてなら、気に入ってたのはレイチェル嬢の方だし」
「……それは確かに?」
「あー、もう、本当に面倒くさい」
ルイズフェルドの婚約者であるヘンリエッタに登城するよう声をかけ、勝手に早退した弟の後始末をし、もちろん授業も受け、クローディアスは帰城した。
鞄を侍従に預けながら、部屋に向かって歩き出す。
「弟はどうした?」
「その……既にお部屋で寛いでおられます……」
クローディアスは、廊下にめり込みたくなった。
レンドール王国王太子、クローディアス・レンドール。ハチミツのような濃い金髪に、王家の瞳である紫眼の美男。
クローディアスの側近候補、ジェレミー・ドミナート侯爵令息。透けるような淡い金髪にペリドット・グリーンの瞳で、繊細な美青年。
王太子の専属護衛を兼ねる武官、レイモンド・ロー伯爵。黒髪黒眼に浅黒い肌の、鍛え上げた長身の美丈夫。彼だけは学生ではなく、10歳近く歳上で、既に爵位を継いでいる。
レンドール第3王子、ルイズフェルド・レンドール。色合いは兄と同じだが、全体的に淡い。王妃にそっくりの美少年。
ちなみに第2王子のクラウディオは、他国に留学中である。
「兄上が悪いんだ、あんな可愛い娘を退学させるなんて!」
「どこが」
「ピンクで!ふわふわして!明るい笑顔で!素直に笑って泣いて!可愛いじゃないか!!」
「アホか」
豪快に肉を片付けながら、クローディアスは、己の弟の妄言を切り捨てた。
「何でさ⁉︎」
「お前ね、今でさえ婚約者に頼ってる癖に、自力で立てない女なんて、丸抱え出来る訳ないだろうが」
「そこがいいんじゃないか!何でも頼ってくれてさ、ボクって出来る男って思わせてくれて」
「アホか」
「何だよっ!」
ちょうど食べ終わったクローディアスは、ジロリと目の前の弟を見据えた。
「で?頼られた分の仕事は?お前がやるのか?2人分?」
「……え」
「何にも出来なぁい、と頼ってる内容が、一生学園の課題なのだったら私だって別に止めない。だが、お前は2年後には学園は卒業するんだし、王子として人前に立つんだし、そのあとは臣籍降下するんだぞ」
「そんなの」
「今だってろくにない公務をサボっている癖に、いつまでヘンリエッタ嬢に頼るつもりだ」
「サボってなんか!」
「へぇ?じゃあ、お前に任せた使用人の休暇で揉めた件、ここできっちり説明してみろ」
意気込んだルイズフェルドは、クローディアスの言葉にモゴモゴと口ごもった。
「い、今は、……資料、資料がないから……」
「いい加減にしろよ」
クローディアスは弟の胸ぐらを掴み、ぐいと顔を近づけた。
「報復がスパイスクッキーで済んでるうちに改めんと、取り返しのつかないことになるぞ」
「兄上のバカぁ!そんなに言うなら、城なんか出てってやる!」
腕を振り払って逃げていったルイズフェルドを護衛に追いかけさせると、クローディアスは盛大に溜息を吐いた。
「あー……エヴァのクッキー食べたい……」
「殿下、よろしいのですか」
ジェレミーの言葉に、クローディアスは肩を竦めた。
「よろしくないが、面倒だ。護衛も付けたし、影も追わせたから充分だろ」
「しかし、ルイズフェルド殿下がお可哀想かと」
「……何?お前もピンク女が可愛いとか言い出す気か」
「いえ!……そうではありません、が。その……シャイルードル公爵令嬢への不敬など、口実にすらならないでしょう?学生の戯れで済むことではありませんか。それなのに、退学など……」
勢いよく言いかけたジェレミーは、クローディアスの冷たい視線に黙り込んだ。
「今のは聞かなかったことにしてやる。……ジェレミー、お前は少々、婚約者殿に鍛えてもらえ。人は、発した言葉がすべてじゃないんだぞ」
「そんなことは判ってますよ!ただ、マリナはいい子だったでしょう⁉︎」
「いい子、ねぇ……」
クローディアスは、呆れたようにジェレミーを見やった。
「婚約者がいようが関係なく、高位貴族の令息と見ればベッタリと胸を押しつけてくる女が?勝手に愛称で呼んで、抱きつこうとする女が?自分で水を被って、誰だかの婚約者にやられた、と泣きつく女が?」
「それは……」
「エヴァンジェリンに向かって、婚約を破棄しろと噛みつく女が?挙句に、エヴァに苛められたと私にタックルかました女が?」
もちろん、レイモンドが止めた。少女だと油断していたとはいえ、一瞬ぐらついたくらいの勢いだった。
「お前の中の“いい子”とやらは、随分変わってるんだな」
「…………」
何も言えなくなって俯いたジェレミーを、クローディアスは憐れむように見た。
「甘えて欲しい……もしくは甘えたいんだったら、レイチェル嬢に言え。婚約者は大事にするものだ。あくまで政略なのだから」
「……いけませんか」
「ん?」
「自分で選んではいけませんか。レイチェルは、私が選んだ訳じゃない。恋人くらい、自分で選んではいけませんか⁉︎」
「別にいいぞ」
そう言って微笑んだクローディアスは、幼馴染に向けるいつもの笑みではなく、他人に向ける王太子の微笑みだった。
「きみが、ただの幼馴染に戻るだけだ」
レイモンドに、行くぞ、と声をかけて立ち上がり、クローディアスは表情を殺して歩き出した。
「……ジルには荷が重かったか」
「殿下」
「いつまでも候補のままだったからなー……焦ってたのかもな」
「殿下のせいではありません」
「私も側近としてなら、気に入ってたのはレイチェル嬢の方だし」
「……それは確かに?」
「あー、もう、本当に面倒くさい」
ルイズフェルドの婚約者であるヘンリエッタに登城するよう声をかけ、勝手に早退した弟の後始末をし、もちろん授業も受け、クローディアスは帰城した。
鞄を侍従に預けながら、部屋に向かって歩き出す。
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