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男が信用する相手と女が付き合いたい相手
「わたくし……男運がないのかしら……」
がっくりと項垂れるレイチェルに、エヴァンジェリンは苦笑を浮かべた。
婚約者がいなくなったレイチェルの、お見合い大作戦が始まったのである。
「あの人たちは、紹介したレイモンド卿が悪いと思いますわ」
「でも……信用出来るいい人だ、って……」
「仕事が出来ればいい人だ、ということにはならないでしょう」
「そうかもしれないけど……」
落ち込んでいるレイチェルに、エヴァンジェリンはたっぷりとハチミツを入れたアップルティーを勧めた。
「とにかく、お茶でも飲んで落ち着きなさいな。美味しいアップルティーを見つけましたの」
「うん……」
のろのろと手を伸ばすレイチェルに、エヴァンジェリンは遠い目をした。
「いくら何でも……あれは……」
▼△▼△
1人目は、デート場所に辿り着かなかった。
その日、レイチェルはいつもより少し可愛らしいデザインのドレスを着て、待ち合わせ場所に佇んでいた。
どんな人が来るのか、と少しワクワクしていたが、やって来たのは自慢げな顔をした従者だった。
「旦那さまから、荷物が重くて困っているお婆さんを見つけたので、手伝う』との伝言を頼まれました」
うちの旦那さまはお優しいでしょう!とでも言いたげな従者に、レイチェルは言いたいことはあった。
だが、まだ会ってもいない人の文句を、伝言して来た従者に言っても仕方ないと思い直し、判りましたと頷いた。
30分程時間を潰していると、同じ従者が戻って来た。
「旦那さまは、『荷物を運んだ家で急病人が出たので手伝う』との伝言です。女手しかないお家だったので、お困りだろうということで。待たせたままなのもあんまりだから、先にカフェに入ったらどうでしょうか」
これは、従者の独断なのかしら。それとも、見合い相手がそもそも失礼なのかしら。
どこかドヤ顔の従者に仕方なく頷き、レイチェルは暇潰しの本や手芸道具をお付きの侍女に買いに行かせ、護衛と一緒にカフェに向かった。
良家の令嬢が1人でカフェになど入れないので、侍女が戻って来るまで待ってから、同じテーブルに座った。もちろん、護衛も一緒だ。
時間を潰していると、同じ従者がまたしても伝言を携え戻って来た。
今度はさすがに気まずげな表情をしていた。
「あの……お手伝いしたお家で夕食にお呼ばれしたので、今日はお目にかかれないと……」
「……そう」
呆れたレイチェルは、もう何も言わずに立ち上がり、待っていた2時間あまりの間に広げた本や刺繍を片付け、侍女に支払いを頼む。
その間、従者が何か言いたげにしているのは判っていたが、あえて無視した。
「では、ご縁がなかったと……」
「お待ちください!」
必死に、従者はレイチェルを引き留めた。何しろ、レイチェルはこれ以上ない程の相手である。
貴族籍はあっても継ぐ家のない次男以下には、喉から手が出る程欲しい良縁なのだ。
「あの!旦那さまは、お優しい、良い方なのです!困っている人を放って置けない、自慢の主人なのです!ですからっ……!」
「……お会いしていないので判りません」
にっこりと感情を交えずに笑うと、レイチェルはその場を後にした。
ちなみに、そのお優しい旦那さまは、その日のうちに助けたお婆さんの娘さん……自分より14歳も歳上の女性と婚約したそうだ。
離婚して寂しいと泣いて縋られ、お優しい旦那さまは、張り切ってお慰めしたのだとか。
▼△▼△
「次の方は……愛人が4人でした?」
「誠実ゆえに断れず、6人に増えたそうよ。ちなみに愛人などではなく、誠意を持って付き合っている恋人だから、バカにするな!だって」
「誠実って何かしら……」
「この前の人は誠実なんじゃない。『貴様を愛するつもりはない!家を継ぐための道具だ!』って、会うなり宣言する程、真面目にお付き合いしている恋人がいるんだって」
投げやりに言ったレイチェルに、エヴァンジェリンは溜息をついた。
「その短い台詞だけでも、言いたいことは山とありますわね……」
そもそも強要してないんだから、愛する人がいるのに見合いをするな、とか。
家を継ぐのはレイチェルなのだから、アンタには何の関係もない、とか。
女を道具扱いする男の何処が優しいのか、とか。
「やっぱりわたくしのせい?このキツい顔がダメなのかしら⁉︎性格が悪いのが顔に出てるとか⁉︎それとも、レイモンド卿は、わたくしなんかに相応しいのはコレくらいだろ、って思ってる⁉︎」
「最後の説を推したいですわね」
「……え。わたくし、レイモンド卿に嫌われてるの⁉︎」
「いえ、レイモンド卿の、見る目の話ですわよ」
「見る目」
「おそらく3人とも、真面目に仕事をするいい人なのでしょう。困っている人を放って置けないのは騎士として当然でしょうし、頼まれたら引き受けるのもそうでしょう。人と真摯に向き合う、というのも。ただ……」
「あー……男女でズレてるのね……」
「ええ、これ以上ない程に」
「そりゃレイモンド卿は、お付き合いする訳じゃないもんね……」
「そういうことです。……わたくしが紹介しましょうか?」
「うん……もー誰でもいい……」
「よしよし」
テーブルに突っ伏したレイチェルを、エヴァンジェリンは優しく撫でた。
がっくりと項垂れるレイチェルに、エヴァンジェリンは苦笑を浮かべた。
婚約者がいなくなったレイチェルの、お見合い大作戦が始まったのである。
「あの人たちは、紹介したレイモンド卿が悪いと思いますわ」
「でも……信用出来るいい人だ、って……」
「仕事が出来ればいい人だ、ということにはならないでしょう」
「そうかもしれないけど……」
落ち込んでいるレイチェルに、エヴァンジェリンはたっぷりとハチミツを入れたアップルティーを勧めた。
「とにかく、お茶でも飲んで落ち着きなさいな。美味しいアップルティーを見つけましたの」
「うん……」
のろのろと手を伸ばすレイチェルに、エヴァンジェリンは遠い目をした。
「いくら何でも……あれは……」
▼△▼△
1人目は、デート場所に辿り着かなかった。
その日、レイチェルはいつもより少し可愛らしいデザインのドレスを着て、待ち合わせ場所に佇んでいた。
どんな人が来るのか、と少しワクワクしていたが、やって来たのは自慢げな顔をした従者だった。
「旦那さまから、荷物が重くて困っているお婆さんを見つけたので、手伝う』との伝言を頼まれました」
うちの旦那さまはお優しいでしょう!とでも言いたげな従者に、レイチェルは言いたいことはあった。
だが、まだ会ってもいない人の文句を、伝言して来た従者に言っても仕方ないと思い直し、判りましたと頷いた。
30分程時間を潰していると、同じ従者が戻って来た。
「旦那さまは、『荷物を運んだ家で急病人が出たので手伝う』との伝言です。女手しかないお家だったので、お困りだろうということで。待たせたままなのもあんまりだから、先にカフェに入ったらどうでしょうか」
これは、従者の独断なのかしら。それとも、見合い相手がそもそも失礼なのかしら。
どこかドヤ顔の従者に仕方なく頷き、レイチェルは暇潰しの本や手芸道具をお付きの侍女に買いに行かせ、護衛と一緒にカフェに向かった。
良家の令嬢が1人でカフェになど入れないので、侍女が戻って来るまで待ってから、同じテーブルに座った。もちろん、護衛も一緒だ。
時間を潰していると、同じ従者がまたしても伝言を携え戻って来た。
今度はさすがに気まずげな表情をしていた。
「あの……お手伝いしたお家で夕食にお呼ばれしたので、今日はお目にかかれないと……」
「……そう」
呆れたレイチェルは、もう何も言わずに立ち上がり、待っていた2時間あまりの間に広げた本や刺繍を片付け、侍女に支払いを頼む。
その間、従者が何か言いたげにしているのは判っていたが、あえて無視した。
「では、ご縁がなかったと……」
「お待ちください!」
必死に、従者はレイチェルを引き留めた。何しろ、レイチェルはこれ以上ない程の相手である。
貴族籍はあっても継ぐ家のない次男以下には、喉から手が出る程欲しい良縁なのだ。
「あの!旦那さまは、お優しい、良い方なのです!困っている人を放って置けない、自慢の主人なのです!ですからっ……!」
「……お会いしていないので判りません」
にっこりと感情を交えずに笑うと、レイチェルはその場を後にした。
ちなみに、そのお優しい旦那さまは、その日のうちに助けたお婆さんの娘さん……自分より14歳も歳上の女性と婚約したそうだ。
離婚して寂しいと泣いて縋られ、お優しい旦那さまは、張り切ってお慰めしたのだとか。
▼△▼△
「次の方は……愛人が4人でした?」
「誠実ゆえに断れず、6人に増えたそうよ。ちなみに愛人などではなく、誠意を持って付き合っている恋人だから、バカにするな!だって」
「誠実って何かしら……」
「この前の人は誠実なんじゃない。『貴様を愛するつもりはない!家を継ぐための道具だ!』って、会うなり宣言する程、真面目にお付き合いしている恋人がいるんだって」
投げやりに言ったレイチェルに、エヴァンジェリンは溜息をついた。
「その短い台詞だけでも、言いたいことは山とありますわね……」
そもそも強要してないんだから、愛する人がいるのに見合いをするな、とか。
家を継ぐのはレイチェルなのだから、アンタには何の関係もない、とか。
女を道具扱いする男の何処が優しいのか、とか。
「やっぱりわたくしのせい?このキツい顔がダメなのかしら⁉︎性格が悪いのが顔に出てるとか⁉︎それとも、レイモンド卿は、わたくしなんかに相応しいのはコレくらいだろ、って思ってる⁉︎」
「最後の説を推したいですわね」
「……え。わたくし、レイモンド卿に嫌われてるの⁉︎」
「いえ、レイモンド卿の、見る目の話ですわよ」
「見る目」
「おそらく3人とも、真面目に仕事をするいい人なのでしょう。困っている人を放って置けないのは騎士として当然でしょうし、頼まれたら引き受けるのもそうでしょう。人と真摯に向き合う、というのも。ただ……」
「あー……男女でズレてるのね……」
「ええ、これ以上ない程に」
「そりゃレイモンド卿は、お付き合いする訳じゃないもんね……」
「そういうことです。……わたくしが紹介しましょうか?」
「うん……もー誰でもいい……」
「よしよし」
テーブルに突っ伏したレイチェルを、エヴァンジェリンは優しく撫でた。
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