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エヴァンジェリンの暗躍
「どうしてこうなった……」
紹介した3人が全員やらかしたことで、レイモンドは落ち込んでいた。
「大変申し訳ございません……」
「いえ、わたくしに謝られても」
「あー、今ソイツ、誰彼構わず謝ってるんだ」
「……変わった落ち込み方ですのね」
頭にハテナは浮かんだが、エヴァンジェリンは賢明にも口を噤んだ。
「で、レイチェル嬢のお相手だが」
どうする?と訊かれて、エヴァンジェリンは微笑んだ。
「いざとなったら、うちの騎士団からでも紹介致しますが……大丈夫だと思いますわ」
「何故?」
「チェリーを好きな人がいますもの」
「……は?誰⁉︎」
「ふふ、さあ?」
「教えてくれないのか?」
「あら、観察が足りませんわ」
クローディアスとレイモンドは、顔を見合わせた。
「判るか?」
「いいえ」
「まあ、殿方にはあまり興味のない話題ですわね」
澄ました顔でお茶を飲むエヴァンジェリンに、クローディアスはおねだりした。
「教えて?」
背を丸めて上目遣いをし、エヴァンジェリンの片手を両手で握り込む。
あからさまなポーズに、エヴァンジェリンは珍しく吹き出した。
「そうですね……自分から動かないと、機会がなくなるかもしれませんわね」
ここに呼ぶように告げた名前に、クローディアスとレイモンドはかなり驚いた。
▼△▼△
第4騎士団団長ラスター・ヴィッテルは、いきなりの呼び出しに緊張しながら、王太子殿下の執務室の扉をノックした。
入れ、の声とともに入室し、ぴたりと礼をとる。
「第4騎士団団長ラスター・ヴィッテル、お呼びにより参上致しました」
「ご苦労。……楽にしてくれ」
「は」
顔を上げ、そこに王太子殿下の婚約者がいることに少し驚く。
「用があるのは、わたくしですの。いきなり申し訳ございません」
「いえ……」
にっこりと笑みを浮かべている少女に困惑し、ラスターがクローディアスの方を見る。
「ラスター卿。一言だけ申し上げます。レイチェル・ペリアール侯爵令嬢の婚約が、破棄されました」
「え⁉︎」
ぐりん、とものすごい速さでエヴァンジェリンに視線を向け、そのままでは掴みかかりそうな勢いに、思わずレイモンドが反応する。
カッ!と鋭く鳴らされた靴音に、ラスターはびくりと動きを止めた。
「失礼しました!……それは、本当ですか、シャイルードル公爵令嬢」
「こんな場所で嘘はつきませんわ、ラスター卿」
エヴァンジェリンの言葉に、ラスターは無骨な顔をみるみる真っ赤に染め、大声で奏上した。
「御前を失礼致してよろしいでしょうか!」
「……ああ。構わない」
「では!」
ラスターは踵を返すと、風のように去っていった。
「…………」
「…………」
「上手くいくといいですわね」
「……って、ええー⁉︎」
思わず大声を出したクローディアスに、エヴァンジェリンがクスクスと笑う。
「だってあれは!あいつは亡くなった奥方を一途に思ってるんじゃなかったのか⁉︎」
「そんな噂でしたね」
「再婚の話にも絶対頷かなくて!」
「そのようですね」
「しかも30超えてるだろ!」
「確か、32歳でしたかしら」
「離れ過ぎてない⁉︎」
「嫌なら断りますわ、チェリーが」
「そ……れは、そうかもしれないが」
大きく息を吐き出して感情を静めたクローディアスは、エヴァンジェリンを見やった。
「いつから知ってたんだ?」
「7年前から」
「……は?」
7年前って、まだ10歳だよな、君たち。
という疑問を込めて凝視すると、エヴァンジェリンは苦笑を浮かべた。
「7年前、ラスター卿にとっては奥さまが亡くなって3年経ったあと……まだお辛かったのでしょうね、人目を避けて、泣いていらしたの」
「その頃は……ヴィッテルは、もう笑うようになっていたかと……」
おずおずと口を挟んだレイモンドに、エヴァンジェリンはかすかに首を振った。
「いつまでも泣き暮らすことを、周りは心配するでしょう?それはもちろん、善意なのでしょうけれど……だからこそ、辛いとは言えなかったのでしょうね」
大きな身体を丸めて、顔を覆って。声を殺して、泣いていた。
「わたくしは、見てはいけないと思ったのですが……チェリーは近寄って、頭を抱きしめて、よしよし、と撫でましたの」
「……は」
「騎士とは、強くあることを望まれる存在ですから……誰にも弱さを見せることが出来ず、強くあろうとしていたのでしょう。チェリーに縋って、それはもう号泣してらして」
「10歳の子どもに……?」
「その時は、いくら何でもそういう感情があった訳ではないと思いますが。そのあとから、時々チェリーを見ている視線を感じまして」
レイチェルが成長するたびに、その視線は熱を持って。最近はもう、恋焦がれていた。
「チェリーは婿取りですもの。一度ケチがついた以上、歳上だろうと、再婚だろうと、構いませんでしょう?」
嬉しそうに笑ったエヴァンジェリンに、クローディアスも微笑んだ。
「ああ、そうだな。……ラスターは確かに、歳上で、背は高い方で、筋肉で、優しくて、誠実で、浮気しない人で、ムキムキで、裏切らない人だ」
紹介した3人が全員やらかしたことで、レイモンドは落ち込んでいた。
「大変申し訳ございません……」
「いえ、わたくしに謝られても」
「あー、今ソイツ、誰彼構わず謝ってるんだ」
「……変わった落ち込み方ですのね」
頭にハテナは浮かんだが、エヴァンジェリンは賢明にも口を噤んだ。
「で、レイチェル嬢のお相手だが」
どうする?と訊かれて、エヴァンジェリンは微笑んだ。
「いざとなったら、うちの騎士団からでも紹介致しますが……大丈夫だと思いますわ」
「何故?」
「チェリーを好きな人がいますもの」
「……は?誰⁉︎」
「ふふ、さあ?」
「教えてくれないのか?」
「あら、観察が足りませんわ」
クローディアスとレイモンドは、顔を見合わせた。
「判るか?」
「いいえ」
「まあ、殿方にはあまり興味のない話題ですわね」
澄ました顔でお茶を飲むエヴァンジェリンに、クローディアスはおねだりした。
「教えて?」
背を丸めて上目遣いをし、エヴァンジェリンの片手を両手で握り込む。
あからさまなポーズに、エヴァンジェリンは珍しく吹き出した。
「そうですね……自分から動かないと、機会がなくなるかもしれませんわね」
ここに呼ぶように告げた名前に、クローディアスとレイモンドはかなり驚いた。
▼△▼△
第4騎士団団長ラスター・ヴィッテルは、いきなりの呼び出しに緊張しながら、王太子殿下の執務室の扉をノックした。
入れ、の声とともに入室し、ぴたりと礼をとる。
「第4騎士団団長ラスター・ヴィッテル、お呼びにより参上致しました」
「ご苦労。……楽にしてくれ」
「は」
顔を上げ、そこに王太子殿下の婚約者がいることに少し驚く。
「用があるのは、わたくしですの。いきなり申し訳ございません」
「いえ……」
にっこりと笑みを浮かべている少女に困惑し、ラスターがクローディアスの方を見る。
「ラスター卿。一言だけ申し上げます。レイチェル・ペリアール侯爵令嬢の婚約が、破棄されました」
「え⁉︎」
ぐりん、とものすごい速さでエヴァンジェリンに視線を向け、そのままでは掴みかかりそうな勢いに、思わずレイモンドが反応する。
カッ!と鋭く鳴らされた靴音に、ラスターはびくりと動きを止めた。
「失礼しました!……それは、本当ですか、シャイルードル公爵令嬢」
「こんな場所で嘘はつきませんわ、ラスター卿」
エヴァンジェリンの言葉に、ラスターは無骨な顔をみるみる真っ赤に染め、大声で奏上した。
「御前を失礼致してよろしいでしょうか!」
「……ああ。構わない」
「では!」
ラスターは踵を返すと、風のように去っていった。
「…………」
「…………」
「上手くいくといいですわね」
「……って、ええー⁉︎」
思わず大声を出したクローディアスに、エヴァンジェリンがクスクスと笑う。
「だってあれは!あいつは亡くなった奥方を一途に思ってるんじゃなかったのか⁉︎」
「そんな噂でしたね」
「再婚の話にも絶対頷かなくて!」
「そのようですね」
「しかも30超えてるだろ!」
「確か、32歳でしたかしら」
「離れ過ぎてない⁉︎」
「嫌なら断りますわ、チェリーが」
「そ……れは、そうかもしれないが」
大きく息を吐き出して感情を静めたクローディアスは、エヴァンジェリンを見やった。
「いつから知ってたんだ?」
「7年前から」
「……は?」
7年前って、まだ10歳だよな、君たち。
という疑問を込めて凝視すると、エヴァンジェリンは苦笑を浮かべた。
「7年前、ラスター卿にとっては奥さまが亡くなって3年経ったあと……まだお辛かったのでしょうね、人目を避けて、泣いていらしたの」
「その頃は……ヴィッテルは、もう笑うようになっていたかと……」
おずおずと口を挟んだレイモンドに、エヴァンジェリンはかすかに首を振った。
「いつまでも泣き暮らすことを、周りは心配するでしょう?それはもちろん、善意なのでしょうけれど……だからこそ、辛いとは言えなかったのでしょうね」
大きな身体を丸めて、顔を覆って。声を殺して、泣いていた。
「わたくしは、見てはいけないと思ったのですが……チェリーは近寄って、頭を抱きしめて、よしよし、と撫でましたの」
「……は」
「騎士とは、強くあることを望まれる存在ですから……誰にも弱さを見せることが出来ず、強くあろうとしていたのでしょう。チェリーに縋って、それはもう号泣してらして」
「10歳の子どもに……?」
「その時は、いくら何でもそういう感情があった訳ではないと思いますが。そのあとから、時々チェリーを見ている視線を感じまして」
レイチェルが成長するたびに、その視線は熱を持って。最近はもう、恋焦がれていた。
「チェリーは婿取りですもの。一度ケチがついた以上、歳上だろうと、再婚だろうと、構いませんでしょう?」
嬉しそうに笑ったエヴァンジェリンに、クローディアスも微笑んだ。
「ああ、そうだな。……ラスターは確かに、歳上で、背は高い方で、筋肉で、優しくて、誠実で、浮気しない人で、ムキムキで、裏切らない人だ」
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