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なべて世はこともなし
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「平和ですわねー」
遠くで真っ赤になって男を怒鳴りつけるレイチェルを眺めながら、エヴァンジェリンがお気に入りのミルフィーユを切り分ける。
「そうだねー」
手を握られて、怒っているのに振り解こうとしないレイチェルを見つめながら、ヘンリエッタが色とりどりのフルーツが乗った美しいタルトを口にする。
「もー、焦れったいったら!とっとと抱きしめなさいよー」
握られた手にキスをされ、ようやく手を振り解いたレイチェルがこちらに駆けてくるのを見ながら、パトリシアはクリームたっぷりのショートケーキを頬張った。
「な、何でお茶してるのよ!どうして助けてくれないの!」
はあはあ息を切らしながら抗議したレイチェルに、3人は揃って溜息を吐いて見せた。
「本気で嫌がっているならもちろん助けますけれど。……意地を張るのはいい加減になさいな」
「意地なんて!」
「だったら、とっととプロポーズ受けたらいいじゃない」
エヴァンジェリンとパトリシアに嗜められ、レイチェルは真顔になって席に着いた。
「ねぇ……あの方、本気だと思う?」
「もちろん、そうでしょうよ」
「でなければ、15歳も歳下の女性にプロポーズはなさらないでしょうね」
「本当に……信じていいのかしら……」
どこかしょんぼりと俯いたレイチェルにアップルパイを勧めながら、エヴァンジェリンはわざと突き放した。
「嫌ならお断りすればいいでしょう?何も、王宮の皆さまに娯楽をお届けしなくても」
「そんなことしてない!!」
「してるって。今1番話題沸騰してるカップルだよ?」
真っ赤になって絶句したレイチェルに、ヘンリエッタは首を傾げた。
「何が嫌なんだ?チェリーの理想通りじゃないか?」
「……だって」
「奥さまのことなら、もう10年前ですから吹っ切れていらっしゃるようですし、そもそも奥さまとあなたは違うでしょう?」
「……そうじゃなくて。……あのね……」
「はい」
レイチェルは俯いたまま、ボソボソと話し始めた。
「いい加減、再婚するように、って、たくさん釣り書きが来てるらしいの」
「それは、そうでしょうね」
「だから……とりあえずわたくしと婚約すれば、そのお話はなくなる訳じゃない?それで……女避けにしたいのかなって」
「穿ち過ぎにも程があるわー!!」
うがー!と立ち上がったパトリシアに、レイチェルがだって!と対抗する。
いつもの光景を見ながら、エヴァンジェリンとヘンリエッタはほっこりとお茶を飲んだ。
「……で?エヴァの仕込みだよね?」
「判るってことは、あなたもあの視線に気づいてましたのね」
「そりゃ、まあ……結構露骨だったよね」
「ええ。……ですが、わたくしは婚約の破棄を教えただけですわよ」
「じゃあやっぱり、本気だろうなぁ」
「あの視線に気づかないのですから、パットもまだまだですわ」
「お子ちゃまだから」
「レイモンド卿の趣味かしら」
「いやー!ロリコン?」
「ちょっと!何の話してるのよ!」
パトリシアに止められ、2人は吹き出した。
「あー、はいはい、ロリコンじゃない、ロリコンじゃない」
「レイはねー!!」
「あー、はいはい」
「ねえ!ラスターさまの話は⁉︎」
「それはこちらが聞きたいですわね」
「そうよ!受けるの?受けないの?」
「だっ、だから、それは……!」
真っ赤になってしどろもどろのレイチェルに、3人はによによとお茶を飲んだ。
▼△▼△
大きな姿の隣に、頭1つ分小さな姿が寄り添うようになった頃、レイチェルの婚約が整った。
「これで、丸く収まりましたかしら」
「そうだね。……お疲れさま、エヴァ」
「あら、わたくしは何もしておりませんわ」
キョトンと首を傾げたエヴァンジェリンに、クローディアスは苦笑を浮かべた。
「いや、きみが終始冷静だったおかげだろう。そうじゃなかったら、と思うとゾッとする……あのピンク女とか」
「まあ。ピンクさんとバトルでもした方が良かったです?」
「やめてくれ……」
クスクス笑いながらクッキーを勧められ、クローディアスはありがたく口にした。
「ルイも何とかなったし」
「それはアンリのおかげでしょう」
「……きみの側近は優秀で羨ましいよ」
少しばかりの嫌味を込めて溜息を吐くと、エヴァンジェリンの様子が一変した。
「クロードさま。勘違いなさらないで。わたくしのお友達は、あなたの側近の婚約者、ですのよ。幼馴染であるとは言っても、わたくしが選んだ訳ではありません」
幼い頃。クローディアスの側近と婚約者が決められた際、その側近たちの婚約者も決められた。
だからこそ、ずっと一緒にいるのだ。
「……もしかしなくても、私が失敗したのか」
側近の能力を伸ばすことが出来なかった。ましてや、脱落者を出してしまった。
それなのに、エヴァンジェリンは……。
「クロードさまの失敗は、損切りが出来なかったことです。決められたのは幼い時ですもの、見込み違いもあるでしょう。足りない、と思った時点で、切るべきでした」
「あ……」
そうか。無駄に引き止めなくてよかったのか。ずっと、足りないと思っていた。ジェレミーには、荷が重いと。
そうか。私が無理に面倒を見る必要などなかったのか。
「そうしていたら、レイチェルだって、好きでもない婚約者にずっと縛られずに済んだのですよ?」
「……そうか。それも私のせいか……」
「学生時代でよかったではありませんか。まだ、子どもの間違いで済みます。……歴史には残りませんわ」
2度と繰り返さないように、なんて、後世の王族に学ばれなくて済む。
そう言って笑ったエヴァンジェリンの動じない様子に、クローディアスは不穏なものを感じた。
「エヴァ……忠告を、止めてた?」
「止めたのはわたくしではありません。陛下と宰相ですわ」
「あああ」
がっくりと項垂れたクローディアスに、エヴァンジェリンは手を伸ばした。
「今回は、何もなかったのですわ。丸く収まったのですから」
問題は起こらなかった。1人、犠牲?は出たが。
サラサラと頭を撫でられて、クローディアスは猫のように目を細めた。
「この手を失うところだった訳か。あー怖い」
クローディアスは立ち上がって、ひょいとエヴァンジェリンを抱き上げ、膝の上に座らせた。
「まあ、甘えん坊さんですわね」
「ちょっとだけ」
ギュッと抱きしめてその香りを堪能したところで。
いきなりドアがバタンと開いた。いやもちろん、締め切っていた訳ではないのだが。
「殿下、お時間です」
「何できみが呼びに来るんだ、ヴィッテル騎士団長!」
「レイチェルの婚約者ですから!」
「あーもう!……じゃあ行って来る」
「いってらっしゃいませ」
膝から下ろされたエヴァンジェリンは、微笑んで可愛いらしく手を振ったのだった。
遠くで真っ赤になって男を怒鳴りつけるレイチェルを眺めながら、エヴァンジェリンがお気に入りのミルフィーユを切り分ける。
「そうだねー」
手を握られて、怒っているのに振り解こうとしないレイチェルを見つめながら、ヘンリエッタが色とりどりのフルーツが乗った美しいタルトを口にする。
「もー、焦れったいったら!とっとと抱きしめなさいよー」
握られた手にキスをされ、ようやく手を振り解いたレイチェルがこちらに駆けてくるのを見ながら、パトリシアはクリームたっぷりのショートケーキを頬張った。
「な、何でお茶してるのよ!どうして助けてくれないの!」
はあはあ息を切らしながら抗議したレイチェルに、3人は揃って溜息を吐いて見せた。
「本気で嫌がっているならもちろん助けますけれど。……意地を張るのはいい加減になさいな」
「意地なんて!」
「だったら、とっととプロポーズ受けたらいいじゃない」
エヴァンジェリンとパトリシアに嗜められ、レイチェルは真顔になって席に着いた。
「ねぇ……あの方、本気だと思う?」
「もちろん、そうでしょうよ」
「でなければ、15歳も歳下の女性にプロポーズはなさらないでしょうね」
「本当に……信じていいのかしら……」
どこかしょんぼりと俯いたレイチェルにアップルパイを勧めながら、エヴァンジェリンはわざと突き放した。
「嫌ならお断りすればいいでしょう?何も、王宮の皆さまに娯楽をお届けしなくても」
「そんなことしてない!!」
「してるって。今1番話題沸騰してるカップルだよ?」
真っ赤になって絶句したレイチェルに、ヘンリエッタは首を傾げた。
「何が嫌なんだ?チェリーの理想通りじゃないか?」
「……だって」
「奥さまのことなら、もう10年前ですから吹っ切れていらっしゃるようですし、そもそも奥さまとあなたは違うでしょう?」
「……そうじゃなくて。……あのね……」
「はい」
レイチェルは俯いたまま、ボソボソと話し始めた。
「いい加減、再婚するように、って、たくさん釣り書きが来てるらしいの」
「それは、そうでしょうね」
「だから……とりあえずわたくしと婚約すれば、そのお話はなくなる訳じゃない?それで……女避けにしたいのかなって」
「穿ち過ぎにも程があるわー!!」
うがー!と立ち上がったパトリシアに、レイチェルがだって!と対抗する。
いつもの光景を見ながら、エヴァンジェリンとヘンリエッタはほっこりとお茶を飲んだ。
「……で?エヴァの仕込みだよね?」
「判るってことは、あなたもあの視線に気づいてましたのね」
「そりゃ、まあ……結構露骨だったよね」
「ええ。……ですが、わたくしは婚約の破棄を教えただけですわよ」
「じゃあやっぱり、本気だろうなぁ」
「あの視線に気づかないのですから、パットもまだまだですわ」
「お子ちゃまだから」
「レイモンド卿の趣味かしら」
「いやー!ロリコン?」
「ちょっと!何の話してるのよ!」
パトリシアに止められ、2人は吹き出した。
「あー、はいはい、ロリコンじゃない、ロリコンじゃない」
「レイはねー!!」
「あー、はいはい」
「ねえ!ラスターさまの話は⁉︎」
「それはこちらが聞きたいですわね」
「そうよ!受けるの?受けないの?」
「だっ、だから、それは……!」
真っ赤になってしどろもどろのレイチェルに、3人はによによとお茶を飲んだ。
▼△▼△
大きな姿の隣に、頭1つ分小さな姿が寄り添うようになった頃、レイチェルの婚約が整った。
「これで、丸く収まりましたかしら」
「そうだね。……お疲れさま、エヴァ」
「あら、わたくしは何もしておりませんわ」
キョトンと首を傾げたエヴァンジェリンに、クローディアスは苦笑を浮かべた。
「いや、きみが終始冷静だったおかげだろう。そうじゃなかったら、と思うとゾッとする……あのピンク女とか」
「まあ。ピンクさんとバトルでもした方が良かったです?」
「やめてくれ……」
クスクス笑いながらクッキーを勧められ、クローディアスはありがたく口にした。
「ルイも何とかなったし」
「それはアンリのおかげでしょう」
「……きみの側近は優秀で羨ましいよ」
少しばかりの嫌味を込めて溜息を吐くと、エヴァンジェリンの様子が一変した。
「クロードさま。勘違いなさらないで。わたくしのお友達は、あなたの側近の婚約者、ですのよ。幼馴染であるとは言っても、わたくしが選んだ訳ではありません」
幼い頃。クローディアスの側近と婚約者が決められた際、その側近たちの婚約者も決められた。
だからこそ、ずっと一緒にいるのだ。
「……もしかしなくても、私が失敗したのか」
側近の能力を伸ばすことが出来なかった。ましてや、脱落者を出してしまった。
それなのに、エヴァンジェリンは……。
「クロードさまの失敗は、損切りが出来なかったことです。決められたのは幼い時ですもの、見込み違いもあるでしょう。足りない、と思った時点で、切るべきでした」
「あ……」
そうか。無駄に引き止めなくてよかったのか。ずっと、足りないと思っていた。ジェレミーには、荷が重いと。
そうか。私が無理に面倒を見る必要などなかったのか。
「そうしていたら、レイチェルだって、好きでもない婚約者にずっと縛られずに済んだのですよ?」
「……そうか。それも私のせいか……」
「学生時代でよかったではありませんか。まだ、子どもの間違いで済みます。……歴史には残りませんわ」
2度と繰り返さないように、なんて、後世の王族に学ばれなくて済む。
そう言って笑ったエヴァンジェリンの動じない様子に、クローディアスは不穏なものを感じた。
「エヴァ……忠告を、止めてた?」
「止めたのはわたくしではありません。陛下と宰相ですわ」
「あああ」
がっくりと項垂れたクローディアスに、エヴァンジェリンは手を伸ばした。
「今回は、何もなかったのですわ。丸く収まったのですから」
問題は起こらなかった。1人、犠牲?は出たが。
サラサラと頭を撫でられて、クローディアスは猫のように目を細めた。
「この手を失うところだった訳か。あー怖い」
クローディアスは立ち上がって、ひょいとエヴァンジェリンを抱き上げ、膝の上に座らせた。
「まあ、甘えん坊さんですわね」
「ちょっとだけ」
ギュッと抱きしめてその香りを堪能したところで。
いきなりドアがバタンと開いた。いやもちろん、締め切っていた訳ではないのだが。
「殿下、お時間です」
「何できみが呼びに来るんだ、ヴィッテル騎士団長!」
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