死にたい公爵令嬢と死なせたくない王弟様

天音 翔

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私の生きた意味

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 ここは、由緒正しいナーリス国立学園卒業式の執り行われている王宮である。 

そこで、通常なら卒業生を送り出すはずの一年生の生徒が王宮のど真ん中で、問題行動を起こしていた……

「公爵令嬢ティクル・ムーンライト!!
極悪非道な性格のお前との婚約は、破棄させてもらう!!!」

 「!!ど、どうしてですの!
私はなにも、バルカ様に迷惑をかけないよう、いつもいつも気をつけていましたわ!!
だ、だから、、、

 「私はお前の言い訳など、聞く気などない!
 全てここにいる、伯爵令嬢サーシャ・アターホの言っていることが事実なのだ!」

そう言って、公爵令息バルカ・クリーズは伯爵令嬢サーシャがまるで婚約者のように抱き寄せながら言葉を続ける…

「お前は日々、宝石やドレスに散財を繰り返し、公爵家に自ら仕えてくれている使用人達に暴言や暴力を振るい、その上厳正なるこの学園で自分より身分の低い伯爵令嬢のサーシャに陰湿な虐めを繰り返し、一ヶ月前にはサーシャ学園のベランダから突き落とすなど、その行為は決して見逃せるものではない!!!
そんなお前が婚約者など、クリーズ公爵家の恥でしかない!!!」
 
 「そうですわっ……!!私は、私は、……」
 そのサーシャと呼ばれた伯爵令嬢は、目に大粒の涙をためており、見る人々が庇護欲を煽られてしまうとても儚げな少女だった。

 「サーシャ……無理に言おうとしなくていい……
君は辛い思いをしたんだ……でも、あの極悪非道なあいつに罪を償わせるためにも、何があったかここにいる皆に伝えてくれないだろうか……」
 バルカは、震えるサーシャの背中を優しく撫でながら真相を伝えて欲しいと言っていた。

 「……は、はい……。
 わ、私は人生をかけて入学の試験を受けさせて頂きましたわ。そして、努力が結び平民として初めて特待生として合格させて頂きましたの……

そのおかげで、家族のいなかった私に優しいお父様とお母様が出来ましたの!」
その笑顔は、とても儚げでありながら心の底からの喜びをあらわしていた。

 「その頃から、ティクル様からの陰湿な虐めが始まりましたの……
 初めはとても些細なことでしたわ……私の勉強道具がなくなったり、壊されていたり……でも次第に紅茶をかけられたり、ペンのインクをかけられたりされるようになったのですわ……挙句の果てに亡きお母様とお父様の形見まで……

私は何度も、ティクル様へやめてくださいと、謝罪をしてくださいと、何度も何度も申しましたわ!!
それなのにティクル様は、私は何も知らない。何もしていないわ。その二言の一点張りで……

私は恐ろしくなり、ティクル様の婚約者であるバルカ様へ相談したんですの。」
サーシャは、身体を微かに震わせながら言葉を何とか続けて、耐えられなくなったのかバルカに倒れるようによりかかっていた。

 「そ、そんな!!私は公爵令嬢として恥すべきことはしていませんわ!!
それに、バルカ様のお隣にいらっしゃるご令嬢は、今初めてお顔を拝見しましたし……本当になにも知りませんわ!」

 周りから見ても、ティクルが嘘をついているようには見えなかった。だか、ティクルが無実だと証言してくれる人物は誰一人として現れることは無かった。

 幼い頃から仲のよかったはずの、同じ公爵令嬢のミリアーノ・クラスタと伯爵令嬢のフレアーノ・サラスタでさえも証言をしようとしなかった。

そう。彼女らは、ティクルのことをよく思ってはおらず、上辺だけの友人だったのだ。
 仲が良かったと、思っていたのは悲しくもティクルだけで、ミリアーノとフレアーノはティクルのことを嫌う令嬢、令息を買収していたのである。
運の悪いことに、その中に、まともであったはずのこの国の王太子ヤワルタ・ランディールも入っていたことが運の尽きであった……

 「ムーンライト公爵令嬢ティクル・ムーンライト。この度の、サーシャ嬢に対する令嬢らしからぬ数々の行動、王太子としても見逃す訳にはいかぬ。貴殿には、学園は卒業まで在籍はさせてやるが、その後は隣国のファリアーク王国のへとの追放を命じる!!!
しかとその胸に刻むが良い!!」

 言い返す間もなく王太子に卒業後、追放宣言をされてしまった。
これ以上、ティクルが本当のことを言おうともただ無駄な時間を卒業生達に取らせてしまうだけだった……

 ティクルは、もう何もかもに諦めた。
本当のことを告げることも、親友に助けを求めることも、辞めた。

 「サーシャ様とバルカ様が申しましたこと全てに対しては、全く身に覚えがないため、私は謝罪はいたしません。
ですが、王太子様、並びに皆様のの寛大なお心遣いに感謝致しますわ。

この場にいても、私はただの邪魔者でしかないようですので、私は帰宅させていただきます。皆様御機嫌よう。」

 そういうと、ティクルは扉の前で見事なカーテシーを決めて去ろうとした……その時だった

 バシャッ ……パリン

 「はっ!無様だな!
 元々全てお前が悪かったのだ!!!
 学園で会っても、決して話しかけるなよ!」

ティクルに対し、グラスに入った真っ赤なワインをかけ、そういうと満足したように、バルカ公爵令息は、意気揚々とサーシャと腕をくみ歩いていった。






 ティクルは、扉からでると母がこの日のために発注してくれたライトブルー色のドレスを眺める。

 そのドレスは、真っ赤なワインが染み込み見るも無惨なものと変わり果ててしまっていた……

 「ははっ……私なんて、やはりいらない存在だったのね…出来損ないの私なんかいらないって…初めから分かってはいたわ。

あの美しく優しいお父様とお母様から、こんなにも勉強も出来ない、才能という才能のない最低な私みたいな存在が生まれてしまったことで神様から、天罰がくだったのね……

何度も死のうと思ったのに、王様や王弟様や公爵家のみんなに毎回毎回止められていたけれど……もう、止められることもないから気にする必要もないのね。

ミリアーノとフレアーノが私のことを嫌っていることくらい気づいていたわ……でも、それでも仲良くなれてると思っていたのに……やはり、無駄な時間だったのね……このままでは、お父様にもお母様にもお爺様にもお祖母様にも顔向けができないわね……さて、どこか遠くへ行きましょう……私を悪くいう人の誰もいない、私が幸せになれる所へ……」

ティクルは、王宮内のために閑散とした王門の前で今までの思い出を振り返るかのように大粒の涙を流しながら、美しい礼を決めると、その場を後にした……

 この卒業式の出来事の後、この少女……公爵令嬢ティクル・ムーンライトの行方を知るものはいまだいない。


_________



皆さん、お久しぶりです!
本当は、『寵愛を受けた"元"公爵令嬢は、帝国で本当の幸せを掴む』の方を進めなければならないのですが……アイデアが消えないうちに書こうと思い書かせていただきました。(アイデアというか……実際の私の日々での思いを題材してみたというか……( ̄▽ ̄;)ハハ……)

と、とにかく!本の数話で終わる予定でいますので、しばらくお付き合いしてくださると嬉しいです!

こちらの作品が完結しましたら、寵愛を受けた"元"公爵令嬢は、帝国で本当の幸せを掴むの方の投稿をなるべく再開していきます。

どうか、これからもよろしくお願い致します(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))


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