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真実
しおりを挟むティクルが王宮を後にしてすぐのこと。
「王太子殿下。この度は協力して下さり誠にありがとうございました。
殿下のお陰で、あの忌々しいクソ女を追い出すことが出来ました。このお礼はいつものアレで……」
「あぁ!今回も楽しみにしておるぞ!
いつも通り父上には内密に頼むぞ。」
二人はとても怪しげな笑みを浮かべていた。
その時だった……
「皆の者静粛に!!!」
貴族なら必ず知っているだろう、この国の宰相の声がホール内に響き渡る。
突然のことに、ナーリス学園の生徒達は驚きと動揺を隠せないでいた……
「此度は、ナーリス学園をこの国の第一王子である、ジュエジン・ランディール様の卒業するということにあたり、国王陛下が重要な発表があるとのこと。
それにより突然ではあるが、この国の宰相である私、フェリアナ・ファリエンがこちらの式典へ遣わされた。
皆の者に伝えることは以上であるため、改めて陛下たちの紹介へうつる。
ランディール王国国王トィリルカ・ランディール陛下、王妃フィロルカ・ランディール様、王弟殿下テェリルス・ランディール様。
並びにムーンライト公爵家当主ライオット・ムーンライト様、公爵家夫人フロティア・ムーンライト様、公爵家ご嫡子ライオット・ムーンライト様の入場である!!
皆の者、不躾な態度を取らぬよう、重々承知するように。
騎士兵、扉をあけよ!!」
その一言により、王族の住居へと直結している特別な時にしか使われない、威厳を放つ重々とした扉が開かれた。
そこには、やはり本来ならば来るはずのない王族、筆頭公爵家のおもおもの姿があった。
その、彼等の姿に圧倒された生徒たちは思わず頭をたれ、静かに国王の言葉を待つ……
「此度は、ナーリス学園の卒業式を無事滞りなく取り行うに至れたこと、そして、第一王子であるジュエジン・ランディールが無事卒業できたこと国王として誠に感謝する。
我らは、第一王子ではなくティクル・ムーンライト嬢の祝いにきただけであるからして、気にせずパーティを楽しむがよい。
……と、いいたいところなのだが、入場の時から見ておれば、ムーンライト公爵家唯一の姫であるティクル嬢が見当たらぬようだ。
公爵であるライオットから、ティクル嬢は一人で先に会場へ向かったと聞いておったが……」
コソコソコソコソ
生徒達は罪を問われるのが怖く、誰も何も言おうとはしなかった……
すると、一人の重臣が陛下の元へと近づいてきた。
「へ、陛下、、何やら伯爵家のバルカ様とジュエジン様が結託して、ティクル様を追い出したようでして……バルカ様はティクル様にありもしない婚約の破棄を押し付け、ジュエジン様は我が国で禁止されていますアレを得るために喜んでティクル様にこの国の王太子として学園を卒業後、国外追放の刑に処したそうです!!」
その言葉に国王、王妃、公爵家の三人は耳を疑い……もう一度ほかの重臣に確認をとっても返ってくる言葉は同じ内容だった……
「あぁ……な、なんてことをしてくれたのだ……彼奴は王族として、、第一王子として、間違ったことをしていることにどうして、いい加減全く気付かぬのだ……」
「……なんてことを……貴方……
では、ティアの大切な、大切なあの子は、、もしかしてもう……」
王妃は思わずよろけ、夫に支えてもらっていないと、立つことを保てずにいた。
それを聞いていたライオット達三人は、震えた声を発し、その声に反応した皆が、三人の方を向き、彼らを見て思わず言葉を失った……
「トィリルカ、、、い、今の話は本当のことだろうか……?
私たちの大切な、大切なあの子が、、ティクルが追放されたとは……」
美しい笑みを浮かべていたはずのライオットは顔が血の気を引いていき肩を震わせていたが、次第に怒りの現れか表情を引き攣らせ、強く拳を握りしめていた……
「ティクル……貴方どうしましょう……このままではまた、あの時精霊様に救って頂いた、大切なあの子が……あの子が……」
「父上、、、ティクルが危ない状況にあるとわかったからには、私はこの場で帰ります。
この学園には、何やら貴族として自覚のないのか、ティクルのことを悪く言う者ばかりのようです。
なので私が、騎士団を率い、ティクルを急ぎで探しに向かいます。
テェリルスは、どうするんだ?
ティクルのことだ、記憶が戻ってしまったのならすぐにまた死のうとしてるだろう……早く迎えに行かなければ……」
「あぁ、義兄上の言うことはわかっている……
だがなぁ、、こいつらを殴ってケリつけない限り、迎えに行けねぇんだよなぁぁぁぁ!!!」
そう怒りを放つかのように叫ぶと、テェリルスはバルカを鋭い拳で思いっきり殴りつけた。
ゴガッ!
そのまま第一王子であるジュエジンの元へ素早い動きで歩いていった……
ゴガッ バシッッッッ!!
テェリルスは、さっきよりも強い力を込め、鳩尾を殴りつける。
ガシャーッン!
ジュエジンは、近くの料理の並べられていないテーブルへと叩きつけられ、血がでている自身の口を押さえながらも、テェリルスを睨みつける……
「叔父上、、ごホッ、、王太子でもあるわ、私に、何するんですか!?」
「はっ!この戯けっ!!!
お前のような屑が王太子などと、言語道断!!!有り得るわけなかろうがぁ!!
調子にのるんじゃねぇ!!!」
国王でさえも、自分の弟であるテェリスルの心の底から怒る姿を初めて見たため、その場にいたほとんどが驚いていた……
先程義兄上と呼ばれていた、ライオット以外は……
「お前、先程から陛下からも宰相からも王太子ではなく、第一王子と呼ばれていることにすら気付かぬのか??
そんな、自分の都合のいいことしか聞かない、お前なんぞに、この国を任せられるわけないだろ!!!!
それに、だ!
今まで、義姉上にティクルが王妃としての教育を受けていた時、お前は何をしていた??
王になるために、治世や、この国の歴史、文化、貴族全ての名前、それぞれの貴族一人一人の嗜好、最近の流行り、今この国が力を入れていること、隣国との関係、このティクルが学んだ中の十分の一にも満たないこれらですらお前は学んでいないだろ?
だってなぁ、国民の為に大切に保管されているはずの国庫からお金が日々減っていることに気づいたティクルから我らに相談が来て、一番怪しいとされたお前に監視をつけられてるとも露知らず、堂々と国庫の金を盗み、散財を繰り返し、毎夜毎夜、婚約者の居ないはずのお前が王宮で朝方まで公爵令嬢のミリアーノ・クラスタと遊んでいたんだ。
そりゃ学んでるわけなどいないよな笑笑」
テェリルスは、吐き捨てるように言った。
「そもそもの話、ティクルは伯爵家のバルカとなんぞ婚約などしていない!
そこの屑との婚約など、とっくの昔に兄上に言って破棄にしてある!
義姉上が本当の娘のようにティクルを愛しているのもあって、毎日毎日お前が遊んでいる間、自ら率先して、俺の執務を手伝ってくれているのにどうやったら、そういう考えにいたるんだ?あぁ?言えるもんなら言ってみろ!」
「だから、お、俺は王太子としての義務を……
「何度も言うが!お前は王太子などではない!
何度言われれば理解するんだ?
俺の大切なティクルを傷つけて、そんなに楽しいか!!
ティクルの心は誰よりも繊細なんだよ!
悪いことを言っているのを聞くとすぐ、自分のことだと勘違いしてしまうほど本当は臆病で、家族に愛されてることにすら気づけなくて、すぐに死のうとして……やっと、やっと精霊様方に会えて、落ち着いた日常が得られたんだ!!
何も知るはずのないお前にティクルの何がわかる!彼女の何をわかったつもりでいるんだ!!
これ以上、ティクルを傷つけるなっっ!!」
ひぃぃぃ……!!!」
そう、テェリルスはこの世界の誰よりもティクルのことを愛しているのだ。だからこそ、だからこそ、その怒りは鋭いものとなる。
怯えたジュエジンは、ズボンを湿らし赤いカーペットに黒い染みを作っていた……
それを見た生徒たちを含めその場にいた者は、思わずその場から少しずつ後退りをした。
「ま、まってくれ!こ、これは、違うんだ!」
「ん?何が違うんだ?言ってみろ。
今すぐにでも、帰りたそうな顔をしたお前がよくそんなことを言えるな。はっ!やはりお前程度の存在、王族として生きさせたこと、間違っていたようだな。」
この場にいる者は、ジュエジンの心の弱さに心から呆れて、これで王太子になる気でいたのかと、偉そうにほかの貴族を侍らせていたのかと思うと、苦笑しか浮かばなかった。
テェリルスは、兄であるティリルカの方へ向き直ると、、、
「兄上、私はライオットとともに、ティクルを探しに行ってまいります。
彼女の心を取り戻すには、時間がかかるかもしれません。ですが必ず私が、愛する大切な大切なティクルをこの腕の中に抱きしめて帰ってきます。
だからどうか、兄上許可をお願いします。」
その、テェリルスの行動に多くの生徒が心をうたれた……それは、もちろんティクルの父と母であるライオットとフロティア、国王であり兄であるティリルカと王妃であり義姉でもあるフィロルカも思わず涙ぐむ。
「よし。そこまで言うのなら、お前に任せるぞ、テェリルス。
ここにいる者、よく聞くが良い!
今この場を持ち、ムーンライト公爵家の最愛の一人娘ティクル・ムーンライト嬢を傷つけた我が愚息、第一王子ジュエジンは即刻廃嫡とし!
自慢の弟である、王弟テェリルス・ランディールをこの国の王太子とする!
ティクルを連れて戻ってきた暁には、ムーンライト公爵家を確実な後ろ盾とし、、、
創造主様であられられるソアレ様に誓い、今まで行ってはいなかった……王太子としての正式な儀式を執り行う!!
そのほかの者の処遇は、後々言い渡す!!
だが、刑は簡単には軽くなることないと思うことだ!いいな!!」
のちに、正しい判断をした賢王だと呼ばれ、歴史に名を残すことになるティリルカのこの行動は、途切れることなくて後世に語り継がれることとなる。
この始まりに過ぎない、出来事はランディール王国の大いなる歴史への一歩を歩み出させるのだった……
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