遠き道を -儒者 林鳳岡の風景-

深川ひろみ

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四 天、予を喪せり

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   今、不幸にして汝が喪に遭ふ
   羽翼をそこなふが如く、左右の手を失うが如し。嗚呼悲しいかな。

 わたしは翼を捥がれた鳥、左右の手を失ったも同然の身だ。
 春勝はそう嘆いた。
 もはや学問上で父を支えられるのは、林家では春常ら兄弟しかいなかった。特に叔父が麒麟児と言った春信への期待は、後で思えばいささか度を超していたかもしれない。
 十八歳の春信は弱音一つ吐くこともなく、父の期待に見事に答えていた。
 弱音一つ吐くこともなく。
『つね、駄目だ』
 叔父亡き今、自分たち兄弟が父を助ける。
 訴えるように、またどこか己に言い聞かせるように言った兄には、弱音を吐く相手がいなかった。いや、もしも兄が弱音を吐くことが出来たとすれば、それは春常であったはずだった。
 だが、春常は父や兄のようには、林家から儒の道を興すことに対する肚が座っていなかった。むしろ隠者に憧れた叔父のように、権力にアゴで使われる事もなく、剃髪などせず、儒者として誰にも恥じることのない俗体のまま、ただ学問に生きることが出来ればいいのにと願ったりした。それでも、兄の助けになることぐらいは出来るだろう。叔父がほとんど仕えようとしなかったように。嫡子でないが故の暢気さであった。
 どんなにか、歯がゆかったことだろう。もどかしかったことだろう。父も兄も。
 とりわけ、兄は。春常と一歳しか違わない兄は。
 苦しかった、ことだろう。
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