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六 学問
三
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歩き出そうとした背に、源佐はつい声をかけた。
「山崎先生」
男は足を止める。
「還俗して学問するいうとき、周りはどないな反応やったん」
学問をするだけというなら、寺にある方がはるかに生きやすいはずだった。身分も生活も保障される。源佐は学問をしたければ医者にでもなれ、と散々言われてきた。二十五歳の若者が、僧の身分を捨て、学を窮め、学を講じて一人で生きていくと決意するのは、決して軽々に出来る事ではない。
男はわずかに眉を寄せる。源佐は慌てて付け加えた。
「不躾なこと訊いて堪忍。うち、今、学問して生きたい言うて、もう何年も親から親戚からきつう反対されてるよって」
短い沈黙があった。
「学問をするのは何の為や」
厳しい声が問うた。
「あなたはひとの意を忖度しすぎる。波風の立たぬ穏やかで安楽な暮らし、他人の賞賛、出世や蓄財、望むところがそのようなものならば、学問などやめておけ。孟子や朱子の生涯は、世を害する異端との闘いだった。朱子は弾圧を受け、周囲の無理解に苦しめられた。顔子は極貧のうちに陋巷で亡くなり、孔子は用いられず諸国を放浪された。それでも先聖たちはひたすらに道を求め、究められた」
言葉が、まるで火のようだ。この身を灼き、行く手を照らす。
「迷うてる暇があるなら、一行でも多く書を読め。そこに全てが書いてある。あなたが考えるような事は、古人がとうに考えている」
源佐を睨みつけ、男は突き放す口調で言った。
「道を問い、己れに問う。道の前にはみな一人や」
「山崎先生」
男は足を止める。
「還俗して学問するいうとき、周りはどないな反応やったん」
学問をするだけというなら、寺にある方がはるかに生きやすいはずだった。身分も生活も保障される。源佐は学問をしたければ医者にでもなれ、と散々言われてきた。二十五歳の若者が、僧の身分を捨て、学を窮め、学を講じて一人で生きていくと決意するのは、決して軽々に出来る事ではない。
男はわずかに眉を寄せる。源佐は慌てて付け加えた。
「不躾なこと訊いて堪忍。うち、今、学問して生きたい言うて、もう何年も親から親戚からきつう反対されてるよって」
短い沈黙があった。
「学問をするのは何の為や」
厳しい声が問うた。
「あなたはひとの意を忖度しすぎる。波風の立たぬ穏やかで安楽な暮らし、他人の賞賛、出世や蓄財、望むところがそのようなものならば、学問などやめておけ。孟子や朱子の生涯は、世を害する異端との闘いだった。朱子は弾圧を受け、周囲の無理解に苦しめられた。顔子は極貧のうちに陋巷で亡くなり、孔子は用いられず諸国を放浪された。それでも先聖たちはひたすらに道を求め、究められた」
言葉が、まるで火のようだ。この身を灼き、行く手を照らす。
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「道を問い、己れに問う。道の前にはみな一人や」
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