一条の光 -山崎闇斎と伊藤仁斎-

深川ひろみ

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六 学問

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 男は立ち上がり、一度部屋を出て程なく戻って来る。渡されたのは、きちんと畳まれた源佐の羽織だ。
「土は払うただけだが、乾いてはいるそうだ」
 礼を言うのも詫びを言うのもしつこい程になってきたので、源佐はただ頭を下げた。男は頷き、それからつと、源佐から離れた。棚から一冊を取り出し、源佐に渡した。源佐は柿色の書に貼られた題簽の文字を読んだ。
「―――『闢異へきい』」
 源佐は男の顔を見る。
 「闢」は「斥ける」という意味だ。
「これを差し上げる。八年前、三十の時に書いた」
 三十歳―――ちょうど、今の源佐と同じ頃だ。
「「異端をおさむるは、害なるのみ」と書にある。どうやら陸王の学や禅書の類いも読んでこられたと見える。わたしも読んではきたゆえ強くは言えぬが、異端を学ぶのは害の方が多い。何より既に「敬斎箴」を諳んずるあなたが、異端の学に費やす時が惜しまれる」
 『大学問』『学蔀通弁』『異端弁正』―――床に積まれた書に陸王学や仏教に関係するものがあるのを見てそう判じたのだろう。「異端を攻むるは、害なるのみ」は論語の言葉で、朱熹の解釈では「攻むる」は「学ぶ」である。
「わたしは幼年で寺へ入り、禅寺で初学を修め、二十五までを寺で過ごした。異端の妄説に眩惑され、三教一致を説いたことさえある。あなたは初めから正しい学に志していると言う。その幸いをわたしは羨む。「人心惟れ危ふし、道心惟れ微なり。惟れ精、惟れ一、允に厥の中を執れ」―――あれかこれかと迷うよりも、ひたすらに正しい学を信じて進まれよ。心が確りと立てば、その身も自ずと健やかになろう」
 源佐は男がくれた柿色の書を胸に抱いた。その色は朱子の赤でもあり、火のような、この男の心のようでもあった。
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