蒼穹 -小説 山崎闇斎-

深川ひろみ

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五 朋友

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 湘南さま。
 傲岸な男とあなたは言った。誰も、わたし自身もそれを否定は致しますまい。それでもこの傲岸な男も、それなりにあなたに恩義を感じ、この土佐の地で、仏の教えを究め、そこに踏みとどまろうと努力はしたのです。儒仏道、三教の一致を唱える論は古くからあった。道教はともかくとしても、儒学も仏教も、二つの教えはいずれも根は一つなのだと、そう信じようとし、そう論じた書を求めて読みあさってもみた。自らを納得させようと文章を書きもした。
 だが朱子の書は、はっきりと、仏教は誤りだと述べていた。二つの教えは氷炭のごとく相容れないと。そして学べば学ぶほど、儒が正で、仏は邪だと、絶蔵主の確信は強まっていった。
 師の死から五年。絶蔵主は、ついに仏教を棄てることを決めた。
 還俗を申し出た絶蔵主に対し、吸江寺は勿論、山内の殿―――一豊の甥にあたる忠義も激怒した。即刻寺を出て、土佐を立ち退けと命じられた。正式に得度し、寺に属する僧の勝手な還俗は許されることではない。まして湘南は山内家の養い子だ。先代の山内の殿は湘南を愛し、吸江寺を与えて復興させたのであり、絶蔵主はかれが守り続けた弟子だ。いかなる処分も覚悟の上での還俗であった。
 だが国主の怒りを受け追放に処された身に、朋友たちの手は温かかった。そして迅速だった。小倉から秘かに文を受けとった絶蔵主は、指示されるままに市中に匿われ、旅費としては多すぎるほどの支度金を与えられた。今から乗る船も、かれに指示された便だ。
 絶蔵主を匿った小倉は、翌日の夜にはすぐに自ら姿を見せた。
「よう決心した」
 大きな掌を両肩に置き、小倉は真っ直ぐに絶蔵主を見つめて言った。
「この後のことは心配するな。決して、お前を埋もれさせはせぬ」
 熱を帯びた口調だった。
「野中どのが、在京の者をお前に入門させるつもりで人を選んでおる。勿論束脩は収めさせるが、人を置き、教えるとなるとそれなりの邸が必要となろう。書も揃えねばならん。頃合いを見て人を送るゆえ、その者とよう相談してくれ。遠慮はいらぬ」
「小倉さま」
 菓子でも買い与えるかのような簡単さに、慌てるべきなのか苦笑するべきなのか判らない。
「まだ弟子を持つ身ではありませぬ。金子を頂戴した上、これ以上甘える訳には参りません」
「甘えると? 何を言うておる。わしがいつお前を甘やかした」
 小倉は大仰に眉を上げ、それから真面目な口調で言った。
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