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16 この銀貨1枚で100ギルのおまんじゅうは何個買えるでしょうか?

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 コタローはウルフと共に里へ帰って来たんだ。  僕リョーマはケータと一緒に、やっと種まきの始まった畑で農作業をしているところだった。

 コタローとウルフはひと仕事終えて僕に甘えていた。
 そのついでに、冒険者が来たことを念話で教えてくれた。

  「そういえばウルフは話せるのに、めちゃつよのコタローが話せないのはおかしいよねぇ、ケータ」

 「名前を上書きすれば良いんじゃないか ?」

 「あー、なるほどそうか ! ケータは何でも知ってるね。じゃあやってみるよ。コタローおいで !」

  ひと声掛けると、一瞬で隣に来たよ。さては、今の話を聞いていたな ! まあ、コイツも期待しているのだろうね。
 
 スラクも期待してムニュムニュと振動している。
 何気に微振動が気持ち良いのだ。

 「これからも宜しくな ! 君を再びコタローと名付けるよ !」

 コタローの周りには、目を開けていられないほどの強い光があふれ、彼をまとったんだ。

 「でかしたぞ、リョーマ。これからも、お前に絶対の忠誠を誓うぜ !!!」

 コタローは体が大きくなり、魔仙狼へと進化した。

 更に驚くことに、コタローは人の姿へと変化したんだ。
 僕は目が飛び出るほど驚いた。

 「えーーーーーー !!!」

 しかもなんてことだよ ! 僕より全然格好良いんじゃないか ? 納得がいかないぞ !

 「リョーマ、お前の変化のスキルが人化のヒントになったんだ。だから、お前も魔狼になれるんじゃないか ?」

 「なれるかもなー。ハハハ   ヨロシクね !」

 そう言って魔狼の時のように、コタローの髪の毛をワシャワシャしてやると、彼は少し照れて破顔した。やっぱり嬉しいようだね。

 ケータも、まさかここまで劇的な進化をするとは、予想出来なかった。

 しかしながら心の中では、トビが言っていたリョーマが魔王みたいだという話はあながち外れてないんじゃないかな ? などと思っていたのだった。



 「あっ、お帰りなさいませリョーマ様。先にお食事にしますか、お風呂になさいますか ? それとも私になさいますか ? 」

 「ただいま ! リリホのジョークはいつも冴えてるね !」

 リリホは僕に続いて来た男を見ると、一瞬お客様のように声を掛けた。

 「初めまして……   えっ ??? あなた、ひょっとしてひょっとすると ??」   

 「良く分かったな。さすが、君はなかなか慧眼だよリリホ。俺はコタローだ !」
 
 「うわぁ、凄いわ、人化してるのね ! 私の変化と同じ感じがするわ」

 「そうだね。僕を介して、コタローのスキルに組み込まれたみたいだよ。リリホは先生になるのかな ?」

 「あらら、パワーアップしたのかしら。まるで別人のようになったわねぇ ? 何だか圧倒されるわ !」

 「この場合は別狼じゃないのか ? イヤイヤ、違うぞ。別者にしとこうか ? 人語はややこしいぜ !!」
  
 この日リリホは、ナナホやたくさんの老ゴブ人達と一緒に、仲間達全員分の食事の用意をしていた。当番制にしているようだね。

 畑の作物が少しずつ収穫できるようになってきたから、食事も野菜が豊富になったんだ。 

 狩猟や採集も順調で、かなり食料事情は改善してきたよね。


 
 
 一方その頃、エルフリーデのコットン達はギルドまで無事に帰り、ありのまま報告したようだ。
 エルフリーデはギルドの信用も厚いパーティーだけど、彼女らの話は丸々信じることはできなかった。

 何故なら、ゴブリン202体、ダークウルフ40数体に魔狼、その全てが名前付きの魔物だなんて有り得ない。そんな奴らに攻められれば町が滅びてしまう。

 もし、信じるならギルドをあげて立ち向かわなければならないような相手だからだ。
 ところが、近くにこのような強い魔物らがいるというのに、人族を襲うような危険性は低いだろうと、報告されたのだ。
 
 そうなると、理解しがたいものの、ギルドとしては都合が良いので、そちらを信用することにしたのだった。

 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

 実は、ある方面ではラビアンローズを支えていたテイマーが追放されたと噂になっていた。

 リョーマはSランクパーティーを支えるテイマーとして、ボルトの考えとは違い、冒険者の間ではしっかりと認知されていたのだ。

 巷ではその逸材を手に入れようと、行方を捜すものが多かったが、情報はほとんど入らなかったようだ。ルイも捜したが手がかりは無かった。
 
 それがある日、森に住む、魔狼を連れたテイマーに救われたという冒険者が現れたのだ。

 その噂は静かに広がったのだった。
 すると、ポツポツと里にリョーマを尋ねて来る者が出だしたのだ。

 元々コンビニという商店も何件かの屋台もあるこの里は人の出入りも自由なんだ。
 リョーマの存在を知る者が、ポツポツと現れてもおかしな話ではなかった。


 一方、エスポワールドではセッケンを製造中だ。この里で作っているセッケンは、メチャクチャ人気みたいだ。 

 多くのゴブ人が働くセッケン工場では、増産に次ぐ増産で大忙しだってゴブミが自慢してたよ。
 
 そのゴブミと工場組のゴブ人が集団でこっちへやって来た。
 どこに行くのかなぁと思っていたら、僕の方に来たよ。

 「ボス、お金をもらいました ! えへへっ」

 「お給料が出たんだね。おめでとう !」

 「じゃあこれ、使って下さい !」

 ゴブ人達はもらった給料を全部僕に渡したのだ。
 お世話になった恩返しの気持ちだそうだ。

 確かに僕らは貧乏で、ずいぶん苦しい生活を強いられてはいるが……

 良く聞くと、お金というものがいまいち良く解らないらしいんだよね。

 まんじゅうは欲しくても、お金は別に要らないのだそうだ。

 だけどそういう訳にはいかないよなー ?
 
 全部返してお金の使い方講座を開くことにしたんだ。
 まず最初にこのお金でおまんじゅうが何個買えるのか ? ってとこから説明した。
 
 「さあこの銀貨1枚(日本円で約1万円)で100ギルのおまんじゅうが何個買えるでしょうか ?」

 「いっこー !」
 「2個 ?」
 「10個欲しい !」

 「残念ながら正解は100個です !」

 「おおーーー !」
 「ええーーーーーーー !? 100個ーーーーーー ????」

 それから、更にざっくり説明した後で、里の商店コンビニでお金の使い方を実践してみたんだ。

 「おまんじゅう100個くださいな~~ !!」

 教えを受けたゴブミは銀貨を右手に持って目を輝かせていた。

 大丈夫か ? デブミになってしまうぞ。気をつけろ ! せっかく可愛いんだからな。

  うわあ、ホントに100個買ってやがるぜ ! なんてヤツだ ! しまった、僕の例えが悪かったんだろうか ? 

 あっ 良かった ! 10個くらいで限界が来て他の仲間と分け合って食べているようだ。

 「ふわあー ! 買いすぎちゃった、テヘッ !」
 
 まあなぁ、初めてのおつかいなんだから、これぐらいの失敗は仕方ないよな ! きっと、この経験を次に活かしてくれるだろう ! この子はやればできる子なんだ。

 「すいませーん、ジュース100個くださいな~~ !!」

 僕の期待は1秒後に裏切られた。しかし、それにしてもコイツは期待を裏切らないヤツだな !! 

 「ダメです !!!! 3個までにしなさい ! お腹壊しちゃうよ !」

 「ホーーイ ! じゃあ3個くださーい  !」

 こうして3個までルールというモノができ上がってしまった。

 それでも皆、お金で欲しいものが手に入り大喜びだったね。

 すぐに、全部使ってしまいそうな奴もいたので、ほどほど買い物に満足したところで一回全部お給料を預かりました。
 
 節約して少しずつ使うことができるように銀貨1枚ずつ渡していくというシステムにしました。
 
 ゴブミは特別に限度額を大銅貨2枚ずつにしました。高額の買い物はお父さんも同行しないとダメだからね ! 銀行係のお父さんはけっこう大変です !

 あーあ。労働するならいつかは越えなきゃならない壁だけど、全部あげるー、とか言ってた、さっきまでの可愛いゴブちゃん達を返してほしいよ。
 連れ去ったのは僕かも知れないけどね…… ?

 しかしコイツら、なかなか良いお給料をもらっているじゃないか ? 俺と群れの家計よりもよっぽど充実してるな ? こりゃあ僕も工場に出稼ぎに行かなきゃならないかな ? はあーあ !


 コンビニを出ると、ちびゴブ達が「ぎゃーーー」と、騒いでいた。

 「そういえば最近ちびゴブを良く見るよね」
 「そうねぇ、ボスが来てからでも30人は増えたわ」
 ゴブミが答えた。

 「ええー ? そんなにー ?!」

 「ご飯をお腹一杯食べられるのは素敵よね !」

 「そういうことかもなぁ」

 きっと、栄養面の改善と外敵被害の減少はかなり影響があるんだろう。元々ゴブリン系や、オーク系の種族は繁殖力がとても強いしね。

 それに、捕虜として連れて来たゴブリンをテイムして仲間になったり、僕が見付けて直接テイムした者もいて、どんどん増えていったんだ。

 今日も十何人かテイムして仲間が増えた。
 確か一昨日、銀さんが300人を超えたと言っていたような…

 これだけの人数を養うのはとっても大変だ。頑張っても、頑張っても、お金は無いし、全然生活は楽にならないよ。

 何とかみんながご飯にありつけているけれど…
 だけと、お金は無くても、みんなと仲良く安心して楽しく暮らせているのは幸せなのかも知れないな ?
 
 そういえば、セッケンが売れ過ぎなので、ゴブ人の作業員が30人追加で採用された。しかしまだまだ人が足りないようだ。
 ひょっとして、従業員数万人とかの大企業とかに、ならないよねぇ ?

 ケータが発明したセッケンはこの里の商店、コンビニで買えるが、大人気で入手困難だ。

 価格は1個1000G(日本円で約1000円)という高級品。

 ゴブ人全体で306人のうちの生産は60人が担っている。給料は月15万G。
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