聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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8 九尾の尻尾

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「改めまして、魔王秘書官をしております、トミーです」

朝、目を覚ましたわたしに、トミーさんがきっちり頭を下げてきた。
狐人間かと思ってたけど、よく見ると――

毛並みがとにかくキラッキラ。
白くて、ふわふわで、上品で……
しかも、尻尾が九本!?

「九本あると寝にくいですから、家では一本に束ねて過ごしてるんです」

し、尻尾、それ、ふわっふわ確定じゃないですか……!
さ、さわりたい。いや、もういっそ抱きしめ――

私は思わず手が伸びかけて、止めた。

いや、だめ!!

ここで飛びついたら完全にアウトだ。
17歳だけど! 見た目子供だけど! 
わたし、一応大人なのだから……!

……じーっ。

「……マクライアさんとは似てないと思ってたんですけどね。やっぱり似てます。尻尾にこだわるところが」

私の視線にギョッとしつつも、トミーさんが苦笑する。

「やっぱり! ギルド長も、尻尾を抱きしめたいって言ったんですね!?」

めっちゃわかる。だってこの尊さ、反則だもの。

「いえ……」

ん?
トミーさんの目が、すっと遠くなり部屋の温度が下がる。

「切り落とされそうになり、魔法で火をつけられそうになりました」

――は? はい?えっ? な、なにを言って……

私は思わず息をのむ。声が出ない。

「だから、思わずこの尻尾で吹き飛ばしてしまいましてね。怪我させてしまったんです」

「そ、それは当然です! ギルド長、火って!下手したら死にますよ!ひどいっ!!」

思わず拳を握ると、トミーさんは、困ったような表情をすると、目を閉じて、首を横に振った。

「……あの方も、焦っていたんです。人間界のプレッシャーでね。成果を出さないと自分の立場が危ういと、かなり無理をしていた」
「それでも、尻尾に火をつけようとしちゃダメです!」

吹き飛ばしたということは、トミーさんは無傷だったんだろうか?
私は思わず尻尾の毛並みを見てしまう。

「まあ……そうですね。ですが、尻尾を“触りたい”と言った勇者も、あなたが初めてです」

トミーさんが、私の視線をくすぐったそうに見ながら、くすっと笑う。
なんか、ギルド長に怒ってたのに、一瞬で照れくさくなってきた。

「リンさんも、ここでは落ち着かないでしょう。しばらくは、家事全般をお願いします。
ただし、あなたはまだ十七歳。まだ子供です。だから、無理はしないこと。これが条件です」

昨夜、トミーさんと魔王さまは、今後について相談したらしい。
「リンさんの体は、年齢から考えると細すぎて、肌も髪もぼろぼろです。今の人間界で食べるものにそこまで困る状況になるとは思えません。
周りがそれを止められなかったということは、たぶん、そうなるまで誰にも頼れる人がいなかったということです」 

私は静かに頷いた。  

「はいその通りです。教会の孤児院出身で、無償で働いてたからお金もない。そして、働かないと食べられなかったから、仕事がないってことが、わたしには不安でたまらないんです」
トミーはそれを聞いて頷いた。

「働かせないより、できることをやらせて、自分の居場所をつくってもらうほうがいい。それが魔王さまの考えです」

ふわりと、トミーの九本の尻尾が揺れた。
その白いもふもふが、なんだかやさしく私を包むように見えて胸がふわっとあたたかくなった。




それから私は、ボロボロだった教会服を脱ぎ、支給されたメイド服にお着替え。

うぉおおーっ! 神官助手から、メイドに――!

華麗なる転職!

さっそくいくよ、ゴミ屋敷から荷物の大放出ターイム!
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