聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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9 勇者からメイドへ

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初めてのメイド服に感動してやる気満々!
さあ、いくぜ!

「早速ですが、ここにある荷物は――触ってはいけません」

えっ?さあ、全部外に出すぞ!!ってやる気だったのに!
そんな私のの動きをみて、慌てて止めるトミー。

「えっ?出しちゃダメなの?」

出さずに掃除って、いや触らず掃除....コレどうするの?

目を白黒させる私に、トミーさんは相変わらず物腰は丁寧。

魔王秘書官だけあって、にっこり笑って怖い。
目の奥が笑ってないよ!
その後ろで魔王さんは、布団の中でまだ寝返り打ってる。

魔王さーーーん!

「このあたりの荷物、すべて魔王さまが引き取った曰く付きの品でして。むしろ門外不出。一般的な魔族たちでも対応困難ですから」

そう言いながら、トミーは床に転がった黒い手鏡にさりげなく結界札をペタリ。

ん?今鏡の中でなにか動きませんでしたか?


私は、目がその手鏡に釘付けになる。

「魔王さま、優しいところがありますから……処分が、できないんですよね」
トミーは汗を拭う

なんだか雰囲気見てたら魔王さま聖女みたいな優しさだし...
くーーっ!魔王さんらしい!
わかる!その間違った優しさの方向!
いや、わたしもそういうの嫌いじゃない。

なんだったら、わたしもそんな曰く付き物件そのものなんですけど、このゴミたちと同じかと思うと泣けてくる

「曰く付きの物には、曰くがあるんです。」
トミーはゴミ山について語る。

たとえば――

「愛していたのに騙されて、捨てられて身を投げて憑いた」
「貴族だったけど、夫がアポンでギロチンされて、憑いた」
「戦争で死んで帰れず、ただいま代わりに思い出の貴金属に憑いた」

トミーさんは、冷静にさらっと紹介してくる。
でも淡々と話すあたり、慣れてるんだろうなあ。

「魔王さまにとっては、そういう怨念に“話しかけられるうちが華”らしいですよ」
「たしかに。人生相談とか乗ってそうですね……」

私はあの面倒見の良さに頷く。

「乗ってますよ?たまに夜通し一人で語ってるとヘビーです。もう寝なさいっていわないと魔王も怨念も話し続けますからね」

うわー。やっぱりだ。

……でも、そういうの嫌いじゃない。
魔王さんのそういうところ、むしろちょっと好きかも。
ん?なんだったら、昨日の私じゃないですか!それ!
この怨念と同じかと思うと再び泣けてくる!

「だからですね、リンさん。こっちに来てください」
そのまま、トミーさんが歩き、昨日は開けられることがなかった次の扉を開ける。

ふわぁあああああっ
むわっと、くっさ!!

独特の腐臭と、カビと、ホコリと、もう全部!

「ここは台所です。ご安心ください、これは純粋に我々が洗わずに放り込んだ鍋と食器たちですので、怨念はありません」

「いや、別の意味で怨念が篭ってる気がするんですけど……?」

この臭さのミルフィーユは半端ないよ!

「安心してください。ここは掃除していいです。というか、してほしいです」

そう言って、トミーは鼻を押さえながらにっこり笑う。

笑顔だけは紳士なんだよなあ。
でも目が笑ってない、マジだー!

「需要と供給のバランス、完璧ですね」

私はたらりと汗をかく。
仕事が欲しいといったのは私だ。

「うれしいです。やりたい人と、やってほしい人がかみ合うのは久しぶりです」

トミーも、「お前仕事するって言ったよな」という圧がすごい


台所の隅は――なんだろう?
空気すら紫色に変わって、もわもわと漂ってるんですけど!!
でも、ここまできたら止まれない。
だって、わたし雇われメイドですから!

ええい、ままよ!!

勢いよく息を吸って――
わたしは、そっと鍋の山に手を伸ばした。
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