聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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40 【サイド】マクライア3

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伝書鳥を肩に乗せたまま、マクライアは自分のギルド兼住居の扉を押し開けた。

 その手には、小さな指輪――

かつて、恋人アルデリアに贈ったただ一つの形見を大切に握りしめて、すぐさま「本日休業」の札をかけて、扉にぶら下げる。

「アルデリア、ちょっとだけ……待っててくれ」

彼は振り返り、そっと指輪に声をかけた。
目元は赤く、鼻をすすりながらも、どこか少しだけ安堵しているように見える。

まずは伝書鳥に水と食事を出す……はずだったが。

「……あー、そういやコイツ、普通のエサじゃ食わねぇんだった」

戸棚を開け、取り出したのは――まさかの鶏肉。
しかも、下ごしらえから始めなければ...

「唐揚げが好きなんだよな、こいつ。グルメ鳥でさ……」

まな板の上で手際よく肉を切る。
調味料をまぶし、粉をまぶす。
長年の習慣が染みついた手つきで、調理はあっという間に進んでいった。


 一方そのころ――
指輪の中から、精霊として存在するウンディーネ(=かつてのアルデリア)は、そっとマクライアの様子を見守っていた。

……うそ。

あんなに何もできなかった人が。
台所仕事だけは様になっちゃってるじゃないの!

まるで時間を飛び越えたような光景に、ウンディーネの胸がきゅっとなる。
50年の月日は長い。
人を変えるには十分だ。

「…美味しそう。私も食べたかったな」

油に唐揚げを落とすと、じゅわわわっという食欲をそそる音が響く。

「うっ……すまねえ……ほんとだよ……食べさせたかった……」

じわりと目元を濡らしながら、マクライアは手でそれを拭う。
もう涙を拭うことに夢中になり油忘れてる!!

「油から目を離しちゃダメ!!!」

思わず叫ぶと、マクライアはびくっとして反応した。

「はいっ!!」

相変わらず真面目で不器用なのだ。
時が変わっても、持って生まれた性格は変わらない。
ウンディーネは苦笑しながら、ほんの少しだけ目を細める。

「相変わらずね、ほんと。……でも、なんか安心した」

再会すれば怒りで壊れるかもしれない。
そんな不安さえ、今はどこかへ消えていた。

唐揚げを与えられた伝書鳥が、満足そうに羽を膨らませる。

マクライアはキョロキョロと室内を見渡し、申し訳なさそうに言った。

「ごめんな。……いい座布団が見つからなくて」

そして、まさかの汚れた鍋敷を引っ張り出し、その上に指輪をちょこんと置こうとする。

「……こらっ!!せめてタオルくらい敷いてよ!鍋敷きって何よ!しかも汚れてるじゃない」

「は、はいぃっ!」

棚をごそごそと探し、綺麗なタオルを持ってきて丁寧に折り畳む。そして、そこにそっと指輪をおいた


この指輪には、魔王とリンが小さな魔石を仕込んでくれていた。おかげで、精霊となったウンディーネも、指輪があれば、空間を移動できる。

「あの二人、いわくつきの指輪なのに……ラブラブで細工なんかしちゃってさ。もはや“呪われた指輪”に戻れないじゃないの、これ」

そうぼやきながら、指輪の上でふわりと水が揺れ、人の姿を象っていく。
それをぼんやりマクライアは眺めていた。
現れたのは、かつての恋人――今の精霊、ウンディーネだ。

「変わらない。口調も、見た目も。でも、俺は歳をとってしまった。だけど、アルデリアは変わらないんだな」

ぽつんとマクライアの口から感情が漏れた。
それだけの年月が経ってしまったと気づく。

「……あ、あの」
「なに? 」
「唐揚げは無理でも、お茶とかなんか食べられるもんあるか? 作るよ」
「あんた、変わらないわね……。でも、もう体はないから食べられないの」
「……そっか」

 二人の間に、ほんの短い静けさが流れた
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